10話 折れた剣
前回:――米パスタ?……どっちよ――
怪我が治った頃には、外はひどい雨が降り始めた。この世界にも梅雨ってあったのか。なんかずっと熱いと思っていたけど。
練兵場での練習は、魔術の屋根で雨が弾かれるから問題ないらしい。やっぱり魔法は便利そうだな。
「ああ、とうとう雨季がやってきやがった。仕事でもびしょ濡れで、皆出たがらない雨季が」
修練場で、稽古の休憩中になんでか知らないけどため息をつき始めた犬。
「なんで黄昏てるんだよ、お前。この間、雨にも濡れないで帰ってきただろ。傘もカッパも持たないって、どういうチートだよ」
狩りに行くとか満面の笑みではしゃいで走って行った日の夕方、突然土砂降りが振り始めて、傘も持たずに行ったこいつは大丈夫なのかと思えば、その雨の中を濡れもせずに走って帰って来たんだよな。
「大精霊というチートだよ。攻撃もそうだけど、結界や幻覚、隠蔽、それに道具や武器の製造。火の属性でできる事がこれだ。
同じ火の精霊でも上位では武器の製造は、他属性だからできない。氷や雷も、他属性の範囲だから無理。大精霊だからできる事。チートと言わず、なんという」
「チートだな。でもしょげる理由にならないだろ」
ぼくの言葉に、ため息を返してきたこいつ。
「お前、俺の毛がどう見える?」
なんだ、いきなり?いつもよりぼさぼさだし、毛が抜けて床や地面が汚くなるけど。ハゲたとか?
「俺、帯電体質らしいんだ。得意の術式が、火と氷と雷の3属性を切り替えて戦うものなんだが、雷にすると今みたいにボサボサになる。やらなくても雷が鳴る今日のような日には、帯電し始めるんだ」
なんだそれ、意味が解らない。そんな体質あるのか?
「この帯電が結構厄介だからなあ。だから点火も、雷はあまり使いたくないし。ヒトに触ると、すぐにパチッてなる。なんで雨季にはいつもそんな状態になるのかなあ」
「雨季ってなんだよ。熱帯じゃないんだし」
「熱帯気候だよ。気づかなかったか?タイとかアマゾンとかの気候に近いんだよ、ここ。だから半年近く雨は降り続ける。ゲリラだったりスコールだったり、いろいろだけどな」
初耳なんだけど……地中海的な気候じゃないの?ファンタジーだとそういう所か、日本みたいに四季があるだろ……ってここじゃ通じないのか。
「さー、休憩は終わりにして、続きやろうかー」
「ハイハイ、やりますよっと」
犬の奴、なんであんなに頑張るんだろう。さっきだってぼくよりすごい動いていたのに。空中を跳ねたり、バク転したり、どんなアクション俳優だよ。
「おれ達もやるか。そろそろ新しい動きを……」
「あー、もうちょっと休んでから?ぼくはさっきの動きで足が痛くて……」
「そ、そうか……」
木に寄りかかって座っていたダントンが、立ちかけたけど座り直した。
どうしても動きがよく分からない。なんで、剣道の動きと違うものをいきなり受け入れろって事になるのかな。それに、剣士だったら普通斬るのが当たり前だと思うけど、突きの方が多い。
あいつがくれた剣は、アダマンタイトとか言ってた。ファンタジーの定番で、一番硬い金属だったよな?そこは同じなのか?もしそうだとしたら、これはどうしたって折れないはずだけど、その分やたら重い。
細く作ってあるけど、これがロングソードっていうのは嘘だろ。今まで僕が漫画とかアニメとかゲームで見たものは、もっと幅が広くて強そうなもので、こんな細剣みたいに細い物じゃない。これで切れないのは当たり前だろ。
「イイヤハアアア!」
「はい、はい、ほら、動きが遅い」
犬が空中を飛び回りながら蹴りを出したり剣振ったりしてるのに、なんであの人涼しい顔をして相手できるんだ?動きも相当早いと思うんだけど。ぼくは離れていても目で追うのがやっとだぞ?
「なあ、そろそろやらないか。それとも今日はもう終わりにするのか?」
「ダントン、そいつにやる気求めてもダメでしょぉ。アンタやリサの忠告どんだけ無視してると思ってんのぉ。教えるだけ無駄ぁ」
エリナさんって人、あいつの話じゃサブマスだって言ってたけど、何偉そうに言ってるんだよ。自分は剣士じゃないくせに、うぜええ。
「分かった、やるよ。もう。あー足が痛いー」
本当は足なんて痛くないけど。
「さっきさすってたのは左足でしょぉ。なんで右引きずってるのよぉ」
この人書類仕事をここでやるのも意味わかんないけど、なんでそんなとこ見てるんだよ。それも意味わかんないよ。
「両足とも、痛い!さっさとやるよ、もう!」
なんでぼくが悪いみたいになるんだよ。ありえないだろ。
それから何度か打ち合いを続けて、剣の振り方に慣れてきたけど、やっぱり斬るんじゃなくて、突くのがメインだから動きがおかしい気がする。そもそもサーベルのあいつが突いたり斬ったりする動きなのに、ぼくはなんでフェンシングみたいに突く動きなんだ?斬る動きがないわけじゃないけど、動き方が変だし、突く方が多すぎないか?
「やっぱり、斬る武器の方がいいよ、ダントン。斬れる武器に変えていい?」
「あー、構わないが。しかしそれなら両刃より片刃の方がいいぞ。両刃だと……」
「両刃じゃないと剣じゃない!これがいい!」
練兵場に置かれている、修練用の剣を持ち上げる。アニメでよく見る、剣の幅が結構あるやつだ、手の平より、幅がある。これならしっかり斬れるはず!
だけど、
「おおおっもおおお……」
重すぎる。何だこれ。こんなの振れるのか?
「それは5キロはある。もっと小さいのにしろ。より斬れるようにすると薄くなりすぎたりして、折れやすくなる。それは分厚くしてある分斬るというより重さで断つ方のものだ。おれも振り続けるのは辛かったものだよ」
なんでそんなもの置いてるんだよ?そんなの振れる奴いるのか?
「ダメだ、これじゃ無理だ。じゃあどうすればいいんだよ……」
「結局、曲刀にするかこの剣の方がいいって事だ。ヴァンの奴にも言われたんだろ?
剣で大振りに斬るのは空想の類だって。現実にこれで斬れない訳じゃ無いが、斬る為だけに作っているって訳じゃ無いんだ。優秀な剣は柔軟性も併せ持つが、それだって突いた時に折れないようにする為だ。お前に渡されたこの剣は、充分だと思うけどな」
そうは思えない。だってどう考えたって、強くなさそうだ。最強の防具に使いそうなものを剣に使って強いわけがない。それに、アニメとかだともっと幅が広いのに、この剣はひょろひょろだぞ?
「はー、もういい。それでやる……しょうがないから使ってやる」
「しょうがないからって、お前……ったく」
もう一度戻って、向かい合う。ぼくがどれだけ優秀か、いい加減教えてやる。
「はああ!」
何度も突いて斬って、また突いて。でも、剣道で学生に突きは教えないって言われてたからこの動きはなれないし狙ったところに突きがうてない。ようやく突けるかと思ったらかわされるし。
「くっそおおお!」
思いっきり踏み込んで縦に振った。それをダントンが弾いてぼくは少しバランス崩したけど、鍔迫り合いを狙って思いっきり力を入れて踏み込んだ。
そしたら、パキンとかって鈍い金属音がして、
「あ、あああああああああ!なんで折れるんだよおおおお!」
「おいおい……アダマンタイトを折るか、普通」
根元からパッキリと折れている。剣が折れるとか、普通聞いたことないけど。これアイツが偽物つかまされたんじゃないか?絶対そうだろ!あいつが師匠の2人と一緒に、こっちに来る。
「お、何……うわぁ、結構純度高いアダマンタイトなのに、折れるか?」
「あぁ、ガルベージのオヤジさんに注文して取り寄せた、高級品使ったんだっけ。そんな物こいつに持たせたのぉ?無駄でしょぉ」
いや、それ絶対ダマされてる。ありえないだろ、剣が折れるとか。
「えー、でもそれなら、普通折れることは無いんじゃー」
でも、パッキリ折れてる。根元から。
「ああ、修復に結構時間かかりそう。これ無駄に溶融温度高いから、俺でも時間かかるんだけどなあ。タングステンといい勝負ってレベルだぞ?これだけ硬くて熱に強い金属、守り刀にするにはちょうどいいくらいじゃないかと思ったんだけどなあ」
何を言いたいんだ、こいつ。偽物つかまされていたくせに。
「とりあえず、代わりの剣を使うとしようか。それとも、曲刀の方が……」
「曲刀ってなんかダサいじゃん!剣じゃないとダメだろ!」
なんでこの辺分からないかな、こいつらは。
「お前、剣道家がそれを言うか。日本刀だって、どっちかっていえば曲刀の部類だぞ?」
「何だよそれ、偽物つかまされてたやつが言うか?だいたい刀や剣が折れるなんて非常識だよ。金属はそんなに簡単に折れませんんんん!」
「はあ、非常識はどっちだよ。岡っ引きの持つ十手とか知らないのか?琉球唐手のサイだってそうだけど、あれらは刀剣を折るための道具だ。挟み込んでパッキリ折るためのね。
……ん?マジか、イフリータさん」
何か精霊と話し始めた?何を……
「ユウタ、お前知らずに十手みたいな使い方で、自分の剣折ってたらしいぞ?ダントンの剣の鍔に引っ掛けて鍔迫り合いをしようとして挟み込んだらしい。俺の精霊さん見てたとよ」
「……はあああ?!じゃあ何?!ぼくのせいだってのかよ!ありえないだろ!なんでそうなるんだよおおーー!」
まわりからなんでか溜息が一気に出てきた。悪いのはぼくじゃないだろ?!偽物を掴まされたこいつだろ、絶対!
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――うわぁ、これはちょっと厳しいねぇ――
だね。結構な自信作だったんだが。
綺麗に折れてるあたり、ダントンと競り合おうとした位置が悪かったのは、間違いないんだろうな。でも、エストックは刺突用だって何度も言ってたはずなんだけど。
ロングソードと勘違いしてるし、ロングソードも、剣道みたいに大振りじゃないんだが。しかも、変に鍔迫り合いなんてしない方がいいんだがな。
――冒険者だからね。相手は人間じゃなくて、魔物なんだし――
鍔迫り合いなんかは、俺は避けるために、受け流すけどね。じゃないと、集団戦なら後ろから攻撃してくださいって言ってるようなものじゃないか。
タイマンだけ想定してればいいなんて考えは、それこそ怠慢だよ。それに受け流せれば、そのまま踏み込んで、首切ったりできるし。
――散々ゴブリンに囲まれてたもんねぇ。大抵爆発で殺してきたけど――
昼に剣を預かってその後勉強、そして夜に武器の修復を行っている訳だけど、俺が修復するってのに、こいつは礼も謝罪もなく寝ている。こいつが来てから、師匠と風呂だベッドだを共にする事は無くなったけど、代わりにこいつの面倒を見る必要があるのが何とも……
――あたしから見ても、こいつは無理だわ。魔法もそうだけど、剣と刀の区別がつかないとか、常識外れもいいとこでしょ。第一、踏み込みをするとき、凄いへっぴり腰じゃない?あれはちょっとねぇ――
こういう時だけ饒舌イフリータさん、流石です。
――誰が言ってるんだか。説教大好きなくせに――
はて、何のことやら。
ともあれ、こいつの剣はこのままじゃ、打ち合いに耐えきることが不可能であることは確実だ。一応、守り刀としての役割で持たせたのだから、耐えてくれないと意味がない。
が、しかしだ。こいつの体格から考えて、このまま太く、つまり重くするのじゃ無理がある。刀身を短くしようとは思うけど、それだけじゃ不安だね。
――はー、好きだねぇ。人の役に立つのがそんなにいい?――
役に立つものじゃなきゃ、商品じゃない。アダマンタイトの剣の金額は推定10ガル、金貨の小山ができる代物って言われたんだ。一応、王族に頼まれた商品の試作2号なんだから。
――で、1号は廃棄、3号はトンファで4号はどうするの?――
現在思案中。とにかく、2号の耐久性を上げて、最小限の殺傷能力をつける。先端は薄く、根本は太く、だ。実際に斬るのは先端のみであるのは、東洋西洋変わりない。もっと細かい事言えば、居合道では、根元を首に当ててこすって斬るような動きもあるんだがね。
――そうねぇ。その動きなら斬れなくはないかもしれないけど、懐に入るのが難しくない?――
それが技術なんじゃないか。そして、その技術には剣道家は通じていない。同じ全剣連の者であってもね。
彼の剣聖曰く、足を片方だけ前に出して歩くのは、よちよち歩きだそうだし。自然に足を組み替える居合と違うんだけど、そのよちよちを一生懸命にやってるこいつじゃ、斬る動きで自分の脚もそのうち斬るね。逆袈裟とか覚えれば確実だろう。
――どうするの、その絶望的な状態――
自爆して覚えてもらうしかないさ。でなければ、諦めるかだ。俺としては、諦める方が確実にいいと思うけどね。
――でもこいつ、あの禿と同じ根性だよ?――
そうだよな。自分で考えていることが、必ず正しい前提で考えている。こういうヤツ、日本でもけっこういたんだよな。ケンジもそうだったのかな?
――でも、なんでこいつ、こんな冒険者と剣にこだわるのかな――
アレだろ。最初、勇者召喚と勘違いしていたじゃん?自分が、選ばれた最強の存在なんだって、思いたいんだ。分かるには分るんだけどね。
――同じだったとか?――
俺は最強に選ばれたいとかじゃないけどね。第一課の捜査官とか、ちょっと特殊な世界のキャラクターとかのヒーローに憧れるのはあるけど、自分だったら町のお巡りさんくらいが、ちょうどいいなあくらい。実際に、なろうとしてなれなかったのは残念だけど。
それでも、誰しも持つ憧れじゃないか。選ばれた存在。女性なら、姫だの貴族だの。
――そんなもんかなぁ――
普通の奴なら、なれない存在だからね。なりたい奴はいくらでもいる。誰かに見て欲しいって感情がすごい強い人は、こんなものがやたらに欲しくもなるんだよ。
――じゃあ、あいつは誰に見て欲しいって考えるの?――
さあ?もしかしたら、地球に忘れてきた家族とか。家庭環境が放置気味だったから、認証欲求が高まっていたとか?或いは、誰よりも愛されるのが当然ってくらいに優遇されていたからとか。だから全ての人に自分を認めさせなきゃ納得できない人?
――神の一族になったあんたが羨ましいとか――
そこは詳しく話していないと思ったが。でもチートって言われるもの持ってるのは事実だな。大精霊とか。
――あんたも大概だけどねぇ――
なんにしても、今夜は長そうだな……
精霊のぼやき
――アイツ、どこまで弱々しいの?希望していた剣、未だに持ち上げるだけで、フラついてるじゃない――
アイツ、剣道だろ?竹刀は確か500グラムだから、1.5キロの剣は重すぎるってことだ。アダマンタイトじゃなければ、半分の重さなんだが。疲れてくればそうなるだろ。そもそも斬るのに特化させるなら曲刀の方がいいし、剣で斬るのにしても、剣の造りを考えないとだし。まあ、あれでも斬れない訳じゃないけど。
――アイツ、武器を変えた方がいいんじゃない?――




