11話 師事
前回:――なんか喧嘩して仲直り、ハッピーエンドー……終わりじゃない?あっそ――
「アアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ………………」
練兵場に彼の声が木霊する。
もう一週間、午前中は彼と剣の訓練をしているんだけど、こうやって飛んでいくのは何回目だろう。金属をぶつけたような音を出しながら空中で2回バウンドして、地面に転がる。
彼が鎧につけた刻印、『跳躍』の効果なんだけど……こういう使い方だっけ?確かに空中で跳ねることができるとは思うけど……普通は跳躍力上げるだけだよね。反射結界の術式でチカラの流れを操るとか、そんなのだと思ったけど。
「ヴァンくん、大丈夫ぅ?」
私たちは彼に近づいて覗き込む。多分、怪我はしていないと思うんだけど、掬い上げるように投げてるだけだし。もうずいぶん打ち合っているし、疲れてきたんじゃないかな?そろそろ休憩にした方がいいかも。
「畜生!もう一回!」
「えー、休憩した方がいいんじゃない?そろそろ疲れてきたはずでしょー」
「いや、まだまだあ!むしろ限界になるくらい疲れることで限界を越えることができるんじゃい!」
分かるような、分からないような。やりすぎて体を壊してもしょうがないと思うんだけど。
それに、彼は今、使える魔術は全部禁止にされてる。唯一、鎧に掛けた跳躍で地面の激突を防ぐくらいは使って良いことになってるけど。一応、エリナが衝撃を弱くする膜の結界を、彼の体にかけてはあるけど、それでも結構痛いはず。疲れてもいるはずだし。
「えぇー、がんばり屋だねぇヴァンくん。あたしだったらすぐに休みたいけどなぁ」
休む前に、彼女は今、眺めているだけで何もしていない。流石に大怪我でもしたら回復をかけてくれるとは思うけど。そもそも怪我をしないように気を付けているんだから、ここにいる必要はあまりないんだよね。
「頑張るのなんて当たり前。頑張ってその先に行く為には、思考することと、より大きな目標を持つことでしょ?俺にとっては早く狩りをしたいだけなんだけど、そこに行きつくには生半可じゃ無理でしょ」
……結局、目的は「狩りをする事」なんだね。ちょっとそこは分からないかなー。
「じゃー、あと1回打ち合ったら休憩ねー。私もちょっと疲れてきちゃったし、ね?」
私の言葉に彼も頷き、もう1度打ち合い始める。
彼は正直、剣士としては弱い。ホーンラビットをショートソードで突き刺したりしたらしいけど、あれは軌道が分かっていれば、結構簡単に貫けるしおかしくはない。
サーベルは切る事も突く事もバランスよく仕上げられている武器だけど、大きく振るものじゃないし、素早く器用に動ける。
狭い場所で戦うにも振りやすいだろうから、これにしたんだとは思うんだけど、彼は剣についてはほとんど知らなかったらしく、基本もできてない。体力だって子供にしてはあるとは思うんだけど、力が入りすぎている。
結果的に大振りになって少しバランスを崩して、
「はい」
「アアアアアアアアァァァァァァァァ………………」
また飛んで行っちゃった。空中で跳ねた後、壁にぶつかって、地面に落ちた。……怪我してないよね?
「どんなギャグマンガだよ。いや、ギャグマンガなら壁にめり込むか」
休憩に入って呟いた彼の言葉。何だろう、って一瞬思ったけど、エリナが思い出した。
「マンガってあれでしょぉ?絵で描く演劇っていうか、ストーリーの奴。どっかの街で、書いて売り回っている人がいたよぉ。結構下らない内容だけど、笑えるからって子供に人気になってたっけぇ」
「あ、やっぱそういうヤツいるんだね。ギャグっていうのもそういうふざけているから笑えるものの事なんだけど……」
そしたら、彼もギャグなのかな?そのまま、他愛のない話を続ける。少し前までの、追いかけまわしていたころとは違う。……未だに彼はエリナに抱っこされるのが嫌で逃げるんだけどね。
「そういえば、2人は仕事とかいいの?俺にかまってばっかりでそれっぽい仕事、全然してないよね?」
「あぁ、大丈夫。アタシ達は一等級だから、下手に下のクラスの現場をこなすと、他の子たちの生活が成り立たなくなるじゃない?
それに事務の人たちじゃ、現場でのいろいろな判断っていうのができないでしょ。下のクラスの人たちの査定とかもあるし、仕事は魔物退治だけじゃないのぉ」
「ん?今の言葉から察するに、現場の指揮者として行動したり、不正をしていないかを確認したり、より危険な場所に赴いたり、テストをしてクラスアップするための試験官をするって事?
オレツエーヒャッハーみたいなヒトばかりが上位に行くわけじゃないのか。あ、それって前世の転生ネタのものだから、結局現実は生々しい物だったりしてもおかしくない?絵面的に地味だから書類作業とかってカットされそうだし」
なんか一人でまた考えて納得してる。確かに生々しい現場とかあるんだけど。
「よく考えるねー。実際に強くないと二等級にはなれないけど、一等級は強さじゃなれないんだよー。ギルドの仕事とか、社会の事をしっかり分かっていなきゃ上がれないんだよねー」
「あぁ、アタシ達も上がるのに苦労したよねぇ。実際、今の世界最年少の一等級って、20歳だったと思うけどさぁ、それだって弟子の頃から含めて15年かかってるんだよねぇ」
別の大陸でなったって噂の一等級冒険者。それだって、偉業を成し遂げたって言われることだし。大体の人が、三等級で終わる。
「ほー。俺はそこまでならなくてもいい気がするけどね。普通でいいよ。
狩人としてなら、世界最高の肉を狩りたいところだけど。それって暗黒大陸だっけ、そこにいるんだよね?流石にそこまで行くのは無理だなあ」
もうおとぎ話みたいになっている、13神族の大陸攻略。結果的には失敗だったけど、帰ってきた人たちが持ち帰った物の中に、世界最高なんて言われるお肉の存在がある。
この子、どれだけ食いしん坊なんだろう。その最高のお肉を食べたいみたい。
「さて、そろそろ再開しましょうかね」
「えぇ、もうやるのぉ?ちょっと休憩しただけじゃなぁい。もうちょっと休んでていいんだよぉ」
そう言って、立ち上がった彼を抱き寄せて膝に乗せるエリナ……自分がダッコしたいだけじゃない?ズルいなー。あのフワフワの毛を、私も撫でたいのに。
「いえ、問題ないです。動けますから。ダッコしないで大丈夫です」
最近慣れてきたのか、騒がなくなってきた。それでも今も離れようとして力を入れてプルプル震えている。
エリナの磁力魔法に勝てるのは、いつになるのかな。少なくとも、ただの筋力だけで勝てるとは思えないんだけど。実際、張り付いたままお腹を撫でられている。
「じゃーやろうか。エリナ、放してあげてー。そのままだとエリナまで叩かないといけないからー」
不服そうな彼女は仕方なしに戒めを解いて解放する。そしてお互いに構え、打ち合いがまた始まった、と思ったら……
「え」
「おぉ!ヴァンくん、打ち込めたじゃぁん」
ニヤリと笑っている彼の木剣が、私の腹部に刺さっている。鎧の上だから、実際に当たっても怪我はないんだけど、初めて彼の攻撃が当たった。……なんだろう。背中をなんか走ったような、熱くなるような感覚もした。
「その代わりに、首をはねられていたらダメじゃなーい?まだまだ甘いよー」
少し焦ったけど、私の攻撃も彼の首元に突き立てられている。そこに目を移して、彼はうなだれた。
「くそう、もうちょっと早ければ……いや、ステップもあるのか。体が自然に動いて、ここまでやられるなんて、前世を含めて初めての経験だ。本当に甘いんだな……」
なんか彼の言葉が、ちょっと心に突き刺さる。悪いことしてる気になっちゃう……
――――――――――――――――――――――――――――
昼食を終えて、彼の午後のスケジュールになる。ここからは私はギルドの仕事をしなきゃいけない……どうしてエリナの分までやらないといけないんだろう?結構な数の仕事を、私1人でこなすのは大変なんだけどなー。で、そのエリナはって言うと、
「へー、多少は計算できるんだねぇ。でも、ここ間違ってる。それから、ちゃんと計算式を覚えないとダメじゃなぁい?式を覚えたら計算なんて、すごく楽じゃない。そうでしょぉ?」
彼の後ろから覗き込みながらニヤけている。
「うへぇ……魔法陣は緻密な計算式があるとか聞いたことあったけど、普通の術式にこんな計算が必要になるなんて………………あれ、これはどう計算するんだっけ?」
数学、文字、マナのコントロールなどを色々合わせたのが、魔術。なんだけど、私は使えないからよく分からない。ここからは、2人の時間。……なんか変な言い回しになっちゃった。ちょっと疎外感。少しため息が出てくる。
「魔法って、イメージとかじゃ無理なんだ。あ、でもスナイプとかは流体力学なんかの知識も充分あって初めてなんだっけ?そしたら、それも頭で充分計算していかないといけないのか。うへぇ……魔法なんて選ばなければよかったあ」
才能あるのに、なんて贅沢なんだろう。剣も魔法も、なんて我儘な気もするんだけどなー。
「そんなこと言ってないでぇ、ちゃっちゃと今日の分の数式の勉強終わらせて、言葉覚えないとでしょぉ?まだ文字も充分に書ける訳じゃないんだからさぁ。それを終わらせて、魔術書読めるようにならないとでしょぉ。やることたぁくさんあるんだからねぇ」
ニヤニヤしながら、彼を膝に乗せたまま撫でまわしている。彼女が教える時間には、必ずこういう状態にするのが、条件になってる。しかも、膝の上にブランケット。昼食を終わらせて、昼寝をしていないのもあって、彼はだんだん眠くなり始めたみたい。
ウトウトしながら、計算を続けている。そんな状態で、頭回らないんじゃないかなー。
「はい、起きるぅ。寝ちゃダメでしょぉ?」
「ファッ?ちくそう……魔法覚えるのに、体使った後に、頭使って、温められて、食事の後で、寒頭暖足とは……スヤァ」
「ほらぁ、起きなきゃダメでしょぉ?」
これが何度も繰り返されている。昼寝くらい、させてあげてもいいんじゃないかなー?その方が、頭がしゃきっとして回る気もするんだけど。
なんでこんなやり方なんだろう、不思議?それと、彼の毛先で精霊がぶら下がっている。なんかこんな魚いたよね?
「うあぁ……どこからか、妬むような視線が感じられる。気のせい、か?でもなんか森で生活し始めたあたりから……続いてるんだ、よな……スヤァ」
「はい、訳わかんないこと言ってないで起きるぅ。リサはそんな妬むような子じゃないからねぇ。気のせい気のせい」
気のせいだと思うけど、私が妬んでるように感じたのかなー?たまにこの子は変なことを言うんだよね。
妬むとしたら、エリナがずっと彼をダッコしていることかな。私もちょっとくらいはしたいんだけど、なかなか機会がないんだよねー。お風呂に入る時にも、自分で洗うって言って聞かないし。ちょっとくらい良いじゃない。連れないなー、羨ましーなー。
結局、夕食前まで勉強は続いて、その途中何度も彼は転寝していた。その度に起こされて少し辛そうだったけど、それはしょうがないかな?今、彼のするべきことは剣術と魔術を覚える事なんだし。
でも、私の教え方でいいのかな?彼は型にはまらない戦い方をしたいなんて言っていたから、基本的なサーベルの振り方しか教えていなかったんだけど。
あとは毎日、基本を繰り返した後に打ち合い。昼食をしてから、勉強。少しづつ、両方を覚え始めているみたいだけど、それでも時間をかけないと慣れないだろうし、これが何年か続くのかなー。
「ハー……こんな勉強の方法、聞いたことないよ。なんでこんな方法なのさ」
「えぇ?これ、あたしもされた勉強方法だよぉ。おかしくないでしょぉ?」
「私はされなかったんだけどなー。なんでこの方法なのかな」
やっぱり、エリナがちょっとおかしな方法をとっていたみたい。何か狙いがあるのかなー?もしそうだとしても、ちょっと、眠りかけている状態で教えるのは、意味ないような気がする。多分だけど、覚えきれないんじゃないかな?
精霊のぼやき
――後ろ重心のカウンター狙い?今までもそんな感じだったけど、それじゃ攻撃するとき、大振りになるのあたりまえじゃない。もう少し重心を前にしてバランスよく。相手の胸元見れば全体が分かりやすいってのは、大体身長が同じくらいである場合で、あんたの場合お腹辺りを……――
精霊さん、何故あなたは接近戦闘に詳しい?




