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環状の女

 オレンジの扉をくぐると、左右に階段が続いていた。正面には、舞踏会なのだろうか、スポットライトが当てられた青いドレスを身にまとった女性を、貴婦人たちが見つめている絵が飾ってあった。

「すごーい!あんな高いところにも絵が飾ってあるよ!」

 メアリーが天井付近を指差す。ギャリーが上を見上げると、まるでコンサートホールのように観客席が描かれた絵がいくつかあった。視線を戻すと、目の前の絵のタイトルを見る。


『社交界の女王』


 すると、どこからともなく拍手が聞こえてきた。わずかに遅れて、小さな悲鳴が聞こえてきた。

「こ、今度はなによ。」

 ギャリーが怯えた視線で辺りを見渡す。イヴもゆっくり辺りを見渡すが、拍手のあとはしんと静まり返り、誰かがいる様子はなさそうだった。

「誰もいないみたい・・・・・・。イヴ、行こっか。」

 メアリーはイヴの手を取り、階段を上り始めた。ギャリーはそのあとをついて行く。

 やがて、階段を上り終えると、今度は階段が下に続いていた。下は暗く、先が見えない。その暗さが怖いのか、先ほどまで元気良く階段を上っていたメアリーは、なかなか階段を下りようとしなかった。

「暗いわね・・・・・・。足元、気をつけるのよ。」

 ギャリーがメアリーの手を取る。メアリーは頷くと、二人の手を握り、階段をゆっくりと下りていった。

 

 しばらく下りていると、ぼんやりと辺りが明るくなった。ダークブルーのライトで照らされているような明かりだったが、辺りを見渡すのに十分な明るさだった。

「なんだか、落ち着く明かりね。まるで、海の中にいるみたい。」

「そうなの、イヴ。」

 メアリーがイヴに尋ねる。イヴは少し考えると、小さく頷いた。そういえば、この美術館に来る前、水に飲み込まれたんだっけ。イヴは、ぼんやりとそんなことを思い出していた。冷たく、暗い水の感覚は、今でもはっきり覚えている。

 階段を下りて左に進むと、身体を反らせ手と足がくっついている、まるで粘土のような女性の像があった。ギャリーは、その作品のタイトルを見る。


『環状の女』


「・・・・・・なんか、不気味ね、これ。」

 すると、女性の像が身体全体で作っている輪の向こうから、何かが顔を出した。ギャリーは、思わず尻餅をつく。

「あ、ごめん。ギャリー。」

 穴の向こうから覗くメアリーは、悪びれた様子もなかった。メアリーは、その輪をくぐると、イヴのところに歩いて行った。

「何にもなさそうだよ。次、いこ!」

 メアリーはイヴの手を取り、さらに先に進む。

「ちょっと、二人とも待ちなさい!」

 ギャリーは慌てて立ち上がると、二人の後を追う。


 しんと静まり返る薄暗い空間。誰もいなくなったこの空間に、どこからか声が響いてきた。


―深海に 溺れてしまえ―


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