8話 試験
前回:――我が儘放題、でも結論は現状とあまり変わらず。意味ないねぇ――
「え、マダぼく、弟子じゃなかったの?」
ようやく剣を教えてもらえるって思った時には、知らなかったけど、今朝ダントンと話をする時になってようやく教えてもらった。
冒険者の登録はまだしていなかったとかって、なんでだよ。ギルドのロビーだと広いから会話しやすいけど、それでここに呼び出されたわけじゃないみたいだ。
「あー、つまりだな。言葉を覚えてから気が変わったりしても、冒険者に一度なってしまうと普通の社会から切り離されるような状態になるから、一般人として生活できないんだ」
意味が解らない。一体何なんだ冒険者って。モンスター倒すだけだし、強ければ偉くなれるんじゃないのか?
「ただモンスターを倒すだけじゃ終わらないものだからな。一般市民からの要請にだって応えなきゃいけないし、社会貢献できないといけない。守秘義務だってある場合があるし、いろいろ面倒なんだよ」
だとしても、なんでそれを黙っていたんだろう。
「僕は最強の冒険者にナルんだ。どんなモノだって平気だよ。なのになんで黙ってたのさ」
特にあの犬。
「命に係わるんだ、そんな簡単に決められるものじゃないだろう。
栄光に夢見るものは多いけど、栄光を得ても金が貰えるとは限らない。金になる貴族絡みの仕事は少なからず汚い。金にならない仕事がほとんどだし、辛い思いもする。
それで逃げ出す者も多いんだが、そういうヤツがまた違った問題を起こすこともあるんだ。結果、民から信用されず、奴隷とそう変わらない見方をする奴も多い。意味わかるか?」
それってどういうこと?意味がちょっと解らない。
「あー、ヴァンは『ぶらっくきぎょう』っていえば、おおよそ伝わると言っていたが。金ない、汚い、休みがないって言えば、大体合ってるしな」
……え、ブラック企業なわけ?冒険者ギルドはブラック企業?
「ソレって話が違くない?ダッテ……」
「いや、実際に違わないんだ。下位の場合、休もうものなら生活するのに収入が足りなくなることがある。それでちょっとづつ簡単な仕事をやったりするんだが、体が汚れるものも、精神的に疲れるものも実際にあるしな。
自分の命は自己責任だが、他人の命を無意味に奪えば相応の責任を負う。責任を全うできない暴力的な行動や考えをする者はギルドからも弾かれて奴隷になることもあるくらいだ」
それってもう奴隷になったようなもんじゃないか?ずっと安い賃金で働かせて、重い責任をかけるのに、自分の命は責任持ってもらえないって事?
「それでも少なからず努力して、みんな頑張って仕事をこなしているんだ。社会貢献できないものじゃ、仕事として成り立たないし。誰かを助けるものじゃ無ければ誰も信用しないだろう。
とにかく安い金で危険でしかない仕事をするのが、この仕事なんだよ」
なんだよそれ。思っていたのと違う。もっと皆の憧れでカッコよくて強いようなヤツだと思ってた。
「デモ、登録なら名前書いてソレで終わりとかでしょ?」
「……いや、そこも間違っているだろうとヴァンが言っていたな。名前だけじゃなく、書くべき書類は山ほどあるし、実務技能試験がある。その試験をパスできない場合、冒険者になれない」
じゃあ、あいつもパスしてるのか?あいつまだ子供で、4年くらいやってるって言ってたから、余計に無理なんじゃないか?小さい子供だからスルーされたとか?
「ヴァンはパスしてるのか気になってそうだから言っておくが、あいつは独りで森で生きながら、冒険者の追跡をかいくぐって、2年潜伏し続けた。
サバイバル技能と戦闘、妨害行動で撹乱し続けながら逃げていた事を見込まれてパスしている。だから試験を受けていないんだ」
ズルかよ…………森って、ぼくが召喚……じゃなくて転移してきたあの森か?
「ソレジャ、あの森で1人で暮らしていれば誰でもパスできるって事?」
それならぼくだって3日はいたんだし……
「いや、根拠になるだけの技能を示さないと無理だ。それに住んでるだけでは意味ないしな」
じゃあなんであいつはパスなんだよ。ズルじゃん、やっぱ。
「とにかく、今の時点でユータは、試験をパスできる力を持っていない。未だにやるなと言っているメンとやらをやっているじゃないか。あれじゃ踏み込みが浅くて、兜に遮られて弾かれかねん。
それにお前の持っているのは、刺突向けのロングソードなんだから。斬るにしても、あんな大振りはしないものだ」
ありえないだろ。ロングソードに刺突用も斬撃用もなくないかな?剣は切るものだろう。バカじゃないか。
「デモ、今のぼくでも充分やれるだろ!絶対にぼくは最強にナレるんだから間違いないんだ!」
そう叫んで周りから視線を浴びる。なんでおかしなやつを見る目をしているのかわからない。何なんだこいつら、ぼくの事なめすぎじゃないか?
「どちらにしても、試験官の見方次第だ。俺やリサ、ロイはお前と関わっているから別の奴が試験官をやる。これから練兵場に行って、そこにいるドワーフの戦士と勝負してきてくれ。相手はハンマー使いだが、加減はしてくれるだろう。怪我の無いようにな」
ハンマーだろうが槍だろうが、剣道10年やってきたぼくがそんなに簡単に負けるはずがない。変な顔をしているダントンから顔を逸らして、独りで練兵場に向かうと、そこに背の小さい人が2人いた。
「おお、ユウタ遅いな。この人が試験官の『散岳の鉄槌』って呼ばれてるドワーフのゲイル爺さんだ。今日のお前の試験官だから」
犬がいた。何でいるんだよ?
「ケッ!試験の為に山からおろされて来たってのに、なんだってんだ。こんなガキ、どう見たって素人もいいとこじゃねぇか。これで剣を振る?槍にしとけ。そっちのが簡単で強えぇぞ」
ドワーフとか言いながら顎先しか髭がない。持ってるハンマーは自分の体くらいの大きさなのはなんなんだ?何で持てるんだ?
「おい、ワン公。おめえ相手してやれ。こいつじゃ手加減しても複雑骨折で死んじまわあ」
「え、いいの?そういう事ってあまりないでしょ?」
「狩人2等級が何言ってやがんでぇ。お前も試験官になれる立ち位置なんだからやっとけ。何事も経験だ」
……は?子供が試験官できるってどういうこと?
「確かに狩人で2等級に上がったし、冒険者も3等級の仮免持ってるけど……まあ、あまり変わらないんだからいいか?」
いや、良くないだろ。何だよ、等級って。
「んじゃ、やれ。おい餓鬼!おめえは好きな武器使っていいぞ!ワン公は基本、魔法無し、剣以外でやったれ」
「上等じゃないか!剣も魔法も使わないで勝てると思うなよ!剣道3倍段だからな!」
これくらい常識だろ。素手じゃ勝てないんだよ。最強の武道なんだ!ぼくは壁際にあった武器庫のロングソードを引き抜いた。
……竹刀の倍くらい重いのに、幅が、指2本分くらいしかない。細すぎないか?……一応、切れそうだけど。
「ふーん、剣以外、魔法無し、ね。じゃ、これは?」
空間からまた何か取り出した。
「ほう?こりゃあ格闘用武器か。これくれえならいいんじゃねえか?世の中の厳しさを教えてやれ」
トンファーみたいだ。武器なしじゃないの……?
「なんだよそれ、卑怯だぞ!」
「卑怯者がよく言うよ。剣道3倍段?ならこっちは拳銃持ってきてもいいよな?素手に対して武器を使わなきゃ勝てない卑怯者の言葉が、3倍段なんだから。
トンファって何だと思う?中国拳法や琉球唐手で使われる、対武器用の打撃武器だ。古流の唐手は、これやサイで武器を落としてから、素手で殴ったりしたんだよ。あ、サイは動物じゃないぞ。トライデントの先っぽだけみたいな武器だ。
相手を無力化するための武器、それがこれなんだ。殺し屋好みの刀剣とは違って、平和主義向けの武器だ。ちょうどいいだろ。んじゃ、講釈は以上でいいよな?あ、俺の戦い爺さんも知ってるだろ?跳躍だけは使うから」
「あぁ、それは好きにしやがれ。剣士でも鎧に刻印は普通に使ってるもんだしな」
……全然追い付けない。何言ってたんだ?空手は武器持たないよね?意味が解らない。それにぼくは鎧まだ着てないのに。
構えたアイツに近づいて、初めて木剣ではなくてロングソードを人に向け……何となく持ってたけど、これって本物?ちょっと手が震えてきた……
「ほいじゃ、始め!」
「え、ちょっとま」
「イイイイイイイイイイイイイヤアアアハアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ちょっと止めようとした瞬間、犬は一瞬で距離を詰めてぼくの剣を弾き飛ばし手を打って脚であごを跳ね上げ水落を蹴り上げて空中に挙げた後そのまま胸を蹴ってトンファで2回顎を叩いてムーンサルトみたいに回りながら2回蹴り上げて更に空中でどうやってるのか跳ねて膝蹴り回し蹴り後ろ回し蹴りトンファで顎打って回し蹴りして2回殴って前蹴り体をひねって踵落とししてから体を捻って地面に踏みつぶしてきた。
最後に頭を踏んで、
「イイイヤアアハアアアア!20コンボお!」
……何してくれてんだよ、こいつ。
「おいおい、そこまでボコボコにしてやらなくてもいいんじゃねえか?そいつの弱さは、おめえが一番見てんじゃなかったのかよ」
「自分が最強だとか言って邪魔した上に、散々馬鹿にしてきていたしね。今だってほとんどが、剣先よりずっと遅い蹴りなのに、ろくに対応できてないじゃないか。
前世でも剣道やってたヤツ、結構見ているけど、ここまで反応できないヤツは初めてだよ。右足挙げた時点で抑えにかかれば、バランス崩して逆襲できるのに。最も、そうなったら対策があるし簡単にやられないけどね」
……バカにしやがって…………ていうか、20コンボって格ゲーじゃないんだから。いつぼくのターンきたんだよう。
「まあ、このガキ弱っちいのは間違いねえんだから、あまりイジメてやんな。どうせゴブリン相手にして死ぬだろうしよぉ」
「はああ!?なんでそうだってわかるんだよ!ゴブリン如きで死ぬわけないだろ?!」
「ゴブリンの方が、お前よりスペック高いぞ?俺はほとんど、狼スペックと精霊魔法で乗り切ったけど。初めてゴブリン相手にした時よりずっと、お前は隙だらけに見える」
なんだよそれ。最弱キャラみたいじゃないか。ゴブリンにはさすがに負けないだろ?
「とりあえず、空中に浮いたたぁいえ、剣の振りより遅い蹴りをあんだけ受けてんだ。おめえさんは失格だ。出直せ。以上、試験終わり。さあ、飯でも食ってけえるか」
「ありがと、爺さん。世話掛けた礼に今度、ハムでも持ってくなあ」
なんかもう、終わったことになってる……ぼくのターン、いつ来るんだ?一生来ないとか言わないよな?
「ちょっと待って、もう一度やらせて!今度は剣使ってもいいから!」
ぼくが立ち上がって剣を持ち上げると、ちょっと嫌そうなドワーフと、変な顔の犬が目に入る。
「おめえさん……」
「ああ、いいよ。一瞬で終わらせるから」
ドワーフが何か言おうとしたのを、犬が止めた。剣のシロウトが何を言ってるんだよ?できるわけないだろ。あいつが珍しく空間から剣を取り出した。そして、鞘を抜かないままこちらに向けた。
「後悔するなよ、メエェン!」
「ほっ」
面、と見せかけて、金的狙ったんだけど、膝げりを合わせられて、すねが割れたかと思うくらい痛くなった。
「イデエエ!っく、卑怯だぞ!」
何とか剣を向けたまま、足をかかえて叫んだら、
「ほい……ィイヤァ!」
剣を回しながら引っ掻けてぼくの手から剣を奪った犬は、そのまま回転して、蹴りを水落に突き立てた。ぼくはそのまま飛ばされて、気を失った。
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結局アイツの攻撃が元で、2週間の間怪我の療養になった。その間暇だから勉強はしていたけど、
「あんたさぁ、ここで勉強するのはいいけどぉ、邪魔しないでくれないかなぁ」
エルフ2人の教えを受けているこいつに嫌がらせをしている。一応授業を受ける、っていう形で来ているけど手元にあるチョークを投げつけてる。
「だって、こいつのせいで試験落ちたんだし。しょうがないじゃん」
「それは関係ないと思うなー」
2人は気にしているらしいけど、本人は、またトンファー出してる。
「これを曲げるとこっちに流れが悪くなる、けど、こっちに流すと……ダメか、作り直しだな。そしたら……」
なんでチョーク投げつけてるのに、無視してるんだろう。普通ずっとやってたら怒るんじゃないか?
「そしたらこっちが……ああ、これでつながるね。そしてこれでこうしたら……」
全然気にしてないみたいだ。その代わり、チョーク投げるごとに頭の上の光がなんか揺れが激しくなっているような?なんかうぜえ。集中して投げてやる。
「ヴァンくん、言ってもいいんだよぉ?流石にうっとおしいでしょぉ」
「それにこうしてこれでこうなって、うん、これで完成でいいかな。で、エリナさん何?」
ようやく終わった。だったら……
「ああああっちゃああああ!」
いきなり頭が燃えた。もうちょっとすごい嫌がらせしてやろうとしたのに……その仕返しに、これはないだろ!
「お、どうしたの、イフリータさん。え、バカを焼いた?これはかまってちゃんだから、相手にすればつけあがるんだよ。無視するのが上策。火を消してやって」
なんだこれ。今消えたけど、すっごく熱かった。ありえないくらい。床を転がっても消えなかったし。
「あー、あの村のお婆さんにやった毛根焼くってやつ?ダメだよー」
なにそれ。どうなるっていうんだ?
「でぇ。それは何?どういうアーティファクトなのぉ?見たことない棒だけど」
こいつ、またトンファー弄ってたけど、何をやってるんだ?アーティファクトってなんだよ。
「ああ、簡単に説明すると、これは打撃用武器で護身用具になるんだよ。コンパクトでリーチ変化させながら強い打撃を打てる。使い方次第で、結構凶悪な武器にもなる。
それを元にして、重力変化とか電撃とかを流せるようにした、強化版だ。殴る瞬間重くなるように出来てる。他にも仕込みを考えているんだけど、これで一度完成かな?」
当たる瞬間重くなるって、どんな武器だよ。そんな武器さっきぼくで実験してたのかよ?そんなので殴りまくるとか、チートじゃないか。
「じゃあ、それぼくにくれよ」
「今度はクレクレかよ。お前、剣だろ?打撃格闘に変更するならいいけど、お前は関係ないだろ。その代わり、こっちの試作品やるよ。アダマンタイトだから、そこら辺の武器より折れにくいはずだ」
そんなこと言って、なんか黄色い先細りの剣を渡してきた。細い割にちょっと分厚い気がする。それでも、意外と切れそうだ。
「言っとくけど、それ刺突剣のパラシュ、エストックの1種だから。突きを意識しろよ?ダントンが頭抱えてたぞ。斬撃ばっかり気にして、突きをしないって」
「はああ?剣は切るものだろ?」
それが常識だよな?
「剣は突くもの。刀が斬るもの。これ、日本の刑法や中国語由来の認識な?
もともと鋼とかが作れなかった頃には焼き入れが甘くて分厚く、斧のような使い方になりがちだったものだし。鋼が流通するようになってからもプレートメイルなんかの影響もあって、鎧の隙間を突いたり、馬の上から突き刺したりするように作られたんだ。
刀は剣よりも歴史も古くて、しかも結果的に剣より重視される形になってる。日本刀だって、刀の部類なんだしね。見た目だと、両刃の方が格好がつくからっていう理由で創作では両刃の剣ばかりで、刀の描写は少ないけどね。
剣でも斬れない訳じゃ無いけど、斬ることより突く方をメインに作られているのが現実さ。斬れないんじゃなく、斬る必要がないって事らしい。鎧や鎖帷子のせいで、斬れないからね。貫くのは簡単なんだけど。
しかも大抵は幅が狭い。特殊なものじゃない限りね。ロングソードの刃を握って、キヨン……鍔で相手の頭を殴るなんて戦い方の記述すらあるらしいからね。ポンメル……柄頭で鼻頭ら殴るのも当たり前だ。
つまり現実の戦いは、漫画じゃないんだってこと。お前の戦い方は漫画に偏りすぎ。腕の動きもフェンシング並みに小さくした方がいい。てこの原理の様にして斬るんだよ。それでも斬れるからね」
……なんだそれ。剣は切るものじゃなかったとでも言いたいのかよ。剣で刃をにぎって殴るとかなんだよ?剣道でもカチアゲとかあるけどさ。ぼくは信じないぞ。そもそもこいつより僕の方が剣に詳しいに決まってるだろ、剣道やってたんだから。
「両方やりたいなら、サーベルやレイピアにしな。細剣なら狭いところで無理なく振れる。日本刀とか曲刀のような動きじゃないしね。ダガーより動きづらいけど、レイピアはダガーも使う、二刀流だし」
何様だよ、こいつ。ぼくより年下のくせに。知ったかぶって偉そうに。
「そんなの、ダサいじゃないか。ぼくは絶対やらないぞ!」
「本当にこいつ、めんどくさいんだけどぉ」
「エリナ、あまり言っちゃダメ」
聞こえてるから!何なんだよ、ありえないだろ!
精霊のぼやき
――卑怯だぞ!ってアイツが卑怯じゃない?――
そんなもんでしょ、自己中心的な馬鹿って。チート持ちが、チート無しにボコられて、「卑怯者ー!」なんて、ネットゲームのネタでちょいちょい見るし。ドイツの剣術とかでも、実際金的はあるらしいから、普通だけどね。
――で、膝げりを当てるのは……?――
あれはカット。防御の基礎技だよ?構えも金的を防ぐ狙いで唐手のサンチンにしてたんだし。格闘技の基本、蹴りは膝寄りのスネで防ぐ。常識ですよ、常識。知らんヤツが闘いを語るとか、クサハエル。




