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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
師弟の狂詩曲
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12話 グチグチ

前回:――午前中、ゴルフ。午後、肉布団。これが修行。え、ホントォ?――

「そういえばさぁ、ヴァンくんの前世の話ってちょっと聞いただけで全然話さないけど、どんなものだったのぉ?」

 ギルドの酒場で夕食を食べているときにエリナが突然そんなことを言いだした。


 これまで彼には、森でのことや集落でのこと、赤ちゃんの頃にあった記憶なんかも聞いていたんだけど。前世の話はほとんど出ていない。

「捻くれる原因だからなあ。あんまり面白い話はないよ?あえて面白い奴を演じて、対人関係修復を狙ったことはあるけど」

 渋い顔をしている。どうしてなんだろう?そんなにひどい世界だったのかな?


「どんな状況よ、それ?」

「単純に、目の敵にされることが多すぎたんだよ。だからふざけて笑わせるのが処世術の1つだったのさ。そうでなきゃ、何か悪いことをしていたっていうのでもなく、他の奴より浮いてるっていうだけで攻撃的な言葉や嫌がらせが来るんでね。

 例えば、何か問題を起こしたり、悪さをしている奴がいたとして、注意したとするだろ?そしたらそいつがマジ切れして殴りかかってくる。それをかわして、適当にいなしていたら、気が付いたときには俺がそいつをイジメていると騒がれていた、とか」

 どんな状況だろう、それ?注意したことが悪い事みたいになっているけど、彼に問題はなかったのかな?言ったことが我儘だったとか。


「注意の内容も、学校で授業しているんだからおしゃべりは控えようにって言葉だったりね。あとは静かにボーッと座っているのに、話さないのが気味悪いし、何に怒っているのかわからないとか。

 あ、前世の国じゃ、学校行かない方が異常者のような扱いだったから。学校に行くのは普通なんだよ。行かない人の場合、物凄く心に負担がかかってたり、何か問題を抱えていた感じでね」

「随分裕福な国ねぇ。学校なんて、いけないのが普通じゃない?どうしてそうなったのよぉ」

 どこからどこまでが、普通なんだろう?ちょっと疑問。少なくとも、学校っていうものがない国が多いのが、この世界の普通なんだけど。あるのは比較的大きい国。この王国にも、一応はあるんだけど。


「そうだろうけどね、世界規模で技術が高まって、先進国なんかはほとんどが、そういう状況にはなっていたんだよ。って言っても、一番の大国でも地方によっては、すごく閑散とした場所だったりするから、学校なんてなくて、通信教育だったり家庭内教育で終わらせていることもあるんだけどさ。

 俺の国の人は『この世界で学校に行かないやつなんているはずがない』なんて考える奴が普通にいる感じだったね」

「それはさすがに無いんじゃぁ……国によって偏りは普通にあるもんでしょぉ?」

 どうなんだろう?実際に進んでいる国は進んでいるけど、じゃあどれくらい違うのかって言われてもよく知らないし。


「世界自体はともかく、社会が成長しきってもうこれ以上成長できないってくらいにまでなっていたんだ。国の中なら、勉強できないのはあり得ない。

 ただ、それは必ずしも幸福につながるとは思えないけどね。学校の中で意味なく吊るし上げられる人がたまにいる。俺もその1人だ」

「不幸自慢みたいねぇ。確かにそれは面白くないわ」

「自慢したいんじゃないけどね。吊し上げは、俺は多く受けている方だと思う。最初選ぼうとした仕事も警察……つまり騎士とか衛兵のような役職なんだけど」

 あれ、意外とお堅い職業選んだんだ?騎士は国に使えるものだし、衛兵は有志で集まった街単位の青年団が大きくなった存在だけど。

 この子、小さい時にちょっと聞いていたみたいだから私たちがした説明は少なかったよね。でも、全然興味持ってなかったけどなー。


「入ってすぐ痴漢冤罪、つまりやってもいないのに、女性に性的暴行をしたことにされて、そのまま首。

 しかもこれ、すぐに疑いは晴れたのに取り消しにならなかったんだよね。犯人は俺のすぐそばにいたのにどうしてそいつを……なんて言われて。

 その後、建設関係の仕事をやったけど、そっちでもやり始めてすぐ意味の分からないクレームを受けて、そのまま他の人の責任も乗っけられて首。連絡したとはいえ約束の時間に遅れた俺が悪いって事で反論できない部分はあったのだけど。身に覚えのない罪を着せるのはやめてほしいよね」

 やってもいない罪が重なって、痛い目見たんだ。悪くないのに悪者にされるのは確かに嫌かな。あれ、なんか今までも似たような事になってなかった?


「家庭関係はどんなだったのよぉ、まさかそこまで最悪とか言わないよね」

「家庭の事を分かりやすく言うなら……うん。テーブルに果物乗ってるよね?ちょうど4個。」

 なぜか、彼はテーブルにある果物を指さし、


「前世で3人姉弟だったんだけどね。これを3人で分けるとしたら、どういう割り振りになる?」

 なんて聞いてきた。それは、1人1個取って、残りをどうするかって事でいいんだよね?


「うーん、あたしは別にいらないし、ヴァンくんは成長期だからあげちゃうけどなぁ」

「いやいや、流石に……」

「そーだねー。私のもいいよー、あげちゃう」


 彼の前に、赤い果物が4個並んだ。それを見て、固まっている。何故か少し目が潤んできて、

「こういう優しさを、前世の家族に分けてやれるならな。いや、この人たちが家族なら、かな?……無理か。それにもう関係ないし」

 何か呟いてる。なんだろう?私たちが家族なら……それは悪くないかもしれない。随分離れた弟になるけど。


「前世だったら、どうだったのよぉ。やっぱり、1個づつにして最後の1個取り合いとか?切り分ける?」

「いや、こう」


 彼はそれだけ言って、私たちの方に2個づつ押し出してきた。それってつまり……?

「俺のは()()()()()()()

 姉弟の中でもそういう扱いだったんだよ。不服を訴えれば母親に叩かれるし、何かを望むのが間違っていると言わんばかりに、お願い事は聞いてもらえなかった。

 服や靴も俺だけお下がり、姉と弟は新品。キツくなってきても欲しいと訴えれば殴られ、気づかれて黙ってた事を殴られ。やりたくない習い事は押し付けられるのにね。

 扱いも、木偶の坊だ、無能だ、邪魔なだけの無駄な存在だ、って言われるようなさ。姉弟はできる事同じなのに、なぜかべた褒めだったけどね。どれだけ汚い絵をかいても、姉弟は芸術、俺はきれいにかけても、ゴミのような落書き、みたいに。まあ、実際俺も上手い訳じゃなかっただろうけどね。

 友達に似たような境遇の奴がいてさ、そいつも捻くれていて気が合ったから、いつもそいつの所に逃げ込んでいたね」


「なにそれ、そんな親いる?普通有り得ないんじゃなぁい?」

 流石にちょっと不快感が募ってくる。聞いてて気持ち良くないなー。

「たまにいるもんだよ。俺はそこまで不幸っていうほどのモノじゃないし。本当に不幸なら、子供の時に虐待で、死んでいてもおかしくないんだから。ただ、そういうクソガキが、俺の母親なんだ」

「ヴァンくん、いくらアタシでもその言葉は納得できないよ。親の事を悪く言うのは人として最低だと思う」

 エリナは腕を組んで怒った様子。そうだよね。産んでくれた人を悪く言うなんて、その人が悪いじゃない。


「うん、その最低の人だから言ってるんだよ。なにしろ、自身の親を糞ババアって呼ぶような人が俺の母親だ。

 自分が親を糞と呼ぶのは世界基準の普通で、自分が生んだ子供に糞と呼ばれるのは異常と叫び殴り掛かる、矛盾したクソガキ。それが前世の母親。

 始末に悪いのは、俺の姉にその性格がうつったって事だね。しかも攻撃対象が俺から変わっていないから余計にね。大人になってから、ほとんど関わっていないよ。冠婚葬祭くらい、だったかな?」

 ……ナニソレ?


「えぇ、流石に信じられないかなぁ。ちょっと記憶見ていい?」

「え、何をいって……あああ!やめてえ!」

 エリナったらいきなりつかんで頭に術式書き込んだ。その人の記憶を光の粒子にする魔法だ。便利だろうけど、あまりやっちゃダメなんじゃ?


「どれどれぇ……って、すれ違っただけでいきなり蹴られるところから?しかも嗤ってる……え、飼い犬も蹴るの?これは……えぇ……姉弟はべた褒めもホントみたいだし…………母親の記憶だけ引き抜いたけど、小さい頃は優しくされてるところほぼないねぇ」

「何で記憶見えるの……精霊の嘘を見抜けるチカラの意味って、いったい……」

 それは……なんて言えばいいんだろう。家族なのに、どうしてそんな仲悪くなっちゃうんだろう。普通じゃないよね。流石にこれには、エリナも目を白黒させている。どうしたらいいのかな?


「結局、この世界での親が、溺愛してくるヒトたちだったから、前世の捻くれた感情は多少矯正されたんだろうけどさ、前世ではその家族由来の精神的な病気で、吊し上げにされやすかったんだ。

 あとは、運が悪かったとしか言えないね。最終的には日払いの仕事とかを転々としていたし、その仕事だって、場所によって首、閉店、人間関係のこじれと、いろんな理由で辞めていったよ」

 確か、一族みんな反応が派手で、父親は特に凄い反応していた、だったかな?


「精神的な病気って、何よ」

「スキ……なんだったかな?大人になってから医者にそう言われた。つまり、表情とか感情がほとんど変わらなくて喜ばないし、独りぼっちを好む。他人といる方が不安で、社会に溶け込めない人。そう言われたし、実際そういう所があるんだ。ほら、武器屋のオジサンも似たような感じでしょ?」

 そんな病気知らないけど、似ていると言えばそうかもしれない。それを言ったら、ロイだってそうなんだけど。あれ、そしたら結構そういう人多いのかな?


「だから、さほど偉そうに不幸とかいうのも間違っているんだよね。もっと不幸な人なんていくらでもいる。そういう人からしたら、妬まれる対象だったりすると思う。

 比べたい訳じゃないのに、家族のことを正直に話すと必ず反感を買うから。何でも、どんな時でも、正直に話しても嘘つき呼ばわり。

 それもあって、前世の子供の時に絶対嘘はつかない、代わりに証拠でもなんでも集めて真実を突きつけてやるなんて、変な考えが自分についちゃってさ。それが警察になりたいって考えた理由だったんだけどね」

 そういう人生だったんだ。なんか不満そうな顔。今の姉弟達の事は楽しそうに話してたのに。妹がクールなのに甘えん坊とか。


「じゃぁ、結婚とかどうだったのぉ?してたんでしょぉ」

 してた前提なんだ。さっき人といるのが不安、って言ってたから、してないんじゃないかと思うけど。

「一目惚れとか恋とかしたことはあったけど、いつも手を伸ばした時には遅かったり、或いは例の冤罪で嫌われたり。恋自体そんなにしなかったしね。逆に気に入られて、結婚迫られたことはあったけど」

「お、それってどういう状況?どんな出会い方したのよぉ」

 エリナ、この手の話になるとホント元気になる。


「クマ殴って、子供助けたのに俺にイチャモンつけてきたのが出会いだね。前の旦那とは、喧嘩別れだとかいってる子連れ」

 事も無げにお肉を頬張りながら、しれっとした顔で話す。でもなんかおかしなことを言わなかった?


「クマって?」

「え、ベアーって言った方がいいのかな?」

「あぁ、ブラウンベアとか?」

 え、そこかな?おかしかったのはそこじゃないよね。


「そそ。ベアがそいつの子供食べようとして、森に引きずっているのを止めるために殴りかかって、追い返して助けたと思ったら、『命を冒涜している、自分の命をなんだと思っているのか』なんて、周りの連中と一緒に俺を攻め立て始めてさ。

 子供を差し置いて、他人のバッシングに集中しているのが母親なら、子供を助ける意味なんてなかったのか、自分の子供をそんなにベアに食わせたかったのかなんて言ったら、いきなり顔が青くなって」

「そりゃぁ、子供のそんな姿を見たくないって事じゃ?」

 そうだろうけど、私だったら子供の方の心配で気が回らなくなるかも。周り見えなくなりそう。他の人の事、気にしてられないかな……普通そうじゃない?


「で、手当てしようとするやつが誰もいないから、俺が簡易的な処置をして病院に担ぎ込んで。

 実際俺も多少怪我していたし、そのまま治療されたと思ったら、警察が来て聞き込みの為に数日拘束、お説教喰らったね。

 その間にネット……通信用アーティファクトみたいなもので掲示板とかに、そのでき事が国中にばらまかれて、国中から非難集中。

 しかも警察以外は怪我した子を無視して、俺を悪人に仕立て上げていたんだよね。その時の仕事も首になったし。

 その後少ししてから、その親子が俺の所へ会いに来て言い出したのが、結婚してくれだったんだよね」

 ……誰も誉めてない。彼がやった事って冒険者がしてる事と同じだよね?それに……


「なんか最後、急に話が飛んだねぇ。ていうか、人助けしてそんなに悪者みたいにされたのぉ?」

「野生動物をイジメるのは悪人、っていう風潮が世界基準であったからね。そういう意味なら悪人だよ。ベアによるニンゲン狩りを邪魔したんだからさ。

 話が急に飛んだのには俺だって驚いたよ。子供が『あの人がパパがいい』なんて言い出したらしいからさ。だからって、急すぎるだろ。

 で、何故かそいつの両親に会うことになって、その後、俺の両親が同席することになり、合流した瞬間『金が目当てなのか、このアバズレ』なんて、俺の母親と姉が騒ぎだして大混乱。俺に金なんてなかったのにね。

 最終的に結婚だのの話が進む前に、事故で死亡。幸福っていうものは、なんでか手を伸ばすと俺の元から消えていく、そんな人生だったんだよね。はい、ごちそうさま」

 話し終わると同時、食事を終えた。ずっと愚痴だったけど。


「でも、幸せなこととか、あったんじゃない?ずっとそういう人生じゃないでしょ?」

 そうだよね。じゃないと、納得できない。誰だってそうじゃない?


「あー、1人旅したり、誰もいない映画館で映画を独占したり、ゆったりと邪魔されず食事をしたり、その時は、幸せな感じはしたかな。

 あとは、犬になぜかすごく好かれた。飼ってた犬も俺の足元から絶対離れないような感じだったし。そのくらい?あ、波風が立たない独り暮らしが幸せともいえるね」

 聞いて後悔した気分になる内容。さみしくないのかなー?私だったら絶対に耐えられないけど。


「あぁ、旅とかは好きなんだ。それならいつか旅してみようかぁ。犬に好かれたのって、種族的に近いからとかじゃなぁい?」

「いや、前世は並人な感じなんだけど……ていうか、獣人とかエルフとかいなかったから」

「え、複数の種族の雑種が並人でしょ?他の種族がいないのって、おかしくない?」

「ファ?」


 あれ、なんか固まっちゃった。どうしたのかな?何か変なこと言った、私?


精霊のぼやき

――前世の内容には一部作者が経験、或いは実際に見たものが含まれています。しかし、ほぼ全てフィクションです。熊殴るとか、絶対無理だしね――

 メタい……

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