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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
オカシナ イセカイ ファンタジア
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13話 ユータ・イガラシ

前回:――ユーシャ、舌戦に敗北――

 次の日の剣の練習は休んだ。


 昨日の夜あいつに話したいと言ったけど、結局ケンカになっちゃった。どうしてこんなことになったんだろう。

 なんか、中国とかにいる日本人嫌いを相手にしているような気分だ。そんな状況になったことも、会ったこともないし、あいつ日本人だったはずなんだけど。

 それに政治の事なんて、気にしたことないのに、アイツはちょっとそんな話もしていた。何が言いたいのか、いまいちわからない。

 ……なんか政治とか日本人の考えがそういう恨みみたいなものを持つ理由になるのかな?


 昨日からずっと、そんなことが頭の中を回ってる……そんな、人嫌いなのに、人助けとか、なんでやってるんだ?


「お前が不安に思うのも分からなくはないが、独りで抱えていても、どうにかなるもんじゃないぞ。きちんと話さなければ、いけない事だろう。アイツだって我慢していた処があるんだ。意味も無く、言葉にしてはいないと思うぞ」


 ダントンはずっと悩んでいるぼくを、ギルドのロビーに連れてきて、話を聞いてくれている。

 一度、今まで自分がやっていたことを考え直してみたけど、なんか自分が最強だからって叫びながら、暴れていただけだった。

 なんで自分がこんなことをしていたのかわからない。


――ぼくは、こんな奴じゃないはずなのに。天才のはず、そうじゃなきゃ、どうしたらいいんだよう。


――――――――――――――――――――――――――――


 小さいころから何度も転校をしていたから、ぼくには深い関係のある友達がいなかった。

 それでも転校をするたびに、みんなの注目を浴びる。新しい場所で注目を浴びるこの瞬間だけが、友達を作れる瞬間だってのは分かっていたから、ずっとこの瞬間だけはアピールすることを意識していた。

 そのタイミングを逃すとイジメられたりボッチになるか、負け組に入るから。


 負けた存在だと思いたくなかった。いつもクラスで偉そうにしている奴にゴマをすって機嫌を取って、グループの仲間と話題を共有するために興味のない事も調べて、いつも変な目を向けられないよう気を付けていた。

 たまに天才だからって言うと、笑われたし悔しかったけど、嫌がられてる感じじゃなかった。ここで受けるような、冷たい目は避けていた。


『ゆうた、剣道やってみないか?転校した時にも自慢できるぞ。そうしたらすぐに友達もできる。それに剣の道は、お前を絶対、裏切らないから……』


 初めて転校して友達が居なくて泣いていた時、爺ちゃんが言ってくれた言葉。

 その時は小学校に入る前だから、転校っていうより転園だけど。その言葉を信じて、何度も剣を振り続けた。

 爺ちゃんは週1回、必ず家に来て剣道を教えてくれて、中学に上がった後、大阪に住み始めた時に爺ちゃんと一緒に、道場に行くようになった。

 ぼくの腕前なら充分、段を持てるくらいだろうと言われて、少しづつ練習を続けた。


 何度も転校しても、絶対に剣道だけはやめなかったし、それが自己紹介の役にも立った。

 おかげで負け組に入ることはないし、クラスでいじめが始まっても、僕は遠巻きに見ているだけだった。

 負け組に入らないようにしていたから。負け組に入るから、悪いんだ。ぼくが悪い訳じゃ無いから。


 それでも転校してきたせいもあって、ずっとその場所に住んでいたやつらと、少しズレがあって怖い気持ちがいつもあった。

 怖くて、ある程度仲良くなったらそれ以上距離を詰められなくて、ネットの世界に逃げていた。


 ネットには、なんでもある。買い物だって楽だ。クレジットカードが無いと使えないサイトも有ったりするけど、何とかなる。

 オンラインゲームなら顔は分からないし、友達になったような気持ちになる。

 小説は沢山ある。まるで自分が主人公になった気持ちになれる。

 動画を見て、みんなに話して話題にする。これだけで、盛り上がるから気持ちよくなれる。

 SNSでなら、自分が撮った写真が注目される。知らない人から、絶賛される。

 ネットになら、どれだけでも、仲間がいる。

 …………ぼくは……気が付いたらネットに、はまっていた。


 現実の、弱くて頭悪い自分が、天才で最強の主人公になれるから。そういう作品が売れるのだって、誰だって、そう思いたいからなんだから、ぼくはおかしくはない。

 トモダチはぼくには、たくさんいたんだ。


 ヒーローになりたい人が、たくさんいたって事なんだ。


 仲間がいるなら、一緒に居ればいいじゃないか。


――――――――――――――――――――――――――――


「あー、それがこの世界に来て話が通じない中、あいつだけが話が通じたから、すがった理由か?

 あいつだけが、お前のアピールを聞いてくれるから。それに、最強だと思いたいから、祖父から教えられていた剣を……しかしな」


 話さないと分からないだろ。今までずっと出会った瞬間にどう思われるかでぼくは生きてきたんだ。これは間違っていないはずだ。

 なのに、この世界じゃ何も通じない。絶対にこの世界がおかしい。剣がぼくを、爺ちゃんを裏切るはずがない。それなのに、段持ちになれるぼくが、弱いなんて言われる。

 どうして……

「絶対、爺ちゃんが教えてくれた剣道は……」


「まず、お前の剣は、完全に対人を想定しているんだよ。スキは少ないんだけどな。


 魔物や獣、まして大型なんかを相手にする型じゃないんだ。しかも、足場が悪いことを想定していない。平場での戦闘に意識が回っているから、体を固定しすぎているんだ。


 それに斬りかかった時に必ず引きを作っているが、それじゃ体重を乗せられない。

 ……つまり斬れないんだよ、あれじゃ。細かく動かして斬るなら、テコの原理だけでも、充分斬れるのだしな。


 それに、体はある程度できているけど、細い。打ち方を見る限りじゃ、対人の経験もないんだろ?元の世界じゃ通じたものでも、こっちでは通じないなんていくらでもあるさ」


 そんなにボロクソに言わなくてよくないか?剣道は3倍段だぞ?強いはずなのに。


「どれだけ強い武器を持っていても、使いこなせないと、どうにもならないんだ。おれだって、今の剣を使いこなすのに、どれだけ振ったか……」

 そうかもしれない。けど、それだったらアイツが言ってた事を考えれば……


「拳銃があったら、剣なんかなくても、素人で最強じゃないかな。剣の道を捨てるのは嫌だけど、何とかして拳銃作って……そうすれば、ぼくも異世界無双が」


「できないよ、お前が考えているほど甘くない」

 いつの間にか、剣の練習を終わらせてきたらしい犬が、冷たい眼でこっちを見ていた。


「本物の拳銃とかは相当複雑に作られているし、現代のモノであれば、火薬はニトログリセリンがベースだ。

 それを、個人で1から作れるほど、知識や技術があるか?金もかかる。


 火縄銃だって簡単じゃない。

 硝石なんかが掘り出されていなければ、入手するには自分で作ることになるが、数年かかる。岩塩に微量に硝石は入っているけど、抽出するだけの知識あるか?貝殻から取るか?

 ここまでくれば、普通の中学生じゃ無理だ。出来るなら、科学を教授レベルまで勉強している奴だな。


 そして作れたとしても、もう1つ、問題がある。撃った時に銃身がブレるんだ。そのせいで初心者は、狙ったところに中ることが、()()()()

 それに慣れるのに、1万発撃たないといけないなんて言われてるそうだ。火縄銃レベルじゃ、威力も低くて使い物にならないしな。そこは言わなくても分かるだろ?」


「1万発って、なんで知ってるんだよ!そんなの……」

 ぼくは聞いたことない!なんで知っているんだよ、こいつは?


「ハワイの射撃場で聞いた。俺も、前世でちょっと旅行したけど、試し撃ちした時に的に1発も中りやしない。

 それで係員に聞いたんだ。地面に向ければ中るかもよ、なんて言われた」


 なんだよそれ、テレビで見たドラマだと、普通に頭狙ってぴったり当てたりするのに、無理なのかよ。


「どっちにしても、火薬はあっても、危険だからって嫌煙されるのが、この世界だ。他の国でもほとんど変わらない。

 何しろ、魔法があるからね。火薬は入手困難だし、無理にやらない方がいいよ」


 じゃあ、どうしろっていうんだよ。剣だってダメで、他の方法もダメなら。魔法だって才能ないとか言って教えてくれないじゃないか。銃とか作れれば、最強の剣士とかでも倒せるだろ。どうやったら……


「お前、何にこだわってる?冒険者にこだわる必要ないじゃないか。

 今はもう喋れる。15歳、この世界では成人だ。弟子の時期ってのは、未成年に対してのものだよ。

 弟子の制度だって、ある意味じゃ救済措置だし、後進育成のための措置だ。今なろうとする理由は無いんじゃないか?」


 だって、こういう世界に来て活躍して無双するのは普通じゃないのか?それが……小説とかの定番。


 つまり……空想(ファンタジー)…………何やってたんだろう。


 ありえないことが起きて、帰れないかもしれないって怖い事実を見ないようにして、ぼくは小説の主人公になろうとしていたのか?

 でも、こいつは……


「誰だって、ヒーローとかになりたいだろ。だから頑張りたいんだ。だから……」


 だから…………どう……したかったんだろう?


「頑張りたいのは分かるけど、それなら先輩の言葉を無視するなよ。

 ダントンがどれだけしっかりお前を見ていたのか、リサさんやエリナさんがどれだけ心配してたか。

 それをずっと無視して行動していたんだからさ」


 頭の中がだんだん、真っ白になって行く。チートとかなくても、強くなれると思っていた。異世界ならチートはあるって思っていた。

 でも、全部空想なんだ。無双できないのか?ぼくはやっぱり、強くないのか。


 ヒーローは………空想(ファンタジー)なのか?


 僕を無視してアイツはまたぎゃいぎゃい騒いで、部屋に上がっていった。なんでそんなに平然としているんだよ。ぼくを助けてくれるんじゃないのかよ。

 ……どうしてぼくはアイツに頼ろうとしているんだ?


「ユータ、しっかりしろ。おれも厳しい事を言ってしまったが、お前にもできる事はきっとあるから。武器を変えるっていうなら、あれだ。弓にしてみるのもありだと思うぞ?クロスボウとかでも、充分戦える」


 なんか言ってるけど、ぼくが考えているのはそういう事じゃない。銃と弓じゃ、意味が違うだろ。


 少し時間をかけて考え直してみたけど、やっぱり答えが出ない。

 そんな状態で、ダントンに声をかけられた。あいつがエルフの部屋で何かまた作っているらしい。何だっていうんだよ。また説教でもしようってのか?


――――――――――――――――――――――――――――


 部屋のキッチンのテーブルの上。鉄板があって、下で火が燃えている。黒く艶のある鉄板は触れば熱いだろうな。

 火についても、魔法じゃなくて、変なかたちの道具だ。カセットコンロみたいなものか?

 鉄板の上では、何かを焼いている……入ってるのは、キャベツとかベーコン?


「ほっ……これで半面が焼けたら、ソースとマヨネーズ塗って、お好み焼き完成だね。

 個人的には、マヨネーズはかけない方がいいかなと思う。先に掛けちゃうと味の変化が楽しめないからね」


「いや、マヨネーズは絶対必要だろ?ていうか、なんでお好み焼きなんだよ!それだったら……」


「ジャポニカ米はない。米パスタ作っといたから、これで我慢しろ。関西だったら米とお好み焼き、一緒に食うんだもんな」


 なんかテーブルに座らせられたかと思ったら、米っぽい奴とお好み焼き用の皿を渡された。何をやってるんだよ。こっちはそれどころじゃないのに。それに、なんでお好み焼きなんだよ?


「でぇ、これってどういう料理なわけ?この変なヘラで食べればいいのは分かるんだけどさぁ」

「普通に小麦粉を、いくつかの材料と練っただけだよ。ポイントは練る時に、水じゃなくてスープを使うことと、野菜や果物のジュースを煮詰めて作ったソースを使うあたりだね。

 ソースは自作してみていたけど、上手く作れなかったんだ。最近、ようやくそれなりのものができたんだよ。

 作り方をちゃんと知ってたわけじゃないけど、やればできるもんだ」


 知らないでやってたのかよ。それより、お前冒険者なんだよな?なんで料理研究しているんだよ!しかもソース自作って何なんだよ、一体!


「あー、これの為に呼んだのか?別に、飯くらいなら自分で……」

「えー、良いじゃん。みんなで一緒に食べたほうがおいしいでしょー」


 ダントンがなんか断ろうとしてるけど、抑え込まれて結局断れずに椅子に座らせられた。なんか顔赤くなってないか?

 もしかして……童貞だから女性の部屋に抗体がないとか?なんだよ、いろいろ自信満々でも、すごい聖騎士とか言われてても、結局そういうヤツか。

 ……ぼくもじゃん、悲しくなってきた。


「これ、お酒合うねぇ!エールがすごく進む!」

 なんか1人、お酒飲み始めた。なんでぼく以外の奴ら、こんな楽しそうにしているんだよ。ぼくの事も考えろよ。


「アンタ、全然食べてないじゃぁん。折角、アンタの為にヴァンくんが料理してくれてるんだからさぁ、ちょっとくらい食べなさいよぉ」


 これがぼくの為だってのかよ?……なんでこんなことになってるんだよ。確かに違う世界に行きたいって思ったことあったけどさ。思っていたのはこんなヤツじゃない。

 もっとぼくだけで何でもできる、ぼくがすごい世界……今、こいつがやっているような、凄い事…………


「おまえ、なんでこんな何でもできるんだよ。意味がわかんないよ」

 僕がつぶやいた声が聞こえたのか、騒がしかった周りが、一気に静かになった。


「そりゃ、男でも、一人暮らし長かったし。旅したり、いろんな勉強とかしたし。

 人が育つには、教養としていろいろ知ることが大事だからね。人生勉強だよ。学びを途中で止めると、そいつは退化していくからさ」


 こいつの言うことは、よく分からない。勉強なんて……


「勉強なんて、学校でしかしないなんて、学生時代には俺も思っていました。

 結局社会に出ても勉強することになるなんて思わなかったです。

 それは社会人1年生になると必ず先輩方から言われる愚痴。定番だよ。


 仕事で必要な資格取るのに、何十時間も勉強するのも当たり前だし、教養を知れば知る分だけ、人は伸びるものだよ」


 そんなのが聞きたいんじゃない。こいつはなんでいろんな人に囲まれてるんだよ。なんでぼくは何も持ってないんだよ。

 ……どうして独りになってるんだ?


「アンタさぁ、まさか独りぼっちになってるなんて、思ってないよねぇ。だって、こんだけ心配してくれている人がいるのに、勝手に自分から、独りになってるんだよぉ?

 今迄、視野が狭くなってたでしょぉ。一体いつ、アンタが完全に孤立してたわけぇ?周りが敵だらけじゃなくて良かったじゃない。助けてくれる人が居なきゃ……」


「だから、どうして助けてくれようとするのさ!お前らは何がしたいんだよ!」


 頭の中が整理できない。なんでこんなに何でもできて、助けたりするのか?自分を認めさせて自慢したいのか?誰かを助けるのが、カッコいいとか思ってるんじゃないのか?


「俺は狩りがしたいだけだよ。そして食するまでが狩りだしね。このベーコン俺が作った物だし」


 言ってる意味がわからない。ぼくの聞きたいことはそんな事じゃなくって、

「そうじゃなくて、どうしてそんな力を持ってるんだよ。どうしてそれで人を助けたりするんだよ!お前は何がしたいんだよ!」


「狩りがしたいだけ。そのついでに社会貢献。それだけだよ。力は、多くの人に与えられた知識だ。自分だけでできたものじゃない」

 意味が通じない。こいつ、馬鹿なのか?それだけのはずないだろ。そんな簡単に……


「お前こそ、何がしたい?」

「だから、ぼくが聞いてるんだよ!」

「いや、聞いて()()()()()のかだよ。聞いたところで、何が解決するんだ?」


 ……?解決って……なにが?


「俺のすること聞いたって、自分勝手に答えを曲げるだけだろ?

 仮に俺がする事を聞いて、お前が納得したところで、できる事が増える訳じゃないだろ。

 今はまず、落ち着いていろいろ考え直すことから始めてみろよ。時間はいくらでもあるんだから。


 ……お好み焼きの屋台とかやってもいいんじゃないか?異世界妄想だか何だかってやつ、出来るだろ?」

 無双な、知ったか乙。


 ……お好み焼きでどう生きていけっていうんだよ。ぼくにできないよ。


 ぼくは何やっても、うまくいったことないんだから。周りに溶け込もうと必死になっていて、それ以外何もできなかったんだから。


精霊のぼやき

 俺流 豚玉 完成!ドヤア

――まあまあ?――

 え、それだけっすか?!

――ちょっとソースが塩辛いかなぁ。マヨネーズ付けたら更に味わいが掻き消されて、素材の旨味なんて微塵もなくなるじゃない?ダメでしょ、それじゃ――

 どこのユーザンだよ、精霊さん?

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