19話 火竜と銀狼
前回:――また辛いもの食べたらしい……――
夜が街を包み始めた頃合い 衛士隊長は空を見る
闇に輝く星の輝き月明かり 炎でうねる結界の揺らぎ
光景に驚き目を見開き 揺らぎの中に居るそれに慄き
その姿が表すのは滅び 街を破滅に導く火竜のカタチ
見知ったお伽噺でしか見ない 絶望を世に振り撒く命
己の運命 街の行く末を知り それらの最期を悟り
叶わぬ誓い 敵わぬ竜に 適う力を願い
剣を抜いて雄たけびを上げるその時に
竜もまた咆哮を上げ街に轟き
そして――――『鐘が鳴る』
「ゴーーン ゴーーン」 鐘が鳴る
地に向かい羽搏く火竜 そこに紅い流星向かう
流星は火竜に突き刺さる 迸る爆炎に火竜は怯む
「モードフロスト――アイスエッジ!アサルトヘイル!」
響く声と共に紅から白 変わる流星の色
輝く白光 雹と刃煌く 宙を舞う――それは銀狼
竜を食い荒らす 狂乱の銀狼――此処に現る
「ゴーーン ゴーーン」 鐘が鳴る
街に音が広がる 聴く人が驚く 期待が恐怖を上回る
白い流星空を駆ける それを追う火竜 刃が切り裂く
血が吹き 息を吸い 火が噴き 狼が吸い取り
縦横無尽に咲き乱れ 宙に舞う大火 まるで夜の花
美しく輝く氷の刃 放たれる炎の息が 全てを焼き溶かし
放たれた炎の息は 吸い奪い力と為し 氷を放つ狼
止まらぬ応酬 終わらぬ攻防 猛る互いの咆哮
「イイイイヤアハアアアア!」 狼が与える希望
カキアの人々願い 思いが募り 寄せ集まる人垣
彼が負ければ未来がない 届いて欲しいその願い
己が運命 尽きぬ想い 焔の銀狼に託し
胸に手を合わし 心に刻み 目に焼き付けるその雄姿
彼が放つ輝き 語り掛ける未来 響かせる決意
「我謳い 精霊は躍り 其れは今こそ表れる 現れるは氷のヤイバ ヤイバは裁つ、その悪を 悪は断たれんその在り方を 在り方替わらん人の所業 所業は変えん人の願い その願い何時ぞ叶わん 特殊精霊術式――断首刀――!」
未来を繋ぐ 刃が穿つ 斬られる火竜
――それでも止まらぬ 『恐怖』は命繋ぐ
飛ぶ血は朱い 炎が舞い 破滅は羽搏き
返す狼の氷 煌めく流星 舞い裂く剣
応酬未だ続き 止まらぬ剣 迸る炎の息
地を駆ける エルフが詠う 術式に終わる
「ヴァンくん、どいてぇ!」「アイサー、マム!」
遅れて到達 金色が謡う 雷が葬る
「エルフ独流術式――天の川――」
光が迸る 掌から天を突く 金色の奔流、押し出される
宙に在る 星の河の如き その輝き――火竜を消し去る
その河を避けた狼 地に下り 金色の雷鳴に訴える
「……エリナさん」「何よぉ」「あれ、食える肉うう!」
狼は嘆いた ともすれば食えた肉は 消し炭になった
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「畜生!エリナさん、何であそこで『天の川』!あとちょっとで、落とせたかもしれないのに!」
悔しさで、膝が落ちる。俺としてはあれを落として、肉を食い、翼膜を確保したかったのだが。
師匠の最強術式で、全ての細胞が破裂、消滅してしまった。食えないし、素材もほぼない。
せいぜいあるとしたら、今落ちてきてる牙や骨だけだ。それだって焦げ付いて、素材としての価値が低い。
地面を叩いても手が痛いだけだが、やめられないとまらない。
「あのねぇ。ヴァンくんも解るでしょぉ?あんな巨体、30mはあるドラゴンが、街に落ちてきたら。家も人も潰されるんだからぁ」
「解るけど、でも頭だけ潰して反重力とか何か使って、肉確保できたかもしれないじゃないかあ!畜生!俺が独りでアイツを潰せる力があれば、畜生!」
師匠の言う事も、意味も、充分解る。分かるけど、割り切れない。火竜ってめちゃくちゃ美味いんだ。特にモモの肉を使った、ドラゴンシチュー。ヤバすぎて想像するだけで、腹の虫が鳴りやまない。
ああ、腹が減って、力が出ない……さっき飯食ったのは、気のせいだ。
「畜生!……ドラゴンシチュー!うあああああ!」
「泣くこと無いでしょぉ?ほらぁ、後でなんか、いくらでもお肉買ってあげるからぁ。機嫌治してよぉ」
俺にとっては泣くことなんだよ、畜生!
「あのぉ……、ワタクシ、この街の衛士隊長なんですけど」
なんか、知らないオッサンが話しかけてきた。ちょっと無精ひげを生やしている。剃ればイケメンだと思うんだけど。衛士隊長って事は、防衛関係では偉い人なのか?
「この度は、街の防衛に協力頂き、感謝します!
つきましては、明日にでも衛士隊舎に来ていただければ、恩を返させて頂きたく想う次第です!どうかお越し願えませんでしょうか!」
この世界での敬礼、胸に拳を当てて、身体を逸らせる格好をしながら、ハキハキ喋った。恩を返すとな?
「それはつまり!美味い肉を用意してくれるって事でいいよな!」
それでいいよな!?立ち上がり、指を突き立てて、確認する。
「ヴァンくん、それは違うでしょぉ?普通は……」
「それでも良ければ。我々の致すべき行いを、責務を、我々では多くの被害を受けることになるはずの、災害と呼べる存在から、街の命を守って頂いた感謝を返せるのなら、どれだけでも致しましょう!」
エリナさんは、金銭とかそっちだけだと思っていたんだろうけど、俺としては美味い肉が最上にして至高、そして究極。そうであるべきだ。そうでなくっちゃ!
「イイイヤッハアアアア!判ってるじゃないか、おっさん!そう来なくっちゃ!」
体が勝手に飛び跳ねる。文句を言うな。それだけテンションが上がることなんだ。
――あんた、ブレなさすぎじゃない?お礼がお肉ってだけで――
イフリータさんや。食はお肉に始まり、お肉に終わるものだよ。肉こそ、食の原点にして頂点だ。
――意味わからない――
残念。マナが主食の精霊には伝わらぬか。
「あぁ、ヴァンくんがいいならそれでもいいけどさぁ。普通はギルドから、報酬が貰えるものなんだからねぇ……ヴァンくんだったら、それでお肉買うのは分かってるけどさぁ」
流石師匠。俺の性格、解ってるじゃないか。そうなんだよ、それがいいんだよ。
――何がぁ?――
「ちっくしょう!とにかくうまい肉用意してくれよおお!肉が食えるどおお!」
「ヴァンくん、落ち着いて。お肉はいつでも食べられるでしょぉ?」
師匠の言葉はちょっと、今の俺には聞こえない。
「WOWOWOOOOOoooooooow!」
「ヴァンくん、抑えて。気持ちが昂るのは分からなくはないけど、抑えてねぇ。良い子だからさぁ」
そんなこと言っても高ぶった気持ちは収まらないんだよ、畜生!遠吠えが、止まらないんだああぁぁぁ!
――――――――――――――――――――――――――――
今あったことを聞いて、ぼくは怖くなる。もし、この人達が居なかったら、この人達が一緒にこの街にいなかったら。ぼくも、この街の人も、死んでいたんだって事だよね?!
「そそそそれじゃ……」
「安心しなさい。もう火竜は欠片も残ってないから。多少、骨とか牙は振ってきたけどさぁ。でも危険はもうないのぉ」
でも、あったかもしれない災害を、この2人だけで抑えたって事だろ?ありえなくないか?どれだけ化け物なんだよ。
「ソードダンスも、リサさんに教わったおかげでスペック上昇したし、エリナさんが教えてくれたおかげで、術式がスムーズに唱えられる。
大精霊だけだったらこうはいかなかったね。勿論、イフリータさんには、凄く感謝だけどさ」
なんかすごく明るい笑顔をしている犬は、穏やかな口調で2人と精霊を絶賛してる……お前も化け物ってわかってるのか?
「取り敢えず、明日は衛士隊舎に来て欲しいていうからさぁ。ちょっと顔出すだけでもしようかぁ」
「顔出すだけじゃないでしょ?お肉だよ、BBQだよ、食い放題だよ!イイイヤッハアアアア!」
どこからその話になったんだ?それにどれだけ肉が好きなんだよ、お前。
精霊のボヤキ
――なんで天の川?――
初めて撃った時に創ったイメージが、河が空に在る感じだったらしい……?
――河っていう感じじゃないでしょ……――
ビームキャノンだからね、あれ。




