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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
師弟の狂詩曲
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9話 内輪揉め

前回:――金髪酒豪らしいね。それにしても、犬に間違われるって……プッ――

 ギルドに戻ってきたら、ロビーで人だかりができている。騒ぎがあったみたい。よくわからないけど、無視できないよね。特にエリナは責任者だし。


「ちょっとぉ、何があったの」

「くっ、よりによって!なんで俺のオヤジが国外追放なんてなるんだよ!あんたのせいだぞ!」

「ケンジ、またあんたぁ?最近騒ぎ起こしすぎよ。少し頭冷やしなさい」

 ケンジくんがまた何か問題を起こしたみたい。顔を真っ赤にして怒っている。


 冒険者になったころはそれなりに優秀で、人受けもよくて多くの人が好意的に見ていたのに。彼が不正な奴隷狩りに参加して、ヴァンくんに返り討ちにされたころから荒くなった。

 その前にも、徐々におかしなところを感じていた人もいたみたいなんだけど。結局彼は、父親がまとめて受けることに片付いたみたいだから、実質処分なし。ちょっと納得できないけどね。


 周りにいた人の話を聞いた限りだと、仲間同士で口喧嘩をしていたみたい。その内1人が昨日のお父さんの事で攻撃をしてきた、とか。それで熱くなって、殴り合いになったそう。ロビンくんが倒れているから、多分彼が言ったんだろうと思う。


「それで、アタシ達に何の関係があるのよぉ。アイツの不正の証拠は充分そろっているし、証人だっていくらでもいる。それに、アンタらのケンカにアタシもアンタの親も関係ないんじゃない?八つ当たりしないでくれないかなぁ」

「関係ない訳ないだろ!人狼がケンカの原因なんだから!」


 また、言っちゃいけないこと言った。その言葉が出るたびにエリナが本気で怒ってるの、分かってるのかな?奴隷にするか、人狼として処刑するしか、彼らには考えがないみたいだし。


「確かに狼だけど、この子ぉ、わるい子じゃないんじゃない?かわいいんだから、殺しちゃダメでしょ?」

「かわいいかどうかは関係ないだろ。それにエルフ2人が抱えちゃってんだから奴隷になんかできねえよ。しかもフェンリルの子供って言ってたろ?魔法使うって話だし、首輪させたらもったいないんじゃないかー?」

「それある。奴隷に魔法は使えない、常識だな」

「人狼だったら逃げないで追っかけてくるのに、そのくらいの常識もないなんて冒険者失格よねぇ」

「それ。逃げ回る人狼なんてバカみたい。しかも逃げる時、相手にイタズラしていくってんでしょ?ウケルよねー。ほらあれ、氷で像とか作れるんでしょ?」


 なんか、周りにいた人たちが一気に話し始めた。彼に聞こえるように。声を出したのはある程度は獣人に対して理解のある人たちだけど、その割合が多いのは冒険者くらい。他の場所でなら、獣人は殺すべきって声の方が多くなりそう。それにしても、みんなトゲがある言い方だなー……


「ちょっといいかなあ?なんかみんな獣人嫌いって感じで思ってたんだけど、そもそもなんで嫌われてるのさ?少なくとも俺は、ほっといてくれれば、攻撃とかすることないよ。1人で平和に暮らしたいだけ」

 ヴァンくんの声に、一度ギルドが静まる。彼の問いに答えたのは


「決まってるだろ!戦争を起こす種族は踏みにじられるか、絶滅すべきなんだよ!それ以外の何がある!」


 ケンジ、それは違う。この国の人は、みんな獣人が戦争を起こしたって考えているけど、

「過去100年の内にあった大陸内での4回の戦争。その発端に獣人が絡んでいるのは確かだけど、彼らから嗾けた訳じゃ無い。

 この国がやった戦争の2回共、不当な扱いに怒った獣人たちが反発したものだし、戦争になるよう誰かが細工していた証拠も見つかっているの。誰かがやった、までしかわかっていないけど。

 獣人がやったにしてはおかしい事。獣人ってね、手先が器用じゃないの。細工した証拠っていうのも、手先が器用じゃないとできない仕掛けばかり。だから獣人のはずがない。そういうことを学んでいないの?」


 今、この大陸にある国は4つ。以前はもう少し国があったのだけど、4回の戦争で和平と征服が行われて、今の情勢に行きついた。

 今、私たちがいるここ西の都ノーザンハルスも、もとはと言えばハルス国っていう国の領土だったのだし。その国の、北部にある大きな町を征服、開拓したのが、この街。元首都は……


「そしたらさあ、ここで俺が大暴れして戦争が始まったら、また獣人のせい、って事になるんだよな?

 あ、もう一度言っとくわ。俺は平和に生きたいの、攻撃してこなければ、何もしない。言ってる意味分かるよな?」

 ……うん、誰だってそうだと思う。攻撃するかは分からないけど、誰だって平和に生きたい。私たちだってそうだもの。


「だからって、獣人が悪くないってのかよ?」

「勝てば官軍負ければ賊軍なんて、よくいうものだな?実際には勝者の都合よく書き換えるだけの事なのに。歴史は真実とは限らないよ。

 獣人が戦争の原因というのは、妄言かもしれないって考えを持てないのも残念だね。エリナさんの言うことが間違いの可能性だってあるけど、少なくともいえることはある。

 戦争を起こした時点で、両者とも『悪』なんだよ。人を殺すのは、良い事なのか?でもそれが、戦争だろ?」


 言いたいことは、分からなくはない。正しいとも思えないけど。彼は随分とひねくれている。この数日話している限り自覚は、多少あるみたいだったけど。


「誰だって、意味なく殺し合いしたいわけじゃない。

 でもお前のそれは、殺し合いを推し進める言葉なんだよ。お前が俺に殺されかけたり、『イチモツ』砕かれたりしたのも、俺に攻撃し続けたり、毒の矢を放ったのが、原因だろ。俺が追いかけられる原因も、スラムで奴隷狩りが行われていたからだろ。俺が自分から攻撃したんじゃない、攻撃されたから、迎撃したんだ。

 それなら、悪いのはお前だろ」

 彼がしゃべってる最中、一瞬ケンジくんの顔色が蒼くなった。それでもすぐに真っ赤になってきて、


「なんで俺が」

「認めろよ、サイコパス。自分がただの殺戮狂になっていることに。自分の行いが、自分を苦しめる結果を生み出したことに。

 お前らが何もしなければ返って来なかったものを、意味なく攻撃したから、返されたんだよ。お前のオヤジもそうなのか?よく知らんが、俺を殺すことに躍起になってたな。必要のない決闘を仕掛けて、出来るなら殺させようとしていたんだろ。ロイの奴は、遊ぶ感覚で勝負持ちかけたんだろうけどな」

 彼、その事に気付いていたの?ならなんで、決闘で受けたんだろう。意味がないって、わかっていて。


「昨日の事だけで首、なんてのはちょっとやりすぎだから、またぞろ何か不正していた、ギルドの金をちょろまかしていたとか?なんかやってたんだろ」

「してない!」

「なら、証明しろよ。口先だけで騒いでいても、3歳児のわがままで終わりだろ。そんな言葉、誰も聞きはしないぞ?

 自分の異常に気付かず、認めず、周りの言葉を理解せず、自分の妄想を信じている内は、ただの弱虫だぞ?


――『そんなはずない』」

「そんなはずない!っ?!」


「そんな言葉は通じない。実際、見たままの事を受け入れたくないから騒いでるだけだろう。

 真実は、非情で無情で激情を伴う悪辣なものなんだよ。やさしさなんて、そこにはない。心が弱いから、それを見るのが痛くて辛いから、逃げ道として『誰か』に八つ当たりしているんだろ。


――『なんでそんなことがわかるのか』」

「なんでそんなことわかる……ぁ」


「簡単なことだよ。前世の俺も、人の気持ちが解らない人間だった。でも、学んで考えて、行動をよく見て、発言をある程度理解して、分かるようになったんだ。多少、だけどね。

 だから俺はお前の言葉を予測した。魔法なんて、これっぽっちも使わずに、ね。


 証明も何もできないなら、指を咥えて見ているんだな」


 ……え、今の魔法使ってなかったんだ?時の魔法か何か使ったのかと思ってたけど。それに、彼らの言葉の応酬、というより、ヴァンくんの独り語りを見て、ギルドの人たちは唖然としている。

 そういえば、昨日もこうなってたっけ。ロイが手加減してたけど戦いでも似たような状態だったし。転生者だからと言って、みんながこんな風に育つなんて思わないけど。


「お前、随分しゃべるんだな。何かいいことでも……ダッコされてるからか?」

 ダントンが茶化してきた。珍しい。ううん、単にびっくりしているだけかも。私も彼がこんなに喋るとは思わなかった。


「何も考えない訳じゃないけど、お喋りっていう性格でもないよ。ただ、あまり人と喋りたくない性格だけどね」

 なんで喋りたがらないんだろう。さみしくないのかなー。それに、割りと喋っている方だと思うけど。考え方がちょっとわからないけど。


 ケンジくんは彼に言い負かされたというか、一気に言われて頭が追い付かなくなったみたいで、震えながら顔を青くしている。なんで、ケンカなんかになったらしいけど、それはどうなったのかなー?


 結局、その後ロビンくんが起きて話を聞いてみたらただ仕事でうまくいかなかったことを擦り付け合っていただけみたい。本当に、やってることが子供みたい。


「おう、ガキ。ちょっと、良いか?」

 ロビンくんとケンジくんがエリナに説教されている間、私の腕に移動して……させられたヴァンくんに、料理長が話しかけてきた。


「今?大丈夫かな、エリナさん説教中だけど。移動したら発狂とかないよね?」

 うーん、私に聞かれてもちょっと困るかなー。多分無いと思うけど。腕の中から顔を向けてきてるけど、返答に困っちゃうかな。


「いや、ここでいい。お前が朝作ったっていう料理、頂いていいか?作り方は何とか分かったし、ちょっと手を加えれば結構な量作れそうでな。ただ、卵はいかんせん量が確保するのが難しいんだがな」

「それは別にいいよ。俺が作った創作料理じゃないし、同じ世界から来た人なら、覚えていてもおかしくないしね。……あれ、これって?」

 なんかちょっと首を捻った。なんだろう?


「おう、それならいいんだ。またなんかあったら教えてくれよな!」

 彼の返事に気をよくして、料理長は厨房へと帰って行った。……なんだったっけ、小麦粉捏ねたやつ、料理長に教えてくれないかな?あれ、生地が結構モチモチでおいしかったし。

 それにちょっとづつだけど、彼の事をみんな認めてくれてるのかな。獣人は大体が奴隷にされて、暴力を受けながら働かされてるけど、奴隷じゃない彼と仲良くなってくれれば、きっと……


「あーもうホンット嫌になる!なんであいつらここ数年でこんな堕落したのかなぁ」

「おかえりー、さっさと部屋もどって、お茶にでもしよう」

 説教を終えたエリナが戻ってきた。さっきの料理長の話、してみようかな?と思ったんだけど、


「ああああ!もうヴァンくん、ホント癒されるぅ!……あぁ、干したお布団のかおりぃ」

「ぎゃあああああ!またそれかい!ていうかそれは焼け焦げたダニのカホリィ!」

 私の腕からヴァンくんを抱き上げた瞬間、一気に表情が変わった。逆転した、って言った方がいいのかな?それより、あれってダニの匂いだったんだ。ちょっと意外。だけど、虫が焼けると香ばしいにおいがすることあるから、そうなのかもしれない。……ちょっとやだなー。


「もー、いいから行くよ。ヴァンくんを教育しなきゃいけないんだしさー」

「あ、その前に、今の内に冒険者登録しないとね」

 そう、教育はすぐにでも始まる予定。その前に、冒険者登録、正確には、弟子としての登録をしなきゃいけない。


「あぁ、めんどくさいなぁ。事務処理とかこの世から無くなればいいのにぃ。なんでこんな事しなきゃいけないのぉ」

「エリナさん、そんなこと言っちゃダメです。この世において、事務処理を怠るとどれだけクッソめんどくさい事が起きるのか、わかってるんでしょ?それに、責任ある立場なんだから頑張らないと。ほら、シャキッとしなさい、代行でしょ?」


 ……エリナが教育されるんじゃ、無いんだよね?ヴァンくんこの世界の事、そんなに知らないはず、だよね?……2人の立場、逆転してない?


 よく分からないやり取りを見ながら、ギルドマスターの部屋へと向かう。

 今回はいろいろあったから、普通とは違う登録になる、と言われた。……この2人のやり取りが、既に普通じゃないけど、ね。大丈夫かなー?


――――――――――――――――――――――――――――


「クッソ、あのガキ。バカにしやがって!」

 ケンジはまだ根に持っているみたい。でも、あの子もロビンも悪くないと思う。だって、ロビンがお父さんの事を言ったのだって元はと言えば彼が、


「あの子がエルフに捕まって弟子になったからって、キレすぎでしょ?あんたが弟子になれなかったの知ってるけどさー?それとこれは関係ないじゃん?」

「マリーいい加減なこと言ってんじゃねぇよ。俺は別に根に持ってなんて……」

「でも、それならあの子と自分を比較しなくてもよかったんじゃない?」

「うるせぇ!そんなことしてねぇよ!なんだよ、ソーリまで……」


 嘘。実際に自分で言ってたじゃない。自分は頼んでも無視されたのに、あの子はなんで~とか、自分はあの子より強い~、とか。

 ロビンだって、4人がかりで何とか毒の矢を使って瀕死にしたくらいで、実戦としては負けてたのを理解していたし。

 負けて川に沈んでいるところを、運良く他のチームに見つけてもらってなければ死んでいたはずなのに……。

 お父さんの事だって、攻撃したっていうより、不正で捕まったんだから獣人とか関係ないって言っただけだったし。どうして、こうなっちゃったんだろう。


「とにかく、あんたちゃんとロビンに謝んなさいよ?これ以上やってられないよ」

 それだけ言って離れていくマリー。私は、どうしたらいいんだろう?

 昔は4人仲良くて、ずっと一緒に頑張って来たのに。ロビンとマリーが恋人になったあたりで、ちょっと関係は変わったけど、それでもずっと一緒だった。

 気持ちも、少し違っても同じ方を向いてるって信じていたのに。


「クッソ、なんで俺があんなガキに劣ってることになるんだよ!」

 ……多分だけど、もうあの子は彼の数段上にいる。魔力だって子供にしては異常に高いし、素早い動きと偽物と分かりづらい幻覚。術式だっておかしな形だってマリーも言うし、私も思う。それに接近戦までやるみたいだった。

 噂が本当なら精霊の助けがあるんだろうけど、それでも地滑りなんて起こすのは、魔法だけじゃないはず。きっとすごく考えていたんだ。


 それに、さっき色々喋ってた中に、彼を慮って厳しく言ってるような言葉もあった気がする。遠回しで、彼は嫌味にしか取れなかっただろうけど。

 ケンカの原因だって、強い敵になると逃げ隠れするのに、子供相手に張り切って殺しにかかる彼に、私とマリーが怒った事なのに。それを正当化してたじゃない……昔は勇敢だったのに。


 ……いろいろ言いたい。でも、言われたら嫌いになっちゃうかな。…………それは、やだな。


 何も言えないでいる私に業を煮やした彼は、苛立ったままギルドの外に向かっていった。今日はそのまま、帰ってこないかもしれない。


精霊のボヤキ

――あんた、パスタってやつ、絶賛されたじゃない?厨房に教えれば?――

 え、あれどっかの国であるんだったよな?

――あんたのイメージしてるのと違うから。小麦粉練って刀剣で削って茹でるの――

 トウショウメン?!と言うか、何故知ってる、大精霊!

――それなりに有名だしねぇ――

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