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何の音もしない。ここはどこだろう?イヴは、ゆっくりと目を開ける。目を開けると、夕日が窓から射し込んでいた。イヴは、身体を起こす。真っ白なキャンバスが置いてあり、周囲の床や壁は様々な色の絵の具で汚れていた。
どうやら、元の世界に帰って来られたらしい。雨は、すっかりやんでいた。
「イヴ、起きた?」
声のする方を見ると、そこにギャリーが立っていた。その側でメアリーが横になっていた。
「メアリーは、まだ寝てるみたい。もう、散々な日だったわね。」
すると、あることを思い出し、イヴはポケットを探る。それは、まだポケットの中にあった。イヴは、それを外に出す。
「あら?そのカギ、まだあるの?」
ギャリーは、イヴからその黒いカギを受け取る。特に変わったところはない。イヴは、改めて部屋を見渡す。すると、白いキャンバスの下に錠前がついている宝箱のような箱が置いてあるのを見つけた。
「ギャリー、あれ。」
「そうね。一応、確かめてみましょうか。」
ギャリーが、その宝箱にカギを挿す。すると、カチッという音を鳴らし、カギが回った。
「開いたわ!」
ギャリーは、そのまま宝箱を開ける。
「ぎゃー!」
ギャリーは叫ぶと同時に、その場に尻餅をつく。イヴも近寄り、中身を見る。思わず、息を飲む。
「ギャリー、うるさいよ・・・・・・」
ギャリーの叫び声で起きたのか、メアリーが目を擦りながら、二人のところに来る。メアリーは、その宝箱の中身を見ると、パッと笑顔になる。
「あ!これ、かわいい!ねえ、もらっていい?」
メアリーはそう言うと、それを取り出し、抱きしめる。それは、真っ赤な目をした青い鬼の人形だった。真っ赤な口を大きく開いている。
「・・・・・・アンタの趣味が分からないわ。」
「えー、こんなにかわいいのに。」
メアリーが嬉しそうに抱きしめる。イヴは、さっき『最後の舞台』で眠っている間に見た夢を思い出していた。イヴを夢の中で起こしてくれたのは、この人形だった。
「他には、何もないわよね?」
ギャリーは、おそるおそる宝箱の中を覗く。すると、そこには一冊の本があった。
『存在とは―無機物における魂および生命の可能性―』
ギャリーは、パラパラとその中を見る。すると、そこに見たことがある名前が書いてあるのを見つけた。
「それ、何の本?」
「何かしら。ちょっと難しい本みたい。」
ギャリーは、イヴの質問にそう答えると、その本をそっとポケットの中に入れた。イヴは、窓から射し込む夕日の光を受けて立つ真っ白なキャンバスを見つめる。
イヴが思い出していたのは、メアリーを目の前にして涙するひとりの女性のことだった。
「ねえ。また、ここに来てもいいかな。」
「・・・・・・そうね。メアリーの元気な姿、見せに来なきゃね。・・・・・・メアリー?」
メアリーが青い鬼の人形を抱きしめ、顔を埋めていた。
(・・・・・・もしかして――)
「そうだね。そうしよっか。また、冒険できるかもしれないし。」
顔を上げたとき、メアリーは満面の笑顔だった。しかし、ギャリーはいつもとの微妙な違いに気がついていた。その顔には、どこか、変に力が入っていた。
「それにしても、よかった。二人とも無事で!」
ギャリーはしゃがむと、イヴとメアリーを両手で抱きしめる。
「ギャリー、痛いよ!」
メアリーは、そう言いながら笑う。笑いながら、その目の端に涙が一滴だけ流れるのを、イヴはギャリーの腕の中で見つめていた。ギャリーは、そっと手を離す。
「それじゃ、帰りましょうか。」
イヴとメアリーが頷く。ギャリーが扉を開け、メアリーがそのあとに続く。イヴは、ふと足を止め、振り返る。
「また、みんなと一緒に来るね。」
イヴはそう言い残し、扉を閉める。
扉を閉める音が響く。そのまま、三人はアトリエをあとにする。
再び誰もいなくなったアトリエ。その静まり返った部屋の床に文字が浮かび上がる。
待っているよ Ib




