7話 懇願
前回:――薬というチート使い、喋れるようになりました……あるじゃん、誰でも使えるチート――
「で、自称最強をやめる代わりに、最強になることを諦めないから、リサさんとエリナさんに弟子にして貰うって事?」
仕事から帰ってきたあいつに話をした。ギルドの酒場の隅のテーブルだ。油を使ったランプが揺れている。
「ソウ。ダメかな?」
流石に今まで面倒見ていたんだから、変わらないんじゃないかと思うんだけど。
「2人は、基本的に弟子を受け入れないし、そもそもが特殊任務の事もあるだろ。守秘義務を守れるなんて言ったところで、赴いたら死を覚悟しないといけないんだ。直接ではなく、間接的であったら、ある程度は教えたりできるだろうけど」
首をひねりながら彼は一息で話した。どういう事だろう、守秘義務なんて、しゃべらなければいいだけじゃないのか?
「えぇ、ヴァンくん、何言ってんのぉ?教えるもなにも、こいつ魔力ゼロじゃぁん。魔法は無理でしょぉ。剣にしたって、ちょっと難しくなぁい?ダントンが教え続けるならわかるけどさぁ」
「だから、ダントン講師継続なら、多少は面倒見れるって意味。もちろん、なるべくダントンが見ることになるけど、少しくらいはさ。
リサさん以上に魔法の才能が厳しいとしても、自分で多少何か、生活魔法とかはできるようになっておくべきでしょ?属性適性オール0だったとはいえさ。
ダントンは基本街から離れない人だから、外の仕事をこっちで見るようなさ」
「確かにー。彼にたまに魔法剣とか、アレンジした魔法格闘の技で話している恩もあるしねー」
なんか、あいつが説得してくれている。やっぱり自分1人じゃ寂しい……この2人がいつも一緒にいるんだっけ。寂しいって事はないか。というか、移動するのにダッコされていたりしたらしいから、完全に子ども扱いじゃないか?ペットの方があってるかも。やっぱ犬じゃん。
「じゃぁ、ダントンに話して、もうちょっと面倒見るよう言ってみるわぁ」
金髪の人、エリナさんだっけ。随分ダラダラ話してる。……めんどくさいのか?
「ついでに、旅行に連れて行くのもありじゃない?この世界の旅行してみた上で言うと、前世の感覚が甘く思えてくる気がするから。世界の事何も知らないよりは、ある程度理解しておいた方がいいでしょ」
「ヴァンくんが言うならいいけどー、どうなのかなー?」
ブロンドの人、リサさん?初めて見たときデブかと思ったけど、滅茶苦茶胸がデカくて、来てる服が緩いだけだったらしい。こっちも目を向けていられそうにない。こんな人たちとこいつは風呂入ったり一緒に寝たり、ありえないだろそれ…………コロシタイ。
「ソウじゃなくてさー、トニカク、2人に教えて欲しいんだけど、ダメなの?なんでダメなんだよぉ」
ぼくとしては、剣士としてもものすごく強い上に説明がうまいって言うリサさんに教えてもらえれば最強に近づくと思うし、魔法だって大賢者なら何とかしてくれると思うから頼んでいるんだけど。
「さっき言った通り、基本的に弟子をとらないんだ。俺は特殊事例って感じ。森で狙われていたって、話したことあったろ。その経緯でさ」
よく分からないけど、自分だけ特別みたいなこと言ってる。特別だからって偉そうに。何様だよ、犬の癖に。
「トニカク教えてくれよお、ワガママ言わないからさあ」
「もう既に我儘になってるの、解って言ってるぅ?」
なんでそうなるのか意味がわからない。お願いするのがワガママなはずないのに。
「話してても埒明かないね。俺は伝えるだけ伝えたから、後は2人に判断をお願いするよ。因みにダントンには話はしてある。彼は、できる事はするけど全部は見切れないってさ」
「仕事あるからねー。それは仕方ないかなー?」
そう言えば、仕事って彼は何をやっているんだろう。
「アンデッド専門の聖騎士だからなあ。普通の人が斬ったところで、首繋がるし、腹綿引づって歩くアンデッドを、片端から瞬殺できるあの人は貴重だよねえ」
アンデッドってそんなの、どこに出るんだよ。まさか、この街にいないよな?
「そぉねぇ、夜の墓場にいきなり出てくるんだから、普通の冒険者じゃ無理だよねぇ。アタシやヴァンくんならともかく、リサは苦戦しそうだし。並の魔法使いじゃ、死体を焼切るまで襲われるんだから、相手にできないよねぇ」
「え、ドウいうこと?!」
つい叫んじゃった。意味が解らない。どんなゾンビとかだよ。
「パニック映画は分かるな?標的が見つかるまでダラダラ歩いて、標的を見つけたらダッシュするゾンビ。あれが襲ってくる。
たまに特殊なのもいるけど、普通のを相手にしても余裕を持てるとしたら、このギルドで3人。ロイ、エリナさん、ダントンだけだ」
「そこにヴァンくんも入るでしょぉ。キノコみたいな雲を作って、一瞬で焼ききるじゃなぁい。どっちにしても、真面目にあんなのを相手にするのは、普通の冒険者なら自殺行為ね」
ホラー映画のあれみたいな奴らか。しかも走る奴ってパニック系でもちょっと凶悪なイメージあるけど……
「噛まれたら、ゾンビになるとかじゃあないぞ?生きながらに、ハラワタ食われるんだ。力は弱めだけど、刻んでも死なないし、落とした身体がくっつくし、脳みそぶっ潰しても意味がない。首飛んでも、生きてる。殺す方法は、ひき潰すか焼ききるか、聖騎士の特殊攻撃か、の3択だ。ダントンのような存在は大きい街には必ずいるんだよ」
「食うって、頭無くてドウやって食うんだよ?口がないジャン」
頭飛んでも襲ってくるって、普通のゾンビ映画じゃないよな?襲えないよな……
「いや、奴ら、実際は細菌の魔物だから。死体を媒介にして、なるべく鮮度のいい肉に移ろうとするだけ。体液が目に入ったりしたら、その時点ですぐに対処しないと感染して、体の内部を生きたまま」
「ヤメテ、分かったから。それ以上は、イイ」
そんなの相手にするとか気持ち悪い。考えたくないんだけど。ていうか、ゾンビってそういうのだっけ?確かにパニック映画だけでも結構な種類あるけど、それってぜんぜん違うんじゃないかな。
「聖術式使える人って、結構少ないからねー。そういう人だから感謝しないとー。ユータくん、結構凄い人に教えてもらっていたんだよー?」
なんかそんな感じはしなかったけど、そうだったの?でも聖騎士、パラディンって事ならそうだよな。
「ソシタラ、ダントンは、回復魔法とか使えるって事ナノか……」
「アンタ、何言ってんのぉ?使えるわけないでしょぉ。瘴気消したり、結界張ったりはできるけどぉ。どんな風に考えてたのぉ?」
え?おかしくないか、それ。だって回復っていえば……
「エリナさん、俺の前世、つまり地球って場所でのイメージじゃ、自分にとって都合のいいモノを、白魔法とか聖魔法なんて呼んだんだ。実際に魔法はないのにね。
見方を変えると、白魔法は他者にとって黒魔法、なんて訴える人もいたらしいけど。古い人の考えで、聖なるものは体を回復してくれるってイメージでしかないんだよ」
「チョット待って、どういうコト?意味がワカらない」
普通そうでしょ?ていうかそれ以外ありえないじゃないか?
「この世界で傷を治す回復魔法は、『時』属性なんだ。極論すると、ポーション飲んだら傷がいきなり塞がるなんて、見ようによっては、回復が高速で行われているか、時間が巻き戻るように見えるだろ?
でも時魔法で、時間巻き戻しはできないんだって。時間の進みは遅くできるけどね。早送りもできるけど、停止とか切り取りとか都合のいいモノも無理。
つまり、回復機能を早送りしているのが、回復魔法なんだよ。しかも、人体は複雑に作られているせいもあって、あまり無闇に掛けられない。体内に含まれているマナがある分、魔力の通りも悪くなりやすい。
瘴気とかは悪性活性したマナで、それを制御できる属性が聖属性なんだ。因みに瘴気を扱う属性は、悪属性ね。どっちも光と闇の亜種の属性って事らしい」
一気に説明されたけど、つまり怪我したら普通に医者にかからなきゃいけないのかな?だから前に黒い奴にぼこぼこにされた時、誰も回復してくれなかったのか?でも使えるならかけてくれても、
「回復魔法かけると、寿命が縮むし、体が老化するし、がん細胞が一気に増えて活性化、がんになることもあるみたいだ。
回復を活性化するっていうのは、細胞分裂を活性化するって事でもあるからね、がん細胞まで活性化する。聞いたことないか、がん細胞は、毎日千個作られてるって?それを抑えきれなくなるんだそうだ。
因みに毒とかを受けていた場合、ヘタに回復魔法を使うと、細胞が破裂する。最悪全身の細胞が風船になってパン!」
なんだそれ、意味あるのかよ?気持ち悪い想像しちゃったじゃないか。回復魔法の意味ってなんなんだよう。
「途中わかんない単語入ったけどぉ、ヴァンくんが言ったことホントだからねぇ。それで無理に難しい仕事に入って、酷い怪我して、回復したらもっと酷い結果になるのは嫌でしょぉ?その面倒事の1つを、ダントンが引き受けているのぉ」
ぼくの知ってるファンタジーと違う。そんなの意味ないじゃん。エリクサーで全回復とか、そういうの無いわけ?
「しかも、師匠達も異常と言える力を持っているし、それに見合う面倒ごとを片付けているんだ。半端なやつが弟子になってついて行った結果、挽肉になって帰ってくるんじゃ意味ないからね。弟子を取らない理由の1つだよ」
じゃあ、こいつはなんで普通に……普通じゃなかったな。キノコ雲作ってたし。あれってなんなんだ?チートだよね?
「それでも……出来るだけ強くなりたいんだ。最強を目指したいんだよ。それは悪い事じゃないだろ?」
僕の言葉に、3人は首を傾げた。悩んではいるみたいだけど、ダメな理由ってなんだよ。
「まぁ、ちょっとくらいなら面倒見ようかぁ……って言っても、アンタたまに文法とかめちゃくちゃだし、文字とかもちゃんと覚えなきゃだめよぉ」
「エリナ、自分が教えるんじゃないからって、適当に考えてない?教えるの、ダントンと私なんだからね……」
そう言えば気になる。犬はいったいどれだけの技が使えるんだろう。2人に教えられているんだし、何年か弟子だっていうんだし、危険な仕事にも行ってるんだよな?
「おまえって今、戦いの技術ってどのくらいあるんだよ。キノコ雲とか、ぼくもできるならやりたいんだけど」
「お前、核爆弾になりたい発言だぞ、それ?
俺は精霊を宿して作った特殊刻印での格闘型術式がメイン、それで出したのが、あの雲だ。
あとは基本的に、全属性の上位魔法を習得、サブウエポンにサーベル。今、術式は特殊なタイプの音響とか、アーティファクト作成用の刻印とかを勉強中だ。
良ければやろうか、スタンロッドって感じの道具だけど、魔力なくても打てるタイプだし」
結構戦えるって事で、良いのかな?ていうか、核爆弾になるって、自分が核爆弾かよ?でもそれならもっと広い場所焼け野原にしていていいよな?ウソついてどうするんだよ。
考えているとこいつは空間からなんかの棒を取り出した。ただの金属の棒に、スイッチがついてる。それをぼくに渡してきた。これが、なんだって?
「ヴァンくん、いいのぉ?これぇ……」
「いいさ、別に。俺が使う為に作ったものじゃないし。これくらいの護身具を、サブウエポンにするのは悪くは無いでしょ」
なんか話しているけど、とりあえずこのボタンを押せば何かあるのか?押してみよう。
「ああ、それについてだけど……」
「びゃあああああ!」
なんか握っていたところから全身が痺れていって、そのまま体が動かなくなった。なんなんだこれ?
「あっ、あうっ」
「…………不用意に押すな。打ち棒を握って、グリップを握らないって、なんだよ。警棒って感じの見た目なんだから、何となく察しろよな」
そんなこといっても、説明されなきゃわからないじゃないか?
「分からないものを、説明受けずに考えなしに触るもんじゃないだろお?」
こいつ、考えていたことが分かったのか?喋っていないのに会話が成立しているような気がする。
「あぁ、やっぱりこの手の奴にはあまり渡しちゃダメじゃなぁい?ちゃんと理解しないまま使っていたんじゃぁ、その内自爆するでしょぉ」
有り得なくない?
「うーん、ありそうで怖いかもねー」
ひどくない?
「言ってもしょうがないでしょ、もう自爆した後なんだから」
え、これもぼくのせいなの?僕は悪くないよね?
精霊のぼやき
――時を止めるのは理屈上できるよ?――
でも意味無いんだったよな。空間が止まる、つまり空気も止まるから呼吸できない、動けない。
――自分の周りを動かせるようにしないと服も動かない。触れてるものだけ動く指定だと、靴下履いてれば、靴が動かない――
触れてるものの2つ先までの指定にしても、壁に触れた途端、建物内のヒトが何故か動く。そしてその術式1つで1分につき寿命10年分無駄にする。……ダレトク?




