20話 火竜
前回:――移動型殲滅兵器エリナ、始動……何のタイトル?――
翌朝早くから、近くの遺跡で文字や古代の術式の解読なんかをし始めた3人についてきて、遺跡を眺めている。
旅に行くたびに、こうして遺跡を巡っては術式を紐解いたり古代文字を読んだりしているらしいんだ。
遺跡は何があるっていう感じの場所でもなくて、崩れた石壁や掘られた穴があるだけ。それがただ丘の山頂にバラバラと散らばっているだけに見える。
なんか、爆発でもあって吹き飛んだんじゃないかって思うような場所だ。
「そんなことして面白いのかー?」
ぼくはとても退屈だ。こんなの、誰かがやるだろ。この人達がやる必要ないじゃないか。
「面白いかどうかじゃないんだよ。一部には精霊文字が使われていて、それは読めるよう勉強したヒトか精霊術師しか、読み解けないようになっているからね。
実際ここも、何カ所かは、精霊文字が使われている」
つまりどういう事だ?この犬しか、読めないって事?チートじゃん。
「一応、アタシも勉強したんだけどねぇ。結構ややこしくて大変だよねぇ、これぇ。これをスムーズに話すのってなれるのに、時間かかりそぉ」
「現状ユウタは、その状況に酷似した状態で生活しているんだから、そんなこと言ってやらない。
俺が精霊文字を読めるのも、大精霊が読み解けるからなんだしさあ」
つまり自分で読んでる訳じゃないのかよ。大精霊がチートなのか?
「ところでさ、昨日なんでドラゴンの襲撃がわかったんだよ?ぼくは何もわからなかったし聞こえなかったぞ?どういう耳してるんだよう」
部屋でダラダラしてるときに突然殺気立って、そのまま窓の外に出てどっかに行ってしまった……と思えば、エリナさんがそのまま外に走って行って、それにリサさんがついてどこかに行って、ぼくは独りになっていた。
「耳では、ほんの少ししか拾ってない。魔力探知のステータスの影響なんだよ。
要は、周りにあるマナや、ヒトの魔力の流れを感じ取ったり、理解するセンスだね。優れた魔術師は必ず持っているというか、このセンスが魔術師に必須の技能というか。
で、街に張られている結界があるんだが、結界って張る人によって威力が変わるんだよ。
例えるなら、お前が最強の結界を張れたとしても、魔力一桁分だから、小石を投げたくらいは弾くけど、投石機を使われたら、頭に当たって血が出る、なんて具合に。
投石機って言っても手持ちのタイプで、マジで使われたら頭の骨、割れるけど。それが割れないくらいにはなる、って感じだな。
それで、何がいいたいかと言えばだが、どれだけ結界を強く張っても、あまりにも強大な存在からは守れないってこと。
例えば街に隕石が落ちたとしたら、被害は結界がある場合は、無い場合に比べて、少し減るくらい。
竜の上位種とかも簡単に結界を破ってくる。その結界が破られた時に、生じた魔力のうねりを感じて、俺やエリナさんは殺気立ったって訳だ」
……遠くに気を感じるみたいな、そんな感覚なのか?今回は分かりやすい説明になっている気はするけど、そんなの使えるなんてチートだ。やっぱりこいつ、チートだらけじゃんか。
「それで空を飛んで救出に行くって、どこのヒーローだよ。この腰に巻いてる毛皮はマントか?」
「俺のは飛んでいるというより、人間大砲だよ。体を吹っ飛ばしているんだ」
腰巻にしている革をいじられてるのに、こいつなにも気にしていない。ずっと壁画の方に向かって、魔法なんかに使う紋章を書き写してる。書き終えたら次の呪文に移った。
「でも、独りで竜の相手って怖くないのかよ。いくらチートあっても結界破ってくるんだろ?ラスボスの方から街に攻めてくるってありえなくないか?」
「ラスボスが何かは知らないけどー、怖いのはみんな一緒だよ?それでも戦うのが、戦士なんじゃないかなー?」
僕の疑問にすかさず答えたリサさんは自分の分を終わらせたみたいだ……指示されていた石像とかのスケッチかな。こんなの、どうするんだろう。
なんかものすごい勢いで書いていたけど、どっかに売るとかじゃないだろ?
「それよりー、随分と言葉を、スムーズに話せるようになったよねー」
「っ!あの苦い液体ちょっとづつ口に入れてるからね。それに僕は天才だから、これくらい当然のことじゃないか。天才なら、何だってできるんだよ!」
でも、やっぱりこの人たちに助けられているのは、事実なんだよね。なんかそれが悔しい。
「アンタさぁ、天才とかって言っても、あの薬でようやく、ここまで喋れるようになったんでしょぉ?もう4か月目なんだからさぁ……」
「エリナさん、人が新しい言語を覚えるのには、1千時間は欲しいところだよ。
多少才覚あっても、現地の人と意識して積極的に話そうとして、3ヶ月で拙くも意味が伝わるようになるものなんだから。
それを1年意識して続けないと、ある程度スムーズに話すのは無理って考えれば、これはむしろ早い方だよ。あの薬で5倍の記憶力を持てるとしてもね」
……この2人の真面目くさった意味無い話はついて行けない。どういう事だよ。あの薬、一滴飲むだけで5倍なら、全部飲んだらどれくらい記憶できるんだ?……意味無さそうだけど。滅茶苦茶苦いから飲む気しないしさ。
「とにかく、この遺跡はこんなとこなのかな?そしたら、衛士隊舎に行ってみよう」
全部書き終えたのか、犬は立ち上がった。ようやく帰れるのか……って隊舎とか、そんな話あったっけ。
「こういうの何度目だろうねぇ。ギルドにも事後報告入れないとだし、また詩増えるんじゃなぁい?」
「詩は増えなくていい。お金はそこそこ貰えればいい。肉だけが増えて欲しい」
肉が増えても腐ったら意味無いんじゃないか?そういうところ考えているのか、こいつ?
「詩ってなんなんだよ……まさか、吟遊詩人の?」
「そうなんだよねー。今、数も一気に増えて言ってるしー。特徴のある……ほら、昨日聞いたでしょ、『鐘の音』。あれが耳に残るって言って、結構人気なんだってー」
「ならなくていいのに。人間大砲なんて別に話すネタでもないでしょ」
なんで有名になっているのにこの犬は暗い顔しているんだ?意味がわからない。人気になったんならいいじゃないか。なんで嫌がるんだよ。
――――――――――――――――――――――――――――
衛士隊舎は街の東側、昨日2人が戦った場所の近くにあったらしい。
衛士っていうのも、あの街の衛兵と一緒で、呼び方が国で違うだけだとか。街壁に近いところにあって、それが5か所置かれているって。
なんで4か所じゃないのかって思ったら、街の出入り口と、遺跡の出入り口で合計5か所なんだとか言ってた。その隊舎の門をくぐって入ると、1人の衛士?が待っていた。
この人がこの街の警察のようなものなのか?
「ようこそ、おいでくださいました。ギルドへの報告は我々で行いましたので、今日はゆるりとご歓談ください」
「硬いよ、リラックスしていこう、リラックス」
迎えてくれた衛士さんの腰をニヤけた顔で叩いてる犬。なんだよ、さっき有名になることには嫌そうな顔をしていたくせに。
「ありがと。アタシ達が報告しなきゃいけなかったのに、ごめんねぇ。あれくらいは大したことじゃないからさぁ」
あれくらいって、上位の火竜を粉砕する事?
この隊舎の隅の方で、やたらデカい骨とか手の平よりデカい牙とか山になるくらい置かれていて、そこを漁っている人たちがいるけど……あれか?どんなデカさなんだよ、火竜って。
「そうは言われましても、我々では被害を食い止めるなど……況して被害者ゼロなどは、とてもできなかったでしょう。
……悔しいですが、自分の力に敵わない相手に、街の放棄を考えていたくらいです。それでも、一体何人、生き残れたのか……」
街の放棄って、全滅覚悟って事?0と100の考えじゃないか。この人もどんだけ極端な考えなんだ?雑魚なのは間違いないだろうけどさ。
……雑魚だからそういう考えなのか?
「それではこちらに……」
――ドーン!――
どこかに案内されようとした時に、すぐ近くのどこかで何か爆発するような音がした。これって……
「ヤツだ!どういう状況か知らないけど、今度こそ食ってやる!――点火――」
「ヴァンくん、被害を最小限にするの……あぁ、興奮して行っちゃったねぇ」
「大丈夫でしょー。彼なんだかんだでみんなに被害が出ないよう行動してくれるし。私たちも行こー」
訳も分からない間に、犬が興奮して走って行って、その後をエルフ2人が追いかけていった。
ぼくは、どうしたらいいんだろう。衛士の人も慌てて何かの準備を始めているけど、何が始まるんだ?後をついて行った方がいいのか?
……ついて行こうとして、気が付いた。
――足が竦んで、動かない。目の前がちかちかして、体が震え始めた。なんで、こんな恐いんだ?何があったのかも知らないし、何を見た訳でもないのに。
何とか近くの壁に寄りかかって、歩いて、その場所まで向かった。
――――――――――――――――――――――――――――
「何なんだよ、これ……なんなんだよこいつは!」
僕が目にしたのは、街外れの一角、少し開けた場所で、鎧を着て槍を手にした人が取り囲んでいる『それ』と、
「イイイイヤアアハアアアア!アイスフィールド、エクステンション――ツンドラ、アイスケージ!
精霊は謳う、我望む――それは氷、包むは嘆き、感じぬ心の痛み――それは罪、苦しみ足掻き、己が悪を思い知り――行え贖罪!精霊術式――コキュートス――」
犬が空中を飛びながら、氷の塊を飛ばし続けながら、氷の剣が宙を舞いながら、地面を凍らせて氷の樹とか草を生やしている。
その草でも体が斬られて血が出ている。それでも進んできて、檻に入れられて藻掻いて割った後に、空に突然出てきた氷塊に押しつぶされて、それでも立ち上がっている。
そのままアイツに噛みつこうとして、脚に作った斧で斬られている。
「ストラクタイト――エクステンション、クラッシュ!」
その声と一緒に、樹からつららが伸びて、翼に突き刺さる。その翼の骨が折られたみたいだ。
……なんでお前は、『それ』と、当たり前の顔をして戦えるんだよ。昨日も、戦ったのかよ!こんなのと!
――全長30mはある、真っ赤な鱗の、ドラゴン。
イメージのそのままに恐ろしい顔に角が生えて、大きな翼が太い体に生えている。
4本の脚で、凍り付いた大地を踏みしめて、そのたびに地面がゆれている。
壁を壊して入ってきたのか、後ろにある街壁が、ウソみたいだけど、崩されている。
……そういえば戦っているのはあいつだけだ。あとの2人はどうしたんだ?
「ヴァンくん、結界の縫合は終わった!一気に行くよぉ!――グラヴィティバインド――」
結界の縫合?何なんだよそれ。どこかから掛け声と一緒に、竜が地に伏せて動きを完全に止めた。
……魔力で縛り付けたの?
「これだったら!
精霊が謡い創る 我は謳い導く それは凍て付いた檻 終わらぬ嘆きが包み 永遠に訪れぬ光 千代に続き覆う闇 是は久遠の断罪の始り
特殊精霊術式――ルシフェル――!」
今まで火竜のそばに生えているだけだった氷の樹や草が突然、浮き上がった。
竜が動けない中を、それはゆっくり動いて、そのまま振り落とされた。草は体を切り裂いて、突き刺さった氷の樹は杭みたいになって地面に体を押し付ける。
その氷がくっつき始めて氷の塊になって、首だけが外に出ている。
「これで止め、精霊術式――断首刀――」
首に近づき、犬が言い放つと、首の上に斧のような塊ができて落ちてきた。それに、火竜の首は切り取られて、崩れ落ちた。
こいつは、こんなのと戦っていたのか……なんで勝てるんだよ、お前?
ぼくは、震えが止まらなかった。
興奮じゃない、ただの恐怖で。震えが止まらない。
精霊のボヤキ
――重力で縛られているのに、更に縛り上げるって何?――
縛るのではない、こいつの熱は高すぎるから、1度凍らせてヤツの血ごと料理してやるのだ!
――翼膜、要るんじゃなかった?穴空いて……――
肉だああ!ヒャッハアア!!
――聞け――




