キュビズム
次の部屋は、いくつもの本棚が並んでいた。入口の近くには、何も書かれていないキャンバスが置いてあった。
「何かしら、ここ?資料室?」
ギャリーは、近くにあった本棚を見てみる。そこには、『動物の骨格・標本』、『前衛芸術とその歴史』、『ゲルテナの作品集』、『キュビズム』などといった本があった。イヴとメアリーは、本棚に何かないか、探索を始めていた。
ギャリーは、『ゲルテナの作品集 目』を手に取り、適当に開いてみる。
『悟り』
ヒトの目を 真横から描いた絵。ゲルテナの没後に 自宅から発見された。キャンバス全体に木炭を擦りつけているのが特徴で、残念ながら絵に若干の損傷が見られる。
『寡黙な視線』
緑一色の中に 2つの目だけが存在する絵。ゲルテナが学生の頃に制作したもの。この作品は後に 彼の在学していた学校へ寄贈されたが、その数年後に行方がわからなくなってしまった。
噂では学校関係者が持ち去ったとの情報が流れているが、真偽は定かではない。
『単眼の微笑み』
一つ目の女性が描かれた 不気味な絵。当初は両目が描かれていたと言われている。この作品は一度、何者かの手により展示していた博物館から盗まれたことがあったが、翌日戻ってきたという話は、比較的有名であろう。
「特に手がかりになりそうなことは書いてなさそうね・・・・・・。」
次に、ギャリーは『キュビズム』を手に取る。すると、その本には何かが挟まっているようだった。ギャリーがそのページを開くと、絵画のピースがあった。絵画のピースは、そのまま地面に落ちると、音を鳴らして消えた。
「これで、何枚目かしら?」
それぞれが絵画のピースを拾っているため、ギャリーには、集めた正確な枚数が分からなくなっていた。そもそも、この絵画のピースを集めることに何の意味があるのかも定かではない。
果たして、これを集めることが脱出することにつながるのだろうか。ギャリーは、少し不安になった。
「あら?何かしらこれ?」
ギャリーは、本棚の中にある、ボロボロの冊子が目に留まる。それを取り出してみると、どうやら日記のようだった。中のページは、ほとんど破り取られている。ギャリーは、その日記に挟まっていた古い新聞記事を取り出す。
時代に逆らう奇抜な作品群 ワイズ・ゲルテナとは、どんな人物か・・・・・・
新聞記事は、滲んでいてほとんど読めなかった。新聞記事の挟まっていた日記のページに、なにか書かれていた。ギャリーは、目を凝らして読んでみる。
『―品は 完―した―点― その――を失って―まう』
ところどころ掠れていたが、そんな風に読めた。しかし、それ以上の解読は難しかった。ギャリーは適当にページを開く。
『この世に生まれてくるはずだった、この世に存在しない――。――のために、必ず――』
それ以上は、破られていて読めなかった。その文字は、弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。
他のページも見てみるが、それ以外のページは、ほとんど読めなかった。ギャリーは諦めて、日記を閉じる。イヴとメアリーも、探索が一通り終わったのか、ギャリーのところにやって来る。
「何にもなかったよ。ギャリーは、何か見つけた?」
「絵画の欠片なら、あったわよ。・・・・・・ねぇ、イヴ、メアリー。少しだけ、休憩しない?さっき走り回ったせいで、足がちょっと、ね。あーヤダ。情けないったらホント・・・・・」
ギャリーは、そう言うと部屋の壁際まで歩いていき、そのまま座り込む。
「あー、疲れた・・・・・・。足が地面と、一体化してるみたい。アンタたちも、今のうちに休んでおきなさいね」
すると、ギャリーは小さな寝息をたて、そのまま眠ってしまった。イヴとメアリーは顔を見合わせる。
「ギャリー、寝ちゃった。・・・・・・他の部屋行っちゃう?」
メアリーはそう言うと、イヴの返事を待つことなく扉の前まで歩いていき、ドアノブに手をかける。
「・・・・・・あれ?鍵がかかってるよ!?」
すると、ガタガタと物音が鳴り出した。本棚が揺れ、部屋中のありとあらゆるものが揺れだした。壁にかかっていた絵画を覆っていいた布も、その揺れで地面に落ちる。イヴは、慌ててギャリーを起こそうと、ギャリーの身体を揺らす。
「ギャリー、起きて!」
そこに、メアリーも加わるが、ギャリーは目を開けようとしない。
「もう!いい加減、起きてよ!」
メアリーが、ギャリーをポカポカと叩き始めるが、それでもギャリーは起きようとしない。
やがて、部屋の揺れは収まった。それでも、扉の鍵は開かず、ギャリーは眠ったままだった。
「どうしよう・・・・・・」
すると、イヴは不思議な香りが漂っていることに気がついた。イヴが、その香りをたどっていくと、そこには一冊の本があった。
『秘密の部屋の入り方』




