17話 落ち着いて
前回:――金髪、攻略済み。チョロインですけどぉ――
「で、落ち着いたの?本当にもう平気なんだよね?」
「はい、ごめいわくおかけしましたぁ……」
約一週間、彼女はおかしな状態にあって、一度はロイやダントンに彼を預けたんだけど、すぐに見つかった上にあの2人を押し退けながら突き進んでいた彼女はヴァンくんを追いかけ続けた。
途中から彼が作った氷の彫像や電撃の紐で縛られたりしていたけど、それでも止まらず迫ったから、最後には彼の言う『熱烈チッス』で、落とされ続けた。流石に今は正気に戻ったらしいけど。
「うわあぁ、何やってんだろうアタシぃ……これ嫌われたかなぁ!」
正気を保てなくて、物凄くショックみたい。あの状態を抑える薬があったはずだから、取り寄せているんだけど、届くまでどれくらいかかるんだろう。造るのにも時間かかるし、高いからここ数年取り寄せてなかったんだよね。
「はー、エリナ。彼の事、ホントに好きになったとかじゃないよね?だって、まだ子供なんだしさー。彼だって流石に嫌がってるんだから、ね?」
「まさか……リサも狙ってるわけぇ?」
あれ、なんだろう。なんか雰囲気がおかしいかな?狙うって何を?もしかしてまだ治ってないとか?この状態で彼が来たら……
「よし、それなら2人で落とそう!ヴァンくんをあたしたちの理想の子に育て上げるの!」
いきなり元気になって手を取ってきた。……何を言ってるの?
「リサだって強い剣士がいいんでしょ?それなら1から育てれば理想の姿に近づくから。大丈夫、あの子ならやってくれる!」
言いたいことは分からなくはないけど、そういうものかな?その自信はいったいどこから来たんだろう。それで子供に……?あり、なのかな。それは……ちょっと想像しちゃった。なんで嬉しくなってるんだろう?私もおかしくなっちゃダメ。そういう事は違う……よね、多分?
「ただいまあ。黒い組織員、またなあ」
なんかいつもより晴れやかな無表情?のロイに手を振りながら、ヴァンくんが帰ってきた。タイミング、悪くない?ヒョウ爺のお使い、ダントンとロイに代わって、一緒に行ってもらっていたけど、もう少し外で何かしてきたり、訓練でもしてくれれば助かるんだけどなー。
「ヴァンくん、お帰りぃ!」
「アイスフィールド!そして時は止まる!」
いきなり飛びついたから、警戒していた彼がエリナを氷の彫像にしてしまう。首から下が氷に閉じ込められる、けどこれすぐ壊されるんだよね。この一週間で慣れたみたい。出が早くなっている。でもそのポーズは何だろうね?
「ふぅ、部屋の前で先に準備していてよかった。数分しか止められないとはいえ、これで……」
「ヴァンくん、もう落ち着いてるから大丈夫だってばぁ」
「分かりづらい」
だよねー。今まで、ダッシュで追いかけまわしていたんだから。回り込んで何かの魔法で邪魔してたし。彼の幻覚も効果薄かったみたいだし。おかげで、実戦的な練習になった、とでも考えようかな。
それに、
「エリナさん以外に、俺の事狙ってる連中まで氷漬けになって大変だったんだから。それにみんなに謝っとくんですよ。なんで俺の事、未だに狙う奴がいるのかね。あれか?奴隷の商人とか」
捕まった人数、23人。結構巻き添えにしたなー。ちょっと、かわいそうだったけど。
「ねぇ、ヴァンくん。もうああならないように薬飲むから、これ解いてくれる?お願いだから信じてぇ」
「…………んー、まあ。今までだって密着しすぎてはいたんだし、そういうのを控えるのなら、考えますけど」
「そういうのって?」
「ダッコとか」
「「却下します」」
「なんでリサさんまで一緒に言うかな、畜生!」
何でこんなこと言ってるのか分からないけど、あのフワフワの毛を触れなくなるのは、いやだなー。エリナには、もうちょっと自重してもらいたいけど。
実際、そのせいで仕事も彼の勉強も全く進んでいなかったんだし。ロイたちと遊んでただけじゃないかな?ちょっと羨ましい。
「実際、ロイとかダントンとか、強い人との打ち合いできたのはいいんだけどさ。リサさんみたいな的確な指導が無いし、魔法関係全部止まってるんだからね。ちょっとは計算は自習していたけどさ」
意外。ちゃっかりやってたんだ。少しくらいは休んでもいいんじゃないかとは思うけど、なんでそこまで頑張るんだろう?……聞いたらまた狩り、とか言うんだろうなー。
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なんとか彼を説得して氷の戒めを解き、酒場で久しぶりに3人で食事することになってホッとする。ようやく、いつも通りの生活に戻れるんだね。
酒場にきて、カウンターに設えてある椅子に座ると、
「よお、子犬。今日は何教えてやろうか?」
「オオカミだあ、畜生!狙って言ってるだろオヤジ!」
いつの間にか、調理場の人たちと仲良くなっている気がする。彼を嫌がってた人も今は平気みたい。この1週間で何度か彼も調理場で技術を教えられていたらしくて、新しい料理を覚えたとか……この子は狩人になりたいんだったよね?
「へぇ、アタシ達のために新しい料理をぉ?」
「いえ、命を狙い始めてから食するまでが狩りですので、料理は狩りの過程に含まれるのです。これは狩りの一環、それが一族の教えです」
なんか、一族の考え方に感銘を受けたのかな?前世は出来上がった社会だって言ってたから、そういう考えはないと思うし。変なの。
「そういえば、俺が勝手にフォークで食事してたら、この酒場でも流行り始めた感じ?あちこちで使ってるじゃん」
確かに、最近増えてきている気がする。中には自作して持ってくる人もいるくらい。手が汚れないから、特に女性に人気なんだよね。
何人か、彼に手を振っている。たしか茶髪の子はエリナ止めるのに協力していた子だったかな?エリナの暴走が、結果的に彼とみんなの距離が近づくいい理由になったんだろうなー。もうやりたくないけどねー。
「そういえばこの間言ってたやつ、作ってみたぞ。ほれ、ばーがーって言ったっけ?」
「おお、まじか!……なにこれ、完璧!ちょい待ち、これトマトソース使ってるじゃん。あるの、トマトソース!ちっくしょう!これあるだけでどれだけ料理の幅が広がるか!」
料理長さんから渡された、お肉をサンドしたパンをかじって何か叫び始めた。何を考えているんだろう。変な料理、とかじゃないよね?……おいしいのだといいなー。
「何やら騒がしかったようだけど、もう大丈夫なようだね。エリナ君、君ももう少し落ち着いてほしいものだが」
「ウッ!マスター、その節はご迷惑おかけしました。もうこのようなことが無いよう心掛けますので……」
いつの間にか、真後ろにマスターが来ていた。食事を取りに来たのかな。それでエリナも焦ってペコペコし始めちゃった。
当然だよねー。多分、一番被害を受けたのはマスターだもの。直接攻撃していないからって、2人が暴れた後を全部処理していたのはマスターだし。やらなきゃ、街中氷だらけになっていただろうし。
「そういえば、最近少し騒がしいよね。何かあったの?まさか戦争とか?」
「おいおい、怖い事言うな、わんこ。今はあれだ。オークが増殖している場所があるからって、戦力をかき集めて討伐隊を組んでるんだよ。騎士共が既にそれぞれの村に兵隊を送って、警備に入り始めているそうなんだがな。結構な数で、消耗も激しいんだと」
「ん?ゴブリンの時はそういうの無かったのに、オークは派兵とかするの?」
「いや、ゴブリンの時も派遣されていたんだが、手が回らなくてな。特に被害がデカくなるなるだろうって所に出してはいたんだが、全部やられちまったんだ。
まー、被害者は騎士も含めて、ざっと1500人くらいなんだけどな。そういう意味じゃ、お前はよく生きてたな。わんこのくせに」
「オオカミだあ!やっぱり狙ってやがる!フェンリルなめんな畜生!」
……仕事に関われないでいた間に、随分怖い事が起きていたみたい。それなら、私たちも……
「ああ、そういえば。オークに関してだが、現状君たちは手を出さなくていいからね。何しろ、彼のお守りもあるだろう。しっかり教えなければいけない事もあるのだし、戦力自体は充分揃ったのだからね。必要になることはないと思う。
……もし、必要なら……それはその時だ」
最後に含んだ笑いを見せて、厨房から渡された『ばーがー』を受け取ってマスターは戻っていく。……必要になる時、それって……考えるの、やめよう。そうそうない事だし。
「ほれほれ、骨はこっちだぞ」
「くッ!己、よこせえ!畜生!」
マスターの作った雰囲気、台無しにしてなんで遊んでいるんだろう。……あれで彼を釣れるのかな。私もやってみたいな。
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ようやく落ち着いて勉強ができるようになって、初めての彼の魔法の授業。
今までは計算とか、術式の基礎になる言語を覚えることに集中していて、今日初めてまともな魔法に関わる話になるみたい。魔法じゃなくて、魔術かな。私は未だに、違いがよく分からないんだよね。だから関われない。またため息ついちゃった。最近多いかな。
「いい、ヴァンくん。魔法と魔術は全く別。刻印や呪い、ソーサル技術や錬金術も、今じゃ大枠では同じにされているし、それぞれを掛け合わせているけど、根本は全部別物なの。理解できる?」
私はここから既に、難しくてついていけなかったんだよね。
「あー、生活魔法、だっけ。水球とか、送風とか。攻撃力何それみたいなやつ。あれは魔法。攻撃的な形で出したりするのが、魔術?結界はどっちなのかな?溶属性のクラフトマジックなんかは、ソーサルとか錬金の方、で合ってるよね?」
「大体合ってるかな。結界は魔術、クラフトマジックはソーサルね。その違い、分かる?」
「えー、魔方陣とか、詠唱?あと、クラフトマジックはどっちもないけど、マナを変質させて、物を変化させるように圧や熱を加えたり、逆に奪ったり。コントロール、でいいのかな?魔法って呼ぶのは、単純にマナのコントロール、魔術は基礎理念を確立して、複雑に絡めて昇華した感じ、とか?」
「……それ、大精霊に聞いたの?」
「いや、今イフリータさんは次の氷の道具にどんな絵柄をかくか思案しているのでこっちには無関心」
……一度精霊を顕現してくれないかな。きっと芸術の事で沢山話ができそうな気がする。それより、自分で考えるだけで、それだけ答えを出したの?私にはよく違いが判らなかったけど、感覚的に分かってるのかな?
「まぁ、そうね。大雑把に言って、詠唱、陣、その2つの複合、マナコントロールでの影響の4つが魔法や魔術での使い分けの基準にはなるの。魔法の場合、これといった詠唱はいらないものが多いけど、マナのコントロールさえできればあとはイメージだけで使えるものが多いの。その代わり、効果が薄い。
水球は大気中や地面、川なんかの水を球状にする為に、マナを媒介にするんだけど、その時に不純物がどうしても一緒に混じっちゃうものがあるの分かる?それはなんでかって言うと…………」
うん、ここまで来て、彼女に異常はなさそう。これでようやく安心して仕事に入れるね。できれば、先週からこうなって欲しかったかなー。エリナの授業聞いてると私も寝ちゃいそうだから、さっさと仕事、終わらせよう。
夕方まで、彼女の講義は続いたけど、ヴァンくんは今日は全く眠くなさそうにしていた。多分、今まで自分がやってきたことを思い出しながらいろいろ考えていたから、集中できていたんだろうな。
「んで、複合のタイプって、どうやるのさ?俺はそれは見たことない気がするんだけど」
「え、ヴァンくん、ロイにサンダーボルト撃ってたよね?普通、詠唱で撃つならあれよりもっと長いはずだけどぉ、短かったでしょ?ヴァンくんの点火ってやつが魔法陣なんだから、それで短くできたんだよぉ?」
「ファ?そんなことしてたの、俺?イフリータさんに上空から雷落とせるか、作戦段階で話していただけなのに。
いつの間に刻印……あの時にしたのか。マジか。ついでに氷のもいくつかつけてた?うっそお。お願いしてなかったのに。それでリスク増えてないってどんだけえ?」
なんかしょげちゃった。精霊が気を遣ってくれていたんだから、良いんじゃないかな?そしたら、大爆発とかも詠唱短いんだろうなー。あれもすごく早口で読むだけで20秒はかかるって言われるし。
きっとすごい術師になれるとは思うんだけど、やっぱり彼、言うと落ち込むんだろうな。
「そもそも、ヴァンくんと精霊のマナを混ぜて刻印を連結させるなんて、結構無茶やってるんだよ?1度繋げ始めたら、多分いくらでもできるんじゃない?」
「そんなことになってたのか、俺の体……え、一応の制限はある?まあ、普通に魔法覚えていけばいいことだけどさ」
「ストック、つまり先に詠唱して保持しておけるようになれば、ものすごい数が使えそうだよねぇ」
私は洗濯物を畳みながら、2人のやり取りをずっと聞いていて、やっぱり、仲がいい2人が凄く羨ましかった。それは言えないんだけど、ね。
精霊のボヤキ
――一時は切り札にしていた技を、数分で……こいつ、できる!――
それは何となくわかってたでしょ?
――あんたねぇ、あれを作るのにどれだけ計算とデッサンと構想練る時間を費やしたと思ってるの?特にあの像を創りながら形状を保ちつつ、人に危害が加わらない程度に加減しながら、芸術性を重視した彫像にする為にどれだけ刻印が――
以下略でお願いします。




