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はじめに  作者: 師走
63/629

63

開けてはならない箱は耳元で囁く

さあ、もう諦めてしまいなよ


馬鹿を言うな

金色の細工も剥げ散り、錆びた鉄でできたその重そうな箱を両手で抱えて歩く男は怒鳴る

開けてはならぬと言われたのだ

ならば開ける必要はあるまい


いや、お前はもう十分に役目を果たしたのだ

敵方の大将を見事その剣で討ち取ったではないか

これでたくさんだろう

私の中身を見たらどうなのだ


この野郎、他の奴は騙されたのかもしれないが、俺はそう上手く嵌められるわけはねぇぜ

あんたを開けるわけにゃいけねぇ



けれどもけれども、鬱蒼とした森はいつまでも尽きない

魔物は途絶えているのに、ゴールが見えない


男は薄々勘づいていた

これを俺が開けないことには、話は進まない

俺はここで死ぬ定めなのだ

これは決定事項と言えるもので

自ら変えることはできないのだ



さぁ、早く開けてごらん

箱の呟きが聞こえる

男は全て諦めてしまって

これから自分が受けることになろう苦しみに

顔をしかめながら

蓋に手をかけた



張り手一発自由の女将

寒風さむかぜ)の 吹くを知らずに 湯気立ちぬ

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