執拗な双子
「それにしても、随分いろんな絵が飾られているのねえ。」
ギャリーは、廊下の壁に飾られている絵を順番に見ていった。
入口に一番近いところに飾られていたのは、赤い額縁にボールのような絵。その隣にあったのは、青い額縁に本の絵。
「ん?なにか書いてあるわ。」
絵の中の本には、文字が書かれていた。ギャリーはその文字を読み上げる。
夜になると 皆眠りにつく
「どういう意味かしら?」
「夜になると、みんな寝ちゃうってことじゃない?」
「それは、そうだろうけど――」
腕を組むギャリーを見て、メアリーは首をかしげる。イヴの方を見ると、イヴもなにか考えているのか、真剣な顔で青い額縁の絵を見ていた。
青い額縁の絵の隣にあったのは、黄色い額縁にサメの絵。その隣にあったのは、紫の額縁に紅茶の絵だった。
「なんか、いい香りがする。」
「ホントだ!」
イヴに指摘され、メアリーが匂いを嗅いでみると、たしかにその絵から紅茶の香りが漂っていた。
「すごく、良い香りだけど……これは、これで、すごい嫌がらせだと思わない?あー、この紅茶が本物になればいいのに。」
「わたしは、お菓子とかのほうがいいなあ。ほら、あの星みたいな形のお菓子とか、食べてみたいなあ。知ってる、イヴ?」
イヴは首を左右に振る。
「そっかあ。甘くておいしいみたいだから、今度一緒に食べてみようよ!」
(そんなお菓子、あったかしら……)
ギャリーは、そんなことを思いながら、最後の絵を見る。最後の絵は、緑の額縁に穴が空いた地面の絵だった。
「これ、なにかしら?あら、この絵ははずれそう。」
ギャリーはそう言うと、緑の額縁の絵をはずす。そこには、壁があるだけだった。
「この裏になにかあるかと思ったんだけど、なにもなさそうね。」
ギャリーは、そのまま絵を下におろし、壁に立てかける。イヴは、その絵に近づくと、じっと観察し始めた。
「ここは、もうなにもなさそうだし、他のところに行ってみようよ。」
メアリーが絵を見ていたイヴの手を取り、廊下の入口に向かう。
「ちょっと!勝手に行動しないでって言ったでしょ!」
ギャリーが呼び止めるが、メアリーとイヴはそのまま廊下を出て行ってしまった。ギャリーは慌てて二人のあとを追う。
ギャリーが広い通路に戻ると、立ち止まっている二人を見つけた。
「もう!何が起こるかわからないから――」
「ギャリー、危ない!」
イヴの声に、ギャリーは思わず立ち止まる。そこに、メアリーがぶつかってくる。バランスが崩れ、思わず後ろに倒れこむ。
「イタタ……。ちょっと!なにするのよ、メアリー!」
「しー!静かにしててよ。」
メアリーが人差し指を立てて、口元に当てている。イヴはしゃがみこみ、地面のある一点を見つめている。ギャリーは、イヴの視線の先を見るが、なにも見えなかった。
「ぼく、シロアリ。床、抜けて、帰れない。帰りたい。」
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。小さい声だったが、たしかに聞こえた。ギャリーが這いつくばってゆっくりイヴの側に近づく。目を凝らしてみると、地面に動く白い点があるのが見えた。
「あそこの床が抜けてるの。」
メアリーが指差す。たしかに、床が抜けていた。ギャリーがジャンプすれば、なんとか渡れそうだったが、イヴとメアリーが渡るのは難しそうだった。
「うーん……。どうすればいいのかしら。」
すると、イヴが突然立ち上がり、来た道を走って戻っていった。
「ちょっと、イヴ!どこに行くの!?」
「イヴ、待ってよー」
メアリーがイヴの後を追おうとしたとき、イヴが絵を抱えて帰ってくるのが見えた。それは、緑の額縁に穴の空いた地面が描いてある絵だった。
「これで、家に帰れるよ。」
イヴはその絵を置き、抜けた床に橋をかけた。
「あ、帰り道、もどった。これで、帰れる。」
すると、シロアリは絵の上を渡り、絵の中の穴に入っていった。ギャリーは、シロアリが入っていった絵をじっと見る。
(やっぱり、ゲルテナの作品なのね……)
「これで、渡れるよ。」
イヴはそう言うと、絵の上を歩き、向こう側に渡った。
「うわあ。イヴ、すごーい!」
メアリーも、イヴのあとを追って向こう側に渡った。
「ギャリー!早くー。」
メアリーが向こう側から手を振っている。ギャリーは、床の架け橋となっている絵をじっと見つめていた。
「これ、落ちたりしないわよね……」
「もう、遅いよ。」
気が付くと、メアリーが戻ってきて、ギャリーの手を引っ張っていた。ギャリーはメアリーに引っ張られ、そのまま絵を渡ってしまった。
「アハハ!ギャリーって、やっぱり怖がりなんだね!」
「そ、そんなことないわよ!」
ギャリーはそう言うと、ごまかすように大きく咳払いをする。ふと視線を動かすと、イヴと目が合った。
「……知ってた。」
そうつぶやくと、イヴは先に進む。メアリーもその後を追う。
(知ってたって――)
ギャリーは肩を落としながら、二人のあとを追う。
「なにあれ!」
しばらく歩くと、メアリーが走り出した。
「もう、また勝手に――」
ギャリーはひとつ溜息をつくと、イヴの手を取りメアリーの跡を追う。
メアリーは、通路の分かれ道の前にいた。分かれ道の先には、赤と青の花が一直線に並び、踊るように左右に動いている。二本の花の向こうには、扉が見えた。これらの花も作品なのか、二本の花の前に、タイトルが書いてあった。
『執拗な双子』
「この花、変な動きしてるよ。おもしろーい。」
メアリーが手前にあった赤い花に近づく。すると、今まで踊っていた花が動きを止めた。どことなく、メアリーに狙いを定めているように見える。
「メアリー、危ない!」
ギャリーがメアリーの腕をつかみ引っ張る。
「キャッ!」
引っ張られたメアリーは、勢い余って倒れる。メアリーのすぐ後ろで、赤い花が大きな口を開けて、なにもなくなった空間に喰らいついていた。
「大丈夫?」
イヴが倒れ込んだメアリーに手を差し出す。
「この先には行けなさそうね・・・・・・。それより、気をつけなさいよね。何が起こるのか、分からないんだから。」
「なによ!ギャリーの怖がり!」
メアリーがイヴの手を取り、立ち上がる。
「な・・・・・・。それとこれとは関係ないでしょ!」
「もういいよ!イヴ、行こ。」
メアリーはイヴの手を取ると、そのまま歩き出す。ギャリーは、しばらくその場で先を行く小さな背中を見ていた。一生懸命背伸びをした、子供らしい背中だった。
(先が思いやられるわ――)
ギャリーはまた大きな溜息をつくと、二人の後を追った。




