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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
師弟の狂詩曲
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2章 エピローグ

前回:――白金陥落。さぁ、ハーレム増やし……て行かない気?狩りの方が嬉しいってどうなんだか――

 ギルドマスターの執務室。

 卓上の蜜蝋でできた蝋燭の火が揺れ、夕日と共にテーブルに置かれた書類に光を当てている。そう時間かからず闇に包まれるから、蝋燭の火だけで書類を見ることになるだろう。


「ふむ、それではやはり、今回の事も誰かが意図的に狙って行った、と?」

 アタシの前に座っている、小人のハーフエルフは耳を少し動かし、訝しげに書類を読み上げている。

 書類に書かれている内容は今回のオーク討伐の経緯、そして、球体アーティファクトの現時点で解る限りの詳細。


「はい。あの球体、仮称で『スフィア』となっていますが……あれは、王国や魔術ギルドの研究所でも、解析しきれていません。

 しかし、どちらも予想として挙げている内容が、転移装置であること、です。

 実際、廃坑内部の中心地に翼竜(ワイバーン)が住み着いていたんですが、どうにもおかしいんです。ヤツが入ってきたような出入り口は見当たらず、一部の空間を無理やり広げて、閉じ込められていたようでした。

 親がいた訳でもなく、オークをエサにしていたにしても、あんな場所で育つのは辻褄が合いません。更には隔離を狙ったトラップまでありました。

 また、オークについても種類が複数いました。まるでいくつかの巣を無理やりくっつけたか、同時に同じ場所を別々の種が巣として共有したような状態です。本来なら縄張り争いになるはずですが……」


 魔物だからと言っても、別に人ばかり襲うわけじゃない。魔物同士での縄張り争いなんて、しょっちゅう起きる。中にはそれで、街道や街に追いやられてくるものもいる。それで討伐、なんてかわいそうなことになるけど、やらなきゃ被害出るしねぇ。


「しかし、そうなると一体誰が、何の狙いで、こんなことを起こしていると思うかね? まさか今回のこれは、翼竜(ワイバーン)を育てたい、などと言うかわいらしい物じゃないだろう」


 かわいいのかな、充分怖い事な気がするけど?……他の可能性にしてみれば、かわいいでいいのかもしれない。


「ゴブリンの件からまだ時間が経っていないのに、もう1つ同じモノがあったのであれば、やはり何か狙いはあると思います。

 私としては、王国が結果的に統治することになった『ハルス国領土』を奪い返す連中、或いは隣国の内、2つの強国が狙った可能性があると思います」


 多分、後者。それだったら、絶対嫌なことになる。でも、それなら読めない術式も、説明できそうな気がする。


「なるほど。しかし内乱や戦争が起こるのは避けたいね。これから巣の調査や討伐には、なるべく迅速に動いてもらおう。それに、彼の教育も早めに、ね」


 今回のような事例がまた起こる場合。彼の鼻で探す、これが今は一番確実。

 あとは今回のように、地図を作って出処をおおよそで見つけ、周囲を隊列で囲い、漏れないようにする。できることはこれしかないだろうし。他に良い策があればいいんだけど……?


「しかし、君は隣国の内2つ、といったが、残りの1国はどうして外れたんだね? 帝国、魔国、共和国の3つが隣国のはずだが」


「共和国リィンはいつでも内乱の可能性がありますし、他の2国からちょっかいを出されてもいます。対して王国はちょっかいは出しておらず、静観の姿勢ですから。あちら側としては、下手に刺激して敵を増やしたくないでしょう」


 アタシの予想に頷いているマスターは、およそ同じ考えだったんじゃないかな。それでも安心材料にはならないけど。


 帝国ヨルハイムと魔国ゲヘナ。過去の戦争や侵略で、力をつけて、大きくなった国。大陸の乱世を生き残った国だけに、力は強い。

 対して共和国リィンは弱小国家同士が協定で連携し、1つの国となったもの。

 王国は力はあるけど、自ら攻めようとはせず、隣国の攻撃を受けた時に結果的に勝利し、肥大化した、待ちの戦略をする国……逆に言えば、弱腰なんだけど。


 4ヶ国は戦力が拮抗している。この勢力図に何か変化があれば、また戦争が起きることになる。

 経済でも兵力でも拮抗している状態で、睨み合いが今のところ30年くらい続いている状態。できればこのまま、っていう訳にもいかないのかなぁ?


「ハルス国の残党、と予想していたが、その手のものはほとんどが『首輪付き』のはずだろう?それでも、あり得ると思うかね」


「国の中でも中心となっていた者たちの内で、行方の知れない者が複数います。王国でも調査はしているようですが、これと言って足跡が見つからないとのことでして。

 旧首都の跡地でも、行き場を無くした人たちが生活しているんですけど、現在人口が徐々に増えつつあるそうです」


 まるで、そこに生活していた人が戻ってきたような様相を持ち始めた、と噂にはなっている。確認はしていないけど、まさか本当に戻るはずがないよね。当時の人はほとんど亡くなっているはずだし。


「ふむ、追加調査が必要だね。よろしい。こちらでも手を回しておくとしよう。ところで、あの子の教育は順調かね?」

 やはり、マスターは彼を『活かしたい』らしい。できれば危険は遠ざけたい気持ちもあるけど、彼の才能を考えれば仕方のない事かも。


「手順通り教育は進めています。けど、もともと持ち合わせた力もやはり強いです。

 大精霊の力と、獣人の身体能力で、たった1人で翼竜(ワイバーン)を撹乱し、ブレスを吸い取りながらオークを巻き添えにして、傷を負わせていました。

 教えている魔術についてはまだ初級の途中、あと空間収納(ストレージ)を覚えたばかり、といったところです。

 剣はまだ少々不安があるので、持たせてはいないのですが……リサの考え通りなら、1年もすればそれなりには、剣だけでも戦えるのではないかと」


 普通なら、まだ言葉を学んでいる最中だと思うんだけどねぇ。彼の技能にあった、「高速学習」なんて言う解らない技能。あれのせいなのかなぁ?


「既に空間収納(ストレージ)を覚えた挙句、翼竜(ワイバーン)に傷を負わせて、しかも()()()()()()()()()、か。

 確かに世に聴く、英雄の血筋らしい力だ。流石、12英雄は違う、という事だね。

 隣の大陸のあるギルドでも、魔法を使わず空を飛び、暴風と落雷、雹で暴れている血筋のものもいたね。彼もこれくらい異常な強さだった。

 あの子の話でまた、吟遊詩人が騒ぎそうだ」


 よく言う。そう言っている自身もまた、英雄の血筋が混ざっている影響で、手を叩くだけで魔法を打ち消すのだから。しかもそれは純粋ではなく、ハーフとしての力。ここまで異常な力を持つ者たちは、そういるものじゃないのに。

 あの子にしても、火の適性と精霊の力であっという間に、石や鉄を自由自在に形を変えてしまう。普通なら何時間もかかるものでも、関係なく。異常な力を持つ『英雄』なだけはあるのかもね。


「これで教育が届いた頃には、彼はこのギルドの切り札になるかもしれないね。そうなれば、仮に戦争が起こったとしても、安泰かな。フフフフ」


 本当にこの、狸親父みたいになる瞬間は、呆れる。

 それに、彼が離れていくという考えを持たないのか、疑問に思う。


 随分うれしそうに笑っているマスターは、何の企みがあって、彼を手駒にしたいと考えているんだろう。どっちにしても、ここで話せることは、もうこれくらいじゃないかな。


「それでは、これで失礼させていただきます」

「ああ、待ちたまえ。彼は、狩りをやりたがっているのだったね? それはどうする」


 立ち上がり、一礼をして部屋を出ようとしたら、リサと話を進めたばかりの事を聞かれた。

 今まで我慢させていたし、彼は充分に力を持っている。しかも、これからまだ強くなるはず。


 だから……

「あぁ、今度登録しようかなぁなんて思っています。

 あの子、今まで窮屈なところに押し込めていた感じですし、ストレスもあるかなぁ……なんて。

 狩りに当てる時間を持てれば、彼もきっと、より勉学に打ち込めるんじゃないかと思いますし」

 あたしの言葉に、マスターは目を細めた。


「ちょっと言い訳がましいね。はっきりと、彼にやらせたいことを言えばよい物を。

 大方君は、彼に狩りをさせてその獲物を、料理してくれるのを期待しているんだろう?」


 ……はい、そうです。だって、結構おいしい料理作るし。たまにエールに合う料理とか、出てくるとつい飲んじゃうし。

 でも、その心は読まないでいいんじゃないかなぁ?


「フフフ、分かった、準備しておこう。しかし彼の周りも随分にぎやかになったね。

 ギルドの者達も、随分と彼を良く思い始めたようだし。噂を聞きつけてやって来た傭兵たちも、この街に当面滞在するつもりのようだし。良い傾向だ」


 ……傭兵?彼に何の関係があるんだろう。厄介なことにならなければいいけど。

 笑うマスターに一礼して、アタシは部屋を後にした。


 さぁ、この後は何食べようかな?部屋に残してきた2人は随分険悪なムードになってたけど、そろそろ仲直りしたころじゃないかな。2人とも大人なんだし。

 ……変なことになってないといいんだけどぉ、どうだろう?


――――――――――――――――――――――――――――


「ふーん、ヴァンたいへんだったんだねー」


 現在、シカの解体中。旅の前に寄って行こうという話になって、アリスの村に来ている。

 当然ながら、食事を自前で用意する。で、解体している俺の下に来たアリスに、これまでの経緯を話した。その感想が、これか。うん、子供だからしょうがない。

 ……いつのまにか、呼び捨てにされている。


 オークの討伐が終わり、帰ってきた後に一悶着。その後、ソーリとロビンの葬式が行われ、参列後にここへ来た。

 リサさんは薬で落ち着いてはいるが、一緒にいると少し興奮気味な反応するので、少し離れている。

 余談、マリーは冒険者継続、DQNは内勤として1から始めることとなった。怪我したヒトあるあるの1つだ。


「ワイバーンってー、おっきーいでしょ。こわくなかったの?」

 うわー、子供のする舌足らずな話し方。久しぶりな感じだー。イヤサレル。


――実際、この3ヶ月大人の女性に囲まれっぱなしだったからねぇ。簡単にシッポ振っちゃって、いやらしぃ――

 イフリータさん、嫉妬しちゃだめですよ? シッポ振ったのはお腹をなでられて起きた条件反射ですので。


――鼻の下伸ばしてなかったぁ?――

 俺の鼻は前に伸びてますし、下にどうやって伸ばせばよいのやら? 

 俺はむしろ、独りで居た方が安心できるんです……アリスはどっか行く気配ないけど。まあ、妥協しよう。


「大きいけど、逃げないとどうなるかわかんなかったしね。怖いって気持ちが全く無いんじゃないんだよ。怖いからこそ、テンション上げて叫ぶんだ。イヤッハアって」

――変な言い訳ぇ――

「ふーん、変なのー」

「そうです、私が変な狼です。悪かったな、畜生!」

 俺の反応にくすくす笑い始めるアリス。うん、当面そのまま笑っていていいけど、スカート捲れてるから直しなさいね。


 俺は3ヶ月ぶりに狩りをして得た獲物の処理を終えた。やはり狩りは血が滾る。そう言えば、1つ忘れていたことがある。


「おお、また随分デカいのを仕留めたんだな」

 牛舎のオッサン、ちょうどいい。あの事を聞いてみよう。


「前に盗られた奴ほどじゃないよ。ところで、前回収しなかった、角。高く売れたかい?」

「え、何を言ってるんだ(やべえこのガキ)売るわけないだろう(なんでそれわかるんだ)?」


「うん、分かる理由を教えてあげるとね、前世の世界でも骨とう品になっていたし、もしかしたらって思ってはいたんだ。

 ただ、オークションとかで値をつけるとなると、どうなるか分からないしね。

 それにあれを買う人がいるかどうか、分からなかったから無視したんだけど。

 ギルドに似たような角の飾りとかあってさ、それなら、売るかもなあ……なんて」


 嘘は通じない、と言っただろう。バカだこいつ。いや、サルだ。何も考えてない、こいつ。ジワジワ汗が出始めているし、目も泳いでいるけど、大丈夫か?良ければ、頭に風穴開けて、すっきりさせてやろうか?


「あー、いや、分かった。その金額を渡すってのは無しにして欲しい。

 本当に今、金に困っているんだよ、この村。代わりと言っちゃなんだが、ミルクやチーズで我慢してくれないか」

「ほう、物々交換の要領ですか。それだったら、ここにあるシカ肉も、ちょっと交換に乗せましょうかね?

 脚とかは処理して届けたい場所があるので、渡せる部位は……」

「ちょっと待て、それでいいのか?」

 彼の言葉に出した交渉。何かおかしかったか?


――あんたが怒ると思ってたんでしょ?それくらい分かるじゃない――

 いや、それは分かるが、その上で色々交渉をしていくのが、おかしいとは俺は思えない。俺は略奪者じゃないんだよ?


「相応の物資か金額、前言ったでしょ? 物事には対価があるんだから。額に見合う分の物資貰えるならそれでいいし、これからも交渉材料になるなら、狩りで得た肉をそちらに流すこともやぶさかじゃない。

 狩りは仕留めてから食すまでが一連の流れ。それなら、商売もその過程に含まれていいのでは?」

 わざとらしく肩を竦めて、当たり前のことを言う。

 ……当たり前だよね? 商売の原型は、物々交換だし。

――なんかそれは違う気がする――


「しかし、いいのか?折角獲ったのに」

 イフリータさん、間違ってはいないと俺は思うよ。だって、狩りをした肉を売る人だって、それを調理して食べさせる料理人だっているんだから。

 それに、野菜とかミルクは、料理に重要だ。


「まだワイバーン肉が残ってるしね。このシカは流通に流すために狩り獲った命だ。その先がどこかは、俺の匙加減さ」

「んー、ワイバーンのおにく?……おいしいの、それ。たべてみたい!」


 今まで横で首を傾げていたアリスが、割り込んできた。まあ、代わりにオッサンが固まってるから、会話できないだろうしいいかな?何に固まったのか知らないし、興味ないけど。


「んじゃ、ワイバーンの首のロースト肉、食ってみる?」

 言いながら空間収納(ストレージ)から肉を入れた箱を出した。

 エリナさんの言う通り、癖はあった。焼いただけだと少しきつい。しかし特定のハーブと一緒に調理すると、これが思いの他、癖になる味に変わる。

 つまり、ドラゴンステーキはまずい。しかし調理の仕方で化ける。これが真理だ。師匠2人も目からうろこ、といった表情だったので間違いない。

 今度は、それを見たアリスがはしゃぎだし、おっさんは顔を真っ青にしていた。


――やっぱりあんた、化け物だわぁ――

 ちょっと待って、イフリータさん。そんなふうに思ってたんですか?

 俺は師匠とは違うんだ!普通なんだよ!主にどの辺が化け物なのかな? かわいいオオカミ君ですよ?

「化け物かよ、この犬……」

「俺は普通だし、オオカミだあああああああ!」


 俺のこの声は、どこまで届くのだろう。木霊して、儚げに散っていった。


精霊のぼやき

――なるほど、つぎはこの幼児を――

 狙いません。

――あんたの意思に関わらず――

 あり得ません。

――大丈夫、あんたが嫌がってもそう――

 なりません。

――お腹をガッツリ掴んでるのに?――

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