17話 日本人は知らない?
前回:――世界に一つだけの盾、結構凄い力持つらしいよ――
旅行に行ける事にはなったけど、条件が付けられた。
ぼくが盾の金額を払いたくないとわめいた結果なんだけど……旅の最中で戦闘になったときに結果を出せなければ冒険者をやめる、何か少しでも結果を出せれば弟子として認める、って内容だけど……ひどくないか?
「結果って言ってもそんな派手なことじゃないんだよ。極論するとゴブリンとかホーンラビットとかを倒すのでもいいし、倒さなくてもしっかり戦う姿勢出すだけでいいんだからさ」
借りてきた馬車の手綱を取りながら説教してる。今練習しているらしい。いつやってるのかと思ったけど、狩りの時に馬車を借りてやっていたって言ってた。
「そんなこといっても、いきなりだろ?あんまり練習していないのに……」
「だぁから、行く途中でリサが相手してくれるって言ってんじゃないのぉ。何度も同じこと言わせないでよねぇ」
実際新しい装備を着た状態での修練を1週間もやっていない。こっちの1週間は6日だから日本にいたときより短い間隔だ。ちょっとしか慣れていないし、剣の振り方もまだうまくいっていない。
「お前に渡した剣、先端だけは切りやすく改良してあるんだから、そこで何とか攻撃すれば、充分殺傷できるものだよ?盾だって充分頑丈に作ってあるものだし。
闘う事が仕事なんだから、ちょっとくらい勇を示してほしいもんだよ」
「そもそもなんでそんなもの作ってるんだよ、おまえ。冒険者じゃないのかよ」
普通冒険者が武器を作るはずがないだろ。作るのは鍛冶屋なんだし。
「西の都の中央に、城みたいなのあるだろ。あそこ、第3王女の居城でさ、その王女が獣人好きで、去年パーティに呼ばれたんだよ。
そこでちょっと道具が必要になったから作ったら、それを王女が見ていて、王女に何かしら作って、献上しなきゃいけなくなったんだよ」
……王女って、そんな人と面識あるのかよ。どういう出会い方したんだ?それにあれ、国の城じゃなくて、別荘みたいなものなのか?なんでそうなってるんだよ。
「因みに王女とのつながりの元は、師匠達だから。まさかこの人達が王族と繋がっていたとは……」
「ヴァンくん、アタシは自己紹介した時にも結構凄いってアピールしたつもりだけどぉ?」
「そこまでは想像していなかったんです。ダッコしようとしないでください」
エリナさんが犬にちょっかいだして遊んでる……いちゃついてるんじゃねぇよ、こいつら。
「それで作ってたのが、この武器とかだったのかよ……」
女性なら、武器じゃない方がいいんじゃないか?なんでそんな物騒なもの作ってるんだよ?
「王女お抱えの獣人軍団に、持たせるものを作ってくれって話なんでね。王女お抱えでも、狙われたりして危険が無い訳じゃ無いからさ」
……なんでそんな物騒なんだよ。騎士とかどうしたんだよ。
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夕方ごろになったあたりで、馬車が村の中に入った。今日はこの村で泊まるらしい。
そんなに多くの家があるわけじゃないみたいだけど、寄る必要ってあったのかな。見た感じだと、宿屋もないみたいだ。
「あれ、ヴァン、また旅行に行くの?」
なんか赤毛の少女がこっちに気付いて近づいてきた。目が青い。
「まあね。アリス、また髪色濃くなったな」
……ん?濃くなったってどういうことだ?
「うーん。なんで、色変わっちゃうんだろうね。別に変らなくていいような気がするのに。ヴァンはどっちの方がいいと思う?」
……髪の色染めたのか?
「前の金髪はそれはそれで綺麗だったけど、赤毛の方が落ち着きあって、アリスには似合う気がする」
「え、元は金髪だったの?なんで染めちゃうんだよ」
「「え?」」
なんか不思議そうな顔で見られた。ぼく何かおかしい事言ったかな?
「ああ、そもそも日本人は黒髪だから、欧米人に憧れて金髪とかにしたがる奴多いからな。それじゃ仕方ないか。赤毛の人も染髪してるとか言われて、意味無く教師に叱られたりするし」
ピントズレた発言してるよ、犬。なんで憧れるとかになるんだよ。センスの問題だろ。
「ヴァン、この変な人、誰?」
なんか今、一歩後ろに引いたよね。ぼくを見ながら引いた顔しないで欲しいんだけど。怖い顔じゃないだろ。それに変じゃないだろ。
「ユウタって名前の放浪者。俺の前世の国に住んでいた奴が、転移してきたんだよ。
冒険者になりたいらしいけど才能なさ過ぎて、今回の旅で活躍何もできなかったら、冒険者失格って事で連れてきたんだよ」
「んー……」
犬が馬車から降りたら、その犬の後ろに隠れてコッチ睨んでる……なんでこいつハーレム作ってるんだよ。要らないとかなんとか言ってるのに、結構ギルドでも女の人に囲まれることあるし。
「それより、金髪の方がぼくは絶対いいと思うから染めない方がいいでしょなんで染めろなんて言うんだよ」
「何、馬鹿なこと言ってるの、この人?ホントに変」
「この子ヒドイ!何それ!」
何か僕おかしなこと言ったか?おかしくないよな、普通金髪とかの方がカッコよくないか?
「アリス、日本人はバカなんだって言ったろ?色素が薄い髪や目の人が、成長途中で色が変わるなんて思わないんだよ。何しろ、髪も目も腹も根性も真っ黒だからさ」
「お前の根性の方が真っ黒じゃないか?!それにそんなこと起こる訳ないじゃんか!」
自分で言ってて思ったけど、根性って黒いって言わなくないか?
「自分が知らないだけ、知ったか乙」
「いや、実際ぼくは見たことないからね!あるわけがないだろ!」
むしろ見たことある奴なんて1人だっていないだろ、絶対!
「俺は見たことあるけどね、写真でだけど。
義理の兄の幼少期は、金髪で碧の瞳なのに、途中茶色い目になって、大人の体になった頃ブロンドに変わってたから。
顔はどう見ても同じだし、特徴的なほくろあったから、間違いなく本人だけどさ」
……え、ウソだろ?そんなことあるの?
「そもそも、日本人が見るわけないじゃないか、馬鹿だな。さっき言ったように、目も髪も腹も根性も黒いのが日本人なんだから。
西洋人にでもならないと見る事はほとんどないよ」
確かに目も髪も黒いのが普通だけど……ファンタジーのキャラって普通髪色で属性が決まったりするよな?そういうものじゃないって事か?
「いや、でも染めてるんじゃ……」
「うーん、染めるって何?髪の毛って、布みたいに染められないでしょ。ワタシ、そんなことできる植物の染料、聞いたことないよ?もしかして動物の染料とか?」
え、何言ってるんだこの子。植物で染めるわけないだろ。ブリーチとかじゃん。
「ユウタ、ブリーチとか考えるなよ?この世界にそんなものはないから。出来ない訳じゃ無いだろうけど、基本的に白髪染めくらいしか需要がない。
それにこの子は、お前が思っているより博識だから。主に動植物に対する知識でね。この村に寄る理由も、アリスの両親がそれぞれ、植物と動物の生態研究専門家で、2人が仕上げた報告書を知り合いのハイエルフに届ける為なんだよ。
両親に知識と魔術を教えられて、今この子、この年で下位だけど、魔術師として認められているんだ」
なんだか一気に言われたけど、最後の方、ぼくはこの子に負けてるみたいに言われたような?そんな訳ないよね。ぼくの方が年上だし。
「うー、だって。ヴァンが冒険者やれば、友達でいてくれるとか、言ったんじゃん。この村、ワタシと年近い子いないし、結構寂しいんだからね。ワタシも弟子になればよかったかな……」
ウソだろ、そんな理由なのかよ。簡単に冒険者になれると思ってるのかよ。ぼくだってなれないんだぞ?
「そうは言っても、なあ。アリスが真面目に、冒険者になるために魔術覚え始めたって聞いて、師匠が気を利かせてくれたんだからさ、あまりむくれるなよ」
なんでここでもいちゃついてるんだよ。話している間にエルフの2人がひときわ大きな建物から出てきた。いつの間にか話を通して、あの場所で泊まる事になっていたみたいだ。
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「今日はぼくが料理する!」
いつもなんかバカにされっぱなしだけど、犬が料理の支度をしていて、カレーかビーフシチューで悩んでいた。それくらいならぼくだってできる。だから言ったんだけど、
「「「「ええええぇぇぇーーーー」」」」
なんでか混じっているアリスって子と一緒に全員嫌そうな顔を向けてきた……なんでなんだよ。
「だってカレーくらい誰だってできるじゃんか、ぼくだって失敗しないだろ!?」
カレーで失敗するなんてバカなこと、絶対有り得ないよな。それが理解できないなんてありえないだろ。
「ヴァンくん、どう思う?できるかなー」
一番やさしいリサさんでもこれなのかよ。なんでそんな目で見てくるのかな。
「できるに決まってるだろ?カレーくらいなら誰だってできるって何度言ったら分かるんだよ、だから……」
「はい、じゃあ後は頑張って。手伝えなんて、負け犬の遠吠えは聞かないから」
ぼくの話を遮って、犬がぼくの前に食材を置いた。形は違うけど、ジャガイモとか人参とかのような野菜なのかな。あと、いろんな種類の、粉が入ったビン……ルーが、無い。
「あれ、ルーは?」
「あるわきゃ無い。知ってるだろ?
カレールーは大航海時代で、航路が発達した後、行われるようになった貿易によって、イギリスにたくさんのスパイスが入るようになり、その時にインド料理のカレー風味の料理を作る際に、面倒が無いように調理人が様々なスパイスを混ぜ、ホワイトソースやブラウンソースに混ぜるようになってから、日本人の知る形になったんだ。
逆を言えば、それ以前の状態の、中世レベルの流通しかないこの世界では、スパイスを手に入れるだけでも、それなりに大変なんだ。
流通にスパイスが乗っていても、カレー粉になっていないんだよ。そもそも、カレーのスパイスって、薬剤なんだからさ。
無ければ自分で作るしかない。俺はそれを、自分で作っていたんだよ。安心しろ。今、俺流調合は終わらせた。
あとはホワイトソースを作る時に、これを一緒に炒めるだけだ。頑張れ」
粉を混ぜながらなんか1人でペラペラ……ホワイトソースってどうやって作るの?カレーってそんな作り方だっけ?
「あの、悪いんだけど……」
「よっしゃー!空いた時間は狩り行くぞー!イイイイヤアアハアアアアアア!」
作り方聞こうとしたら、外に走って行っちゃった……どうしよう。ルーなしで作るのってどうやればいいの?
「アンタさぁ、こうなるって考えてたのぉ?今更できませんとか言っても通らないんだけどぉ」
……マジかよ。出来ないとか言ったら殺されそう。
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「うん、まあ予想していた通りだね。鍋が黒焦げ。ホワイトソースの作り方すら知らない、カレーは1から作ると失敗する事もあるし、スパイスのほんの少しの配合次第で、味が大きく変わるって事も判らない、そうだろうと思ってた。
ルーが完成されているものだって事に盲目的な日本人、流石です」
エルフの2人からの無言の圧力が強くて何とかやったけど、どうにもならなかった。カレーで失敗するなんて思わなかった。それよりこいつ、前作っていたような気がする。よく自分で全部作れるよな。
「小麦粉も無くなったし、ターメリック少なくて味がまとめられないだろうから、結果的にビーフシチューだね」
「んー、小麦粉、挽いてくる?挽けばあるよ」
粉を引くって……そこからかよ……
「いや、大丈夫。無くても作れるしね。ていうか、使わないのが、普通のビーフシチューなんだし」
「え?爺ちゃんは使うって言ってたよ?」
使うのが普通じゃないのか?使わないのが普通って何なんだ?
「知ったか乙、小麦粉を使うと思い込んでるだけ。明治時代に入ってきた時に、ブラウンソースを使ったレシピで広まったから、必要だと思ってるだけだ。
トマトや野菜、牛肉と赤ワイン、骨で取ったスープだけで充分だから。日本は極めて軟水だから、味やとろみが西洋の硬水で作ったモノと違うっていう面も、あったのかもね。味は水の硬さ次第で、変わるものだからね。
前に一度、狩りの最中に試した調理法でいこう。あれなら時間はかからない。
牛肉と野菜、ちょっとの果物とハーブ、ホールトマト、作っておいた牛のブロードと赤ワイン、少しの塩を鍋に入れて、蓋をして金具で固定、重力魔法と小型結界使って、火にかける。
これで圧力鍋みたいになる。あとは30分置いておけば出来上がりだ」
ペラペラしゃべりながら準備して材料いれた鍋に、なんか魔法かけてそのまま火にかけた。それだけなのかよ……空間からさらにてきとうなパンと野菜と果物をだして切り始めた。
切り終えたら今度はドレッシング……全部手作りかよ。
「ユータァ、アンタとこの子の違い、どんなもんか分かってきたぁ?知識も考え方も違うのぉ」
エリナさんの顔が珍しく無表情だ……これはこれで怖い……
……なんだかんだ言ってるけど、この犬も前世日本人でよかったんだよな?自分でも言ってたし。なんかおかしくないか?
精霊のボヤキ
――カレーに小麦粉使わなくてもいいって言ってなかった?――
使わなくてもいいよ?発酵した魚とかのペースト使って、グリーンカレーやレッドカレー作ってもいいんだし。
――それって腐ってるって事?――
発酵って言って欲しいな……
――それに、本当に作り方を知らない奴しかいないの?――
知ってる奴はいるさ。ちゃんと勉強してる奴ならね。問題は、レトルトが当たり前すぎて、無いことを想定できない奴だ。




