4話 オカシィ
前回:――黒いのと白いのがじゃれた――
「じゃあロイ、あんたは一歩でも動いたら負けを宣言するつもりだったわけ?」
「……ウム」
エリナの問い詰めに、ロイは頷くだけ。あまり多くは話す気はない、んじゃなくて話さないんだよね。口下手を通り越して話すことができない人だし。気持ちを表すのが下手と言うか、気持ちが現れないと言うか。いつも服も黒いし、表情もムッツリしている。
「だったらなんで、あそこで全力で攻撃したの?!当たっていなかったとは言え、あそこまでの影響出すなら、動かなくてもよかったんじゃない?」
「ム……」
エリナがきつい表情になった瞬間、顔を逸らした。本当に、彼は悪いと思っているのだろうか?実際、雷が降ってきた瞬間、少しだけど飛びのいていたし……
「マヒがきつくても、棄権するなら武器を落とすとかできたんじゃなぁい?」
「ほう!」
……その手があったか、って言う感じで手を叩かれても。なんか私も怒りたくなってきた。
この子はよくこれで、冒険者を続けられるものだとは思う。実際、彼は実力だけなら大陸最強。むしろ世界どこを探しても、拮抗する剣士はいないと思う。
それほどに超人的な力だけれど、考えていることが判らない。今も、
「あぁもう、ロイ!ちゃんと喋って!」
「すまん……」
「……」
「……」
「あぁ、もう無駄。いいわ、あんたはあっち行ってて」
「ム、ムゥ……」
会話になっていない。なんだろう、これ。見てる間に疲れちゃった。
私が相手したわけじゃないのに、イライラするし、じれったいし。それなのに彼はなんかしょげている。なんかこっちが悪く思えるんだけど。
雷落とされる前に剣を落として手を上げるとかできたでしょう?その気になれば彼は、雷斬れただろうし。
「それで、さっきの戦いは何が起きていたのかさっぱりわからないんだが、教えてくれないか?」
ようやく前に進み出たのは、ダントンだ。聖騎士として働いていた事のある、聖術式の使い手。
いざこざで冒険者に身をやつすことになったらしいけど、詳しくは聞いてない。魔法を使う身でもあるなら、彼も分かっていいものだけど。彼は途中で止めようとしたにも関わらず、結界に阻まれていた。それでこんな騒ぎになっているんだけど……理解できていなかったんだ。分かってて止めようとしたのかと思ったのに。
「さっきの戦いは見てたでしょ?あれで全部よぉ」
「エリナ、そんな意地悪しない」
あー、この意地悪な顔のエリナは久しぶりだなー。ここ最近見てない。ずっと昔はちょっと意地悪で、恥ずかしがりな所が可愛かったんだけどな。
「あ、あのオオカミの奴は何をしたんだ?わからない!恐ろしい!おかしいだろ、あいつは!なんであんなやつを弟子なんかに……」
なんでか、ルイまでエリナにすがるように近づいてきた。魔術を使う人って結構みんな怖いと思うんだけど……ルイも確か魔法関係の人だったよね?彼は10年戦場に出てないから、何だったか忘れたけど。
「ルイ、あんたは関係ないでしょぉ?そぉれぇにぃ。恐ろしい力を味方につけられるって考えたりはできないわけぇ?なんで力あるものを殺す必要があるのよ」
「言いたいことは分かるが、あの子供がやったことがいまいち理解できていないんだ。不安なんだよ、あいつと一緒にやって行けるかどうか」
ダントンは安心できる材料を探したいらしいけど……それは魔術の方ではわからないんじゃないかな?ちゃんと話して、仲良くなれば良いだけの事じゃない?なんかみんな混乱しちゃって話がおかしくなってる気がする。
「はぁ……大体魔術ができる奴だったら、ある程度予想できるでしょぉ?そんなの……」
「あの、私解りませんでした……特に、この氷の森」
手を挙げて、ケンジくん達と組んでいる……ソーリちゃんだったかな?その子がエリナの考えに反して声を上げる。それに続くようにみんなが頷いている。
「はぁ?もうほんとに……あの子は自身の体に精霊の力を借りて凄い数の魔術をあんまり反発させずに何重にも刻印しているわけ。それが身体が燃える術式の正体。主にマナを魔法に変えて、それだけで影響が出るようにして、かつ刻印を増やして技を無挙動で使ってるの。であのこがやったことは、最初に幻覚を使って剣を隠した分身と一緒に隠蔽した本体も走り出したの、隠蔽した幻覚の分身を残してね。走った幻覚がロイにぶつかる寸前で残した分身の隠蔽を解いて、残した分身と分身の中に隠していた剣に意識を向かわせてる間に、本人があちこちに氷の杭を打ってそこに術式を組み込んだの。そして陣形ができてから一気に地面を凍らせた。だから一瞬で練兵場全ての地面が凍ったわけ。実際結界の外まで出てたでしょ?それから、彼自身に打たれている刻印を雷を扱う状態に変えて、雷を氷の上を滑らせるように動かしたの。そっちに目を向かせないようにサンダーボルトなんて、上空から落とす技を撃ったわけ。あとは、あの子の爆発の術式は異常に強いみたいだけど、あそこまでじゃないみたいの。天まで貫くような爆発の理由はそれまで使っていた術式による魔術の相乗効果。たまにある魔法同士が作用して強い反応を起こすあれ。あとは、ロイがムチャクチャに剣を振りまくったせいね。それで突風が起きて竜巻みたいに巻き上げていたわけ。結界が割れたのもロイの剣圧が原因。
そんなとこだけど、質問はある?」
矢継ぎ早に説明された。よく、見えたねー。私は全然そんな風に見えなかった。あの子は一歩も動かず全部やったと思っちゃってたんだけどー……?
みんな唖然としていて、話についてこれないみたい。充分内容は分かるとは思うんだけど、それより、子供がそれだけ考えて動いた、って事が納得できないみたい。話に追い付くの、大変なのは私もなんだけどねー。
「し、しかしだ、そんな事をしでかす奴がギルドに入ったら、必ずや何かしら問題を起こす。そうに違いない」
杞憂を言ってるルイ、声が裏返っている。もう、やめた方がいいんじゃ……
「そこまで」
声が響いて、手を打つ音が聞こえた。マスターだ。同時に、氷の森が消え去る。マスターの得意な、魔力殺しの柏手だ。
「これだけの力、子供が使うとはね。欺くのもなかなか、かな。ルイ、君の気持ちはよく分かった。」
人垣を割って、ギルドマスターがこちらへ歩いてくる。小人族の特徴の鼻の長さと、エルフ特有の耳の長さを併せ持って、独特の雰囲気を醸し出している。
「ほ、ほら、見たまえ!やはりマスターは」
「残念だよ、ルイ。君は優秀であったにもかかわらず、ギルドの意向を無視して動き、不利益になるばかりではなく、社会に問題を出すまでに至った。
更に、毒物まで取り寄せ、未来ある子供の命まで奪うことを優先し、盲目的に動くとは、情けない」
「へぁ?」
味方をする、と思っていたらしい彼はマスターの言葉に驚き、間抜けな声を出した。冷や汗が伝いはじめたみたい。
「ルイ、君はよく頑張った。だが、そろそろ潮時のようだね。ギルドマスター、オリバー・シュタインの名の下に」
「マスター?まさか」
「君を解任し、ギルド及び国内より追放処分とする。尚これは決定事項である。違反した場合には、奴隷処分とされることを忘れないように」
普通なら、奴隷処分や国外への追放は、無いはず。つまり、今回の件以外で追放される理由があったみたい。しかも国の司法にまで影響するもので。
何かは私たちには知らされていないけど、今までマスターは彼の犯罪や不正を洗っていたのかな。毒物は、前に使われたケンジくん達の件を報告していただけなんだけど、ルイ経由だったのかもしれない。
「へ?あ、ああ……」
言葉もなく崩れるルイ。彼は、当面の間立ち直れないかもしれない。それでも、今腕の中にいるこの子が危ない目に合うよりは良いのかもしれない。そうしたらきっと……
ルイから離れて、マスターがエリナと共にこちらに近づいてくる。
「エリナ君、あの子が例の子でいいんだね?さっきの戦いは観させて貰ったよ。魅せられた、と言った方がいいのかな?」
「はい、マスター。ヴァン・カ・フェンリルと言います。火の大精霊を連れています」
エリナとマスターは、私の腕の中で眠る狼の子供を見る。やさしい笑顔で。
「これから忙しくなるだろう。今日はもう休みなさい。食事を後で持って行かせよう」
私たちはその言葉に甘え、部屋へと下がった。周囲から様々な視線を浴びている彼は、疲れて気を失ったまま眠っている。彼はこのまま茨の道を生きるのかな?……させたく、無いな。
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「……ああ……いるか」
翌朝、ドアをノックする音がしたので開けてみるとロイが佇んでいた。人に会いに来るなんて珍しい。誰に会いに来たのか、ちゃんと言って欲しいなー。まー、昨日の事を考えれば、分かるんだけどね。
「お、クロンボ?何、また決闘?」
「……」
呼ばれる前にヴァンくんが来た。あだ名が変わってる。それにロイはなんだか居心地悪く身をよじりながら、無言。何、この状況……ロイの動きが気持ち悪い?
「ム」
音を発したと思ったら、手にあるカゴを差し出してくる。クッキーだ。……似合わない。まさか彼が手作りしたなんてこと、ないよねー。……ない、よね?
「お。くれるの?」
「ウム」
何、この……気持ちを打ち明けられずモジモジしているロイの反応。恋する乙女みたいで、気持ち悪いし、面白い。何、この違和感。この人がこんな事するなんて聞いたこと無い。
「サンキュー、後でみんなで食べるよ」
「ウ、ウム!」
頷いて、うれしそうに去って行った。歩き方がスキップしかけてる。半端に体が浮くから、動きが挙動不審。本人は気づいてないのかな?もう、我慢できない。
「何あの反応……プッ」
「俺としては引くね、『う』と『む』しか言ってない。あの人、昨日もっとしゃべってなかった?」
なんか呆れた顔をしてる。でも、
「わ、私たちからしたらあんな反応のロイが初めてだから、むしろ面白いの。あはははは」
「リサさん、ロイって何者?」
彼の問いには、私は応えられそうにない。おなかが痛くなるほどおかしくて、それどころじゃなくなっちゃった。
「え、何?どうしたの、リサ。」
遅れてエリナが奥から顔を出した。ヴァンくんが説明したら、すごく悔しそうな顔をしている。それはそうかもしれない、だって、あんなはしゃいだロイなんて、誰も見たことないんだから。今も思い出すだけで、おかしくなる。
「リサさん壊れちゃったよお。どうする?」
「ヴァンくん、ふふ、しょうがないでしょー?だって、あんなおかしなロイなんてー、あはははは」
「リサがそんな笑うなんて。あぁ、失敗したぁ。アタシがドア開けりゃぁ良かったかもぉ」
私たちの反応に、彼も困っているみたい。クッキーを眺めて、首を傾げる。
「もう、何が何やら。昨日バトルした後に気を失って、気が付いた時には乙女チックな部屋。そしてドアが開いたら、黒尽くめの男がギャルゲーの攻略対象みたいな動き?やおい趣味はねえんだが……俺、TSしてないよな?」
何を言いたいのか、ちょっとわからないけど、ともかく彼としては納得できない事実ではあるみたい。なんか股の間探ってる。
「で、改めて。ロイって何者?」
「ヴァンくん、名前覚えてたのぉ?あいつは二つ名も実力も『最強剣士』。文字通り、最強の二文字を幼少期の頃から欲しいままにしてるの。生まれた時から剣を振ってたなんて話もあるくらい」
「何そのキチガイ。そしてネーミングセンスの無さ」
それでも、見た人がたっくさんいるらしいし、彼の親はそれで指を何度も切ったそう。そんな赤ちゃんは、私は欲しくないなー。
「実際に5歳の時には大人と勝負して、大人が本気出しても勝つのが辛かったって言われるくらい強かったらしいよ?10歳になった頃には敵なしだったって。その頃から、『最強』って呼ばれてたんだってさぁ」
「何それ、怖い。そんな奴居るはずないじゃん。普通子供が大人に勝てる訳ないでしょ?」
誰の事を言ってるんだろう?森で私たちを翻弄して、ケンジくん達を川に沈めてたのに。余計におかしくなる。これ以上笑わせないで。
「それ、自分を棚に上げてるでしょぉ?ヴァンくんだって子供だしぃ。冒険者返り討ちにしてるんだしぃ」
「中身オッサン。これが真実。だからセーフ。一緒にしないで」
「でもー、子供なんでしょ?じゃー、ロイとお友達でいいんじゃない?」
一瞬、ロイとヴァンくんが手をつないでスキップする瞬間が浮かんで、どうしてもおかしくなっちゃう。私は身をよじって、お腹と口を抑えて笑い転げた。
「あぁ、ヴァンくん。リサがこうなると、当面笑い転げるから、行動するのはその後ねぇ」
「了解。日向ぼっこでもしとくよ。それともお茶入れて、クッキー食べてみる?」
少しの間、私は笑って動けなくなっていた。こんなおかしいのは、久しぶり。
精霊のボヤキ
――わからないって、そりゃそうでしょ。あんたらの使わない精霊の術式で、起動だけで26、技で38の術式使うんだから。大精霊嘗めないでくれる?――




