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フェンリルの挽歌~狼はそれでも狩りがしたい~  作者: 火魔人隊隊長
師弟の狂詩曲
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8話 ワンワン

前回:――ちょっとステータスが強いからって取り乱しすぎ――

 下層街の北東部、都の中で工房が集中しているブロックの一角。

 私たちの懇意にしている、武器防具を扱う工房までやってきた。少し古めかしい石煉瓦造りの壁は、木製の看板と柱がツタで囲まれて一見すると廃屋のようにも見える。


「らっしゃい。久しぶりだな、嬢ちゃんたち」

 抑揚のない口調で話しているけど、上機嫌みたい。工房「ガルベージ」の店主のドワーフのオジサン。


「ちょっとぉ。同い年なんだから嬢ちゃんはやめてって言ってるじゃなぁい。ホント相変わらずだよねぇ」

「けっ。年を取るごとに見た目の年齢が離れていくお前さんらを見てたら、自分の方が年上って感じちまうのも分かれ」

「え、これドワーフ?髭なし。身長150くらい?思ってたよりでかいような。でも髭なし?同い年って、何歳くらいなの?」

「は?何だ、この犬。骨食うか」

「オオカミだあ!骨じゃなくて肉でお願いします!」


 いきなり馴染んだ?オジサン、人付き合い好きじゃないと思ったんだけど……もしかして、動物好き?いつの間にか本当に骨だして、ヴァンくんの顔の前で振ってる。それに反応して、ヴァンくんはシッポふって、骨追いかけちゃってるし。


「この子の装備お願いしたいんだけど、良いかなぁ?サーベルとライトアーマーなんかが欲しいんだけどさぁ」

「ガキがいっちょ前に装備だ?なんだ、お前ら。弟子は取らないんじゃなかったのか」

「何それ、聞いてない」

 エリナの要望に、オジサン余計なこと言っちゃってる。


 確かに格好つける為だけで弟子志願してきた人とかを追い返す目的で言ってたんだけど。弟子志願者ってほとんどが貴族とか騎士希望で、しかも私たちの弟子って肩書きだけ貰えればいいって人がほとんどだったみたいだし。


「まぁ、細かいことはいいじゃなぁい。とにかく準備して、この子を教育したいのぉ」

 いつの間にか骨をかじってるヴァンくんを抱え上げ、アピールしている。装備は主に接近戦用のものだし、準備に時間かかるよね。他に必要なものだってあるんだけどな……先にそっち買ってからでもよかったんじゃないかな?


「あー。獣人用の防具だったら、1つだけ出来合いのがあるぞ。これでいいだろ」

 オジサンはカウンター裏の倉庫に入って、1つのライトアーマーを一式持ってきた。けど…………


「いや、これ大きいから。俺は子供で」

「いいから、ほれ。つければわかる」


 どう見ても大人用の簡易的な籠手と胸当て、腰当、脛当て。

 もう少し正確に言えば、足は膝当て(ポリン)足鎧(サバトン)を兼ねたグリーブ。|

 籠手ガントレットは前腕から肘まで覆うもの。

 胸当ても、簡易的に首と背中も守れる形で作ってある。首周りの構造から、頭部を守るヘルムが格納されてるのかもしれない。


 その内の籠手(ガントレット)の1つをオジサンが彼の腕につける。

「れ?縮んだ。まさか、呪いの装備で一生外せないとか?いやー!」


「そんな訳ないでしょぉ。これ、大きさが変わるように伸縮術式がかかってるのねぇ。それに、マナを流すと自然と壊れた所が治る仕組みみたい。

 でもこれだけ刻印(エンチャント)されてると、あんまり他の刻印できそうにないかなぁ。何製なの、これぇ?」

「あ、エンチャントだったんだ。あれ、そしたら俺もエンチャントされているし、魔法生物?違う、了解」


「オリハルコン合金だ。だが、この配合は見たことない。誰がやったのかは知らないが、なかなかの出来だ。刻印についても少し余裕があるみてえだから、打てるものなら打ってやるぞ」

「おいおい……、オリハルコンとか普通に出てきちゃっていいのかよ…………あれ、でも誰かがオリハルコンは、実は鋼鉄とかなんとか言ってたっけ?ならいいのか」


 2人の会話の間にヴァンくん1人でなんかいろいろ反応して、変なこと言ってる。2人はあんまり気にしてないけど、この光景、ちょっとおもしろいかも。しかも彼、1人で装備を着ている。自分で着る事ができない鎧もあるし、重いと倒れたら起き上がれないなんてこともあるけど、これならそんなこともないかもしれない。


「じゃぁ、どれにしようかぁ。防御のが良いかなぁ」

 刻印の種類を選ぶみたいだけど、今決めなくてもいいんじゃないかな?選ぶだけでも時間かかりそう。


「これだね。下手な攻撃は防御するより避けた方が早いし、氷で盾なんかも作れる。結界や隠蔽なんかを大精霊がやってくれる。それなら、攻撃や移動に使えた方がいいでしょ」

 すぐに決めちゃった。迷わないのかな?私だったら凄く時間かかるけど。


「えぇ、これぇ?確かに便利に見えるけど、結構マナを消耗する割りに、効果薄いよ?」

「イフリータと相談した結果だよ。少し弄って反転できるそうだから、移動にも攻撃兼防御にも使える。消費が重いのも、マナを回収してくれる大精霊が居ればモウマンタイ」

 最後の一言は意味がわからないけど、大丈夫、なのかな。何にしたのか、後で聞いてみよう。彼の決めた刻印をオジサンが打ち込んで、鎧がエリナに渡される。それは彼女の空間魔術空間収納(ストレージ)にしまわれた。


「で、これはおいくらなの?」

「あ、俺払った方がいいよね?金貨3枚しかないけどさ」

「そんなんじゃ足らねぇ……が、どうせお前以外に、獣人がこの店に来ることなんてほとんどねぇんだ。不動在庫なんて抱えててもしょうがねぇから、タダでくれてやる。俺も2年ほったらかしにしてたそれ、処分できてうれしいからな」

「2年とか、どんだけだよ…………」


 多分、エリナは普通に自分が払うつもりだったんだろうけど、オジサンがマケてくれたみたい。仲良くしててよかった……でもタダはやりすぎじゃない?嬉しいって割には無表情だけど、少しだけ口元がにやついてる。使う子がいて嬉しい、の間違いじゃない?


「そういえば、エルフとドワーフって仲いいのか……仲悪いが定番だと思ってた。ま、どうでもいいか」

 なんだろう、彼の中にある想像は随分偏ってる気がする。国や集落としてだとエルフとドワーフは対立することあるけど、個人でそんな確執を生むような事はないんじゃないかな。どうでもいい、って言われるのも癪なんだけど。


「じゃー、サーベルはどうするの?小人族用とかでやる?木製のもあるんだけどー、最初はこっちにしようか」

「まあ、練習ですし。いざとなれば氷で代用するから、木製で」

 氷で作れるなら、買う意味ってあるのかな?……うーん、これは考えないようにしよう。


「じゃあ、木剣のお代で30ベルだ。まったく、お嬢さんらが来ると金にならなくてしょうがねぇ。銅貨しか貰えねえじゃねえか」

 自分でまけてくれるんじゃない。ほんとにこの人は。


「またそんなこと言ってぇ。今度飲みいこぉ、おごったげるからさぁ」

「いや、お前と行くと潰されて……」

 エリナ、それは自分が飲みに行きたいだけじゃない?どんだけ飲んでもつぶれないからって、あまり飲みすぎて欲しくないんだけど。オジサンも少し顔が青くなってるじゃない。


「ドワーフがエルフと酒を……しかも、ドワーフが引くほどエリナさん酒豪?ドワーフが酒で負ける、酒豪エルフ……これ如何に」

「ヴァンくん、外出てようか」


 会計から飲みに行く話になって、騒ぎだした2人を差し置いて、私は彼を連れて外へ出た。そろそろ近くの公園で、お弁当を食べようかな……?

 今日も気持ちいい日差しが降り注いでいるし、そよ風が気持ちいい。


――――――――――――――――――――――――――――


「もぉ、あのオッサン酒好きのくせにあたしとは飲み行きたくないなんて失礼だよねぇ」

 帰って来て早々、エリナは愚痴を言い始めた。


「エリナはどれだけ飲んでもつぶれないんだからしょうがないじゃない?オジサンが嫌がる理由は分かってるでしょー?」

「やはり、ザルか。流石破壊神……ギニャー!」

「だぁれが破壊神よぉ、このこの」

 私の言葉にうなずいていたヴァンくんが、エリナに擽られ始めた。なんだろう、このやり取りはもう、この2人の定番になるのかな?何度もやってる。エリナが破壊神……どうしよう、否定できない。


「あとは、勉強用の道具を買うだけだねー。よければ私が買ってこようか?必要なものは一応分かってるし」

「あぁ、そうねぇ。お願いしていい?」

 彼を捕まえて、体中いろいろ撫でたり擽ったりしているエリナ。そのままいじり続けたいんだろうなー…………あとで私にも触らせてくれるかな。


「アヒャァ……ひつ、ようなのって、ひいひひ……な、なにぃいいいやあああ」

 しっぽを揺らしながら息も絶え絶え聞いてきた。なんでうれしいのに、いやなんていうのかなー。


「魔法を覚えるのに、文字を覚えなくてどうするのー?文字ってね、精霊が魔法を使うときに使う文字を読み解いて、それを生活に使いだしたのが発祥って言われてるんだよ」

「え、何その物騒な発想。そんなん、あひゃあああああ!」

 実際にそう言われているんだけど、物騒だったかな?実際にそれで便利に使っていけるんだし、良いと思うけどなー。それより、いつまで2人はじゃれてるんだろう。正確には、逃げようとしているヴァンくんを、エリナが身体に張り付けていじり倒しているんだけど。


「ほら、そろそろご飯食べよ。2人とも、暴れるのやめてー」

「心外!俺はただ思ったことをおおおおおお!」

「アタシは破壊神じゃないでしょぉ?ヴァンくぅん」

 ニヤニヤしてるから、根に持ってるって言うより理由にしてイタズラしたいだけ、なんだろうなー。


――――――――――――――――――――――――――――


 昼食を終えて、勉強道具をかかえて公園に帰って来てみると、意外なことが起きていた。食べた後、公園のベンチで2人は寝ていたみたいなんだけど、そこに人だかりができている。


「わんちゃーん、起きてー」

「この子なんで服着てるのー?変なのー」

「あ、ちょっと目開けた!起きてるんじゃない?」

「…………」


 全員子供みたい。この辺りの子供かな?エリナは大股開いてベンチに寄りかかっていびきをかいている……これで女の子、なのかなー。ヴァンくんはベンチの上で丸まって、静かに寝ているみたいだけど、子供たちが集まって勝手に撫でたり騒いでいるから寝られないみたい。


「ごめんねー、その子たち私の仲間だから、良いかな?エリナ、ヴァンくん。起きてー」

 子供たちをかき分けて2人に近づく。私の声にヴァンくんはすぐ反応して起きたけど、エリナが起きない。一度深く寝ると、エリナってなかなか起きないんだよね。


 そのエリナの方を向いたヴァンくんは、突然、

「BOW!」

 犬みたいな鳴き声を出した。なんだろう、本物の犬が鳴いたみたい。


「ひゃい!なに?」

「あ、起きたー?買ってきたから行くよ」

 起きた2人を連れて、ギルドへ向かう。……のはいいんだけど、なぜかヴァンくんは4つ足で歩いている。歩きづらくはないんだろうけど、なんでそんな歩き方なんだろう。


「ヴァンくん、ダッコしていい?」

 寝ぼけ眼のエリナは、歩き出して早々わがままを言いだした。どれだけダッコしたいんだろう?もう散々、堪能したんじゃないかなー。


「フン!」

 鼻を鳴らすだけでそっぽを向いてしまった。何かしたのか、と思ってエリナを見ると、キョトンとしている。

 話を聞く限りじゃ、特にケンカしていたわけでもなく、嫌がることもしていないみたい。ならなんで、何も言わないんだろう。


「フー、ようやくあの子供たちから離れたか。ここまで来たら声も聞こえないでしょ。ゴメンね、怒ってたんじゃなくて、あの子供たちの前でいつも通り動いたりしたら、騒ぎだすと思ったからさ」

 ……何を考えていたのか、ちょっとわかんなかったけど、多分あの子たちの好奇心で騒ぎが起きて、注目が集まるのを避けようとしたのかな。する必要あるかな……?


「なるほどねぇ、確かに変に騒がれると、また人狼がどうのとか言う奴いるかもって考えたんだ。それで犬のふりぃ?」

 言いながら彼をつかんだ。


「ギャー!ダッコしなくていいでしょお!」

 ここで騒いだら、結局同じじゃないかな?


「それにずっとこっちに向いてる視線とかあったしぃ、下手したら大事になってたかもしれないしねぇ」

「その中でよくあんな寝てたな?!」

 その視線は、実際に今も向けられている。その多くは街の人からで、嫌悪感が感じられる。


 今日1日ずっと、彼を見た人たちは避けるように私たちから離れていく。その中でも特に強い視線。殺気はないけど、敵意のような感じ。

 多分、ギルドで彼をよく思わない連中か、騎士や衛兵の斥候の辺りじゃないかな。裏の社会ではもう話は届いているだろうけど、ヒョウ爺と関わった事や、私たちがいる事でそう簡単には手を出して来ないはず。

 獣人だからと、手当たり次第に奴隷にしようとする者たちはいたけれど、今は結構な人数が捕まって彼ら自身が奴隷落ちしているし。


「そういえば、奴隷ってどんな状態で生活してるのさ?とりあえず、自分の中では剣闘士とか、採掘場とか、イジメるだけのオモチャってイメージあるんだけど」

「あぁ、最後の以外は実際にあるね。あとは、ゴミの運搬とか清掃夫、煙突掃除、貴族の(しもべ)とかギルドの事務所の下働きとかねぇ。あと、特例だけど、第3王女や一部貴族は奴隷だけど、家族みたいに扱ってることもあるよぉ」

「何その雲泥の差。扱いが極端。奴隷なのに、家族?え、差別って言葉はどこへ消えたの?俺が森で受けていた攻撃は、何……?」


 奴隷は主に犯罪を犯した首輪付きと呼ばれる人か、借金とかの生活のためにやむなくなった契約奴隷と呼ばれる人で、その犯罪の種類や事情によって内容が変わってくる。

 というのが建前だけど、実際に少し前まで獣人というだけで、必ず奴隷階級にされていた。ほとんどが首輪付きで。今もまだ、貴族はもちろん平民として生活する獣人はいない。

 それに奴隷というだけで、不公平な攻撃を受けることになるのも事実。主に犯罪を行った人に付けられる奴属の首輪には、反撃をすることもマナを練ることもできないようにする為の、妨害の呪術がかかっている。

 無理にはずしたり逃げ出そうとすれば、首輪の術式で首がなくなる。首輪をつけられた人は主にきつい重労働に回され、契約奴隷は報酬に見合う仕事を与えられる。その話を聞いて、彼は納得したみたい。


「やっぱり、首輪ドカンは定番か。それだと、家族みたいに接していても、強制しているのは変わらないんだね」

「まぁねぇ……それでも、愛情のない鞭を受け続けるより、愛情持って接してもらった方がいいんじゃなぁい?」

「それ、結局は愛玩動物じゃない?」

 この論争は、私たちも散々、王女たちともやってきたこと。彼女たちは、愛玩としては見ていないようだけど。


「それ、犬の真似してた子が言うことかなぁ?ヨシヨシ、わんわんいいこぉ」

「オオカミだあ!畜生、撫でるな!」


 また、じゃれ合い始めた。全くもー、この2人はいつまでふざけてるんだろう。ちょっと、見てるのも楽しくなって来たんだけど、ね。でも羨ましいなー。


精霊のぼやき

――ドワーフが酒好きって誰がきめたのよ――

 え、違うの?

――むしろ酒に弱い人の方が多いから――

 ドワーフに火酒は厳禁、んなあほな……

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