誘う宝石箱の魔窟
『コペルニクス的転回の展開』に投げ出された二人だったが、落下の速度はそれほど速くなかった。落下というより、一定の速度で降りていく感覚だった。落ちている間、そこには燃えている星、緑色の星、輪っかのある星、青い星など、様々な星があった。
やがて、二人は地面にぶつかる。ギャリーは、メアリーを抱いたまま、背中から落ちた。
「イテテ・・・・・・どうやら、大丈夫みたいね。」
「ギャリー、苦しい。」
ギャリーが慌ててメアリーを離す。メアリーは立ち上がると、辺りを見渡す。壁には、二つの星のパネルが飾られており、部屋の中央には、なにやら大きな箱があった。
「アンタね――」
ギャリーがメアリーの突然の自分勝手な行動を問い詰めようとしたが、メアリーは気にせず、部屋の中央の箱を調べる。ギャリーは、溜息をつきながら、メアリーの側まで来る。
「オレのたから、ホシイカ?」
突然、箱が口を開いたかと思うと喋りだす。いきなりの出来事に驚いたギャリーは、近くにタイトルが書いてあるのを見つける。
『誘う宝石箱の魔窟』
「うん!」
メアリーが、笑顔で答える。
「かべのナゾ、トイタラ、はなしかけろ」
「まちがえたら?」
ギャリーが、おそるおそる尋ねる。どうせ、ろくなことを言わないんだろうなという予感はあった。
「まちがえたら かむ。」
『誘う宝石箱の魔窟』はそう言うと、その鋭い歯を見せつけるように、大きく何回も閉じたり開いたりした。噛まれたら、怪我どころで済まなさそうだった。
「壁の謎って、これかな?」
メアリーが、二つの惑星のパネルの前に立つ。下にはボタンがあり、メアリーが押すたびに、その上にある星のパネルが変わっていく。メアリーが何度も押してみるが、星が変わる以外には何も起きなかった。
ギャリーは、ボタンを押すたびに現れる星を見ていて、あることに気がついた。
「そういえば、今落ちてきた時にも、星がいくつもあったわね・・・・・・」
「うん、そうだね。」
メアリーはボタンを押し続けている。ボタンを押しては、隣のボタンのところに行き、ボタンを押し続ける。同じ星のパネルが現れたら、また隣のボタンを一回押し、また元の場所に戻り、ボタンを押し続けた。
「そんな闇雲にやっても、仕方がないんじゃない?」
「うるさいなあ!分かんないから、しょうがないじゃん!」
そう言われると、黙り込むしかなかった。ギャリーは、今見た星を全て覚えていなかった。だから、さっきから現れるパネルのうち、どの星があったのか、分からなかった。
試行錯誤しているメアリーを見ていて、ギャリーは今までの出来事を思い出していた。みんなで協力して、謎を解いていたことを。イヴだけでなく、メアリーも謎解きをしていたことに、正直驚いていた。
(・・・・・・もしかして、メアリーが悩んでいるのって――)
確証はなかった。けれど、もし、その仮定が正しいのなら――
「これ、もしかしたら落ちている途中に『なかった』星にするんじゃないかしら。」
メアリーは、振り返る。ギャリーと目が合うと、満面の笑みを浮かべた。
「なーんだ。だったら簡単だよ。」
そう言うと、メアリーはボタンを押し、あっという間に星を選んだ。これで、はっきりした。メアリーが悩んでいたのは、『どの星があったのか分からないから』ではなく、『見た星を選ぼうにも、見た星がいくつもあり、選べなかったから』だった。
「覚えてるのね・・・・・・」
確かに、落ちる速度はそれほど速くなかった。星を見逃すということはなさそうだった。けれど、落ちている間に見える星など、前もって言われていない限り、覚えているものではない。少なくとも、ギャリーは覚えていなかった。
「そういえば、アンタあのときも番号、覚えてたわね。記憶力がいいのかしら。」
ギャリーは、『さぼり癖のある秒針』を動かすための番号を、メアリーがスラスラと暗唱したのを思い出していた。
「え、そうなの?普通だと思ってたよ。それより、これで――」
メアリーは、『誘う宝石箱の魔窟』の前まで行く。
「解いたよ!当たってるでしょ!」
「・・・・・・。よくわかったな。しかたない。オレのたから、やるよ」
『誘う宝石箱の魔窟』はカリカリという音を鳴らしたあと、口を大きく開く。箱の縁に付いていた鋭い歯は引っ込み、中には絵画のピースが入っていた。
メアリーが、箱の縁に体を乗せ、箱の中に手を伸ばす。絵画のピースは、音を鳴らして消えた。
「やった!これでそろったね!」
「・・・・・・なんで、分かるのよ。」
確かに、記憶力のいいメアリーなら、今まで何枚集めたか覚えているかもしれない。けれど、そもそも全部で何枚集めなければならないか、知らないはずだ。
「ここに来る前に、大きな額縁があったんだよ。二つ空いていたから、あと二つなんだなあって思ったんだけど――」
「そうなの?じゃあ、そこが出口なのかしら――」
そして、ギャリーは大事なことを思い出す。忘れてはいけない、あのことを。
「それより、イヴを探さなくちゃ!?」
すると、上から何かが降ってきた。それは着地すると、ゆっくりと顔を上げる。顔のバツ印が、ギャリーとメアリーの方を向く。ギャリーは、急いでメアリーの手を取り、音をたてないように扉から外に出る。




