14話 爪痕
前回:――お好み焼き。ビールに合うのは良いけど、塩辛い――
結局勝手に騒いで、勝手に昼飯終わらせて、そのまま勝手に勉強し始めた。こいつらは自分勝手ばっかかよ。あんなもの頼んでないのに、与えた気になって何を調子乗ってるんだ……?
……何を考えてるんだ、ぼくは。違うだろ。確かに、ぼくの事を考えてくれていたんじゃないか?
大阪に住んでたからお好み焼きって、短絡的な気がするし、どうせなら明石焼きの方がぼくとしてはいいんだけど。それでも、懐かしい味を作ってくれたのは事実じゃないか?
……それって、ぼくの為に、だよな?
それにぼくは今まで、自分の気持ちばっかりで周りの人がどんな人なのか、あまりちゃんと見ていなかったかもしれない。気持ちの事だって、自分の気持ちばっかりで、相手が何考えているのかをちっとも考えなかった。
あいつだけじゃなくて、エルフもダントンも、ぼくの事を考えて行動してくれていたし、ちゃんと教えようとしてくれていたんだ。なのに、なんでぼくはこんな勝手をしていたんだろう。
でも、悪くはないはずだよな。ぼくは悪くない。転移したくてしたんじゃないんだ。
「ああ、ちょっとミスっちゃった。構図のバランスが悪い。歪んじゃったよ」
「えー、どうしてこうなったの?もうちょっとちゃんと見てー」
……この時間こいつは魔術の勉強じゃなかったのか?
「絵とかモノ作りとか、歌とかさ、魔術に関係ない事してないか?おまえ、魔術勉強してるんじゃないのかよ?」
「歌は音響魔術、絵とかは魔方陣とかに繋がるものだから。それに、基本的な魔術の系統はもうほぼ覚えた……前も言った気がする」
そうだったかな?
「それにしてもぉ、アンタなんで、ダントンじゃなくてアタシ達に教えて貰いたがってるのぉ?
何度も言ってるけどぉ、アンタは魔法の才能はないのぉ。生活魔法だけ練習しておきなさいってぇ」
今日はまだ頼んでいないのに言われた。3ヶ月近く頼み込んでいたのに全然教えてくれないし、やっと教えてもらえるかと思ったら、ライターって小さい火とか、ブライトって豆電球みたいな光とか、ドロップとか言って雫をたらすだけとか、使い道がない魔法ばっかりだし。攻撃の魔法が無いし。
「魔法は、もういい……でも剣士としては強くなりたいんだ、それはわかってよぉ!」
「えー、それだったら言う事聞いてよー」
でもこの人たちのやり方にしたら、爺ちゃんに教えてもらった剣道を忘れそうで、怖いんだよ。
「とりあえずアンタ、今は文字勉強しなさいよ。その為にここに残るの許可してるんだからねぇ」
なんというか、この世界の文字って、韓国の文字に似ている。
だから似たり寄ったりで判断が付きにくいのに、それが常用文字で150種類、その組み合わせで単語になる。
……文法は日本語に近い気がするけど、読むときは英語みたいにつなげて読む感じだし、使ってて変な感じがする。
「あああー!これもうわっかんないよおぉおおぉお!」
読まされているのは、今日の新聞らしいけど、木の板に書き込まれている内容が見ていて頭がごちゃちゃする。
「ユータァ、うるさいんだけどぉ」
「もうちょっと静かにねー」
「フム、ここはもう少し濃いめに書いた方が……」
おい犬、お前だけ無視するなよ。
――――――――――――――――――
早めに勉強を切り上げて、独りで1階のエントランスに来た。ここのテーブルなら、独りで座ってても、誰も文句言わないし。ちょっと、ふて寝する。
カウンター受付の方を見ていると、たくさんの人が中でせわしなく仕事をしている。なんか、銀行に来たみたいだ。
そのカウンターに仕事を頼みに来る人もいるみたいだし、結構忙しいのかな……あいつはブラック企業なんて言ってたけど、本当に休みがないのか?
「なあ、ここいいか?」
「え…………ぁ」
知らないやつが来て、許可してないのに隣に座った。……右足がない。膝から下が、欠けてる。それを見て、ぼくは少し血の気が引た。
「ああ、昔、俺も冒険者やってたんだけどさ。自分のバカのせいで仲間と足、やっちゃってさ。それで事務員やってるんだ。今、休憩入ったんだけど、この脚だからあまりで歩けなくてね。いつもこの辺のベンチで休んでるって訳さ」
目線で気づいたのかな。その人は、目にクマを作っているのにわらっている。自嘲気味、なのかな?わらっているのに、全然楽しそうじゃない。
「君は、あのオオカミの前世の国から来たって話の人だよね?最初の頃はかなり錯乱して、鬼気迫るって感じだったけど、落ち着いたかい?」
そんな風に見えていたのか?ぼくってやっぱりおかしいのか?
「ぼくは……そんな、落ち着いていますけど……でも…………」
「正直、足を失う前の俺は、その時の君と同じ感じだったんだろうなって、思うんだ。自分の気持ちばっかりで周りが見えなくて、気が付いたら自分で自分を孤立させていた。
子供のオオカミに叱られて、あいつよりも、自分の方が強いって証明しようとした結果が、これなんだよな」
話ながら、右足をさすっている。最近のぼくの状態と似たような経験したんだ、この人は。
それの結果が……足と、仲間って言ってたよね?それってどういうことだよ。
「俺はさ、ドラゴンを倒すことを夢見ていたんだ。それを仲間が笑いながら、手伝うなんて言ってくれて、一緒に強くなっていって……
でも、仲間に話せない、暗い気持ちを持った辺りから、誰にも頼れなくなっていって、視野が狭くなったんだ。
気持ちを打ち明けて話すのってさ、意外と難しいじゃないか。それで、全部わかった気になったまま、闇雲に暴れるようになって、仲間からも軽蔑されるようになってさ。
結局、仲間に捨てられるタイミングになっても、視野が狭いままだったんだけどね。
……オーク討伐で、異常が見つかって、ギルドへの伝達を俺たちのチームが担うことになったんだけど、その時にオークが20匹も現れてさ。俺たちは4人きり、そのままなら逃げられたのに、俺1人突っ走っちゃって、脚を斬られて、仲間が斬られて死んで、取り囲まれちゃってさ。
何とか残った2人が道を作って足止めをして、逃げようとしたところで、毒をぬったナイフを投げつけられて、仲間の1人に当たっちゃってさ……しかもソイツ、逃げる時にオークの呪術師が撃った呪いを、1人で浴びちゃって……俺たちの身代わりに。最後の1人も、女の魔術師なのに、俺とその娘を背負って逃げてさ。
……憎まれた俺が、生き残っちゃったんだ」
……なんで、この人はこんな話をするんだろう。ぼくにこんな話をしても、意味ないのに。
「それは……その…………」
「しかもさ、先に殺された奴は結婚するはずで……もう一人、毒や呪いを受けたやつは……俺なんかを…………」
少しずつ話していて、涙を流し始めた彼は、いったいどれだけ苦しんでいるんだろう。そんなに苦しむ必要って、あるのか?ありえないだろ。
……ありえない、よな?漫画じゃないんだからさ。
「ざまぁ無いよ……何しろ、こうやって生き残って、自分の惨めさをずっと抱えなきゃいけないんだから。
なんで一度止まって、周りを見ようとしなかったんだろうって。自分が感じることが、相手だって感じる感情だって、分かっていいはずなのにさ。
……オオカミから聞いたか?俺がアイツを、アイツの命を狙っていたって事」
俯いて、泣きながら……何を、怖いことを言ってるんだ?普通そんな……命を狙うとかするはずないじゃないか。なんでそんな、ぞっとする話をするんだよ。
「森で何度も、何度も何度も何度も、小さな子供を殺そうとしていたんだ。氷の魔術で足滑らせたり、氷漬けにしたり、雪玉なんてオモチャぶつけてきたりしていたアイツを、俺は……殺そうとしていたんだ」
「…………なんで、なんでそんなこと」
なんで聞いたんだよ、ぼく。聞きたくない。聞いちゃいけない。これは……
「自分のエゴだよ、カッコつけたいから。それだけだったんだ。
昔、偉かった親父を喜ばせたくて、カッコつけたかったんだ。それだけで、狙う必要のないアイツの命を狙ってた。
12英雄のフェンリルの命なんて、狙うものじゃないのにな……ごめんな、暗い話して。
でも、多分……君には話さなきゃいけない気がしたから。そろそろ休憩も終わりだから、行くよ」
そう言って彼は、杖を掴んで立ち上がった。ぼくは何も言えないまま、彼を見ていた。
もしかしたら、最近のぼくが思っていた感情を拗らせたら、こうなるのかもしれない。
脚がなくなるとか、命がなくなるなんて、考えたことなかった。
……そういえば、12英雄の『フェンリル』って言ってたよね。12英雄って、何だっけ…………あいつ、フェンリルがどうとか言ってたよな?
ちょっと……気分変えた方がいいかもしれない。外にでて、公園にでも行ってみよう。
そういえば、この世界に来てから、自分で街を歩いてゆっくり見たことなかった。このギルドに来るために走ったとき以外は。
……何やってたんだろうな。今は雨も小ぶりだから、傘をさして歩くのにはちょうどいいんじゃないかな。出来れば晴れててほしいけど。
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街中を、ゆっくり眺めながら歩いていると、今まで見えていなかったこの世界の形が、はっきりと見える。
多くの人は普通なんだけど、髪の色も鮮やかで、たまに普通の人間以外の種族がいる。……獣人だけ、見かけないけど。
1人、裏路地で荷物を運んでいる獣人は見かけた。赤い首輪って、どんなファッションだよ。それこそ、アイツが付ければいいだろ。
どこまでも、石畳の路地が続いていて、石煉瓦でつくられた建物が並んでいる。
……案外、似たり寄ったりな建物ばかりなんだよな……つまらないとか、思わないのかな?
公園に来た時に、雨の中だってのに人だかりができている。何かイベントでもやっているのか?
周りの林や芝生みたいなところには誰もいなくて、公園の屋根付きの休憩所にみんな集まって、雨を凌ぎながら何かやってるみたいだ。
近づいてみると、楽器を使って弾き語りみたいなことをしている。
「聳え立つ山々に響く鐘の声 炭鉱夫たちは驚いた
今か今かと迫る岩石竜の陰 その大きな口が開いた
もはや命が奪われる、その時に――『やあはあああ!』
叫ぶ声 迸る爆炎 裂ける竜の背 翻す小さな影
それは焔を燈した銀の狼 ニヤリと嗤って一睨み
体に亀裂受けた岩石竜竦み 恐れ怯え後ずさり
それでも顎を開いて威嚇を返し 勢いつけて体当たり
土石流のように迫る体に 彼は恐れず足慣らし
地を凍らせ滑らせ行く手を逸らし 近くの川に突き落とし
そのまま川を凍らせ 岩石竜の動き封じ――」
「なんだよ、これ……」
なんか変な歌だし、一緒に踊り子みたいな人が振りをつけて、合わせて踊ってる。
ヒッピーとかそんな感じの服装でいいのかな?伝統衣装って感じで、ゲームの中の踊り子衣装と全く違う。もっとスケベな衣装にして欲しい気がするけど、そういうのって無理なのか?
……エリナさんはめっちゃそういう服ばっかり来てるし、すぐ服装変わるけど。
「お前、吟遊詩人と踊り子の組み合わせ見たことないのか?」
知らないオッサンが話しかけてきた。これ吟遊詩人かよ。歌って言うより、ポエムの朗読みたいに聞こえた。
「今詠ってたのって銀狼か?最近多くなってきたな。特にドラゴン関係。師匠のエルフと一緒に、あちこちで暴れ回ってるって話は聞いてたけどさ」
「どうせ師匠とかいって、やってる功績を弟子に譲ってるとかだろ?そもそも、獣人がこの国の奴のために、人助けとかするか?」
よくわからないけど、聞いていた人が話し始めた。どういう事だ?
「案外そうでもないかもしれんぞ?地方じゃ助けられたってヤツがちらほらいるとかよお。うちのガキがはしゃいで話してやがった」
「ちょっとそれ、ありえないんじゃない?獣人よ?人狼と変わらないじゃない」
「そうそう。最初人狼とか言われてたのに、なんか最近子供が好んで聞きたがるらしいのよ。なんでかしらね」
「はっ、どうせ色物だろ?師匠が凄いだけで、中身空っぽなんだよ」
「どうかしらね……12英雄でしょ?わからないよー」
……それって、あいつの事か?なんであいつ、ドラゴンと戦ってるんだよ。
「そこでオオカミはこう叫んだ
『ちょっと待って、このドラゴン毒あって食えないじゃん!』
彼の師匠2人は溜め息ついた」
……食うつもりでドラゴンと戦ってるのかよ。流石に嘘だろ?
精霊のぼやき
――最近DQN体調悪そうねぇ――
アイツ、奥さんが色々激しくてちょっとお疲れ気味らしいよ?
――はぁ、一時は呪うとか何とか言ってたのにねぇ。何が起こるか、分からないねぇ――
憐れ、ケンジ。一生尻に敷かれるな。




