21話 ヒーロー?
前回:――取り損ねた肉、再来。流石ユーシャ。ビビって動けない――
「イイイイヤアアッハアアアアアア!肉が食える肉が食える肉が食えるどー!肉が食える食えるどー!」
たった今切り落とされた火竜の首から流れる血を浴びて、あいつは大喜びしている。
30mもある竜の肉を、本気で食べる気なのか?いつの間にか氷のダガーや曲刀のほかに、ハンマーやのこぎりや丸いヤツなんかが出てきて、ドラゴンをばらばらにし始めた。
アイツも普段抜かないサーベルを抜いて、斬り始めている。
「ちょっとヴァンくん、人の目を気にしてよねぇ。ここじゃ街の人に丸見えじゃなぁい。ホントにもぉ」
「大丈夫、陽炎は掛けてある。グロテスクなところだけ、モザイク処理、これ基本。だから問題……
ムッハアアア!何だ、この肉の輝きは!そうか、これが肉のダイヤモンド!」
何言ってるんだよ、そんな訳ないじゃないか。ドラゴンステーキが美味いのは定番だろうけど、そんな興奮する事なのか?
「ユータくん、あなたは来なくて大丈夫だったんだよー?なんで来ちゃったの……」
さっきまでいなかった人が傍に近づいてきた。何をしていたんだろう。
「リサさんどこに行ってたの?あいつ1人でやっつけてるのに……方向音痴とか?」
「違います!ここに来たら火竜と、街の周りにいた魔物が何体かいたの。
街に入った分は、彼が大爆発起こして一気に倒したけど、結界にも穴が開いちゃってて。
その穴をエリナが塞いでいる間、火竜は彼に任せて、私は外の魔物を払っていたの。
流石にエリナを傷つけられる魔物は火竜くらいだろうけど、彼が押さえるからって安心していられないからね」
いつそんな連携取ったんだろう。ぼくが来るまでだってそんなに時間かかっていないと思うんだけど……走れなかったから、その間に、なのかな。
「イヤッハアア!この肉は俺んじゃあああ!」
「あの、それでいいですから!街を守護していただいたお礼をまだ渡していないですし……」
「んなもん知るか!壁の補修にでもまわしとけ!肉だああ!」
お前、報酬を捨てて肉に抱きつくなよ。自分がしたことわかってるのか?どれだけチートで、どんなヒーローやってるんだよ。
いい加減肉から離れろよ。
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衛士宿舎に戻って、エントランス部分にまで来たはいいけど、
「はあ、興奮して申し訳なかったです、ハイ。反省はしません」
いや、しろよ。バカだろ。
なんであれだけ暴れて肉に抱きついたままになった上に空間の倉庫に閉まったりして時間取って平気だと思うんだよ。流石にこれは師匠も怒るだろ。
「あぁ、それはいつも通りだからねぇ。それより被害、今回もなかったって奇跡じゃなぁい?アタシ達が来るタイミング狙って火竜が襲って来てるみたいじゃない。誰の仕込みよぉ」
……全然怒ってないよ、この人。ありえないだろ。すっごくダレてるし。椅子にもたれかかってそのままずり落ちそう。
……ちょっと胸の谷間が……見ていたら殺されそうだし、これ以上は恥ずかしくて見ていられない。
「まー、報酬がほとんどお肉とか素材になっちゃったけど、実入りはあるしねー。ヴァンくん、翼膜は確保したんでしょ?
あと、内臓とかは部位によっては薬品に使われるけど、確か腸とかは食べるのに貰うんだったよね?」
あれ、この人も食べる事気にしてる?何なんだよこいつら!
「おかしくないか、それ!なんで3人とも普通の顔をしてるんだよ!ドラゴンだぞ?怖くないのかよう!しかも緊急の依頼とかじゃないだろ!どこのヒーローだよ!」
「何言ってるんだよ、お前。そんなビビりで冒険者が務まるなら、仕事になるわけがないだろ。システムだってあるしさ。
緊急連絡だけで、何分も時間かけていたら、被害増えるだけだろ」
意味がわからない、なんでそうなるんだ?ありえないだろ!
「だってそうだろ?なんだよ、火竜って!なんでお前はそんなものと1人で戦えるんだよ、おかしいじゃんか!絶対おかしいって!」
「ああ、火竜はエレメンタルドラゴンなんて言われるものの一種で、最上位種の一角な。大型の中でも最も強い部類。
番い作る性質だから、今回来たのも番いなのかもな。普通は250人、できれば連隊って話ししたよな?」
そうじゃなくて……
「ヴァンくんが独りで戦っていた理由はリサから聞いたんでしょぉ。
アタシ達の連携で、ヴァンくんは一番早く現地に向かえるし、攪乱とか牽制がうまく使える術者だから、足止めをしてもらうことが多いの。
しかも、ドラゴンなんて言われるヤツはほとんどがブレス系の攻撃をしてくるんだけど、この子の精霊が火のマナを吸っちゃうからさぁ、火のマナで吐き出すブレスを、無効化しちゃうわけ。
毒のブレスでも、遠くに届かずにちょっと漂うだけだったりねぇ。だからこの子が牽制している間にアタシ達が近づいて、止めとかよくやるんだよねぇ」
「は?なにそれ、つまり……」
「解りやすいイメージなら、俺はドラゴン特防、って言えばいいかな?ブレスで100人焼き払われるはずが、誰も痛みすら受けないって感じでさ。防御面だけだがな?」
ドラゴン族に対して大ダメージとかないのか?それだったら……
「それだけで被害がものすごく減るしー、ヴァンくんの氷で足止めしたりバリケード設置するだけで、みんな安全に戦えるしねー。
でも1人でほとんどやったのは、今日が初めてだよねー」
「ああ、そうだね。正面きっての戦闘なら、初めてかな。でも、アイツも飛ぼうとして、俺に蹴り落とされてを繰り返したしなあ。まだ完全に独りはきついかなあ」
あれだけやって、きついのかよ。ウソだろ?ほとんど1人だったじゃないか!
「昨日だってやってたんだろ?それはどうなんだよ!」
「なぁにキレてんの、アンタはぁ。そんなのアタシがやったら一瞬に決まってるじゃなぁい」
ダレたままエリナさん、得意げに鼻鳴らしてる……あの骨の山を、一瞬で?
「ああ、アレだ。某ロボットアニメのサテライトなんちゃらとか、過電粒子なんちゃらとか。
そういうものをこの人は、手の平から撃つ訳だ。中ったら細胞の1つとて残らない。だから肉も残らない。骨が残ったのは、奇跡だ」
ウソだろ?この人1人でどんなバカみたいな力持ってるんだよ。あれってSFで、しかもめちゃくちゃ複雑な仕組みだろ?そんなのができるのに、回復とかダメダメってどんな偏り方だよ、この世界は!
「ウソだろ……なんで、そんな力持っていて、最強じゃないんだよ。どうやったらそんな力手に入るんだよ。絶対おかしいだろ……あんなドラゴンと向かい合って、何で怖くないんだよ」
「前に言ったな?
断腸母の想いは、仲間を切り捨てる為の言葉じゃないんだよ。本当に大事なヒトを奪われる『恐怖』は、どうでもいい奴を捨てる考えとは正反対なんだ。
寧ろ、そんな考えを持っている奴は、サイコパス同然なんだ。
何故か分かるか?
お前は、知っているか?
――一番大事な人を、目の前で殺される感触。誰にだって、そういう人が居るから、冒険者が戦う理由になるんだ」
ワカラナイ……なんでそんな考えになるのか、分かるはずがないじゃないか。だって……
「電車でヒトが死んで、誰が悲しむ?大体のヒトはこう思うんじゃないか?『こんなところで死ぬんじゃねえ、俺様の邪魔をするな。迷惑考えろ』みたいな、さ。
その誰かの家族が泣いていようが、どうでもいいって。
その癖、帰ってみたら自分の家族が、電車に轢かれたなんて聞いたらどういうかな?『自分が考える事』を棚に上げて、家族のために泣いたり、会社を訴えたりしないか?犯人探しとかもあるかもな。
……自分の番にならないと、分からないものなんだよ、人間は。お前は、それを経験しているか?まともな人間なら、想像だけでそれが判って、力あるならあんな化け物とでも、戦うさ」
「言いたいことは分からなくはないけど、でもさ。誰がそんな事……」
するやつなんて、いないだろ。
「俺達がする。その為に居るのが、『冒険者』だよ。
……やっぱり、お前はそういう事を丸ごと理解していなかったな。
――イジメっ子だしな?」
それはちがう。だってぼくはみているだけで、いじめてなんていないから。
「それは違う、なんて言わないよな?見ているだけ、なんてあり得ない。『赤信号』は止まるものなのに、大勢で渡っても怖くないのはなぜだろうな?
――見ていただけじゃなくて、『見たくてしている』んだろう?」
「違う!それは」
「ならなぜ、『見捨てる』?見ている以外に、何をした?他人の不幸は蜜の味というのだがな。
優しさは大事と教わらなかったのか?人を思いやるのが大事と教わらなかったのか。仲間が大事なんて、その口でよく言えるな。
自分がいじめられたくないからって、ビビって、チキンが逃げ回っていただけだろう。そういう人間の弱さは否定しないさ。
――俺が否定しているのは、『独りでやる』と考えていることだよ。
『みんなで助ける』なんて、そんな考え、誰が持つ?……悪いが、俺は、前世でやっているぞ?」
……考えなかったかもしれない。クラスで一番偉そうにしているグループが、弱い奴をイジメていても、誰も手を出さないでいた。でも、
「でも、それは自己満足だろ?だって自分がヒーローみたいに思われたいだけじゃないのかよ?」
そうだ、そうじゃなきゃ……
「助けた人が安心できるなら、自己満足でいいさ……俺だけの問題じゃないから、自己中じゃないけどな?
それに対して、お前のその言葉、お前自身はどうなんだよ。お前が納得して、お前以外の誰が得する?」
ぼく、いがい……いる、よね?
「その癖皆、こんなこと言うのは大好きだよな?『自分は、最強だから』『自分は、ヒーローだから』『自分は正しい』『自分はすごい』
……これまでも散々やっていたけど、今お前がやっているのは、何だろうな?これは俺にとっては、懐かしいだけのものだ。やっかみで妬まれてしつこくバカなことを言われる。クダラネエ。
違うとでも言うか?違わないね。実際今、お前は俺達からの答えを欲していない。
――自分が『最強のヒーローであって欲しいから』、目の前の、誰かを助ける『ヒーロー気取りの偽善者』を『悪魔』に仕立て上げたいんだ。
自分は『何もしない善人』だから。
そんなお前に、俺は聞きたいねえ。いつ、お前は『善行』をする?」
今までで、こいつの言いたいことが一番よく分かって、そして一番理解できない……違う……したくないって思っている。だって、分かりたくないのに、心のどこかで……違う……記憶の中にずっとある、見てきた……経験してきた怖さが、今蘇ったから。本当はずっと解っていたから。
独りになってイジメみたいな状態になったことが1回だけあって、ひどくなる前に転校することになったけど、その学校だけは友達って言える人が居なくて。
そういうのはもう嫌だから、周りに気を遣うことを考えたんだけど……
「イジメとか、断腸母とか、言われても理解できないか。『自分』にしか興味ない人間は、誰かが苦しむって事実を受けとめられないって意味で使ったんだけどな。
だから日本人はダメなんだ。長いモノに巻かれるために一生懸命になって、弱者を踏みにじったことを『正しい』と騙る。
少数派を無下に踏みにじる。
格下だからって、見下す。
自分の快楽のために、他人を不幸にして喜ぶ。
偉そうに言いながら、自身は『誰かに与える優しさ』を持たない。
その癖、自分がやってる残酷さを無視して、善人のつもりでいる。
――俺の前世は、弱者で、少数派で『偽善者』なんだ。
善と言える行動をして、お前のような『自分がヒーローになれなくて嫉妬している人間』に、悪魔と呼ばれ続けたんだから、さ」
……こいつがあくま?なんなんだよそれじゃくしゃってなんだこんなにさいきょうなのにしょうすうはだからなんだよこのせかいじゃぼくがしょうすうはじゃないのかそれじゃこいつのぜんせはいまのぼくといっしょじゃないのかだったらぼくのきもちもわかるはずじゃないかでもわからないぼくはこいつがなんでこんなことするのかもなんでこんなこというのかも
――今のぼくとの違いが何なのか、分かるけど、判らない。
「思考停止、か。凡そ答えをつついたみたいだね……逆ギレしなかったのは誉めるべきだな。バカなクレーマーだったら、絶対することだ。
『人の気持ちがわからんのか、俺様がどれだけ不愉快になったと思ってるんだああ!』とか言って、スーパーやコンビニのレジで何十分もキレまくる馬鹿なやつ何人か見てきたから。
そいつら、後ろで自分が冷たい目で見られてるのにも気づかないし、自分の感情しか、言えないんだけどな。完全に自己中心的で自己満足しか見えていない。
本当に怖いクレーマーなら、静かに怒ってポソッと伝えるか、黙って2度と来なくなるんだってのに。まあ、そこはどうでもいいか」
……なにをこいつはみてきたんだろう?
「ヴァンくん、お説教終わったぁ?そろそろ衛士隊長さんとの話しよぉ」
「ハイハイ、エリナさんお待たせですよっと。隊長さん、ご迷惑おかけしました……」
何も言えなくなったぼくを無視して、3人はさっき案内してくれた人と話し始めた。今、彼らが何を話しているか分からない。さっき言われた言葉が、なんでか頭の中をぐるぐる回っている。
……そういえばあの薬、記憶を良くするヤツなんだよな。癖になって飲んでいたのに、勉強していなかった。そのせいか。頭から追い出したいのに、ずっとかけまわっている。
「ほい、ユウタ。終わったから行くよお。何だよ、変な顔をして」
「お前が悪魔って言われていたの、本当なのかよ?」
なんでこんなこと聞いたんだろう。でも、そこが一番分からない。嫌な奴だけど、悪魔はないだろ?そんなこというヤツはいないはず。
「本当だよ。家族からは、何をするでもなく。学校では、殴りかかって来た奴をいなしていたら、イジメっ子のレッテルと一緒に。社会に出ても、冤罪で。死ぬ少し前にも、子供を食おうとしたクマを殴ったことで。実際に悪魔と呼ばれたんだよ」
いみわからない。だれがそんなこというんだよ。
「日本人の9割は、俺のような『ヒーローごっこ』をする奴は、悪魔として扱うんだよ。正当防衛をしても、暴力だとか言ったりさ」
そんなわけ、ない、だって
「だからお前も今までずっと、俺に、キレてたんだろ?
――何もできない、ヒーローくん」
そういったかれは、わらっていた。
精霊のボヤキ
――何もしないのはナマケモノだし、できないのはビビりでしょ?なんでそれが良い奴って事になってるのさぁ――
日本人の感覚じゃそうなっているところあるよ。何となく悪そうなヤツをSNSとかで見かけたら、意味無く批判して、犯罪になってる事に気付かずに英雄気取りとか。言葉の暴力という物を知らないで暴れ回っている奴、多いんだよな。
――ユーシャもそれなの?流石だね、引くわ……――




