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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
オカシナ イセカイ ファンタジア
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9話 犬の料理

前回:――弟子ですらなかった、自称ユーシャ。流石です――

 夕食の時間、ダントンは仕事があるからとか言って外に出た。たまにスラムの数か所で、アンデッドが出てるらしい。とか言っても、その内1か所は数年前から全く問題がなくなったみたいだけど。誰かが燃やしているらしい。誰かは判明していないって言ってたけど。話に聞いた気持ち悪いアンデッドを倒せるなら、仲間に誘えばいいのに。


「なんで冒険者になるのに、実技とか筆記の試験なんかがあるんだよ。意味が解らないけど。名前書くだけで充分だろ?」

 ぼくとしては、この問題の方が重要だ。大体の小説で冒険者っていったら名前書いてタグ貰って終わりじゃなかったか?


「あんたさぁ、そんな方法にしたらどうなると思ってんのぉ?冗談はほどほどにしてよねぇ」

 何が冗談なのか意味が解らない。


「身元確認のステータス。これと申告した名前が合わなかったりしたら通らないのはもちろんだけど、戦力になるかどうかを見るのも、どれくらい識字力があるかも重要なんだよ。クエスト内容や手配書の事もあるからね。

 一応、教会で教えてくれるから街の多くの人が文字を一応理解できるけど、周辺の村の人たちはそうじゃない。ああ、分かりやすいイメージなら、公務員の警察官だ」

 何の関係があるのか、全く分からない。クエストとか、手配書がなんだってんだよ?なんで警察?


「警察官は犯罪者はなれない。基本だね。徹底して過去を洗われる。そして、高卒でもなれるけど、エリートになるなら警察学校に行かなければいけない。ここで多くを学んでから、経験を積んで偉くなっていく、それが警察の仕組みだ。


 それに近い概念が冒険者にもある。まず、名前を詐称されてステータスも別人のものを出されたら、犯罪者でもなれてしまう。それこそ身分証明すらなく、名前だけだったら妨害するものすらない。手配書に人相書きがあっても、見た目をごまかされたら意味がないしね。幻覚や幻惑なんて言われるヤツ」


「はああ?そんなのできるわけないじゃん、出来る奴どこにいるんだよ」

 確かに悪い奴がいたら隠れるかもしれない。名前だけだったらウソを書けばいいだけだし。でも、そんなのできるはずもないし、普通しないだろ。


「ここにいる。イフリータさん隠蔽よろしく、からの、陽炎マジックー」

 なんか腰に巻いていた皮をかぶって、変なことを言ってオレンジの火に包まれ……別人になった。だれこれ。


「おおぉ!ヴァンくんが珍しく人に擬態したぁ!しかも何ぃ、ちゃっかりエルフなんかになっちゃってぇ。やっぱりアタシ達のこと好きなんじゃぁなぁいのぉ!」

 確かに、白い髪のエルフになってる。肌も白くてちょっと顔がかわいい系なのがむかつく。TSしてたら惚れたかもしれないけど。こいつに掘られるのはイヤだぞ。


「これは狙ったんじゃないんです。何故か自然とこうなるんです。その内調整掛けて他の姿も手に入れます」

「えー、でもこれも可愛いから、そのままでもいーと思うなー。ねー、エリナ?」

 エルフ2人がなんか興奮気味になってる。なんか親バカな母親を同時に見てる気分になる。うぜええ。


「とにかく、こうやって幻覚と隠ぺいをそれなりに高いレベルでかけると、高位の術師も騙せたりするから、犯罪の温床になることも有り得るんだよ。

 俺が悪意を持って、誰か犯罪組織の連中をここに呼び寄せるなんてこともできる訳だからね。誘惑や魅了なんて言われるものだって同じ。そういう類でも、筆跡とかは誤魔化し切れない。とにかく犯罪者の潜伏を防ぐ。それがまず1点。


 次に上がるのが、行く当てもなく金も無いヤツでも、仕事ができる場合。前世での基準なら、日払いのティッシュ配りとか、新聞配達。こういう仕事でも、真面目な奴は真面目だが、結構性格がおかしい奴らが来る事が多い。

 理由は簡単だ。『誰でも入れる場所でなければ働けないやつら』が来る。ああ、こんなのも居たな。今日の飯食う金が無いから、新聞の仕事をするフリをして面接して、飯だけ食って消える奴とかな?前世で1回、その現場見たことある。


 冒険者ってのもはみ出し者が多いが、そこでもルールはある。しかも、ルールを守れなければそいつも、周りも、命を奪われることに繋がる。連隊を組んだりした時なんかだな。

 前、ケンジの話ちょっとしたな?会ってないみたいだけど、あいつもそういう経験をしたんだ……仲間の命と、自分の脚を無くしてな。そういう悲劇をなるべく減らす目的で、実戦能力を測る。筆記テストは単なる学力ではなくて、心理テストのような面があるんだ。面接も必須だしな。


 それがなければ、昔のゴロツキだらけで犯罪者の温床になっている暗黒ギルドになってしまう。最悪、ギルド内でも殺し合いが始まるような事になる。そうならないように、ギルドの横の繋がりで予防線を張って情報収集をしながら問題をしらみつぶしに消していくためのテストなんだ」

 これ、一気に覚えろって言われても無理だよね?つまりどういうこと?


「そぉねぇ、ギルド追われても他の国に行けば平気なんて考えてるバカ、居たしねぇ。犯罪起こした奴を抱えたい奴なんていないのに」

 犯罪者対策?偽名とか、逃亡して登録し直しとか、出来ないようにするのか?


「名前だけでなれる仕事なら、隠れ蓑に使うのにいいだろうからね。それで生活できるなら、犯罪者万歳じゃないか?」

 知らない人も会話に入ってきたけど、そういうもんなのか?仕事とかやったことないからわからないけど。


「それだったら趣味で冒険者やる農民とかいそうだしな。自尊心の高い奴だったらいそうだぞ」

「趣味で狩人はいますけどね。俺みたいに生粋で狩人やりたい奴ってあまりいないのが意外。森歩いてて、魔物が寄ってくるのが問題ってのも、分かる気はするんだけど……」

「ヴァンくんが強いからそんな事言えるのー。みんなはそんな強い人ばっかりじゃないんだからー」

 なんか関係ない話になってきた。


「ん?おまえって狩人もやってるの?」

「お前、何度か言ってるだろ。ステータスの時とか。ギルドでは冒険者以外に、狩人と傭兵団を登録できるようになってるんだよ。傭兵は結構基準厳しいけどね」

 ……なんかバラバラじゃないか?何の関係があるんだ?


「狩人は連携の関係でやるようになったもの。冒険者は、傭兵が戦争のない時にする仕事だったものが、分裂してできたもの、って感じだったよね」

「そう、だから最初は傭兵から始まったわけ。で、その傭兵があちこちの国に移動しても生活していくのに荒事を請け負っていて、その中で一か所に住み着いたり、魔物を専門に請け負うようになって行ったのが始まりぃ」

「今じゃ魔物は冒険者、戦争や用心棒が傭兵でほとんど固定されちゃってるよねー」


「それじゃ、その傭兵ってどこにいるんだよ。ぼくは見たことないぞ?そいついるっていうなら教えろよ」

「そこ」

 ぼくの言葉に、ヴァンの奴、さっき話に割り込んできた人を指さした。こいつ傭兵かよ。よく見たら凄いガタイしてる。鎧とかは着てないけど、滅茶苦茶強そうだ。


「『月狼騎士団』団長、ダンテ、でよかったよね」

「おお!銀狼に覚えてもらえるなんて光栄だな!ハハハハ」


「よく言うよねぇ。ヴァンくんがこの街に居るって噂聞いて、スカウトできないかってこの街に来た人がさぁ。フェンリルの血筋を団員のほとんどが受けているからって欲深すぎなぁい?」

 どういう事だ?ああ、言いたいこといっぱいあるのに、単語が出てこない。


「そうは言っても、それがこの団の誇りであって信念なんでな!うちに来ないにしても、出来れば血を残してほしいものだ」

「却下します。狼は一匹を愛する者故」

 何カッコつけてんだよ。一匹狼気取って。バカじゃないのか?うぜええ。


「つまり、傭兵が始まりでどっかに定着した一団が冒険者として仕事をするようになったけど、犯罪者がたくさん来る。だからそいつらを寄せ付けないようにするためにテストとかを作った、って事?」

「バカなユータにしちゃ上出来じゃなぁい。誉めてやろうかぁ?」

 エリナさんが意地汚い嗤い方してる。キレイな顔なのになんでこんな顔になるんだろう。ていうか、バカってはっきり言われたよな、今。


「そろそろ俺、ヒョウ爺の所に行くための準備するね。師匠の所のキッチン使うよ」

「いいけどー、何するの?」

 ヒョウ爺って誰だ?ぼくは知らないぞ?


「ほら、明日週一のお使いでしょ?いつもの角煮とかさ。お使いのオマケだったけど、ちょっとくらいならいいかなって思って持って行ったら、何度も、何種類も作って欲しいとか言われてから、ずっと対価として要求されてるしね。最初、自分の手下にだけ渡してたなんて言ってたけど、孤児院に居る子供に食わせてたんだよ?どっちにも行き渡るようにするなら、ローストした肉とかがいいのかなあ……」


 角煮って言ったか、今?こいつそんなのもできるのかよ。そのまま犬は師匠の部屋に駆け出して行った。アイツ、料理人じゃないんだよな?なんで当たり前に料理とかしてんの?


「あぁ、角煮ねぇ。あれ結構おいしいからねぇ。お酒に何使うかでもちょっと違うみたいだし」

「エリナ、お酒だけじゃないでしょぉ?最初は塩だけだったのに、魚醤が手に入ってからそれも使って作ってるじゃない。匂いとかもハーブ使って結構工夫してるし」


 ハーブって使わないよね、日本の料理なんだから。そもそもこの世界に来て一回も米食ってないんだけど、あいつ我慢できるのか?元日本人だろ。ぼくはそろそろ我慢できなくなってきたんだけど。


――――――――――――――――――――――――――――


「米を食いたい、か……」

 翌日の勉強の最中に話をしたら、なんか悩み始めた。それに、勉強って話だったのに、こいつ今デッサンしてるってどういうことだ?


「お前、何でも前世のものがあると思うなよ?米がない異世界だって普通なんだ。仮にあったとしても、それはジャポニカ米じゃなく、タイ米やイタリア米である可能性が高いんだ。ジャポニカ米のルーツだかも、黒いコメだとかとも言うし。

 現実、元の世界でならSUSHIブームが来るまでジャポニカ米なんてローカルもいいとこ。むしろ奇異の目で見られていたかもわからんものだぞ」


「でも、日本の米を食いたいって気持ちわかるだろ?」

「ムゥ、今の俺の生活から肉を無くすと考えれば、同じことだものなあ。あ、エリナさん動いちゃダメ。右手もうちょい上」

 なんかよく分かんないポーズを師匠に取らせて指図してる。上手い訳じゃ無いけど。それはどうでもいいとして。


「とにかく米食いたいんだよ!その気持ちわかれよ!」

「あれだな、ドイツ人からソーセージ奪った時に出る禁断症状みたいなものがあるわけだ」

「そんなのあるかよ!ありえねえだろ!」

「あるんだよ。ドイツ人はチーズやソーセージなんかのドライフードをを食べなきゃ、飯を食った気にならないそうだ。しかし、米はない。米の代用になるものはあるんだが……」

 なんだよ、米の代わりならあるんじゃないか。


「モンスターをハントするゲームの中に出てくるあれだ。米虫。正確には卵なんだがな?それを茹でれば……」

「やめろよお前!なんで虫食う前提なんだよ!そんなもの食う奴がどこにいる?」

 一瞬、蝶の卵を思い出した。あれは食べたくない。


「ここにいる。実食してはいるんだ、他の国でだけどね。森の中で食えるものは何でも食うつもりでいたし。木の根についた何とかって蛾の魔物の幼虫とか」

 こいつが偏食でもみんながそうなわけじゃ


「あー、そういえばイナゴの大量発生で取ったイナゴ、ヴァンくん照り焼きとか言ってハチミツと魚醤塗って焼いて食べたねー。あれ意外とおいしかったかもー」

 あれ、食べてる?でも日本人だったら普通食べるわけが……


「日本人だってイナゴや蜂の子食うんだから、あれくらいの料理、普通だよ。それにイナゴなんて、大量発生したら麦や米が全滅する災害だろ?それで藤原何とかさんは神様に持ち上げられたらしいけど。食が滞る状態で四の五の言うくらいなら、イナゴ食って減らしちまえって話だよ。うん、これでどう?」


 なんか絵の方に集まって良い悪いって騒いでるけど、この人たち、マジで虫食うの?日本人食わないって思ってたけど、食ってたの?虫食ってたら日本人じゃないだろ?ありえねえだろ……セミは聞いたことある気がするけど。


「とりあえず、出来るか分からないけど、策はある。ただ味の方はあまり期待するなよ?なんちゃってジャポニカ米だし、そういう食感になるって確証はないから」


――――――――――――――――――――――――――――


 絵を描いた後、料理し始めたこいつが作るのは、なんなのか。エルフの2人も不思議そうな顔をしていたけど……


「パスタ・リゾーニ。米のようなカタチのパスタだ。今回はちょっとニョッキみたいに芋を混ぜてみた。ジャガイモとかじゃなくて、この世界特有の練り芋、まあ、サトイモや山芋のような粘っこい芋だ。割合を小麦大目にしたけど、試験的に作っただけだから調整は必要だろうね。今回は形を整えて茹でただけだ。ちょっと黄色いが、米っぽくはなってるだろう」

「パスタかよ……麺じゃないんだぞ、米は。それに麺なのに長くないじゃないか」

「麺が長いモノってのは、日本人の思い込みだぞ?麺って漢字は中国では小麦を練ったモノって意味だし、マカロニだってパスタだってのは知ってるんじゃないか?お前の想像したのはスパゲッティーニとかの辺りだろう」


 実際に目の前に出された皿には、米っぽいようなものが乗っている。なんかこれじゃない感がすごいけど。だって形が小さい米に似せたんだろうけど、米の匂いがしない。食べられないよ、こんなの。


「あー、でもこの少しねっとりした感じがいつものパスタの奴と違うねー。これはこれでありかもー?」

 なんか先に、1人食べてた。


「どっちにしても、郷に入っては郷に従えだ。この地の食生活に馴染めないのは自己中の道化だぞ?発展のために流用するのはいいと思うけど。どうしても食べたいなら、工夫するしかないだろ。

 これでだめなら、虫になる。これのレシピは教えるけど、ずっとは作ってやれないぞ?」

「はああ?なんでだよう!作ればいいじゃないか!なんでダメなんだよう!」

 作れるんだったらわがまま言うなよ!


「あんたねぇ、ヴァンくんは料理人じゃないの。狩りをしながら冒険者をやってるんだから。作ってるの見てたでしょぉ。すっごく時間かけて手間暇かけて、ようやくこれを作ってくれたんだから感謝くらいしなさいよぉ。ホント失礼なやつぅ」

 なんでここまで言われるんだ?一応、一口入れてみるけど……


「食感は米っぽいけど、やっぱり匂いがな。これは米虫の方が米だな……あとは、チャーハンとかにすれば、まあ何とかごまかせるってくらいか?一応厨房に教えておくけどさ」


 本当にぎりぎり米のような気がするくらいだ。これで感謝って……できないよな。こいつ、これを厨房に教えてどうするんだよ?


精霊のぼやき

――イナゴとか、あまり食べないでよねぇ――

 やっぱり気持ち悪いとかですか?

――悪質活性マナが多いの、気持ち悪い――

 不味いってことですね、普段から食べる気無いしどうでもいいでしょ。

――やれやれ……――

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