19話 おもり
前回:――オークの討伐で多くの討伐って、このガキのギャグセンス悪すぎない?引くわぁ――
「はい!」
「なんの!」
何度か、彼の剣が私の剣を防ぐようになってきた。そろそろ2か月。動体視力もいいし、動きも慣れが出てきたみたい。うん、いい感じになってきた。午後の勉強の事もあるから気にはなるけど、ちょっと負荷をかけてみようかな。
「ヴァンくん、ちょっといい?お願いがあるんだけどー」
「へ、何でしょう?お願いにもよりますが」
そんなこと言って、大体の事は聞いてくれるくせに。そもそも、嫌がるのはダッコくらいじゃない?それもいいって、言って欲しいんだけどなー。
「それじゃ、これ着けて。重いから気を付けてねー」
「ちょ、これは。緑色の肌の人とかが好きな腕や足に巻く奴と、亀の爺さんがやらせた甲羅みたいな役割の重りですか……」
なんか説明が長いなー。彼なりの解釈にしては、今回は余計なところが多い気がする。まー、いっか。
「これつけて、打ち合ってみようかー。大丈夫、痛くないようにいろいろ工夫してあるから」
「リサさんの笑顔が、怖い」
えー、心外なこと言われちゃった。エリナと一緒にされちゃ敵わないんだけどなー。ヴァンくんの事は可愛いけど、エリナほどじゃないと思うし。今まで怖がること、してないでしょ?
「なるほど、こういうものをつけていたから、氷漬け肉の入ったリュックが吹っ飛んだわけか。あのスピードの異常さも、確か上位の速度強化の魔法を使って、全力疾走したからって、エリナさんも言ってたし」
あー、してたっけ、1回。忘れてた。でも、それだけだよね。
「村周辺のゴブリンが容赦なく内蔵バラまいていたのもこれをつけていたから?いやいや、あれは切れ味のいい武器と、技術もあってのものだよな。
切れ味の悪い日本刀は胴体真っ2つにできないし、名刀使ってもヘボなら骨に当たって両断できないって話だし」
あれ、ヴァンくんちゃっかり襲撃後の村の辺り観察してたの?気持ち悪くて見てないと思って……狩りで内臓とか見慣れてるんだっけ、この子。普通見たくないと思うけどなー。
「ヴァンくん、そろそろいい?それ、合計10キロあるけど、動きづらかったら言ってね。軽くするから」
「ハイハーイ、エリナさんの変な目線が痛いけど、全力で行っちゃいますよっと。しかし自分の体重の3分の1とは……」
木陰でテーブルを出して書類整理をしているエリナをちらっと見て、彼は打ち込んできた。エリナ、凝視しすぎ。
この特訓は、シングのしていたものだから。昨日は昨日で、ツボに砂を入れて手で掴んで片足立ちとかやったけど、チャイナとかいう国出身の人の放浪者が教えたものだって言ったじゃない?それで言いあいしてもしょうがないし私が通ってきた道なんだから、あまり言わないでね。
「ホイ、ホイ、ほあ?」
少し打っただけで、バランスを崩してこけた。そうなんだよね。腕の重りが結構バランス悪くするからー。しかも彼は足の関節があまり動かないから、余計にきついはず。踵が地面に付かない獣人だし。同じ種族のシングが教えたことなんだけどね。
「なるほど、重りが慣性で流れるから、その流れを意識して動かないといけないか。それはつまり」
「ほらー、考えてても手が止まったら叩かれるよー」
深く思考し始めた彼を木剣で叩く。考えながら動かないと、接近戦ではやられちゃうからねー。ここは鬼にならないと。ちょっと罪悪感……。
「ならば!目覚めよ、俺の閃き!とああ!」
「はい」
「アアアアアアアアァァァァァァァァ……」
うん、いつも通りになっちゃった。大丈夫かな……?でも、もう少ししたらまたきっと、慣れるはず、だよね?
いつも通り空中でバウンド、したけどバランス取れなくて壁にぶつかっちゃった。角度が悪かったかな?あれは確か、鎧と一緒に刻印が縮んで効果が減っていたから、跳躍小さいんだったよね。なら、大きくなったらもっと強く壁にぶつかってたかも。それよりは、良いかな?
「リサぁ!あれはやりすぎだよぉ、やっぱり重いもの持たせるのはやめよぉ」
休憩時間以外は言葉を出さないっていう約束、彼女は忘れたみたい。最近やたらと応援とかしていて、声がデカいからみんなに怒られてたのに。昨日のツボもそれでちょっと言い合いになって、ヴァンくんがやるって言いだしたから通ったんだけど。
やっぱり早かったかな?なんとか話して説得しようと思ったら、
「ほああああああ!ただいま!そして第2ラウンド、カモンベイベ!」
なんかすごい音がして、上空からヴァンくんが落ちてきた。地面にぶつかる前に跳躍をちょっと使って、今度はバランス保って着地した。
「ふぇ?どぉやってきたのぉ、ヴァンくん」
「跳んで飛んでトンで回ってきた」
回ってはいないと思うんだけどー……それより、さっき飛んで行った距離を、起き上がって一瞬で詰めてきたのってどういう事だろう?
「流石、我が大精霊。森での2年は伊達じゃない!ヒャッハー!」
前に精霊と話していた作戦か何かかなー?何をしたのか、後でゆっくり聞いてみよう。でも、その前に私が息苦しくなっちゃったかな。年、なのかな?
「そろそろ休憩にしない?喉乾いちゃったし、すこーしお腹にいれたくなっちゃったなー」
多分、そろそろ彼がやってくる頃だろうし。それで彼がまたこの子にレクチャーつけようとしたり……
「え、まだやりたいんだけどなあ。できればもう一戦!」
「フム、やるか」
いつの間にか、後ろにロイがいた。びっくりしちゃった。
「え、ロイあんた珍しいねぇ。練兵場なんてあんた一番縁がない場所じゃない?」
来るだろう、と思っていたダントンが少し離れたところで固まっている。ロイが嫌いって訳じゃないんだろうけど。居るのが意外なのかな?
「フム、仕方ない。やるかクロンボ」
マネして、いつも変わるあだ名で呼んだ。この子、ロイの事だけはなんでか名前で呼ばないんだよね。本人も気にしていないみたいだけど。
「あ、その前にエリナさん、さっき渡したレーズンのカップケーキとお茶、リサさんに渡してね。1人でお腹に入れてたら、髪の毛焼くよ?」
「残してるってばぁ、半分しか食べてないですぅ」
「半分、食べたんだ……」
そう言えば昨日、焼いていたんだっけ。たまにお茶うけにメレンゲとかクッキーを、焼いてくれるようになったんだよね。厨房で習ってたのって、お菓子だったみたい。でも、なんでお菓子を習ったんだろう?
「あー、ロイの奴珍しいな。そろそろ雨でも降るかな?あいつ、いつも一人で修練しているのにな」
「そぉねぇ。それでよく強くなったなぁっていつも思うもん、あたしぃ」
ダントンがいつの間にか横にきて、エリナとしゃべりだした。珍しい。私は、彼が焼いてくれたカップケーキに夢中になってるから、勝手に話してて。
ロイがヴァンくんと打ち合い始めた。ロイはあまり攻撃しようとしていない。
「ん?それ、厨房でアイツが教わったやつじゃないな。なんだそれは」
「カップケーキだってさぁ。ティーカップくらいの大きさの、分厚いパンケーキって感じねぇ。ちょっと触感が違うのと、アレンジで生クリームとか、干した果物入れてるみたい」
「あの子の話じゃ、ケーキっていろんな種類あったはずなんだって。あんまり聞かないけどねー」
せいぜい、パンケーキとか、タルトくらいのものだし。彼それを聞いて、「なんで俺の世界のモノに共通する部分と、違う部分があるんだ?そこがおかしいよ異世界人」なんて言ってたっけ。
「そうか、1つ、貰ってもいいか?」
「「ダメ」」
「…………」
これは私たちが貰ったものだもの、欲しかったらあの子に頼めばー?
「うーん、やっぱりお茶に会うねー、これ」
渋みと甘みが口の中で溶けるって、幸せだよね。
そんな話をしている中で、ヴァンくんはロイに叩かれて、また飛ばされていた。何で飛んでいくんだろう?
「あいつ、骨とかダイジョブだよな?折れてそうな気もするが」
それは流石に……何だろう、ありそうで怖いかも。それにエリナも形相を変えた。最近、彼女は過保護気味な気がする。
「リサならともかく、ロイならやりかねないね。ちょっとあたし見てくる!」
あー、珍しくエリナが全力疾走してる。彼女、動くのもだるくていやなんていう人なのに。本当に、どれだけあの子に魅了されているんだろう。本気で弟子を恋人にしようとしてるみたい……一瞬自分と結婚する姿想像しちゃった。……それっていいのかな?
「リサ、ヴァンは獣人だよな?インキュバスとかじゃなくて」
「獣人……のはずだけどねー。なんでエリナ、あんなに一生懸命になっちゃうんだろう。気持ちは分からなくはないんだけどなー」
それにしても、ちょっと異常。まー、あの時よりは普通に見えるけど。以前よりかは確実に、彼のことに一生懸命になってるかもしれない。あれ?探しているときにも、あれくらい取り乱していたっけ。でも彼女、いつも表情がころころ変わるしな……
「ローイィィ!骨何本か折れてるじゃぁん!何やってんのぉ、もおぉ!」
あ、やっぱり骨折になってたんだ。ちょっと、治るの待たないとかな?どうせ、エリナが魔法で早めに直すんだろうけど、それでも早くて2週間とかかな。
「あー、ポキッていっちゃった。まあ、しょうがないよね。そうなることはあるものだし」
「ヴァン、お前は随分と平然としているな。痛くないのか」
ダントン、戻って来た彼にちょっと引いてる?でも、我慢強いって事じゃないのかな。
「そりゃ、前世でも何度か骨やってるし。格闘家たるもの、少しくらい骨がいってても、べそかいてなんていられないさ。という訳で、リサさんやりましょう」
「骨折れてるのにまだやるのー?今日はもうやめにしよー。悪化したら死んじゃうかもよ?」
私の言葉を聞いて、骨折で死んじゃうなんて思ってみなかったみたいで驚いてる。骨が肉の外に出たり、血液と髄液が混ざったら変な病気になることあったと思うけど。
「忘れてた!確かファラオの死因も、骨折が原因だった!」
「あ、知ってたんだー……ファラオって、何?」
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部屋へ帰ってきて、エリナに治療を受ける彼は、剣の修行1週間中止を言い渡されてしょげていた。まー、今まで頑張っていたものね。1週間は思ったより短かったけど、骨折の度合いから魔法で回復を早めてもそれくらいでほとんど異常はないくらいに治るだろうという判断みたい。でもその間、彼の相手が出来ないのは、凄く残念……なんでこんなに寂しく思うんだろう?一緒に生活しているのに。
「しかし、ロイは本当にとんでもないな。2メートル離れた位置から剣振って、風圧で押し飛ばしたとか、漫画かよ」
「あいつはいろいろとねぇ。ちょっと剣にマナを込めるだけで、岩でも金属でも、バターみたいに切っちゃうからさぁ。
あれ……ヴァンくん肌の色、黒くなくなってきたねぇ。回復傾向?」
前のお風呂場の、肌が黒くなっていた状態。あの後ずっと気になっていたけど、少しずつ、薄くはなっていた。それでも、黒いって感じはしたんだけど。
「ホントだー、ちょっとピンク色にってる。良かったー」
「いや、心配しすフギュウ」
私も肌を見て、黒い部分がなくなってきたのを見てうれしくて抱きしめてしまった。今まで、彼があの力を使うたび、気を揉んでいたけど、ちゃんと治ってきていたみたい。本当に安心した。
……彼が前足でブレストプレートを叩いている。なんだろう?少し腕の力を緩める。
「ブハアアっ!窒息するかと思ったあ!」
目を飛び出させるほどに開けている彼は、息を荒くしながら叫んだ。鎧の角が喉に当たってたのかな?
「あぁ、やっぱりリサの胸は凶器なんだねぇ……」
「エリナ、人聞きの悪い事は言わないでー」
これは、凶器じゃない……よね?うん、今のは鎧。胸じゃなくて、鎧だから違うよね。
「そういえば、エリナさんはよく着替えるけど、リサさんはいつもこの鎧だよね。ドレスっぽいけど。他の鎧とかないの?」
「あー、予備を持ってるけど、替える必要はないかなー。これ、服の部分から、鎧は外せるし、服はちゃんと毎日洗ってるんだよー」
実際に、服の部分に鎖帷子仕込んではいるけど、それも抜き取れるように作ってあるしね。……エリナが何か言いたそうな顔で、こっちを見ている。
「で、エリナさんはその服をどこで仕入れてくるんです?」
「流石ヴァンくん、アタシの気持ちわかるんだねぇ!これアタシが作ってるんだよぉ!」
あー、自慢したかったんだ。確かに、センスはいいと思うんだけどね、エリナのファッション。
でも、ちょっとやりすぎかなー?基本露出多いし、色も派手でアクセサリーは少なめだけど、主張が強い。……あのアクセサリーは刻印もされてたんだっけ?魔術詠唱短縮用の。
「ウソヤロ、エリナさん裁縫できたんか。しかも社会から浮きまくりのファッション……自作って、ウソヤロ」
何か受け止められないみたい。そうだね、大体の女性はこんなに肌を出す上着とか、ボロボロに見えるズボン、着ないしね。なんでかそれがカッコよく見えるのが不思議なんだけど、社会から見れば浮いてるんだよね。
「しかも、デニムってこの社会あったのか?あるならそれ、俺も履きたい」
「え!じゃぁ作ってあげようかぁ!」
「まさかのこれも自作とな?!まさか原料から織り、染色までとか言わんですよね?!」
「なぁにいってんのぉ!全部自分でやるに決まってるでしょぉ?とぉぜぇんんじゃなぁい!」
胸を張る彼女の当然は、この世の不自然、なんだけどね。間違わないでね、ヴァンくん。これからご飯食べて授業するんだから、エリナは服を作る準備は夜からにしてはしいなー。
「はーい、ご飯食べに行くよー。2人とも、お腹空いたでしょー?」
2人抱えていくのは、ちょっと重いかな?ヴァンくんはともかく、エリナは暴れないで自分で歩いてほしいんだけど。
精霊のボヤキ
――あんた、カップケーキ少し進化したね。形もマシになったし。でも攻撃は相変わらず温いね。特に足の角度。ちゃんと踏み込めてないから転けるのぉ――
精霊様、結構厳しい。




