6話 置いてきぼり
前回:――全く、アタシのハーレム計画無視して、餓鬼の相手なんてやってられないでしょ――
「緊急の仕事が入った。上位者しか行けない特殊任務だから、お前は来れない。もし来たら、命がないと思え。
ここにいればダントンの教えを受けられる。仮にも聖騎士。真面目、誠実、堅実なやつだ。仕事の場所がかなり遠いから1か月はかかるので、彼の指示のもと言葉の勉強と剣の指南を受けろ。
以上 がんばれ」
朝起きたらこれだけ日本語で書かれた手紙が置かれていた。しかも字が汚い。あの犬、なんで勝手に出ていくんだよ。
手紙を苛立ちながら見ていたら、ドアがノックされて開いた。白い鎧を着た人が立っていて、手招きしてる。この人が
『ウー、ダントン』
自分の顔を指をさして名前を言った。そんなの分かってるに決まってるだろ。何言ってんだ、こいつ。バカじゃないのか?そいつに連れられて、食事をして、剣の練習をしないでまた単語の勉強をし始めた。……こいつもばかげた力を持ってるのか?
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3週間くらいたった。あいつはまだ帰ってきてないけどさ。
少しづつ、単語が分かるようになってきて、まわりの人がどんなことをしているのか、わかるようになってきた。
……でも単語だけで会話って成り立つのかよ?全然できないじゃないか。覚えてるのはちょっとのモノとかだけだし。アイツは帰ってくるまで本当に時間かかりそうだった。ずっと返って来ない。この寂しい部屋にぼく1人だけだ。
白い鎧の奴が来るだけで、他に誰が来るわけじゃない。なんでこんな生活しなきゃいけないんだ?剣の練習は3日に1回。なのに、文字の勉強はいつまでも続いてる。しかも幼稚園児がやるような奴。絵本を見せて、復唱したり、ちいさい黒板に文字書いたり。バカみたいじゃないか。
ぼくはもう、大人なんだぞ?こんなことをする意味が解らない。勉強は学生がやる物で大人になったらしないだろ。
今日だって、勉強ばっかりで部屋の中から出ていない。他の部屋に連れていこうとしないけど、ぼくだって行きたくもない。行くのは風呂トイレと、地下の食堂みたいなところだけだし。あそこは訳分からないこと叫んで笑ってる奴らが多くてイヤだ。
『ユータ。アギル、エゴ、ズール』
夕日を指さして、腕を口に向けたり話したり。飯にするっていうのか?何だっていうんだ、バカにして。そのくらい何となくわかるだろ?夕方になったら飯食べるのくらい常識じゃないのか?
もう、こんな生活がずっと続いてる。いい加減に剣の練習をしっかりしたい。ずっと言葉ばっかりだ。もうすぐ1か月じゃないか?あいついい加減戻ってこないのか?早く戻って来いよ、ぼくがいないと寂しいくせに。何もできないくせに。
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「ハア、やっと帰ってきた。問題起こしてないよナ?マア、ヤったことは大体聞いてきたけど、俺がいない方が大人しくナイか?」
こいつようやく帰ってきた。本当に1か月かかったけど、何をしていたんだ?
「お前どこ行ってたんだようありえないだろ旅して遊んでいただけの奴が何をのんきな顔をしてぼくを悪者にしてるんだようおまえ自分が悪いとか思えないのかよ馬鹿じゃないのありえないだろどれだけ迷惑かけてると思っているんだよ恥ずかしくないのか中身大人とか言ってたのにやってるのただのガキのわがままじゃないかそれなのに一体何を考えているんだようお前は意味わかんないよどれだけ1人にしたと思っているんだよ寂しくて1人じゃお前は何もできないくせに馬鹿じゃないのかどうなんだよ何か言ってみろ!」
「ブーメラン乙」
「はああ!?なんでそうなるんだよおーーー!」
どう考えてもぼくの事じゃないだろう!
「まず仕事だと言ったろ?しかも守秘義務が敷かれるモノだ。仕事内容は決して話せナイし、聞いたらそいつの命がナイかもしれない内容ナンでね」
「そんな仕事あるのかよ!」
「バウンティハント、って知ってるか?」
いきなり威嚇するような顔になって聞き返してきた。今までなんか緩い顔をしていたのに。何だよこいつ。ちょ、ちょっとワ怖い顔できるじゃないか、それでぼぼくがが怖がるとおもてているのかよよ?
「そそんな顔をしててて、怖ががると……」
「人をコロス仕事も、冒険者の仕事の1つだゾ?賞金首、場合によッテは猟奇殺人犯を、捕まエルか殺す。お前がヤりたがってる、冒険者の仕事の1つだ。しかもソレは、ヒトの社会の闇を相手にする事だ。大概は騎士の仕事ではアルけど、協力要請が来るコトもあるんでネ」
そんな仕事、するわけないじゃないか。ありえないだろう、馬鹿じゃないのか?いったい誰がそんな仕事したがると思ってるんだよ。誰かがやるだろう。
「そういう仕事やってきたってのかよ、それで守秘義務って調子乗って」
「調子乗っテルのはお前ダロ。俺はソモソモ独りの状態じゃないのに、お前ハ俺の事を、独りで寂しクテ何もできないとか、言ってたヨナ?お前は状況的に、独りだがナ?」
「なんだよ、それ。大体僕は……」
「大体、部屋からほとんど出ナイで、ダントンに迷惑かけて、剣の練習に誘ってミレば1人で面打ちしかしナイ、注意しても払いノケテずっと縦に振り続けるダケ。
ほんのちょっと話したと思ったらシカメ面して勝手に1人で歩きだしテ、部屋に引き籠ル。ソレこそ寂しい状態を自分で作ってるじゃナイか」
ぼくは、悪く
「オマエが悪い。ぼくは悪くナイなんて、通じナイよ」
「なんで!だって周りが」
「周りが考えナイんじゃなく、お前が見ていナイだけだろ。ダントンがどれcry困っていタカ、お前は分からないダロウし興味もナイんだろ?」
あるわけないもん。だって、
「だって、自分さえヨければイイから、悪いのは相手なんだって思いタイ。ヨク俺に突っかかってくるヤツらの騙る考え、ド直球だナ。
誰だって悪い面を持っているのニ、自分にはナイと思い込みたいカラ相手に擦り付けている、善人面してな。これ以上ヤってると、俺も相手はしてやらナイぞ?俺はお前の奴隷じゃナイからナ」
「ぼくがいつそんな事言ったよう、ぼくの奴隷じゃないのは知ってるもん!お前はぼくのために何してくれるんだよ!」
「お前を助けたガ、これ以上、何かをしてヤる必要がないんダヨ。親でもナイし、義務もナイ。
お前自身ハ、何しテル?不満をぶつけて、騒いでるダケじゃナイのか。金を浪費してイルだけの邪魔ものを、養う理由はナイ。
それとも、お前はそんなに自分じゃ何もできナイのか?デキるなら、自分で行動しろヨ。今の状態なら、何とか意思疎通できルンだから、通常通り5等級から始めらレルぞ?
訓練などしナイで、自分1人で生きていきナ」
「なんで僕1人なんだよ、お前は自分なら1人で生きられると思っているのか?バカじゃ……」
「俺は生きらレル。5歳から2年間、森で独りで生きてキタ。命を狙われながラ。
そのチカラを使って今、週1で狩りをしてイル。狩りで得た獲物を、ギルド経由で流通に流して金を得ている。
冒険者のカセギも含めて、月に最低でも金貨10枚、多ければ300枚。それcry当たり前に稼ぎ出シテ、生活で必要なのはせいぜい、1枚だ」
何をウソついてるんだ?それに本当にそうだったら、その金くれたっていいじゃん。普通有り得ないだろ。
「っ!そんなにあるんだったら!」
「ぼくを養えカ、何の理由で?寄生虫は嫌いダネ。
居るだけで騒いで、うっとおしいダケ、何ができるワケでもなく、偉そうなことを言って、いざとなったラ逃げるダケじゃなく、足を引っ張る。
その癖、言う事は、最強?……ハハハハハ!空っぽの自尊心ダナ。養われるダケのペットが、最強か?」
こいつ、何を言ってるんだ。空っぽなのは自分なのに。人に擦り付けてきやがって。
「自分で働くでもナク、料理できるワケでもなく、誰かに頼って、何かを恵んでもらって、お前は何をシタ?それを日本でナンていうか、知ってるか?
ニート、だよ。それで褒められルのは、貴族だけだ。頑張って貴族目指しな。あ、冒険者は貴族になれないカラ、やめるコトだ。そういうヒエラルキーから切り離されているカラね。特別に王家から与えられナイ限りは、貴族にはなれないよ。どうやってなるのかは、知らないけどネ」
……なんか言い返せよ、ぼく。だって、
「黙って泣いてイテも変わらナイよ。アタっても変わらない。社会に出たら悔しい事の連続だし、嫌にナルことバカリなんだ。
学生なんて気楽なもんさ。夏休みトカずっと遊んでいられるし。塾がどうのナンて言って、忙しくしてもまだイイさ。
仕事もピンキリだケド、日本でもココでも、社会に出レバ厳しい事ばかりダヨ。そういうヒト達に生かされてキタのに気づいていないママ、わがママ言ってる学生だったお前は、これから社会人とシテ、生きていかなきゃいけナイんだ。
今、何がデキルのか分からないからって、アタりたいのは分かるさ。恐らく全てのヒトが通るハズの、当たり前の感情なんだ。学生上がりの新人は、どうしたって周りが解らナイ状態で、何とか生き抜こうとスルものさ。
イキナリこんな異世界に放り込まれて、不安にナルなってのが無理ナンだし、教会で一度、落ち着いてもらおうとシタのに……暴れて、逃げて、ヨリによって社会の汚物呼ばわりさえサレる仕事の、冒険者になろうとシテいるんだ。
その不安を知らナイのは、ミンナじゃない。今までのお前ナンだ。分からないモノに、怯えて逃げて、結果余計に首を絞めてイルのに、理解できずにイルのが、今のお前だよ」
なんで、こいつはそんなことわかるんだよ。なんで当たり前のように話せるんだよ。だって、ぼくより年下なのに。自分だって経験ないのに。なんでそんな意味わかんない事言ってられるんだよ。
「俺は前世で42年、こっちで12年。その内で半分以上の年数を、社会人とシテ、生きてきてイルんだ。タダの学生だったお前とは違う。
シカも今は、随分とこの社会の事を覚えテいる。お前の感ジル、不安や苦しさも解るし、それ以上の苦しみを受けてイルヒトだって見てきた。話せるようになったら事務員のケンジと話してミロ。アイツも前には、お前と同じように、不安だらけで壊れていたんだカラ。
さあ、少し落ち着いタラ、飯にしよう。師匠が、お前の学習の進捗を、実際に目にしたいソウだ。あと師匠が、お前用に少し勉強が捗るヨウに、珍しい錬金薬を用意シテくれた。俺は使ったことナイけど、リサさんが言うには、一滴で凄く苦いが、覚えがスッゴクよくなるそうダ。
……お前は気づいてナイだけで、たくさんのヒトに守られてるんダ。それを受け入れるナラ、自分の脚で来い。
アア、これを言ったコトがなかったカラ言わなければナ。『精霊は嘘が嫌いダカラ、精霊術師は嘘をつけない』。だから俺は、今マデ一言も嘘を言っていナイぞ。現実は酷いが、ヒトの心はよく見れば優しいモノが結構アルもんだ。
……説教しても、意味ナイな。校長先生の話みタイだ。誰も聞かないモノだよナ」
これだけ言って、あいつはドアを閉めて出て行った。
……ぼくのことを想って行動していたって、ウソだろ。じゃあ、なんであんなに……ブーメラン乙、か。よく考えたら、寂しいの自分じゃん。今だって、手が震えてる。いつの間にかにじんだ目で、自分の手を見て、ちょっとだけ理解した。アイツが言ってた事、結構聞き流していたけど、ちゃんと考えていたのか?
師匠の部屋、来いって言ってたっけ。行けば何か、変わるのか?言葉はちょっとしか覚えていないけど。なんかの薬っていってたかな。
……もう、独りぼっちは、嫌だな。
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それから2か月。毎日薬を使ってちょっとづつ言葉を覚えた。アイツの言っていた薬っていうのを貰ってから、使ってやっている。キャップについてる棒から薬を一滴口にたらすと、物凄い苦いけど確かに頭がすっきりして、覚えやすい気がする。
アイツはまた、仕事とか言って師匠と一緒にどこかへ行って、ボクのことを置いてった。またなんか特別な仕事へ行くって言っていたけど、何の仕事かは知らない。ダントンが意外と話が通じるから、あいつとは違って寂しいってほどじゃない。
「ヴァンの奴、また『スフィア』の仕事らしいな。ここ数年で起きるおかしな問題が、あいつしか解決できないってのは歯がゆいな」
修練場で休憩していると話しかけられた。ダントンの言葉が、結構理解できるようになってきた。最近は毎日、剣の練習するようになってきたけど、たまにこの人も仕事があってどこかに出かけている。
「スフィアってナニ?よく分からないけど」
「特別なアーティファクトだ。迷子にさせる魔術が使われていて、魔物以外は普通に近づけない。アイツは、においを追うから近づけるがな。他の方法も試みられたが、全て駄目だ。同じ獣人なら……などとも言われているが、どうだろうな?」
だいたい、こんなことを言ったみたいだ。ちょっと不安だけど。日本にいた外国人って、こんな気分なのかな。英語喋れないし、海外に行ったことないからよく分からないけど。
「おまえ、最近話すの上手くなったから、その内仕事することができるようになるだろう。ソロじゃ無理だが、どうする?」
できればちゃんと戦えるようになってからじゃないかな?こっちの世界に来た時は混乱していたけど、やっぱりいきなりは無理だと思うし。
「デキレバ魔法とかも覚えたい。それに、チートはヤッパリあると思うんだ」
じゃなきゃ、変に強いあの犬、ヴァンの強さが説明できない。しかもあいつ、あれで最強とか笑えるなんて言ってやがる。
「確か、魔力1桁だったろ?生活魔法以外、多分無理だ。チートは、何かわからんが」
首を傾げられた。なんでだよ、チートあるだろ。あの犬はチート使ってるんじゃないのか?
精霊のぼやき
――記憶力をあげる薬って、どんなもんなの?――
ヒトのカイバとか、記憶に司る脳のチカラを5倍に引き上げてしまう、錬金術の秘薬……
――じゃなくて、味の方――
気にしてはいけない。と言うより、大分グルメに毒されてきたかい、精霊さん?




