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「何でもないのよ」
何杯目かのグラスを傾けながら、彼女は言う
透明感のある、赤ワイン
「おい、どうしたんだよ、相談してみろよ」
「だからぁ、何でもないんだってば」
俺が彼女の肩に手を掛けても、彼女はそれを払いのけもせずに、ヘラヘラ笑って、細めた目で見つめてきた
「じゃ、どうしたんだよ、そんなに酔っちまって」
「なぁにぃ?私が酔っ払ったらいけないって言うのー?」
「いや、だって、いつもはそんなことねぇじゃんか」
彼女はぶっ、とその液体を少しグラス内に戻した
赤い飛沫がガラスに付着する
「酔いたいときだってあるじゃない。今は曇りの夜なのよぉ?」
いや、確実に何かあったはずなのだ
しかし、俺は、その『曇りの夜』という言葉の響きが気に入ったので、そのヘンテコな理由を受け入れることにした
そして夜が明けた頃、彼女は首を椅子の後ろに放り出して眠っていた
俺もいつのまにか意識を飛ばしていたのだが、彼女よりは早くに起きたようだ
「おい、おい。寝違えるぞ。やめておけ。布団で寝たほうがいい」
俺は、彼女の体をゆらゆら押した。
すると、彼女は艶やかな口紅が塗られた唇で唾液をすすって
「ふぇ?………あぁ、じゃ、そうするわ」
と言った
それから数日経って
俺はこの夜のことを尋ねたが
案の定彼女は
自分で言った言葉を覚えておらず
何か悩んでいたのかと聞いても
「さあ?どうだったかしら」
と返すのみだった




