7話 身体技能(ステータス)
前回:――シルクハットじゃまー。え、フェンリルが神様の一族?当然でしょ。生きて無い神様なんているわけないし。バカ言わないでぇ――
「で、教会で何するんだっけ?説教、懺悔、お祈り?」
さっきの子供たちの様子や、その前にしていた会話で、目的を既に忘れているみたい。さっき説明したのになー。
「ステータスを貰うの。要は身分証明書ねぇ。2ジル払わないといけないけどぉ、これがないと、大体のまともな仕事で雇ってもらえないの。めんどくさいよねぇ」
「もー、めんどくさいとか言わないの。ほら、早くやってもらうよー」
ダレている2人を急かして、教会の中に入る。本当に手がかかる。これでエリナは大賢者や代行なんていう役職なんかについてるんだから、不思議。
「でも、そのステータスが何なのさ。それを見たら攻撃力が解るとかそんなん?」
なんかよく分からないことを質問してきた。どういう事だろう?2人を促しながら、というよりエリナの背中を押しながら教会内部の右手の通路に向かう。
「その人の本名から身体能力や資質なんかが判るの。だから、適材適所で人材を振り分けるのにも役に立つんだよねぇ」
受付の人にあいさつをして、2ジル払う。銀貨2枚でも取りに来る人は沢山いるから、教会としては結構な額を稼ぐ事ができるものじゃないかな。
「ほらー、エリナ早く歩いてよー」
「そんな慌てなくてもいいじゃぁん。空いてるんだしさぁ。さぁヴァンくん。ここで君の才能を測らせてもらうよぉ」
ダラダラしていた彼女は、部屋の中に入ったらいきなり元気になって、腕に抱いていた彼を下ろすと、最近よくやる変な顔になる。彼をからかうときはこの顔なんだね……それを見て、
「はあ。数字とかで才能がどれだけ測れるのか楽しみです、ハイ」
すっごい冷めたまなざしで返してくる。声に抑揚もないのはなんで……エリナだね。うん、よく分かる。
初めて会った時から、彼はエリナの行動で、いい姿をあまり見ていない。1度私もやらかしてるけど、彼女は残りの全てで暴走していたから、彼女に才能と言われてピンと来ないんだね……エリナ、どんまい。彼女は何故か分からなそうな顔をしてるけど。
受付から部屋へ入ると、奥の台座に水盆が乗せられ、その脇に牧師さんが立っている。
「それではこちらの水盆に手を入れて少しの間お待ちください」
促されるように、ヴァンくんは台座に赴き、手を水につける。水盆の中には羊皮紙の巻物が広げられていて、水に手をつけている人の能力が書き込まれる。一体どうやって出来上がった技術なのかは、誰も知らないみたい。誰が作っているのかも、知られていない。
「これ、本当に何か書き込まれるの?水につけてるだけでさ。流石に眉つ……エリナさん、なんか浮かんできたっす」
いぶかしげに見ていた途中で変化が出てきたらしく、挙動不審になる。確かに始めて見た時には、驚いて手を放してしまう人もいるみたい。私たちは慣れてるんだけどなー。
数分した後、彼のステータスが水から出される。乾くまで少し干すのだけど、その間に周囲の人からは丸見えになる。なにしろ、部屋の中で干すんだし。
「ではでは、ヴァンくんはどんなステータスなのかな?まず……」
「あ、ざっくりでお願いします。文字読めるようになってから、じっくり自分で見てみたいから。先に教えられるとちょっと楽しみが減ってしまうので」
えー、それは私たちの楽しみが減るんだけどなー……エリナはショックを受けて震えてる。まー、本人がそういうんだし、しょうがない、よね。
「大体で言うと、魔法と俊敏さが普通より高い、かな?……ねー、エリナ。これ、子供の平均の数字、ほとんど超えてる、よね?」
「超えてるどころか、成人一般男性の2倍の俊敏さと成人一般女性の魔力を超えてる。ありえないでしょ?」
「うん、意味が解らない。俺子供だから成人と比べちゃダメダーメ」
そうなんだろうけど、その数字を超えるんだから、しょうがないんじゃないかな?
「しかも保有マナは1800?子供でしょ、嘘みたい。なんでー?」
「それの意味もよろしくお願いします。よくわからないので」
「つまり、保有マナっていうのはその人が身体の中に貯めて置けるマナの総量なの。大雑把な目安ね。同じ魔法でも人によって消費がちょっとづつ異なるんだけど、この量でどれくらい魔法が撃てるかの目安になるわけ。
魔力については女性の平均は男性の1.5倍くらいはあるって言われてるんだけど、ヴァンくんはその数字に達している。俊敏さは獣人由来なところもあるだろうし、多少は分かるんだけど、他の身体能力についても子供としては高めなの。正直、普通こんなに高くなることはないはずなんだけど」
エリナの説明で、ぽかんと口を開けちゃった彼は少しの間動かないでいて、動いたと思えば頭をかかえて、
「ああああ!あの一族!2歳のころから随分いろいろやらせるとは思ったけど、戦闘民族としての英才教育だったのか!
かけっことか言って、3時間ずっと走らせるとかよく分からんとは思ったんだよ、畜生!狩りだって、基本は口で獲物の首を銜えるとか言って、走らされまくったし!噛みつく力を上げるとか言って、布の引っ張り合いとかなんだと思ってたんだ!
護身術みたいなものと思ってた剣もマジで戦闘訓練か!あんま教わって無かったけど、年上の奴らかなりガチな眼してたし、動きヤバかったし!
待って。魔力って、使ってると成長しやすいとかある?」
「うん、使う分だけ育つけど」
「だあああ!森の中での生活、ほとんど魔力頼りじゃねぇかあああ!溶属性だ、陽炎だ、隠蔽だ、点火だあああ!
身体能力とサバイバル能力だけじゃ足りないからってほとんどずっと使ってたじゃねぇか!狩りだってマナでドタマぶっ飛ばしてたし!クッソオー、ゴブ太のやつぅ!今度見たらただじゃおかねぇからなあー!インフェルノでギッタンギッタンにしてやる!」
「ヴァンくん、ここでその魔法……」
「使わないすよ、そもそも使う必要……何、イフリータ?
え……ウソおおお!保有マナが増えた一番の理由が『インフェルノ』?あれでガス欠するくらい俺がマナ使って、お前が回復させて、満タンにして、それを繰り返していたから?はあああアアアアア?ゴブ太に使いすぎたああああああ!」
1人で随分騒がしい。最後にはうずくまっちゃった。しかも、知らない間に自分が強くなってたのが、すごくショックみたい。なんでだろう、すごくいい事なのに喜ばないのって。ちょっとムカつく。みんなすごい努力している事なのに。
「そしたらエリナみたいにすごく強くなれるんだし、良いんじゃない?ヴァンくんだって、強くなるの嫌じゃないでしょ?」
「いや、もう充分な気もする。平均的なレベルの人を超える所があるんなら、それだけでも生きていけそう。これ、弟子になる意味あるのかな……」
私としては元気づけようとしたんだけど、彼を逆に沈みこませてしまった。難しいな、彼の性格。ちょっと泣いてるし。
「因みに、エリナさんの保有マナと魔力ってどれくらい?」
「ヴァンくんと比べるとどっちも3倍以上だねー。小さい頃のエリナも、今のヴァンくんと同じくらいだったはずだけど」
一瞬ほっとした顔をした後、最期の私の言葉でまた固まった。あれ、間違えちゃったかな?
「俺は将来、エリナさんみたいに破壊神になるのか。神の一族だから、正真正銘、破壊神になるんだ。そっか、フェンリルだしな……ハハハ」
跪いて、手をついて、ぼやいてる……そんなにショックだったのかな。何か話題替えよう。不信に思われない範囲で。
「わ、私としては心眼持ちってところも気になるんだけどなー。すごく珍しい技能だよねー」
心眼、接近戦をする者に、稀に持つものがいる、珍しい能力。技能の項目で目を引くものの1つだと思う。
「確かに。あとぉ、魔力感知と力量感知って合わせ持つのも珍しいよねぇ。でも、シングも持ってたっけぇ」
「ちょいちょい出てくるけど、シングって、何よ?まさか浮気相手ねムキー」
最後の方がすっごく棒読みだったけど、そこは無視しよう。
「前に話したでしょ?アタシ達の仲間だった、フェンリルの人。名前がシングなの」
この世界でも同じ名前の人は、多分いないんじゃないかな。どうしてこんな名前になったのか分からない。
「シング。バンカ。……歌繋がり?でもスコルとかは違うしな……」
何か考えてる。というより、この子はどんな理解しているんだろう。前世の方の記憶なのかもしれないけど、多分関係ないんじゃないのかな?
「一応説明するけど、心眼は相手の動きを察知する能力ね。相手がどう動くのか先に解ったり、動きに合わせて自然と体が動いたり、考える前にどうするべきか感じるなんて、説明されてる物なの。心当たりある?」
「あるどころか、それ。前世からできてた奴やん。今世に入って強化されてると思ってたけど、スキルになってたんか。強くてニューゲームか?使った感じしないから、パッシブっぽい感じか。
道理でゴブリンの動き、子供みたいな温い動きに見えるわけだ……ていうか、何でここだけゲームみたいな感覚になってるんだ……」
めぼしいところはこんなところだと思う。放心している彼をエリナが抱きかかえ、私たちは教会を後にした。
――――――――――――――――――――――――――――
「はあ。まさかこんなことになっているとは……」
「元気出してー。私なんてほら、魔法の才能ゼロなんて言われたんだからー。羨ましーなー、なんて」
励まそうと声をかけると、はっとして私を見て目を潤ませる。なんで?憐れむのはやめてほしいんだけどなー。
「ゴメンナサイ、1人で騒いでゴメンナサイ。バカにしたんじゃないんです。本当にゴメンナサイ」
結局またうなだれた。もー。どうしたらいいんだろう。この子も結構、エリナに通じてるところがあるかもしれない。だからかな、いつの間にか仲良くなってたのは。類は友を呼ぶ、みたいな?
「次は装備だけど、どうする?先に行く?」
そろそろお昼時だね。でも食べるのは後にした方がいいと思う。朝食も遅かったし。
「そうだねー。先に行って、見るだけ見てみよーよ。そういえば、本当にサーベルでいいの?魔法の方が才能あったのに」
私としては、どうして剣も学びたいのか不思議。魔術だけに専念すれば、きっとすっごい魔術師になれるはず。
「一族としての戦い方もあるし。接近の才能、心眼だっけ?それもあるなら余計に生かした方がいいんじゃないかな?それに凄い剣士と大賢者って言う破壊神が師匠なんだヒイイイイ!」
「誰が破壊神よぉ、誰がぁ!」
……いつ、凄い剣士だって思ったんだろう?私はまだ彼に何も教えた訳でも、技を見せた訳でもないのに。昨日もロイやダントンと、感覚的に比較していたみたいだし。
「やめてえ」とか「このぉ」とか、騒いでないで私の気持ちに応えてほしい。私は、そんなにすごい人間じゃないのに。
仲良くなって行く2人を見て少し心細さを感じながら、武器屋へと足を向けた。
精霊のぼやき
――あんたは身長103センチ、体重30キロ
金髪は身長186センチ、体重56キロ
白金は身長198センチ、体重89キロ
結構差があるねぇ。そりゃ、子供だから仕方ないけど――
精霊がメジャーや体重計になるとは、コレイカニ?




