さぼり癖のある秒針
「メアリー!」
名前を呼ばれ、メアリーはゆっくり目を開ける。目を開けると、ギャリーがメアリーを抱えていた。イヴが『ロウソクの絵』を抱え、心配そうに覗き込んでいる。
「・・・・・・夢?」
確か、私は暗闇の中にひとりぼっちになったはずじゃ―
「大丈夫!?なんともない?」
メアリーは立ち上がると、ギャリーの顔をじっと見る。どうして、ギャリーはこんなにお人好しなのかなあ。怖がりなくせに、自分のことより、人の心配ばかりする。
「大丈夫。ちょっと、あの絵を見てびっくりしちゃっただけだから。」
メアリーは、『恨みの正体』がある額縁を指差す。イヴが、『ロウソクの絵』を掲げて、メアリーの指差す先を照らす。
「・・・・・・何もないわね。」
光が照らしているのは、真っ白な絵だった。メアリーが見たときには、確かにそこに赤い人の頭があったはずだった。
「嘘・・・・・・」
「・・・・・・もしかして、ここに何かあったの?」
ギャリーの表情が一気に曇る。もし、ここに何かがあって、それが消えているということは―
「どこかに行ったのかな?」
「こんな暗いところで襲われたら、たまったもんじゃないわ!早くここから出ましょ!」
ギャリーは、イヴとメアリーの手を引き歩き出す。
「ちょっと待って、ギャリー!」
イヴの声に、ギャリーは足を止める。振り返ると、イヴが『ロウソクの絵』を掲げ、壁についているスイッチを照らしていた。スイッチの下には、『時計の目覚まし』と書かれていた。
「これ、もしかして、外の時計のスイッチかも。」
確かに、この部屋の外に『さぼり癖のある秒針』という時計があった。
「そうね。試してみましょ。」
ギャリーが、『時計の目覚まし』スイッチを切り替える。
チン!
鐘が鳴るような音が短く鳴る。特に、何かが変わった様子はなさそうだった。
「・・・・・・これでいいのかしら?とにかく、早くここから出ましょ。」
ギャリーは再び二人の手を取って、部屋の出口に向かった。
部屋の外に出ると、ギャリーはホッと安堵のため息を漏らす。
「ギャリーは、やっぱり怖がりだね。」
メアリーがそっとつぶやく。そう言われ、ギャリーは、イヴとメアリーの手を必要以上に強く握っていることに気がつき、慌てて手を離す。
「な・・・・・・そんなことないわよ。」
イヴが、真っ直ぐギャリーを見つめている。ギャリーは、それに気がつき、思わず視線を逸らしてしまう。
「・・・・・・怖いんだから、仕方ないじゃない。ホントは、もっとしっかりしなきゃって思うけど・・・・・・。」
「別にいいんじゃないかな。ギャリーらしくて。」
メアリーはそう言うと、笑顔を見せる。イヴも頷く。
「確か、あの時計だよね。動いているかな?」
メアリーはそう言うと、『さぼり癖のある秒針』に向かって走っていった。ギャリーは、じっとその背中を見つめる。金色の髪が揺れる。
(ホント、よくわからない子だわ・・・・・・)
「ギャリー、行こ。」
ギャリーがじっとメアリーの背中を見ていると、イヴが手を引っ張ってきた。ギャリーは、イヴに引っ張られ歩き出す。
三人は、『さぼり癖のある秒針』の前まで来る。しかし、『さぼり癖のある秒針』は止まったままだった。
「やっぱり、このパネルに数字を入れる必要がありそうね。」
『さぼり癖のある秒針』の下には、数字を入れるパネルがあった。ここに入れることができる数字は、5つ。
「えっと、さっき見つけた数字はたしか―」
「紫の9、黄色の3、赤の7、オレンジの8、緑の1、青の2。」
メアリーが得意げに数字と色を口ずさむ。
「でも、ここに入れられるのは、5つだけだし・・・・・・。順番はどうなっているのかしら。」
「全部試してみれば、いいんじゃない?」
「・・・・・・そんなことしてたら、日が暮れるわよ。」
ギャリーは考え込む。なにか、ヒントはなかったか。まさか、メアリーの言うとおり、本当に何千通りの組み合わせを試してみるしかないのだろうか。
「・・・・・・そういえば、あの部屋に飾ってあった額縁にも、いろんな色があったような気がする。」
メアリーがそうつぶやく。ギャリーは記憶を遡り、メアリーと出会った部屋の壁に飾ってあったいくつもの絵を思い出す。
「たしかに、あの部屋の額縁、赤とか青とかだったわ!でも、他に何色があったかしら・・・・・・」
「見てこようよ。」
イヴがそう言うと、ギャリーが頷く。すると、ふとギャリーがこの場の違和感に気がつく。
「・・・・・・そういえば、メアリーは?」
さっきから静かだと思ったら、メアリーがいなくなっていた。
「メアリー!」
「見てきたよー!」
ギャリーがメアリーの名前を呼ぶと、遠くから返事が聞こえてきた。声のする方を見ると、メアリーが手を振りながら走ってくる。
「もう!あれだけ一人で行動しないでって―」
「赤、青、黄色、紫だったから、7239だね!」
メアリーが得意げに胸を張る。
「・・・・・・それだと、ひとつ足りないわよ。」
パネルに入れる数字は5つ。メアリーが口にした数字は4つ。たしかに、ひとつ足りない。
「でも、壁にかかっていたのはその4つだったよ・・・・・・」
「72391だ。」
ギャリーとメアリーがイヴを見る。
「シロアリさんの巣が描いてあった絵の額縁が緑色だったから。その絵が一番奥にあったはずだから、72391だよ。」
「そっかあ。そういえば、あの絵、あそこに飾ってあったね。」
ギャリーは、パネルに72391と入力する。すると、『さぼり癖のある秒針』についていた足が左右に揺れ始めた。時計の針が音を鳴らし動き始める。
「イヴ、すごい!」
「メアリーのおかげだよ。」
メアリーがピョンピョン跳ねていると、徐々に辺りが暗くなり始めてきた。
「もしかして、夜になったのかしら?ホント、どうなってんのよ。」
すると、イヴが持っていた『ロウソクの絵』から『捕らわれの炎』が飛び出し、ゆったりと飛び回る。『ロウソクの絵』を見てみると、ロウソクがなくなっていた。ギャリーは、青い額縁の絵の中にあった本に書かれていた文章を思い出す。
夜になると 皆眠りにつく
「もしかしたら、あれも眠っているかも・・・・・・。二人とも、行きましょ!」
ギャリーはイヴとメアリーに手を差し伸べる。イヴがギャリーの手を取る。メアリーはギャリーをじっと見ると、その手を握った。




