3話 決闘
前回:――いきなりギルドに喧嘩売った。……トラさんのまね?あんた狼でしょ――
「ヴァンくん、何それ?」
エリナにもちょっと受け入れられなかったのかな?しゃがみこんで彼に質問してる。
「仁義切り、ダメ?結構印象に残ると思ったんだけどなー」
「印象は、強いと思うよー?私は嫌いじゃないけど」
でも、なんでこんなあいさつにしたんだろう。普通に挨拶したらいいのに。実際皆固まっていたり、首をかしげてる。
「今まで普通の挨拶だと、無愛想で怖いって言われてたから、こういうのやってみようって思って考えてたんだけど、ちょい滑っちゃったか」
……そうなの?
「ふっ……ははははははは!」
「え?ロイが笑ってる!嘘でしょ?」
「え、なんで笑うだけでそんなびっくりすんの?」
突然ロイが笑い始めて、それにみんな驚いている。知らないヴァンくんは、それに更に驚いている。なんだろう……すっごく居づらい空間になってきた。確かに彼は、感情がほぼ無いヒトなんだけど。
「小僧、勝負するか」
ロイは何を考えてそんなことを言ったんだろう?頭が痛くなってきた。今はそんな場合じゃないでしょ?
「ロイ、それは違うんじゃ……」
「そうだ、すべきだ、ロイ!やはり君はわかる人だ!決闘だ!」
「……ム?」
止めようとしたら、ルイが割り込んでくる。それにロイが首を傾げた。ああ、なんで名前の似てる人が両方とも問題児なんだろう……兄弟って訳でもないのに。決闘なんてして、無事に済むわけがない。
第一、決闘の制度は廃止はされていないだけで、事実上既に行われていない、古いしきたり。無駄に命を懸けて結果、力が強いものが勝つ。それで過去に何度も大問題を引き起こしたことがあるのだから。
決闘に勝った者が毒殺なんて、当たり前の話になって、ことわざになるほどだし。
「ルイ、あんたまさか本気でやるわけじゃないよねぇ?」
エリナが怒気を孕んでハスキーな声で重圧をかけ始めた。がんばれ!私もう無理!お願い!
「エリナさん、止めてもどうしようもないよ。それにここにいる人は、さっき俺が煽ったもんだから見たがってるんじゃない?」
「ヴァンくん?」
止めようとするエリナを、彼自身が止める。どうして?
「ここで引いてどうにかなるなら、とっくに問題にならない状態さ。でもそうじゃない。なら決着付けないといけないだろ。やるしかないんだ。実際あのオッサンがしつこかったろ?
それで冒険者は弱い、なんて言われりゃ、誰だって我慢できないさ。まして、ガキにおちょくられ続けていた訳なんだから」
何でもない、という顔で、嗤っている。でも、彼は気づいているのかな?しっぽが小さく丸まっている。本当は……
「なら、おれが間に立とう。ルイにやらせると何が起こるか分からんしな」
立会人に、ダントンが名乗りを上げた。確かに彼は公正な判断をする。信頼はできるかもしれないけど……
「ちょっと待って、ヴァンくん!」
「モードフレアは極力使わない。それでも強い一撃は出せるし、氷の方が、奴には都合がいい。剣士だろ?しかも相当な……次点でリサさんと、その白騎士?それでも差があるんじゃないかとは思うけど。
まさかそこまで強い奴が、子供相手に、真剣で、本気で、命を奪うために、決闘するなんて、無いよな?」
前半はエリナに、後半は周囲に向けて言っているみたい。それに、強さを見抜いてるの?
「返事がないね。子供に勝って強がってる、弱者は居ないよな?って言ったんだけど。
決闘って、殺さなきゃいけないもんなの?それなら、戦いが始まった時点で、既に冒険者ギルドの負け……だろ?」
この場の人間全員が、この言葉で凍り付いた。確かに彼はケンカ腰だけど、言ってみれば被害者なのだし、私たちも説得は苦労した。それでも、留飲は下げられないのかもしれない。
「そうね、ヴァンくんの言う事も一理ある。ロイ、あんたは木剣にして。本気は出さないでね?あの子の本気、結構ヤバいけど、アンタじゃどうってことないでしょう」
エリナの矛盾したような言葉が、納得できるのが怖い……実際この人、自分のマナを剣に纏うだけで魔法とか簡単に斬るしなー。どうやってるのか分からないけど。
「…………ウム」
さっきの大笑いから一変、いつも通り黙っちゃった。
「で、どっちに行けばいいの、黒尽くめさん」
「……こっちだ」
ヴァンくん、変なあだ名付けてる。ロイは覚えやすい名前だと思うけどなー……
ギルドのカウンター横にある通路を、彼らを先頭に進む。
その後を、ダントン、エリナとルイ、私と続いてる。結構な人数が観戦しようと、私の後に続く。あの子の挑発に苛立つ者もいれば、返り討ちにした実力に興味を持つもの、賭けの対象にしているもの、色々。
あー、あの子はなんで決闘なんて受けちゃったんだろう?
道を抜けると、そこにあるのは練兵場。決して広いとは言えないけれど、充分打ち合う空間がある。
「おお、東京〇ーム半分くらいの広さかな?」
なんだろう?彼なりの解釈かな?2人はそのまま練兵場の中央付近へ、私たちはその周囲へと散って、魔術のできるものは結界を張る。この中で、決闘は行われる。仕来たり通りだね。
「んじゃ、こっちはいつでもいけるよ?」
「ウム」
2人は練兵場の中央から少し離れた位置に立つ。準備が整ったみたい。できれば、怪我なく終わらせてほしい。ロイもその事を分かっているはずだけど……
「それでは……始め!」
ダントンが、手を振り下ろした。決闘が始まる。
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「――点火――モードフロスト、陽炎」
狼は決闘の 始まりと共に 声を上げ
その声と共に 氷が身体を包み 炎に揺れる
相反する存在に 最強の名を持つ 剣士は眉根を寄せる
ただの幻覚など 見飽きたものだ この者も過信した者か
狼は走り寄る 体を増やし誤魔化して 何の策もなく近づいた
これでは遊びにもならない つまらない
自分の目を信じていたのに 裏切られるとは
呆れた無双の剣士 ため息交じりに 棒きれを振るう
凪ぎ消される炎 消えゆく身体 ――隠された氷の剣
「きりきり舞え!――ソードダンス――!」
どこからか 狼の声が鳴り響く 氷の剣が舞踊る
もとからか 狼はそこから走らず その場で剣を操る
気を抜いた 小手先といえど 騙された
剣が踊りかかり 剣で弾かれ 剣士のもとへ舞い戻る
頭に足に 右に左に 前に後ろに 振り回される
砕いてみればその破片 再び剣を成して 一回り大きくなる
「――アイスフィールド――エクステンション――ツンドラ」
突如響くその声に 地面が応え創る 氷の世界
無数の槍が伸び上がり 槍から無数の刀 まるで樹海
氷の刃と槍を凌いでも 未だ振るわれる 氷の剣
剣士は身を震わせ想う この氷の世界は 美しい
「――我がマナを糧として 天空より舞い降りよ それは光の裁き
これによって難敵を 討ち焦がし焼かん 神の如き力は雷
サンダーボルト!――
詠唱の合間にも 育つ氷の大樹 止まらぬ剣
この狼の才能 氷の世界でなくとも 背筋が寒い
哂って剣士は飛びのいた 己の居場所にくる雷 かわすために
……そのはずだった 飛び退いた先で 当たるとは思わない
避けたの雷撃 身に受けて訝しみ そして追い付く理解
地には未だに雷が ヘビのようにのた打ち回り 縛り付ける己の身
痺れる身体 凍り付く心 ……これはまずい
顔を上げ狼を見る 走り寄る小さな体 ……仕方ない
剣士は覚悟する 無理矢理打ち飛ばす 雷に縛られた腕を振るい
狼のその身に当てる 影法師は炎に揺れる 飛ばされるものは、いない
驚いた彼の足元に 陽炎を消し姿を現し 狼がニヤリと笑い
「インフェルノ!」 全てを焦がす 炎の拳を振るい 告げる幕引き
燃え上がる炎は空へ 駆け上がり西の都を照らす 焔は夜の空を焦がした
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とんでもない応酬、というよりほとんど一方的にあの子が攻撃をしていた。
なんでか分からないけど、ロイはほとんど反撃してないみたい。一度本気の攻撃が見えたけど、そんな事より、
「ルイ!アンタこうなるって分かっててやったんでしょうね!?」
エリナの言葉に反応できないルイ。顔が凍り付いてる。多重に結界を張り、その中に音を遮断するサイレンスバリアなんて張っていたら、観戦者はともかく立会人のダントンですら、止めることができなくなる。
多分、一方的に彼がやられるのを期待していたんだろうけど……途中からそんなものを加えるなんて。
「ノッフ!」
「ヴァンくん?」
結界に、彼が飛ばされ張り付いた。最後に彼が爆発をさせた瞬間から、中は炎で見えなくなっていた。その爆発の威力はそのまま結界を伝って上空へと逃がされてる。炎はまるで、空を支える柱の方にも見える。いったいどれだけの力があるの?
「そろそろまずい!」
エリナが焦りだして、新しく結界を作る。張られたと同時に、全ての結界が割られて、
「オッフ……」
張り付いていたヴァンくんが、新しい結界にぶつかる。それから少しして、炎が消え去った。
中心部で、ロイがとんでもない速度で、マナを纏わせた剣を振るっていたみたい。それだけで突風を巻き起こして、竜巻のようにしていたのかもしれない。あの子はホンット、人間の領域を超えてる。
ようやく暴風が収まった瞬間に、ヴァンくんは結界から剥がれ落ちた。彼の身体は傷はついていないけれど、疲れているみたい。ぐったりとうなだれている。その後すぐ、結界が消えた。
「ロイ、あんた最後本気だったでしょ?」
「……すまない」
あたりを見渡すと、彼の作った氷の木が、まだ何本も生えてる。ロイの服も、少なからず焦げ付いている。
「うええ……焦げただけかよお」
げんなりしている彼は、ちいさく声を漏らした。どうしてそんな残念そうなんだろう。充分頑張ったでしょ。
「服だけ全部焼こうと思ったのに」
……そんな事考えてたんだ?殺すつもりは、無かったって事でいいんだよね?
呟いて、そのまま気絶しちゃったみたい……私はそのまま彼を抱き上げた。今日はもう、ゆっくり寝かせてあげよう。
精霊のボヤキ
――あー、ダメだったねぇ。またつまらないものを焼いてしまったとか、言いたかったのにぃ――




