22話 不安
前回:――ハーレムからの急転直下。なんだかんだ言って、ヤル気満々だよねぇ。戦いたくないのは嘘じゃないの知ってるけどさ――
日が昇ってすぐ、私たち3人は手配した早めに走れる鳥の挽く馬車……鳥車に乗って、荒野を目指した。
辺り一面茶色の地面で覆われていて、地割れを起こしたかのような谷や、突き出た岩山が広がっている。この荒野のどこかに巣があるはずなんだけど、どうして見つけられないのかな?
確かに風が吹けば足跡が消えて見えにくくなるだろうけど、どこかに必ず生活の跡があるはず。
討伐隊の宿営地が見えてくるまで、私たちはほとんどしゃべらなかった。少し、緊張する。胸が苦しい。
「お待ちしておりました。彼らは不安があるチームでしたから、何かあったかもしれないと思っていたところです」
隊長をしていたらしい人が声をかけてきた。確か、2等級のビスタさんだったかな?
「あぁ、あの子達途中で襲われたみたいでねぇ。なんか予定のルートから随分離れたみたいなの。
そんなことより、討伐隊の面子、いくらか貸してもらえる?念のために手を増やしておきたいしさぁ」
彼らがどうなったのかは、まだ言わない方がいい。実戦の前に不安をあおって実力を発揮できなければ、総崩れになるかもしれない。
「オークの匂い覚えておきたいから、討伐した個体があったら案内して欲しいんだけどなあ」
「匂い?……って、ああ、なるほど。それだったらこっちに……」
案内される彼について、オークの遺骸がある場所へ案内される。
討伐した個体は、放っておくこともできないから、燃やしたり埋めたりするものだけど、ゴブリンの件で理解していた人がいたから、残していたみたい。
オークの遺骸のある場所は隊の宿営地のすぐ近く、埋めるために地面にあけた穴のそばにあった。
灰色で2メートルくらいの大きさ、痩せこけていて毛が抜け、目が落ちくぼんでいる。これは矢が頭に刺さって、死んだみたい。
「俺の知ってるオークじゃねえ。あれ、でも指輪の話の映画とか、こいつに似てるような?」
「何の話か知らないけどぉ……こいつら、エルフが魔物化したもので、しかも出来損ないなんだけどぉ?ヴァンくんどんな奴だと思ってたの?」
「豚が立ち上がったような感じって思ってたけど……え?じゃあエリナさんが魔物化したらこうなっちゃうの?それもヤダな!」
ぶたって、なんだろー。動物?
「豚は家畜になった猪だけど、あれが魔人になったとかじゃないんだね……」
ヴァンくんこっち見て話して……あ、思ってた事声に出ちゃった?たまにやっちゃうんだよねー。
「動物が魔物化するにあたって3段階あるの。イビル、デビル、デモン。
イビルが一番多くて、ちょっと角や牙が生えたりするくらい。
デビル以上になると体が大きくなったり、元の姿から離れていくの。こいつらはエルフや巨人族のイビル。
通称がオークで、種類はすごく多いの。因みに、小人や小型の獣人がなるイビルがゴブリンで、その亜種がコボルドね」
私やエリナが魔物化するって事、無いと思うけど、なるとしてもこれには絶対になりたくないなー。
「まあ、これなら匂いは充分だし。あとはなるべく最近会敵した場所に行けば、跡追えるよ」
充分匂いを嗅いで覚えたみたい。足の裏とか股とか脇とか、嗅いで欲しくないとこ嗅いでるなー。彼、嫌じゃないのかな?
「それでは、準備出来次第出立をお願いします。こちらの50名がお供します。ご武運を!」
ビスタさんが引き連れてきた冒険者50人、軽い物から重い物まで様々な鎧を着ていたり、槍や大斧、大剣を持っている人たちと、ローブに杖や弓を持っている人たち。
接近も遠距離もちゃんと考えてくれているんだね。荒野だから、広い場所で戦う想定の人が多いみたい。
うん、これなら……
「ねえ、これだけ目視だけでも充分見渡せるのに、見つからないっていうのもおかしいよね?
深い谷の底とか高い岩山の上なら、その上り下りって楽じゃないし。20匹のあいつらが襲ってくることを考えると、相当数に増えているはずだけど。
そんな大所帯の奴らが目につきやすいような広い場所に留まっているとは思えないんだ」
どういう事だろう?それって……?
「もしかしてぇ、広い洞窟とかに隠れてるって事ぉ?でもそれは……有り得なく、はないのかなぁ」
……どっちだろう、ありえる?ないような気はするけど。私は、ないと思う。
「だから、狭い場所で戦うことも想定した方がいいんじゃないかな?って思うけど、そういう装備、有ります?」
みんなあまり考えていない事だったのか、狼狽え始めた。私はないと思うけど。
そんな中、1人の魔術師が手を挙げて、
「あの、その子の考え、合ってるかも知れません!」
なんて言い出した。どうしてそう思ったんだろう。この辺りに、手ごろな洞窟とかあるのかな?
その子は前に出てきて、
「これ、私が母から魔術と一緒に教えられていた方法で作った地図なんですけど……今まで自分たちが出会ったオークとの戦闘の位置、記録してみたんです。
それで、この荒野のある一定の範囲で戦闘が行われていなくて、その場所に向かってみようとしても、どうしても到達できなかったんです。
それで、あの子の言葉を聞いて思い出したのが、この辺り、私のお婆さんが若いころに勤めていてその後廃棄された、廃坑があるんです。もしかしたら、そこにあるのかもしれません」
「おお、マッパーはやっぱり勝者側の考えか。そこまで分かってたら結構楽じゃ?」
つまり、大体の位置は予測できていたけど近づけなくて、その場所に廃坑があるの?……そこまで分かったのなら、あとはそこに向かうだけなんだけど。
「面倒なのが、近づけないって事ねぇ。それと、装備をちょっと考え直してもいいかもしれない。
盾と刺突武器もある程度用意して。廃坑とかなら、道を塞いで突き合いしたりすることになるでしょうからね。それと術式の事も練り直す必要があったら、周りと相談しながら組み直して置いて」
彼の一言で一気に変わってきた空気に、戸惑いながらもみんな装備見直し始めた。
「ヴァンくん、よく気づいたねー。私は全然考えてなかった。すごいよー」
私が彼に近づいて褒めたら、
「いや、何となく違和感があったんです。だって、この荒野の端っこで、俺もアジト作ってたけど、結構離れた位置で行商人に見つかったことあったし。
宿営地だって、荒野のど真ん中だから、遠くからよく見えたのに、奴らの巣が見えないなら、何か隠蔽の効果のある結界使ってるか、深い洞窟じゃないかって思って。
そしたら、大斧とかフレイルみたいな、振り回すものって危ないかもって思ったから」
なんか考え込みながら、言い訳みたいなこと言われちゃった。
喜んでいいんだよー?でも、ちょっとだけ頭撫でておこう。彼の気づきで、もしかしたら何かが変わるかもしれないんだし。もし、本当に洞窟なら、攻め方も必要な武器も変わる。よく考える子だな、ホント。頭の毛もモコモコ……
そして、野戦と洞窟戦、どちらにも対応できるように装備の見直しをして、私たちは宿営地を出た。
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巣があるかもしれない、そう言われた場所へ向かいながら、彼は地面の匂いを嗅いでいる。宿営地を出てそう時間かけずに、彼は匂いを見つけたらしい。
「スンスン……うん、こっちで合ってそう。匂いが少し強くなってきた」
何もない、茶色い地面。たまにサソリとかクモなんかが歩いてるくらいで、あとは命のようなものは見当たらない。サボテンや奇想天外なんかが生えているくらい。
こんな場所でどうやってオークは繁殖したんだろう?人を襲って物資を奪うにしても、動物を狙って狩りをするのにしても、食べられる物なんてたかが知れていそうなのに。
「あ、境界に入ったっぽい。ちょっと平衡感覚おかしくなってきた」
「えぇ、どういうことぉ?あたしは何も変わらない気がするけどぉ」
そう言えば、ゴブリンの時も彼、途中から足が少しふらついていたかもしれない。危なっかしい歩き方するなーなんて思っていたけど、魔術の影響?私たちも自分で気づかず方向を変えて歩き出したりしたし、今も……
「おい、どっち向いてんだ。いきなり方向替えて歩くなよ」
「いや、お前が方向変わってるんだろ。俺はあのワンコ見て歩いてるよ」
「あれぇ、俺もなんかちょっと気持ち悪くなってきた?船の上歩いてる気分だ」
こんな声が聞こえ始めた。もしかして、あの球体はこの症状を起こさせるための装置?
そうだとしたのなら、近づこうとするたびに方向が変わっていって離れていくのも、おかしくないかもしれない。
体調不良を押して無理に攻めるわけにもいかないから、撤退を選ぶ人たちも出てきそうだし。
「んー、アタシは何も魔力とか感じないのに、こういう状態を引き起こすアーティファクトなんて、聞いたことないんだけどなぁ。解析できなかった、あの魔法陣のいくつかがこれって事なのかなぁ?」
「エリナ、考えるのは後。方向変わってるよー」
考え事をしながら左を向いた彼女を引っ張って、先頭を歩く白い狼の子供を追う。
そして、彼の不安は的中した。オークの匂いを辿って、崖下に降りて少し進んだ先で、彼がそれを見つけた。
「あ、においきつくなってきたと思ったら、ナニコレ」
廃坑にある、トロッコが置かれていた。古くなって、崩れるくらいに錆びている。辺りには物というものはないけれど、少し先に廃坑の入り口だろう穴が、崖際に口を広げている。
ここに来て匂いがきつくなるっていう事は、ここが巣に使われているっていう事でいいよね。そしたら、この中で戦うんだ。
「この辺りに廃坑があったっていうのは本当だったのねぇ。稼働していたころは多分、アタシ達はそんなもの気にしていられる状態じゃなかったから、知らなかったけどぉ」
「でも、これ随分古いけど、町とかはないよね?鉱山とかって、大体町があるものじゃないの?」
確かに町はあってもおかしくないだろうけど、ずいぶん昔だし、その間に撤去されたり、風化していったんじゃないかなー?
「それより、ここで一度休憩しながら、装備を直そう。ここから狭いところで戦うんだから、武器もそれに合ったものに変えないとねー」
みんなは頷いて、ローテーションを組み始めた。ここで一緒に食事もとってしまうつもりみたい。
「じゃぁ、アタシ達もご飯にしようかぁ。あんまりちゃんとしたもの持ってきてないけどぉ」
まあ、堅いパンとかだよねー。仕方ないかな。
「あ、それなら俺も持ってきた。ちゃちゃっと作れておいしい奴。ちょい待ってて」
彼は覚えたての空間収納を開いて、その中からパンとソーセージ、木箱、赤い粘液を入れた瓶を取り出した。何をするんだろう。
「切って焼いて挟んでかけて、ハイ終わり。どうぞ」
「パンに焼いたソーセージ挟んだだけ?何よぉこれ」
「ホットドッグ。前世じゃよく食べてた。こういう時、これいいよね。マスタードないのが残念だけど」
木箱には、チーズと野菜が入ってたみたいで一緒に挟まれている。確かに、簡単に食べるのにはいいかもね。……どこかの国で、同じような料理見た気がする。
「あー、確かに簡単で美味しいっていいよねー。これならエリナにも作れそう」
「えぇ、なんであたしなのぉ?」
「エリナさんだと焦がしそうで怖いです」
ちょっと期待してみてみたら2人の反応、連れないなー。でもヴァンくんの気持ちも分かる気がする。
精霊のぼやき
――あんたその辺知らずにゴブリン食べたんだ……――
知らんものは知らん。無知は罪じゃない。
――知ろうとしないのは罪でしょ。あ、角ウサギはイビルだから。デビルは大抵大きくなるし、耳が短くなるの――
耳が短くなったらウサギじゃ無くね?




