18話 おーく退治
前回:――随分骨追っかけるよね。え、サンダーボルトの刻印?練兵場に向かう途中で付けたの。氷の特殊なヤツ2個オマケしといたから――
オーク討伐部隊募集。その張り紙が張られたのは、3日くらい前。志願者は、今日の昼、ギルドの練兵場に集合、とされている。そして私たちは、その部隊に志願した。1つの決意と共に。
「おせーぞ、何やってたんだよ。時間ギリギリじゃねーか」
大体いつもは彼が遅刻して、言い訳ばかりしているのに。今日に限っては随分早い。私たちはいつも通り、5分前に来ただけなのに。集合場所もここ、としか言われていない。私たちみたいに、先に落ちあう場所を決めていないのは自分だ。もう、本当に冷めた。何も思わなくなった。
「本当に、お前には飽きたよ。ケンジ」
「そーねー。こんなんじゃ、うまくやっていくの、絶対無理でしょ。直す気ないの?」
2人ももう、限界みたい。そうだよね。信じていた自分がバカみたい。……違う。バカだったんだ。
「ケンジ、私今回の仕事終わったら、あなたとはもうやって行かないから。そのつもりでいてね」
私の言葉に、3人とも驚いている。その後、それぞれの反応をするけど、2人はやっぱり考えてたような感じがする。なんか納得している雰囲気がある。
「おい、俺はお前との約束破ってないだろ?」
「ウソ。私見たよ、街角で氷漬けになっていたの。人目につかないからって、ずっと黙ってて解除されるの待ってたんでしょ?あそこからまた、毒矢でも撃とうとしてたんだ」
「なっ!そんなこと……」
否定しようとしているけど明かに表情がおかしい。
「やっぱりねー。2人の感じがおかしいと思ったんだ。それ、あたし達も乗るから。あんたについて行かないっていうより、抜けてくれる?正直、邪魔」
マリー、何となく気づいていたんだ。そうだよね。私が彼の事、好きだって自分から言ってもいないのに、その時にも気づいたんだし。彼女には、本当に助けてもらった。全部、空回りだったけど。でもそれも彼女に原因があるんじゃないし。
「ぶっちゃけ、お前がリーダーできていたのも、貴族だから上げとけばいい気になるって、俺らが思ってたからだしな。お前、リーダーの才能ないんだよ」
ロビン、ようやくいつものヨロイに戻った。フルプレートの余計なところを少し削って、軽くする刻印を入れたヨロイ。その方が、彼らしい。
「なんでお前、そんないい気になってるんだよ。いつもの装備はどうした?弓を使えって言っただろ!調子乗ってんじゃねえよ!」
「はっ、バカか?鎧でガチガチに固めて、ショートボウなんか打ってられるかよ。今回はオークなんだ。力自慢が後ろにいてちまちまとか、バカげてるんだよ。それにお前、その革の服だけで奴らの攻撃受けきる気かよ。どんだけ皮膚が厚いんだか」
もう、仲良くしようなんて彼は微塵も思っていないみたい。彼はもともと槍を使った戦い方を得意にしていたのに、自分が目立ちたいからって、彼が無理矢理弓を持たせていた。ヨロイじゃ撃ちづらいし、見た目から入るタイプだって嘯いて、服装を変えてくれていたのに。
「だからって、なんでお前らそんな勝手なんだよ!人狼狩りの時から段々わがままになっていってないか?」
「勝手なのは自分でしょ?あんたはその前からずっとおかしかったじゃない。それに噂になってるよ、あんたが昇級したのは不正をしたからだって。あたしたちがウソだと思っていたのに、あんたがこんなんじゃ擁護できないよ」
その噂はずっとされていたけど、私たちは誰も信じなかった。彼の努力を見てきたし、信じていたから。……裏切ったの、自分じゃない。
「…………なんだよ、それ。俺がどんな気持ちでいたか知らないで」
「それもあんたでしょ?だいたい……」
「オヤジが勝手に、不正していたっていうの知ってどんな顔をしたらいいのかわかるのかよ!
俺を昇級させるのに、要らない手を回して受からせたとか偉そうに言われて、あこがれていた人が、不正ばかりしていたなんて信じたいかよ!オヤジがかっこいい奴なんだって思いたくて、今まで頑張ってきたのに……
どうしてお前らは分からないんだよ!」
そんなの、今初めて聞いた。私たちは、3人とも少し黙っちゃったけど、それでも、もう関係ない。
「そういう悩みを抱えているのに黙っていて、それを理解しろなんて勝手すぎるよ。恥ずかしくても教えてくれればいいじゃない。悔しければ、泣いたっていいじゃない。
一緒に頑張ろうって思っていた私たちの事、考えていなかったのも自分じゃない!だからこうなっているのに何で気づかないの?どうして自分が悪いことをしたって思えないの?
言ってくれれば、一緒に怒ったし、泣いたし、乗り越えようって思えたのに!勝手すぎるのは自分でしょ!」
だんだん、私の声が大きくなって、練兵場に響き渡る。多くの人たちが見ていても、関係ない。いつもなら竦んで話せなくなっちゃうけど、今はそんなのどうでもいい。
「あんた独りで勝手に何悩んでるかなんて、分かるわけないじゃない。あたしたちが何を悩んでるかなんて、気にもしていなかったんだし。それでリーダー?やめてよね」
「2人の言う通りだな。お前が悩んでいたんなら、いっくらでも聞いてやったよ。1年前ならな。俺、結構堪え性あるからさ。ずーっと我慢してたんだ」
2人も乗ってきて、言うだけ言った。もう、討伐隊の受付が始まるころだ。さっさと集合場所に向かわないと。こんなやつ、話をするだけ無駄。
「何言ってるんだよ!俺ほどお前らの気持ちわかる奴いるわけないだろ?実際……」
「実際、ソーリがあんたのこと好きで、あたしたちが付き合ってるふりをしてあんたらを2人にしてあげていたこと、気づいてた?バッカみたい。
その程度の演技とか、ちょっとした変化、女心や恋心なんかも全く気付かないやつが人の気持ちが分かる?そんな訳ないじゃない。そういう奴は、一人残らず全員、妄想で全能感を得てるのよ。バカらしい」
彼女に嘲笑われた事、彼は一生懸命に考えているみたいだ。そんな彼から離れて歩いていく。そうだよね。どんだけ2人になってもわたしの事気にもしてなかったし、何を誘っても振り向きもしなかった。最近は目を見て話してこなかったし。彼は、そういう機微に気付けないんだ。
「ごめんな。実はマリーとは付き合ってなくて、演技していたんだ。本当はほかに女がいるんでね。……小さい時から付き合いのあった、婚約者が、さ」
ロビン、ちょっと照れてる。
「うん、なんか、そんな感じはしていたから。ゴメンね、私のせいで嫌な思いさせちゃって」
「いや、俺としてはあいつがあの性格を直すことができれば、その後2人が付き合う所まで見たかったんだけどよ」
「ハイハイ、よく言うわー」
今度からはこの3人でやっていくのかな?できればここに、真面目な人が2人くらい加わってくれればいいんだけど。前にお願いした妖精族の人とか、獣人の人。来てくれないかな?獣人の人が加わってくれれば、あの子とも仲良くなれる気がする。
「どうせなら、前の……なんだっけ、ヒョウ?あの獣人の人呼ぼうぜ」
「チーター。本人の名前はジャガーノートさんね。あの人、来てくれるかな?ガチで怒ってたじゃん」
「あのエルフさんたちに聞いてみればいいよ。それに、今私もその人がいいかなって思っていたし」
あんな奴、居無くなれば空気がこんなにすっきりするんだ。ずっと前には、ここに彼もいて、笑っていたのにね。今はただ、早く居なくなって欲しいだけだな。もう、あの頃の彼じゃないし。
でもなんで、ちょっと寂しく思うんだろうな。もう、昔の彼じゃないのに。
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どうして、こうなった?
俺はただ、正しい事をしていたはずなのに。……正しいって、なんだ?父さんが教えてくれた、正しさって、何だったんだ。
今までずっと教えられてきたことを反復しながらやってきたのに、なんで俺は独りになるんだよ。だっておかしいだろ。誰だって平和のために剣を取るものじゃなかったのか?だから、戦争の原因を殺すのは正しいって、思うのが変なのかよ。俺が変なはず、無いだろ。なのに、なんであんなガキをあいつらは普通に受け入れてるんだよ。
あいつら、嗤ってる。俺から離れていくのに。俺の事を嘲ってる。俺が居なきゃ何もわからなかったくせに。なんで哂う?俺がオカシイはず、無いよな?だから、あいつらがおかしいんだ。……オカシイだろ絶対。
だって、俺がアイツらの気持ちを理解して、それで行動……決めていたのか?そう、なのか?オヤジがどう言うか、考えていた気がする。オヤジがどうすれば喜んでくれるか、考えていた。おれは、オヤジみたいになりたかっただけなのに。
それに、気持ち……さっき、なんて言ってたっけ?ソーリが、俺を、好きだって……そう、なのか?好きって、気持ち。あったのかよ、俺に。おれは……
――彼女の気持ちに、気づいていたか?
分からなくなってきた。もう、考えるのやめよう。
考えたって、こんなの答えなんて出るわけがないし、なんか怖い。オヤジもこの国にはいなくなった。なんで俺は、独りぼっちになるんだ?なんでみんな、そんな気持ちでいられるのか、それも分からない。
もう、討伐隊が出発するために集まってる。行かなくちゃ。俺が行くって決めたんだ。そうだ。あのガキより多く殺せば、きっとあいつらも考えを変えるはずだ。親父もそれで喜んでくれる。会えないけど、手紙でも送ればいいし、全部終わったら会いに行こう。それで、もうここには帰って来なければいいんだ。……もう、いやな思いはしたくない。
冷たい目の3人の後ろについたけど、気持ちはもう、動かない。こいつらは俺が捨てたんだ。
嗚呼、ドラゴンを倒しさえすれば、戦って栄誉を受けられれば、どんな奴でも俺を認めるだろうけど。
俺のこの気持ちは、誰も分からないだろうし、誰も、知らないんだろうな。
実際、これから向かうのはオーク討伐なんだ。できるだけ、多く狩ろう。こいつらの誰よりも。
俺の決意と共に、宣誓が始まった。穢い塵に粛清を告げる、言葉が
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あれから2週間、オークはそこそこにしか狩れていない。俺は、まだ3匹だ。
あいつらが身につけているのは武器以外は腰布だけなのに、鎧を着ている奴より肌が硬い。思っていた以上に、攻撃が通らない。しかも身長が2メートルはあるから、一撃が重い。魔法の通りも少し悪いから、魔術を使う奴でも、倒すのに苦労するんだ。
「マリー聞いて、私真面目に戦えば、結構いけるかも。今日だけで5匹も倒しちゃった!」
「やるじゃないソーリ。意外とあんた攻撃向いてるのかもね。今まで結界とかばっかりしてたから、向いてないのかと思ってた」
「ちげえよ、覚悟の差だ。前はビクビクしながらやってただろ?俺たちの最初を思えば、まあ、あれなんだけどな?」
「「どれ?」」
こいつらは、ずっと笑いっぱなしだ。この2年の間、ずっと笑ってなんていなかったのに。それもこれも、あのガキが……
「ほんと、誰かが怒鳴らないだけで笑いが絶えないね。この2年、ずっと怒鳴ってたし。何とかなだめようとしてたのがバカみたい」
お前、俺のこと好きなんじゃなかったのか?ヤッパリコイツラオカシイ。
ナンデ、オレハコンナニ、サミシイ?
精霊のボヤキ
――なんか練兵場が騒がしいみたいね。行ってみる?――
いや、なんか不穏な空気だし、フラグが立ちそうで恐い。
――こういうときだけビビりだねぇ、魔物相手にしたらヒャッハーとか言うくせに――
あれは、テンション上げないと色々あれなんだよ!
――ハイハイ――




