キャンバスの中の光源
「メアリー、さっきは言いすぎだよ。」
イヴは小声でメアリーにそう言うと、チラッと振り返る。するとギャリーと目が合うので、慌てて視線を前に向ける。
「・・・・・・だって、本当のことなんだもん。イヴはギャリーの味方をするの?」
イヴは言葉につまる。たしかに、この場ではギャリーの味方をしていることになるのかもしれないけれど、別にメアリーのことが嫌いなわけではない。けれど、ここで頷くと、きっとメアリーは自分が嫌われていると勘違いしてしまう。それほどまで、メアリーはイヴのことが好きなのだ。
しばらく歩くと、蝋燭台に刺さっている一本の蝋燭が描いてある絵が壁にかかっているのが見えた。イヴは、その絵のタイトルを見る。
『キャンバスの中の光源』
「光源って言っても、火が点いてないみたいだけど。」
イヴとメアリーの背後から、ギャリーの声が聞こえてくる。メアリーはギャリーを一瞥すると、何も言わずイヴの手を取り先に進む。
「メアリー――」
イヴの問いかけにも答えず、メアリーはどんどん歩いていく。ギャリーは黙って、そのあとをついていく。
しばらく歩き曲がり角を曲がると、廊下の壁に扉があった。廊下の先には、大きな蛇が眠っているのが見える。
「あの蛇は・・・・・・さっきの蛇だわ。どうやら、一周したみたいね。」
メアリーは黙ったまま扉を開ける。扉の向こうは、真っ暗だった。一歩踏み入れたら、その闇に飲み込まれてしまいそうだった。
「真っ暗だね。」
イヴがつぶやく。ギャリーが扉を覗きこむ。
「うわ。真っ暗ね・・・・・・。このまま進むのは危ないわ。そうだわ。こういう時こそ、ライターを・・・・・・」
ギャリーがコートのポケットから銀色のライターを取り出す。
「ギャリー。」
ギャリーがライターの蓋を開け、まさに火を点けようとしたとき、イヴの声が聞こえてくる。ギャリーがイヴの顔を見ると、イヴは不安げな表情をしていた。ギャリーと目が合うと、イヴの視線がメアリーに向けられる。
ギャリーは、暗闇を見つめ続けているメアリーを見る。メアリーの手を握っていたイヴは、ギャリーがライターを取り出したとき、メアリーの手が震えているのが分かっていた。
「あれ?ごめん、オイルが切れたみたいだわ。」
イヴが言おうとしていることがわかったギャリーは、そう嘘をつくとライターをポケットにしまう。
「とりあえず、いったん出ましょ。ここで襲われたら危険だわ。」
ギャリーはそう言うと、扉を閉める。メアリーがイヴを見る。メアリーと視線が合ったイヴはそっと微笑みかける。ギャリーはイヴとメアリーのやりとりに気がつかずに、先に進む。
少し進むと、扉の隣の壁に大きな時計があるのが見えた。太陽と三日月、そして鳥の羽のように緩やかな曲線を描いた針。振り子の代わりなのか、ハイヒールを履いた女性の脚が時計の下にぶら下がっている。ギャリーは、その時計の下にあるタイトルを読む。
『さぼり癖のある秒針』
「この時計、止まってるね。」
「そうね・・・・・・。ん?何かあるわ。」
イヴの問いかけに答えたギャリーは、時計の下にパネルを見つける。どうやら、数字をいれるパネルのようだ。時計の下に数字をいれるパネルがある。
「ここに数字を入れるみたいね。数字を入れると動くのかしら。」
すると、メアリーが何も言わず扉を開け、中に入る。イヴは、慌てて部屋の中に入っていく。扉が閉まり、ギャリーは一人取り残される。
(アタシ、メアリーに嫌われちゃったかしら・・・・・・。・・・・・・もともと、そんなに好かれてなかった気もするけど。)
すると、すぐに扉が開き、イヴが扉の隙間から顔を覗かせる。ギャリーは扉を開け、イヴと一緒に部屋の中に入る。




