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捕らわれの炎

 ギャリーは、針が飛んでくる壁を通り過ぎると、立ち止まり、慎重に進む。すると、案の定、再び針が飛んでくる壁があった。タイミングを見計らい、針が通りすぎるのと同時に走り抜ける。通路の角を曲がると、また針が飛んでいる通路が続いていた。

「一体、どこまで続いているのかしら・・・・・・」

 ギャリーはそう言いながらタイミングを見計らい、針の飛んでくる通路を順調に進んでいく。

再び通路の角まできたギャリーは、その角を曲がる。すると、足元に黒い大きな花があるのが見えた。ギャリーは、ゆっくりとその花に近づく。

「これ、なにかしら?」

 近くで見てみると、どうやらバラの花のようだった。しかし、この黒いバラには茎がなく、直接地面から花が咲いていた。

「・・・・・・なんだか、怪しいわね。」

 ギャリーが黒いバラを飛び越えようとしたとき、目の前の壁に穴が空いているのが見えた。よく見ると、その穴の奥に銀色に光るものがあった。

「うわっ!」

 ギャリーは咄嗟に床に滑り込む。すると、穴から飛び出してきた針がギャリーの上を通り過ぎる。

「・・・・・・死ぬかと思ったわ。・・・・・・ん?」

 ギャリーは横になったまま自分のお腹の辺りを見ると、そこには無残に散った黒いバラの花びらがあった。ギャリーは慌てて起き上がり、自分のお腹の辺りを見る。特に変なことは起きていないようだった。

「なんだったのかしら。」

 ギャリーは不思議に思いながら、通路を抜ける。通路の先には、絵画が一枚とチョウチョの標本が飾ってあった。ギャリーはまず、青い空が描かれた右の絵を見る。


『晴天の彼方』


「普通の空に見えるけど・・・・・・」

 その絵は、青い空と白い雲が描かれているだけだった。特に何もなさそうだったので、ギャリーは左のチョウチョの標本を見る。


『捕らわれの炎』


「捕らわれの炎・・・・・・。そう言えば、火の点いてない蝋燭の絵があったけど、なにか関係があるのかしら?」

 ギャリーは、『キャンバスの中の光源』を思い出していた。手を伸ばし、そっと触れてみる。ほんのりした温もりがギャリーの手に伝わってきた。

「一応、持っていったほうがよさそうね。」

 ギャリーは、チョウチョを壁に張り付けている針を外す。すると、チョウチョが羽ばたき出し、宙を漂い始めた。ギャリーがそれを捕まえようとすると、物凄い勢いでギャリーが通ってきた通路を飛んでいった。

「あっ!ちょっと、どこ行くのよ!?」

 ギャリーが後を追いかけようと足を踏み出す。

「うわあ!」

 通路の奥から、メアリーの叫び声が聞こえる。声の様子からすると、何かただならぬことが起きたようだ。

「メアリーの声だわ。急がなきゃ!」

 ギャリーは駆け出す。穴の空いた壁の前まで来ると、一度立ち止まり、タイミングを見計らう。しかし、今度はいつまで経っても針が飛び出してきそうになかったので、ギャリーはそのまま通路を走って戻っていく。


「イヴ!メアリー!大丈夫!?」

 通路を戻ってきたギャリーは、通路から出てくると同時に声を上げる。すると、角からイヴとメアリー飛び出し、ギャリーに向かって走ってきた。少し遅れて、顔に大きく黒のバツ印が描かれた大きな子供が角から姿を現した。紛れもなく、それはさっきまで絵の中にいた『失敗作』だった。

「ギャリー、あれ、なんとかしてよ!」

「なんとかって、逃げるしかないでしょ!」

 ギャリーが近くにいたイヴの手をとると、『失敗作』がやってきた通路と違う通路に向かって走り出す。すると、ギャリーの側をオレンジ色の何かがゆっくりと飛び去っていった。

「今、なにか飛んでいったけど――」

 イヴがギャリーにそう指摘した。それは、さっきギャリーが捕まえ損ねた『捕らわれの炎』だった。けれど、ギャリーにはそんな余裕はなく、ひたすら走っていた。すると、メアリーがイヴの手を離し、『捕らわれの炎』を追いかけ始めた。

「ギャリー、メアリーが!」

 イヴのその声に、ギャリーはようやく立ち止まる。後ろを振り返ると、メアリーがちょうど『捕らわれの炎』を捕まえたところだった。次の瞬間、『失敗作』が通路の角から姿を現した。メアリーと『失敗作』との距離は、ほとんどない。

「メアリー!」

 ギャリーが思わず叫ぶ。すると、『失敗作』はギャリーの方を向く。『失敗作』は、ゆっくりと歩き出すと、メアリーの横を通り抜け、ギャリーとイヴのいるところに向かって歩いてきた。

「もしかして、あの絵、目が見えないんじゃないかな?」

「どういうこと、イヴ?」

「あのバツ印のせいで、きっと前が見えないんだよ。だから、メアリーに気がつかなかったんじゃないかな?」

「ということは、静かにしていれば、あいつにはこっちの居場所は分からないってこと?」

 イヴは頷く。『失敗作』はゆっくりと二人のいる方に向かって歩いてくる。その足取りは、やはり前が見えないせいなのか、フラフラとして覚束なかった。

 ギャリーとイヴは静かに歩き出し、『失敗作』の側を通りすぎる。すると、イヴの予想通り、『失敗作』は二人に気がつくことなく、そのまま歩いて行った。二人はそのまま、メアリーのところまで行く。

「ねえ、これ見てよ!光ってるよ!」

 メアリーがイヴに『捕らわれの炎』を見せる。その声を聞いた『失敗作』は、勢いよく振り返り、三人に向かって歩き出す。ギャリーは二人の手を取り、扉に向かって走る。

 扉を出ると、ギャリーは大きく息をつく。メアリーの手の中では、『捕らわれの炎』が静かに点滅していた。

「とりあえず、みんな無事でよかったわ・・・・・・。それじゃあ、そのチョウチョをあの蝋燭の絵のところに持って行ってみましょ。」

 ギャリーの提案に、イヴは頷く。メアリーは何のことだかよく分かっていないようだっかけれど、『捕らわれの炎』を大事に持ったまま、歩き出した二人の後をついていった。


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