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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
師弟の狂詩曲
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23話 3人の戦場

前回:――オークの巣の入口でホットドッグ。あんたやっぱり危機感無いねぇ。え、豚ってなに?オークは魔物エルフでしょ?――

 休憩は順番にローテーション通りに回っている。と言っても、私たちは組み込まれなかった。ヴァンくんの事を気にしていたのかもしれない。

 ちょっと、申し訳ないかなー?私はやるって言ったんだけど、断られちゃったし。


「この廃坑、結構奥深くまで続いていたそうです。……私のお婆さんは、炊事担当で中へ入った事ないそうですが……ぅ……」


 地図を作っていた魔術師の彼女も、随分辛そうにしている。ヴァンくんより症状ひどいみたい。個人差があるのかな。

 それでも、彼女が気になった事のおかげで、ここまでたどり着けたと思うし、感謝しなきゃ。

 多分、見つからない巣かもしれないって言ったのも、彼女だと思うし。


「大丈夫かぁ?酒飲んだみてえじゃねぇか」

 チームの接近戦闘員らしい人が肩を叩きながら声をかけているけど、彼女の様子は芳しくない。

「私、凄くお酒弱いから、飲まな……」

 気持ち悪さが限界なのかな。離れて、壁際でしゃがみこんじゃった。でもそれって、お酒に弱い人はふらついて、強い人は方向が変わるっていう事?知らない間にお酒に酔ってたのかな、飲んでないのに?


「お酒を飲んだ時と似たような症状を起こすっていう事ねぇ。実際、ヴァンくんはお酒の匂いだけで酔ってたし。それでふらついてたのかなぁ」

 逆にお酒に強すぎるエリナは、すぐ方向が変わってたけどね。何度向きを変えたか……その度に方向を変える私の身にもなって欲しいかなー。


 休憩も終わって、全員準備も整った。

 一度に全員入るのは難しいし、体調を悪くしている人がいるから、半分近くは残るみたい。地図を作ってくれたあの子も、居残り組になった。こっちは、外での戦闘を考えて装備はそのままみたい。


 対して、入る人たちは短い武器や刺突剣に変わっている。長弓を持っていた人も、短弓やクロスボウ、ダガーに変えている。これなら、狭くても充分戦える。


「じゃあ、入るね。いきなり襲われることもありうるから、警戒お願い。陽炎!」


 彼は真剣な眼差しで、術を展開して歩みだした。やっぱり先頭は彼だ。本当はここに残って欲しいんだけど、奥も深くて複雑そうだから、それに充分に広さがあるなら逃げられるだろうからと、中に入ることになった。ちょっと、やるせない気持ちになる。


「ヴァンくん、あまり離れないでね。私が守ってあげるから」

 あれは決意の言葉だと思うから、私も気持ちを引き締めて彼に伝え、普段は使わない盾を、私の空間収納(ストレージ)から取り出す。グレートシールドなんて、重いし振り回し辛いけど、今はこれしかない。

 守るためにも、頑張らなきゃ。私が、彼を守らなきゃ。


 暗い坑道の中を進む、と思っていたんだけど、彼があちこちにマナを燃やす炎を振りまいている。壁に張り付いた炎はそのまま燃えて、辺りを明るくしている。

 その彼のいる位置も分かりやすい。おでこの辺りの毛が光っている。精霊が辺りを照らしてくれているのかな?ちょっと不自然だけど、便利って言っていいのかな?


 坑道は随分と長く、複雑に絡んでいるみたい。既に何本かの坑道を通り過ぎたけど、彼は迷うことなく突き進んでいく。


「やっぱり匂いがきついし籠もって……あれ、なんか違う匂いが混ざり始めた?……クンクン……トカゲっぽい?」

 私の一歩前を歩いていた彼がいきなり立ちどまった。トカゲ……それならこういう所にいても、おかしくないと思うけど、言うことなのかな?


「やたら、んー……あれだ。肉ばっかり食ってそうな体がでかい、そんなトカゲ。知ってる?」


 頭の中にいくつかの種類が思い浮かぶ。どれだろう。中型以上の、危険なドラゴンのほとんどがこの道を通れそうにないから違うと思うけど。


「あぁ、ロックリザードかなぁ?アイツならこういう所いそうだしねぇ。

 因みに、ロックリザードってのはねぇ、岩を噛み砕くからそう名付けられたんだけど、奴らにとって岩を噛むのは、趣味なんだってさぁ。主食は肉なんだよねぇ。

 30年生きたやつは5・6メートルくらいになるんだったっけぇ?」


 エリナが説明しながら、周りを警戒している。口調の割に顔は真剣。それを聞いて、彼も進み始めた。でも、少し首を傾げている。何か引っかかるのかなぁ。


「そんなのいたら……俺、一口でバリバリやられそうだなあ。コワ」


 ロックリザードを想像していたんだ。そうだよね。岩砕けるなら骨なんて一瞬だろうし。私は想像したくないけど。


 そのまま歩いて、少し先に広間のような場所が見えた。そういう場所、あるのかな?奥の坑道で出た鉱石を一度集積する場所、とかかな?

 異様に広い。多分練兵場の倍はありそう。たくさんの坑道が、ここに繋がっているみたい。

 天井はあまり高くはない。それでも15mくらいはあるんじゃないかな。


 そんな地下に似合わない空間に私たち3人が入った時、

「しかし、本当にこの場所が、ああ――――」

「え?何……あれ、壁?」

 誰かがしゃべりかけてきて、何かにさえぎられた。


 それをおかしく思った私たちが振り向いたときには、壁があった。……後続の人たちも、私たちが通ってきた道も、そこには無くなっている。


「えぇ、まさか……あのトラップ?嘘でしょぉ」

 これって……あー懐かしいな。こういうのヒョウ爺が得意なんだっけ。うん、それは考えてる場合じゃないね。


「閉じ込められた?他に帰る道とか、あるよねー?」

 ある、って思いたい。お願いだからあって。


「なんすか、これ?確かにここ、道だったのに。あの人たちは?…………トラップって事は……まさか天井が『ズドーン』なやつですか?」

 言いながら、掌を地面に向けて、上から下に落とすように動かした……それじゃないと思う。


「あぁ、違うんだよねぇ。ヴァンくん、これはね、動く壁のトラップ。

 時間が経ったり数人が通ると、いきなり袋小路になったり、部屋に閉じ込めたりするものなの。人工ダンジョンに仕掛けられてるトラップなんだけど、その目的は、攪乱と分断。つまり……」

 どこかから、生き物の気配がする。


「ああ、そういう事っすね。だからぞろぞろお出迎えしてくれたんだ。アリガタヤ」

「全然有難くないよー、ヴァンくん」


 話している間に、異常に気付いていた2人は、気楽に話しながら顔はいつも以上に真剣になる。

 私も、空間収納から、あの武器を取り出す。ここは広いし数も居るから、腰の刺突を意識したエストックじゃムリ。

 想いの詰まったこれは、出来ればあまり振り回したくないけど、今、彼を守れるのは、私たちだけだから。

 だから……守って、シング!


 いくつもの道が繋がっている広間から繋がる坑道の奥、その闇の向こうから、灰色の巨体がこちらへと足を進めてくるのが分かる。待ち伏せ?まさか……?


「ああ、これはあれですね。もう四の五の言わず、彼らの招待を受けてダンスするしかないんですね。パーリーナイツですね」


 なんか好戦的に嗤いながら、格闘のフォームで構える。格闘はあまり教えてなかったはずだけど、前世でやってたから、かな?少し様になってる。


「随分余裕ねぇ。それならあたしとした方がよくなぁい?あたしはあんな不細工で不潔な奴はゴメンねぇ」

「エリナも余裕そうじゃない……待って、何あれ?」


 私が気付いた方に、2人も目を向けた。


 それは、ひときわ大きく掘られた坑道……じゃない。坑道だった場所をさらに無理やり穴を掘って広げたような歪な洞窟。支えていた木材が踏み割られて、砕けている。


 奥の暗闇から、少しだけ火が噴かれた……なんであいつがここにいるの?


「どぉやって入ったのよぉ、あんたは空にいなさいってぇ。よりによって、なんで地中でなのぉ」

 エリナも呆れてる。さすがにあれは、ここじゃ骨が折れるよね。


「あれ、なんというか茶色いけど……レイアさんですね、知ってます……あれっておいしい?」

 レイアって誰かは知らないけど、そのヒトじゃないと思う、多分。


 翼竜(ワイバーン)。崖に巣を作って生活する、中型の竜の一種。それだけでも結構な種類はいたと思うけど……あれは別の大陸の種類じゃないかな?

 それがなぜ、廃坑の奥深く、しかも出られそうにない場所で生きているの?15メートルはありそう……普通になら、今通ってきた坑道は、確実に通れない。


「あぁ、分かんない。けど確か、あいつは毒はないから食べられるとは思う。あれに似たタイプは、食べた人は結構おいしかったって」

「それは話してる場合じゃないでしょー。ヴァンくん」

「了解、イグニ……」

「使わないで!」


 彼は()()を使おうとしたけみたいだけど、それはダメ。発動の度にちょっとでも寿命は減るんだし、抑えないと。

 だから、私がこの子を守らなきゃ!


「ィィいいい、ちっくしょう!やってやらあ!陽炎全開、影法師!イフリータさん、隠蔽よろしく!」

「リサ!……あぁもぉ、ヴァンくん無理だと思ったら使っていいからねぇ!」

「「「Yes,Mam!いいいやあああああ!」」」


 彼はいくつもの分身を作り走らせながら、迫ってくるオークの足の間をすり抜けさせていく。その彼にオークが攻撃して……いかない?なぜ?!


「あいつらの目的は、完全にアタシたちみたいねぇ。お風呂何十年も入ってなさそうな奴より、ヴァンくん抱いて寝たいわ、アタシは」

「変なこと言わない、来るよ!」

 何体もいるオークが、私たちに迫ってきた。ゆっくり歩いた方が怖がると思ったのかな?走って来た方が、ちょっと焦るかもしれなかったけど。


「ロックブラスト」

 彼女の掛け声とともに、先に準備していた術の1つで多くの範囲に岩が降りかかってくる。

 エリナも意識して、彼の幻影のいない位置を狙って、何度も術を撃ち続けた。それを潜り抜けてきたオークを、私が切り刻む。私が離れたところに、彼女の術式が飛んでくる。

 うん、いつも通りの連携で、簡単に相手できている。これならいける!


「スパーク、ブレイズアロー、ちょっとこれ、多すぎない?あぁ、広範囲殲滅だと、ヴァンくんも巻き込んじゃうし、爆発だったら平気だろうけど、それじゃ洞窟がどうなるかわかんないし、面倒だなぁ!」


 腕輪を鳴らしながら魔術を撃つ彼女も流石に声を荒げている。流石にちょっと、数が多くて場所が悪いかな。でも、彼女の攻撃だけで随分倒せる。

 あとは、隠蔽で足元にいるはずの彼を守れればいい。それでも流石に、エリナにも少し攻撃が届き始める。でも、彼女はいつも簡易的な結界を張っているから、当たってもそうそう傷つかないんだけど、彼は……


「え、ちょっと待って。あの翼竜(ワイバーン)、ヴァンくんを追ってない?」

「え、ヴァンくん足元にいるんじゃないの?」


 彼女のそばの足元にいると思っていた私は、エリナの言葉に驚きを隠せない。目の前のオークだけでも手一杯なのに。

 どうして?……ダメ、私も混乱してるみたい。落ち着かなきゃ。


「うん、多分オークがあんまりいるから、自分に攻撃が来ないうちに離れたんだと思うけど……ヤバい、彼の幻影全部消された。


 ヴァンくん、使って!!」


 迫って来ているオークを薙ぎ払っている私は、ちらっとワイバーンを見て背筋が凍り付いた。

 彼が、多分本体が、壁際に追い込まれて逃げ場を無くしている!


 両脇に彼を狙ったオーク、正面に、翼竜(ワイバーン)。オークは攻撃に巻き込まれない位置で、彼を睨みつけている。

 さっきは無視してたのに、なんで……まさか連携してる?


 そして、その光景に心臓を鷲掴みにされたような気分になった……死んじゃ、イヤ!


「ヴァンくん!!」


 翼竜が仰け反って空中に舞い上がり、棘のついた尾で、彼を打ち据えた。


 彼は、上空に吹き飛ばされ、体を仰け反らせながら、赤い何かを散らしている。


『ゴーーン』――その時、不気味な、この洞窟の中でなるはずのない、『鐘の音』が聞こえた。


精霊のぼやき

――白金、空間収納使えたんだ――

 なんか、容れるものは武器防具を少しだけらしいよ?

――意味あるの、ソレ?――

 俺なら、骨付き肉容れるけどな……

――意味無いから、ソレ――

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