コペルニクス的転回の展開
「う、うーん・・・・・・」
ギャリーが、うっすらと目を開ける。すると、目の前にメアリーが立っているのが見える。メアリーは、分厚い本を掲げ、今まさにそれを振り下ろそうとしていた。ギャリーは、咄嗟に立ち上がる。
「やっと起きた!なんでもっと早く起きなかったの!」
メアリーが、そのまま本を投げつけてくる。本は、ギャリーの足に当たり、鈍い音が鳴る。
「イタッ!ちょっと、何するのよ!」
「それどころじゃないよ!イヴがいなくなっちゃったんだから!」
それを聞いたギャリーは、慌てて辺りを見渡す。確かに、イヴの姿が見えない。
「目を閉じて、3秒数えたら、イヴだけいなくなってたんだよ。」
「・・・・・・どういうこと?」
ギャリーは、メアリーからこれまでの経緯を聞いた。ギャリーが眠ってしまった後、部屋から出られなくなってしまったこと。『秘密の部屋の入り方』という本を見つけ、その通りに行動したこと。最後にキャンバスに書かれていた通りに3秒目を閉じていたら、イヴだけいなくなっていたこと。ギャリーはキャンバスを見るが、そこに文字は書かれていなかった。
「じゃあ、今、イヴは一人で秘密の部屋にいるってこと?」
「分かんない。」
ギャリーは試しに目を閉じ、3秒数えてみる。目を開いても、部屋が変わることはない。
「ギャリーも起きたし、イヴならそのうち帰ってくるんじゃないかな。」
「・・・・・・帰ってこないじゃない。」
ギャリーとメアリーは顔を見合わせる。ギャリーの顔に焦りが浮かぶ。
「探さないと!」
ギャリーは、部屋中のありとあらゆるところを探し始めた。壁に何かないかと、壁に顔を近づけていたりもした。
「ギャリーが寝ているあいだに、あちこち探したよ。」
メアリーの冷静な指摘にも、ギャリーは耳を貸さなかった。メアリーが、部屋の入口に視線を送る。
「・・・・・・!」
メアリーは慌てて扉を開け、部屋を出ていく。
「ちょっと、メアリー!どこに行くのよ!」
それに気がついたギャリーも、慌ててメアリーの後を追いかける。ギャリーが部屋を出ると、少女は、部屋の奥にある階段を上るところだった。ギャリーも、それを追いかけようと足を踏み出す。
「なによ、これ!」
ギャリーは、足元に冷たいものを感じ、思わず足を上げる。地面を見ると、そこは黒い絵の具のようなもので塗りたくられていた。その絵の具は、ヒンヤリと冷たかった。ギャリーが顔を上げると、少女は脇目もふらず、どんどん階段を上っていた。
「待って!」
少女のあとを追い、ギャリーも階段を上る。
階段を上りきったところで、少女が立っているのが見えた。部屋の真ん中には、大きな穴が空いている。これもゲルテナの作品らしく、近くにタイトルが書かれた看板があった。
『コペルニクス的転回の展開』
「イヴ!」
ギャリーは、咄嗟にそう叫ぶ。しかし、そこにいた少女は聞こえなかったのか、そのまま穴の方に進む。
「・・・・・・!」
目の前にいるのは、緑のドレスに身を包んだ少女――メアリーだ。イヴではない。なのに、ギャリーは、イヴと呼んでしまった。
(・・・・・・気が動転しているのかしら。落ち着かなきゃ。)
ギャリーがメアリーに近づく。メアリーが大きな穴の側に置いてある絵画のピースに手を伸ばす。すると、壁にかかっていた額縁から、大きな何かが出てきた。顔に大きなバツ印のあるボロボロの布を身に纏った子供―『失敗作』だった。
ギャリーは、咄嗟にメアリーと『失敗作』の間に入り込む。次の瞬間、ギャリーの身体が宙に投げ出された。ギャリーに押し出され、メアリーの身体も宙に浮く。
「・・・・・・っ!?」
二人は、『コペルニクス的転回の展開』の穴に吸い込まれるように落ちていった。ギャリーは、メアリーの身体を抱き、そのまま落ちていった。




