16話 装備
前回:――色々足りないユーシャに新装備――
「なんで青龍刀作ってるんだよ……」
翌日の午後、エルフの部屋に行くと、犬の奴今度は武器づくりをしていた。
しかもどうやっているのか、金属がドロドロに溶けて空中に浮いている。できていた一本を手に取ってみたけど、どう見ても中国の青龍刀って感じの曲刀だ。
「それは柳葉刀。字面的には刀だから、馬鹿な日本人は勘違いして知ったかぶってるけど、青龍刀は薙刀のような槍系武器だぞ」
「はああ?お前が間違ってるんだよバーカ!」
「三国志読め……って無理か」
なんでこいつ間違ってるくせに偉そうなんだ?知ったかぶってるの自分だろう!
それにまた、ぼくのことを無視して、空間から何か取り出してる。
「そういえば、ヒョウ爺がまた資料くれたよ。今度は、ここに向かって欲しいってさ。スフィアの仕事なかったらいけるかなあ?」
「あぁ、やっと見つけたのぉ。前はもっと早かったのにねぇ。それで、今度は……」
「あああああーー、もう!ボクのこと見て何か言う事ないのかよぉおお!」
新しい革鎧を着てきたっていうのに、反応が今まで全くなかった。なんでこいつらそんなに無視できるんだ?まじでうぜええ!
「ああ、うん……うるさい」
こいつ、言う事かいてそれかよ。わけわからないんだけど。
「あー、新しい鎧引き取ってきたのー?結構似合ってるんじゃないかなー」
「そう?見た感じは普通の革鎧だし、細かい細工っていうのもないから、アタシとしてはちょっとなぁ。
それにかかってる刻印が、一般兵によくある身体強化と重量軽減だし、こいつの身体能力考えるとちょっとバランス悪くないかなぁ。
どうせなら防壁系の刻印にした方がいいはずなんじゃなぁい?」
「確かに、障壁とかだったらちょっとマナ流せば、かなり硬い戦いできるかもしれないが、魔力での影響は出てくるし、ユータはまだマナのコントロール全然できないからな。だから仕方ないんだ」
どういう事だよ?折角強くなれると思ったのにこれじゃダメダメだってのか?そこまで言わなくても……
「ああ、普通の障壁とか結界の刻印って他の防御系と違って、外気のマナを回収して使うタイプじゃなくて、俺の跳躍と同じマナ流入で反応するタイプだっけ。
そういう違いがあるのややこしいよね。俺も最初、知らなかったし」
……それってマナのコントロール覚えないと使えないやつもあるって事?外気のマナとかって何だよ。
最後に発言した犬がなんか空間魔法から取り出した。小さめの、盾?
「そんなあなたに、これ! 見て 見て 見て 見て!
このバックラーについた機能!これが!すごい!
外気のマナを回収して、貯めて、ボタン1つで即発動!
しかも!一面に壁を張る障壁と!周囲を囲う柱状簡易結界の2種類を!盾から2m先に出す優れもの!
貯まったマナも1目でわかるメモリ付き!
これで本体価格2ガルの所、今回お手入れセットまで含めて何と!1ガル50ジルの大特価!
さあ さあ さあ さあ 誰が買う!今買わなきゃ損するよ!」
「通販じゃないんだからそんな演説しなくていいだろ!何なんだよそれ、もう!」
そもそも僕にお金ないっての分かってるだろ、こいつ。この世界に来てからまだ1度もお金手に入れてないんだから!何ジェムとか言われても解らないよ!通貨の読み方忘れたし!
「いや、待て。外気のマナを貯めるってどうやった。そんな技術は聞いたことないぞ?」
「Oh……ダントン、何言ってるんだい?
街灯の事を知ってるだろ?あれの技術を解読してみたら、貯め込む技術が理解できたんだよ。それを流用してちょっと手を加えてみたんだ。
ガルベージのオヤッサンに指南受けていろいろ弄ってたらできたんだよ」
「な、嘘だろ?!」
本当に通販みたいになってきた。何やってるんだ?
「しかも!この盾の素材は、表面はオリハルコン!内部に火竜の翼膜を張った上質素材!硬さと軽さは折り紙付き!
それでこのお安さ、凄い!」
お前、本当に冒険者やる気あるのかよ?ありえないだろ。
「火竜の翼膜ってどう違うんだよ。意味わかんないよ」
「リサさんのドレスアーマー、スカート部分とかに同じ素材を使ってるんだけど、強い衝撃を受けても撓らないんだよ。
プールに水溶き片栗粉入れるとその上を走れば乗れるってやつ、あるだろ?あれと同じ現象が起きるって考えればいい。
つまり普段は柔らかいけど、強い衝撃を受けると硬化する、クッション素材なんだ」
なんかテレビで見たような気がするけど、あれか?
「そんな仕組みが入ったバックラー、世界に(まだ)1つだけだよ!更に今ならバッテリークリスタル一個付けちゃう!さあ、誰が買う!」
「しつこいし金無いって言ってんじゃんか!しかも一瞬ぼそっと何か言っただろ、何なんだよ、もう!」
こいつ、絶対ふざける前提でやってるだろ。
「でもぉ、こいつにはちょうどいいんじゃない?ダントン、アンタ買いなさいよぉ」
「い、いや。おれも今ちょっと、金欠気味でな……?」
「あー、ユータくんの面倒見るのにも、ダントン結構払ってるしねー」
なんかテーブルで3人が誰が買うのか会議始めちゃったけど、そういうものじゃないよね?
「仕方ない、1ガル25ジルでどうだあ!ええい出血大サービス、1ガル丁度!これ以上は負けられないよお!」
こいつさらに値下げとか、通販じゃなくてたたき売りじゃないか?
「お前はいつまでやるんだよ!普通にくれたらいいじゃないか!」
「それではローン契約の書類を……」
また空間魔法に手を突っ込んだ……なんか、ペンと紙束を取り出してないか?
「まだやるの?え、本当に売る気なのかよ!えええええ!くれるんじゃないの?!」
「素材費が結構かかってるからな?火竜とかそもそもほぼ出会う事のないレアものだし、倒すのにも普通は、精鋭250人くらいはいて漸くって話だよ。ロイとエリナさんは一瞬だけどさ」
「そりゃ、飛ばす斬撃とか、黒い奴しかできないみたいだけど……」
ごくまれにアイツ来て何度もリベンジしているけど、全然近づけないんだよな。
「ああ、お前にやったあれは風圧。飛ばす斬撃は、ロイなら確かにできるだろうけど、お前に使っていたら確実に胴体が2個に分かれた上で、後ろにいる人も斬るはずだよ。
本気で振れば街全体真っ2つにしてもおかしくないだろうね。
一応言っておくけど、理論上飛ぶ斬撃は無理だから。魔力を飛ばすとロスが起きて歪んで、先端が丸くなる。それに質量もないから実質斬撃にはならない。
斬撃っぽいマナの、とてつもなく軽い鈍器が関の山だね。実際に受ければわかる。子供向けの刀のオモチャみたいだろうから。
カマイタチとかなら似た状態になるけど、理屈としては真空で破裂の方が近いしね。
ロイは振るだけで好きなように衝撃でも突風でも起こせるし、魔法もすらりと斬れる。もしかしたら空間も斬れるかも?
チート以外に何があるのかって能力だ。あ、アイツは異世界人じゃないぞ?」
……魔法剣か何かと思っていた、飛ぶ斬撃って無理なの?
「普通出来るんじゃ……」
「ロイ以外不可能。実際リサさんもダントンもできない。さっきも質量無いって言ったよな?質量 × 速度の二乗がチカラってのは力学の基本だけど、質量がゼロならどうなる?
マナがどれだけ濃くても、質量は実質ほぼゼロだから、不可能なんだ。空間や風を固体化する魔術もあるにはあるけど、これも質量ほぼゼロ。斬れるほどの力を出せないんだ。風圧で押し潰すのは可能だけどな」
なんかこの世界、夢がない。
「しかも、身体能力あげたら、飛ぶ斬撃と同じくらいの速度で走り込めたりする上に、実際の筋力より強い力で振り回せる。
あとは、体が持つレベルで身体コントロールすることが、重要な要素だからね」
「…………つまりどういう事?」
「その鎧着てるだけで、打ち込みの威力は強くなるんだ。打ち込める距離も上がる。スピードも速くなる。
総合的に威力がとんでもなく上がる。斬撃を飛ばそうとするより、自分が移動した方が現実的だってこと。
ただし、剣道の動きじゃだめだぞ?あれだけじゃ当てられる位置が少ないし、バリエーションがないと一気に負けるから。突きも斬撃も、必要とする技術が、異常に難しくなるしね」
……本当か?
「お前はフェンシングみたいな動きしているのに?」
「競技の動きと違うだろう。あれは平均台みたいな舞台上で戦うけど、俺はサイドに回ったりもするぞ?狭いところで戦う前提でやることもあるけどさ。
はい、契約書」
……本当に買わせるんだ。こういう取引って大丈夫なのか?
「いや、普通にくれたっていいじゃんかあ!なんで買わせようとするんだよう!」
「物には対価が必要です。等価交換の原則、これ大事」
どういう意味だよ。お前、錬金術師かよ?
「まあ、どうせ期限通りに回収できないだろうからさ、払える時だけでいいんだよ。俺だって鬼じゃない」
「いや、金取ろうってだけでもう鬼だろう!これまたなんかの試作品とか言うんじゃないのか?前の棒だってそうじゃないか!」
あれはただでくれたけど、なんか意味があるような気がしていたんだよ。
「いやいや、別にあれですよ。試作した上でいろんな人に渡して、使ってもらったりしているのは事実だけど、それで欲しいって言われたら材料費プラスアルファで払ってもらっていることですし、おかしなことじゃない」
変な方向見るなよ。試作品って認めたよな、今。ぼくで実験するって事だよな?ありえないだろ。
「ユータ。これは持っていてもいいんじゃないか?多分、役に立つとは思うが……」
なんかダントンが丸め込もうとし始めた。どうして買う前提で話進めてるんだよ。くれていいモノじゃないのかよ。普通そうだろ。
「素材が高級だからぁ、タダって方がおかしいんじゃなぁい?いくらこの子が稼いでいるからって、ねぇ」
「ちょっと待って、稼いでるって話マジだったの?むしろそこまで稼いでるならくれていいじゃんか!」
普通金持ちなら、いくらでも……
「金持ちだからって意味もなく誰にでも散財してくれるものじゃないだろ。そんな家を没落させる放蕩貴族のような事、する者はそういないぞ」
「いや、だって普通……」
「お前の普通は普通じゃないよ。クレクレしているだけの寄生プレイヤーみたいなもんだ。
そんな金でしか繋がらない上っ面の付き合いなんて、人としての繋がりじゃないと思うね。冗談抜きに素材費以下に下げたんだから、文句は言わないで欲しいよ」
寄生プレイヤーってなんだよ!ありえなくないか、ゲームじゃないんだし!?
「じゃあどうやって稼いでいるんだよ、その方法教えろよ!ぼくもそれで稼いでやる!」
そうだよ。そしたらぼくだって最強じゃないけどTUEEEできるよ!もうそれで我慢してやるよ!
「お前、魔牛を1日で5頭とか獲れると思ってるの?
普通10人くらいいて1頭っていう相手を、俺は瞬殺で5頭くらい獲ってくるんだよ?
しかも、あいつら警戒心強い上に、突進だけでヒトの体ばらばらにするくらいの威力で突っ込んでくるし、攻撃魔法も当たり前に使うから、相手にした瞬間下位のパーティ全滅とか普通だぞ?」
……やっぱりチートだ。流石にそれはいきなりは無理かな。でもトラップ……
「あいつら相手に、トラップじゃ意味ないんだよねぇ。変に感がいいから、大概全部避けられるっていうじゃない?」
も、ムリかよ。じゃあ、どうすればいいんだ?
「ヴァンくん、あれ結構獲ってるから稼ぎいいっていうのは、事実だよねー。ほとんど流通に乗らないお肉だから、ユータくんはマネしない方がいいよー」
リサさんも無理だっていうのか……この人は結構、味方してくれるのに…………
「ユータ、多分だが、お前1人じゃ近づくのですら、無理だと思うぞ。魔物化した野牛で、探知力がものすごく強いし、倒すのですら辛い相手なんだ。
おれも一度だけ相手をしたが、1体で限界だった。あとは逃げられたよ」
逃げるのかよ……経験値モンスターじゃないんだから、逃げずに戦えよ。魔物なんだろ?絶対おかしいじゃないか。
「ああ、あいつら何かあるとすぐ逃げるからねえ。俺も一瞬で首飛ばさないと2・3匹しかやれないからねえ」
……なんでダントンが1体が限界で、お前は悪くて2・3体なんだよ。それもおかしいよ!
「エリナだったら1頭も無理だよねー、全部中まで黒焦げだろうからー」
……なんだよそれ。最強すぎてむしろダメじゃん。ありえないじゃん。
「あぁ、話変わるけどさぁ、ヒョウ爺の話してたとこ、来週行ってみようかぁ?ちょっとまた遠出になるけどさぁ。その間の事ダントンよろしくぅ」
本人はちょっとおかしな表情で話し換えようとしてる。周りはなんか笑ってるけど、ぼくは笑えないよ。何なんだよ、こいつら。
「でー、今回はどこに行くのー?また遺跡巡り?」
何の話だよ?……いせき?
「まあ、実際ほとんどただの旅行だしねえ。遺跡に行ってそこにある文字を移してくるだけで、あとは普通に観光だし。
確か、イグドレッド大陸のカキアって街だったかな。どんな街かは知らないけどさ」
…………旅行??
「なんだよそれ!自分は荒稼ぎして遊びまくるのかよ!ボクは全然そんな状態じゃないのに!ズルいぞおおお!」
また置いてきぼりで同じ毎日をずっと繰り返すのに、こいつらは遊び惚けるのかよ!ズルすぎるじゃないか!
「あ、じゃあこいつも連れてく?騒がしいだろうけど、文字移すのに手が増えた方がいいでしょ」
どういうこと?いつもはここで邪魔者扱いしてくるだろ。
「そうねぇ。最近は、話すのも無理はなくなってきたし、多少は落ち着いてきたしねぇ。
いいんじゃない?ちょっとくらいは羽も伸ばさないとねぇ」
「え、ええ?いいの?」
みんながぼくの声にうなずいた……駄目だとか言われると思ったけど、いいのか!いいんだ!
精霊のぼやき
――剣はただにしていたのに、なんで売ったの?――
アイツに10ガル払えると思うか?完全損失だよ。
――これだって、製品なら5ガルじゃなかったっけ?――
材料費なら、2ガルだよ。




