18話 旅先の街
前回:――カレーが黒焦げ?ダメだね、ユーシャって――
結局犬の作った料理は完璧、って言っていいのかは分からないんだけど、確かにおいしいし、市販のビーフシチューのルーよりコクがあった気がする。何が違うのかわからないんだけど、とろみが少ない気はした。
「なんでお前そんなに簡単に料理とか魔法とか剣とか使えるんだよぼくは全然できないのに頑張っていてもなにをやってもお前に勝てないとかありえないだろぼくの方が年上なのに」
「うるさいし、精神年齢は俺の方が上。つまり、前世での経験値がある分、俺の方が上。
料理にしても本職の人からしたら『その程度で調子に乗ってんじゃねえよ、雑魚』レベル。
剣だって、才能あるっていうほどじゃないし、お前を叩きのめしたのは、前世から経験がある打撃格闘、キックボクシングベースな。一応、ストリート想定はしているから、リングの上の物とはちょっと違うけどさ。
狩りは魔法と狼スペック頼りだから、普通の人間だったら俺も無理だったろうなあ」
今日も馬車の手綱を握って練習しているこいつは平然と答えている。しかも自分は才能があるわけじゃないとか、何言ってるんだ?
「異世界人だったら最強になれると思ってたのに、なんでぼくはこんなに何もできないんだよ……」
やっぱり想像は非現実でしかないって事なのか?ひどすぎないか、それ……
「いや、異世界人だからって、特殊な力を持ってる人は、寧ろごく稀でしかないらしいよ。その稀でも、元の世界でも使えた力ではないものは、あまりないみたいだ。
俺は、そのチカラらしいものも、持っているけど」
「は?あったのかよ、そんなの!」
「慌てるな。『高速学習』っていうものだよ。ステータスの時に言っただろ、知られていないスキルだって。効果が、早く覚えられるってだけで、何もしなくても無双っていう物じゃない。
他にいくらか調べてみたけど、異世界人らしい奴でも、これといったスキルは持っていない事が多いんだ。あったとして、非常に視力が良くなるとか、寝なくて平気とか、意味があるのか判らない物が多いんだよ。
思っているようなチート能力とは限らないんだ。寧ろ、あっても意味がない物の方が多い。俺のはその中じゃ、当たりだろうけどね」
確かに、天才って呼ばれていたらしいエリナさんと同じくらいの速さで、魔術をほとんど覚えたんだっけ。それってマジで天才になるチートって事だよな……覚えるのが早いだけで、考えるのが天才って訳じゃ無いのか?そうなると微妙に思えてくるな。
「覚えるの早いけどぉ、純粋な水属性とかの魔術なんかは、ヴァンくんダメなんだよねぇ。適性が低すぎるのもあるんだろうけどねぇ」
「でも、使える分だけいいんじゃないかなー。私は羨ましいなー」
馬車の中で随分のんびりとした感じの2人が相対する意見を出してる。
「おまえ、適正低いのあったのか?」
「火と空間以外の属性は軒並み50って言ったろ?正確に言えば、もうちょっとブレがあるんだけど、パーセントで考えてみ?
該当属性の攻撃を撃つとして、基本威力にその倍率をかける。火は3倍、それ以外の4大属性は半分、正確な言い方じゃないけど、イメージするならそんなところだ」
マジかよ。火属性以外弱いのか。
「氷と雷は2つの属性の混合だから、減退は少ないんだけど、倍率で言えば殆ど等倍。精霊の魔術由来で、ある程度補強している部分もあるから、弱い訳じゃ無いんだけどね」
「それって、自慢する事かよ……」
「お前が勘違いしすぎなんだよ。俺が、何でもチートみたいに考えてただろ?」
そんな事……
「確かにぃ。こいつ何かあれば、チートチートってうるさいよねぇ。確か、誰かに貰う、ズルい技だったよねぇ。自分で作れるわけじゃないのに、それ貰って威張ってるって、作れるものからしたら小さいよねぇ」
……言ってたね、思い出した。ずっとそれがないからってバカみたいに拗ねて暴れてた。でもあるって思っちゃうだろ。チートは、異世界ネタの基本だろ。
「今はなくなってきたし、それを言うのやめてあげようよ、ね」
やっぱり、リサさんは優しい。この人の優しさを2人も見習った方がいいだろ。
「あ、でもチートっていうならだけどさ。格闘技って言っても、簡単な趣味レベルのはずの俺でも、初めて計ったとき格闘レベル9で、しかも、剣主体で修行してたのに格闘のレベルの上がり方、高いんだよな。心眼も、前世で偶に出来てたモノが、格上げされて技能になってた感じだし。
これって世界選手権レベルの人なら、最初から最強レベルで、場合によっては格上げされてる技能があるって事じゃないのかな?
お前、こっちに来る前に居合道やってれば、剣術レベル10くらいで始まってたかもしれないし、真面目にやってればレベル上がるの早いかもしれないぞ?」
「え、そんなのあったのかよ。そしたら今レベル上がってるかもしれないって事?」
「えー、上がってても1くらいじゃない?」
リサさん、そこで優しくしてくれないの?折角気分上がりそうな事なのに。
でも、それが本当ならやっぱり、剣を使って戦っていくのは間違っていなかったんだ。ぼくは強くなれるはず!爺ちゃんは間違ってなかったんだ!
馬車はゆっくりと進んでいく。最近あまり言葉の勉強は進んでいなかったけど、今なら捗る気がする。まだ雨季だけど、今は雨は降っていない。
草原を抜けていく風が、心地いい。
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「思ってた異世界と違う……確かに異世界なんだけど、海の滝とか、砂漠に面した湖に氷山とか、遠くに見えただけだけど、世界樹?意味がわからないんだけど……」
「そう思っていた時期が俺にもありましたマル……そんなもんだよ。
精霊の出す活性マナの影響で、土地の状態や気候が変わるらしい。緯度の違いで気候が変わるのは、同じなんだけどね。
そこに、活性マナの影響が上乗せされている感じらしい」
こいつ、確か精霊連れてるんだよな?そしたらこいつも環境に影響与えるのか?まさか、こいつが居るから街の辺り、熱帯になってるとかないよな?
「でも、一番ショックだったのは人魚だよう……」
「ああ、あれは俺もちょっとショックデカかったな。今は慣れたけど」
夢が壊されていく。どうせなら、あのゲームのセイレーンとかが居たら良かったんだけどな……
「ほーら、2人ともシャキッとする。もうすぐ着くよー」
大陸を渡って、新しく馬車を借りて3日。結構移動した気がする。
「えーと?元居た大陸が何だっけ」
「メルス大陸。王国はブルラントな。
今いる大陸は、この世界で最も大きいとされているイグドレッド。国は100以上あるって言われてる。
他の大陸は、アフリカ的な場所のアズール、原住民と野生動物の王国って感じの場所で、魔物は少な目らしい。代わりに目立った文明も、ほとんど無いらしいけどね。
最後の大陸は、人の近づくことのできない魔物の大陸、暗黒大陸ギガラシア。
ごくまれに調査団が派遣されるけど、大体何ができるでもなく、海の途中で9割が死んで、生き残っても調査結果を知らせることができる事なく終わる場合が多いらしい。
あの大陸に渡ると魔物化が進むからってのが理由だ」
「それってツマリ……」
「アタシ達が渡ったらオークに、ヴァンくんはビースト系の魔物に、アンタはグールになる可能性が高いわけぇ。だからみんな渡りたがらないんだよねぇ。よく大昔の12英雄は渡って問題なかったよねぇ。それが不思議なのぉ」
オークって豚の見た目じゃないって話だけど、まだ見たくないな。結構肌が固いらしいし、あの足無くした人もオークにやられたって言ってたし。グールも……人だったのか。死体とかじゃないか、普通?
「今まで、どういう訳か魔物襲撃が全く無かったよね。どうせなら、この街のギルドで下位の適当な仕事受けて、テストしちゃおうか」
道中で確認するつもりだったのかよ?何が出るか分からないじゃん。そういうギャブルはやめてよ。
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「はあ、この街はいいね。料理は少し辛いけど、量は多いし旨味は多い。獣人お断りもないし、活気があるし、気温も熱すぎず寒すぎず。
これくらいが、やっぱり過ごしやすいんじゃないかな?」
街についてすぐ、ご飯を食べて満足げな犬。ベッドに飛び込みながらなんか言ってる。
言いたい事わかるけど、本当に食べる事ばかり考えてるな。暴食の罪に落ちるだろお前。食べた量がぼくの5倍ってなんだよ。食べすぎじゃないか?
「確かにおいしかったねぇ。辛いスープが嵌りそうだわぁ……ヴァンくん、あれ作れそう?」
同じようにベッドに飛び込んだエリナさんがなんか言ってる。無理だよな、普通。1回食べただけだぞ?
「材料は、食べた限りでだいたい分かった。練り芋とギリカラシ、それにハーブの数種。ポイントは、干した魚と、干しキノコのダシ。隠し味にコショウの粒を入れてるね。あとは研究だよ」
「なんでいつも、一口食べただけで判るのー?フッシギー」
どんな料理漫画のキャラだよ。料理勝負とか変なリアクションとか取ったりすること無いよね……?
「オオカミの嗅覚は偉大。間違いない」
本当に犬じゃないの?
「味覚も結構凄いんじゃないのぉ?アタシ達が理解できない味とかも感じてて、料理人を驚かせることあるじゃなぁい」
確かに今日も味を細かくしゃべってた。エルフの2人が絶賛してる横で、その理由を予想していたような。
「でもなんでそんなに、食べることに意識裂くんだよ。そんなに重要なことじゃないだろ?」
「馬鹿か、お前。食は基本にして、究極の道楽だぞ?食わなきゃ死ぬし、食うことに極みはないんだよ」
なんかすごい言葉を出してきた。ぼくにはよく分からない。確かにおいしいスナックとか食べるのは好きだけど、そんなに言うほどじゃないだろ……森で彷徨ってた時は、水の方が欲しかったし。
「ただ、オイシイを極めるのではないんだよ。千差万別の食材を、千差万別の調理法で研鑽していく、既にある方法を、新しい方法に変える事で、昇華させる。短絡的なものじゃなく、より高等な技術を投入していく。
それが文明の発展具合の基準の1つなんだよ。
食は文化。食は人生。食は人の在り方なんだよ」
うん、ぜんぜん分からない。
「食べるのホント好きだよねー。それがヴァンくんなのは、分かるんだけどねー」
確かに普段こいつがしゃべることの大体が、狩りか食べる事かのどっちかな気がする。食いしん坊以外に何があるんだろう。たまに説教とかするくらいじゃないか?どんな偏りかただよ。
「ムウ、なんか釈然と……あん?」
「どーしたのー?」
なんか変な顔をした犬。何かあったのか?
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「なんか釈然と……あん?」
遠くで何か、妙な音がした。
それと共に、マナがおかしな振動をする。結界の振動のようだ。年々、マナの変化を感じやすくなっている。エリナさんも、こんな感じが年々成長していたって、言っていたな。
――そうだねぇ。あんたの感覚も相当に育ってきてるよぉ――
だろうな、俺も実感している。それにこのマナの感覚は……アイツか?
「ヴァンくん、先行して足止め、頼める?」
同じモノを感じ取っていたエリナさん、身体を起こし、険しい顔をしている。目と耳のクリスタルが、部屋の明かりで怪しく光った。
「当たり前。俺が一番早く行けるだろうし、一番被害を阻止できるんだからね……確実に止め射すのは、エリナさんに頼んでいい?」
「とぉぜぇんじゃなぁい!誰だと思ってるのぉ?!」
解っていない2人を置いて、感じ取れる魔術師同士の会話がなされ、2人で嗤う。
勿論、嫌みじゃない。何しろ、街に侵入した存在は、凶悪で邪悪。魔力も力もデカさも、異常。接近戦しかできない人だけじゃ、討伐は無理な存在だ。
俺は、寝そべっていたベッドから降りて、窓辺に移動する。出口より、窓の方が早い。
「おまえ、何する気だよ。ここ3階だぞ?」
ああ、こいつは知らないよな?でも、話している時間はない。
――だねぇ。さっさと行こう。じゃないと、ヤバいよ?――
わかってる。でも解ってない2人に、一言はいいだろ?
「何かが来た。しかも防壁を破って、街の中に侵入してきたんだ。多分、ドラゴンの上位種だ。このまま放っといたら死人が出る。だから、俺は行かなきゃいけないんだ。判るだろ?」
ユウタは分かっていないだろうけど、解れ。それが冒険者だ。語って理解できる訳がなさそうな顔だけど。
――そろそろタイムリミット。行こう!――
了解、イフリータさん。背を向けている窓の桟に足をかけて、そのまま後ろに飛び上がる。その後、一気に行くよ?
「最初からクライマックスで行くぜ?――点火――!」
術式をかけて、後方に向かって体をひねる。
脚が下に向いた瞬間に上を向き、術式を展開、及び足先で爆撃。
宙を蹴り、暗くなる空へ向かう。
――鐘が鳴る。
世に伝わる言葉を借りれば、それは、『竜を屠る鐘の音』。歴史を持つ街に、深く響き渡りながら、俺はそれを鳴らし続けた。
狩人として、冒険者として、人の世の為になる事を行うために。夜の闇に沈み始めた街に、俺は音を染み渡らせた。
精霊のボヤキ
――格上げは在るだろうけど、育ちやすいっていうのは嘘じゃない?――
いや、そんな気がするだけ。格闘は、そんなに多く修練している訳じゃないのに、育ってるし。剣振る時に使う、格闘技術もあるけどさ。嘘というよりは、推測だよ?
――ああ、鍔迫り合いの時の目潰しとか金的ね?――
敢えてそこ取り上げるかな?確かに、やるけど。




