04話 少年、ダンジョンへ入る(実践編)
(´・ω・`)スマホを忘れても困らなかったと言っている人を見かけました。
そりゃあ、本人は困らないでしょうけど、一番困るのは貴方と連絡を付けたい他の人なワケで。
態と連絡を受けたくないなら構わないんですが、携帯はきちんと携帯していて欲しいものですね。(愚痴)
部屋に引き篭もっていた勇樹がフィーアに引っ張り出されていた頃、雑貨屋で勇樹たちに手酷くやられた冒険者たちは、自分たちが所属するギルド『迷宮の鬼神』に逃げるように帰って来ると迷わず併設されている酒場へと向かい、一番奥で飲んでいる筋骨隆々な男へと駆け寄った。
「ギッドガルさん! ちょっと聞いてください!」
「んだよ……あ? 何でお前たちそんなにボロボロなんだ?」
「それがですね。雑貨屋でいい感じの女冒険者がいたんでダンジョンに誘ったら、脇にいた低ランクのガキに邪魔されまして。そうしたらその2人が思った以上に手強くて参りました」
「そうか、で? 当然、ソイツ等は痛めつけて来たんだろうな? 特にお前らはCランクだ。冒険者がガキにやられて舐められたままなんて、恥知らずな事はできねぇもんな」
「いや……その」
ギッドガルが笑い混じりにそう言うと、男たちは気まずそうに言葉を濁す。
その様子に違和感を感じ取ったギッドガルは片眉を上げた。
「なぁ、まさかだとは思うが……そのガキ共にやられてお前らはオメオメと逃げ帰って来たワケじゃあねぇよな?」
「あ、いえ、そのですね……」
しどろもどろになる男たちの様子に確信を得たギッドガルは、眉を吊り上げて手に持っていたコップを握り潰すと、轟雷のような怒鳴り声を上げた。
「テメェらはそれでも冒険者か!! よくもそんな情けねぇ姿で俺の前に顔を出せたな! ええ!?」
「す、すんません! でもソイツ等、ガキの暮れに異様に強くて……」
「言い訳してんじゃねぇ! テメェはこの『迷宮の鬼神』の看板に泥を塗りやがったんだぞ! Cランクがこんだけ居てガキ2匹に何してやがんだ!」
ギッドガルが頭から湯気を拭き出さん勢いで怒鳴り散らしていると、細身の男が鬱陶しそうに顔を顰めながら現れた。
「何をそんなに怒鳴っているんだギッドガル。お前の声が外まで聞こえていたぞ」
「エルコレか……コイツらがなぁ。格下のガキ相手にして俺に泣き付いてきやがったんだよ!」
「ほう?」
エルコレと呼ばれた男はギッドガルの言葉に目を細めて、冷めた眼差しを男たちに向ける。
射抜かれるかのような視線に、男たちは肩を震わせながら身を縮めた。
「俺たちみたいな冒険者は難儀な商売だ。店持ってる奴らみたいに自分の体が壊れたら他の奴を代わりに立てる事は出来ないし、工房の職人みたいな手に職があるわけでもない。その上、俺たちみたいなギルドになると直接依頼が舞い込んで報酬の交渉も全部自分たちでやらなきゃいけない。分かるか?」
淡々とした口調で突然問われ、男たちは首を横に振る。
それに対してエルコレは溜息を吐くと、明らかに苛立った様子で足を鳴らしながら話を続けた。
「俺たちはいつも綱渡りなんだよ。技術も金もコネもないのに、海千山千の貴族や商人を相手に交渉しなくちゃいけないんだ。安すぎれば足が出てギルドが赤字になるし、高すぎれば次からの依頼が無くなる。だがな、これらの交渉が出来るのも俺たちが“力のある冒険者”だから出来るんだよ。そんな俺たちが舐められたままで交渉できると思うか?」
「い、いえ……」
「だよな? じゃあ、俺はそんなギルドの看板に泥を塗りやがった奴らをどうすればいいと思う?」
エルコレの問い掛けに、自分たちをこんな風にした勇樹たちを痛めつけるのだと考えた男たちは、希望を持った表情を浮かべて顔を上げた。
「そりゃあ、ソイツをボコボコにしてギルドの恐ろしさを身体に教え込んでやるしかないでしょう!」
「……正解だ。じゃ、そう言う事でギッドガルに任せる」
「おうよ」
ギッドガルが徐に立ち上がると、男たちは互いの顔を見合って歓声の声を上げた。
『迷宮の鬼神』の中で最強の男であるギッドガルが出るとなれば、自分たちをこんな目に合わせた2人の末路は確定したような物――そうすればルシアも自由にできると男たちの間にゲスな想像が過る。
そして、ギッドガルの方へ礼を言おうと振り向いた瞬間……目の前に巨大な拳が迫っていた。
「ふう、全く面倒な事をしてくれたな。そのガキとやらにもしっかりと落とし前をつけさせなければ、ギルドの信用にかかわるぞ。下手にソイツ等が『迷宮の鬼神』のCランクを倒したなんて噂が流れたらこのギルドの面子は丸潰れだ」
「ハッ、格下のガキを潰すのにそんな手間取らねぇよ。明日にでも見つけて始末してくらぁ」
ギッドガルはそう言って自身の拳を打ち合わせて、獰猛な笑みを浮かべた。
そうとは知らない勇樹たちは、昨晩に縛り上げて部屋に放りこんでいたルシアを開放した後、フィーアを宿に残してダンジョンへ向かっていた。
一晩中縛られたままだったので固まった身体を、平均を大きく上回る胸部を強調するように大きく伸びをしながらルシアは不満げに呟く。
「全く、ユーキはオレの身体のどこに不満があるんだ? 大概の男はオレを見るとギラついた目を向けて来るのに、ユーキは興味すら持たないよな。不能なのか?」
「失敬な、こちとら健康優良男児だよ! ただ、獣人の性質を知っているから誘いに乗りたくないだけだよ」
「なんだよー、オレは子種だけ貰えればいいんだから、気にせずヤればいいじゃないかー」
勇樹の指摘にルシアは心底面倒臭そうな顔をしながら、勇樹の腕を取った。
獣人の婚姻とは、申し込んだ側が相手を力でねじ伏せる事で成立する。
ただし、“群れ”という独自の概念を持つ獣人の婚姻とは非常に曖昧な物で、子供が出来る間までの関係であり、子供が出来ると獣人の女性は男性から興味を一切失ってしまう。
そして、子供が自立するまで母親だけで育てるのである。
何物にも例外が存在するが大半の場合、そうした習性を知らず『力でねじ伏せれば惚れる』という噂だけが先行して、子供が出来た途端に本能全開となった獣人に手酷くやられるというのはその道では有名な話だった。
腕に絡んでくるルシアを払いつつ、神殿のような石造りの建物へと入る。
中はドーム状の広場になっていて、ダンジョン内で使えそうな物を売る屋台が立ち並んでいた。
「あのねぇ、獣人がそうできるのは子供を群れで育てるからなんだよ? しかも、銀狼の子供なんて問題あり過ぎて『子供が出来ましたハイさようなら』なんてできるワケないでしょ」
「普人は面倒臭い事を考えるんだな」
「流石にそう言う関係になった女性を見捨てられるほど、世間ズレしてないんだよ。ほら、ダンジョンに入るから準備して。すみませーん、コレお願いしまーす」
勇樹がそう言ってダンジョンの入り口である大きな門の前にいた兵士に、冒険者協会で貰った冒険者証を見えるように掲げて見せる。
兵士はいつもの様に作業的に対応しようとして、勇樹たちを見て思わず手を止めた。
「初めて見る顔だな。2人だけか?」
「はい、昨日にこの町に着いたんで、早速ダンジョンへ挑戦してみようかと」
「……随分と軽装だな。言って置くが、ダンジョン内のモンスターは倒すと消えてしまうから、食料や水の補給は期待できないぞ。しかも2人だけというなら今日は1階で慣らすだけにしておけ。特にダンジョンの中にいると時間が判らない、疲労に気付かずピンチに陥る初心者は少なくない」
「ありがとうございます。ダンジョンは初めてなんで、無理しない程度に抑えておきますよ」
勇樹の回答に満足げに頷いた兵士は、勇樹に冒険者証を返すと合図を出して門を開く。
「わかっていればいい。気を付けて行ってきなさい」
「はーい」
兵士に会釈しながら門を潜ると、下へと続く長い階段が待っていた。
壁には数mおきに光る石が埋め込まれていて、ダンジョン内を薄らと照らしている。
地下一階のフロアに着くと勇樹はポーチからランプを取り出し、物珍しそうにダンジョン内を見回した。
「洞穴みたいなのイメージしてたけど、思ったより確りした作りなんだね」
「そりゃ、ダンジョンは地下何十階にもなるからな。壁も床も天井もちょっとやそっとじゃ壊せないぜ」
「ふ~ん」
ルシアの説明を聞きながら勇樹は何かを確かめるように壁を触る。
そして、棍棒で軽く突いたりランプを近づけ虫眼鏡でジッと覗き出したりと、その場で観察し始めた。
「ふむふむ、この石は普通の石じゃなくて瘴気を含んでるみたいだね。これは……壁が若干動いてる? それにこの臭いは……」
「おーいユーキ、いつまでも壁を睨んでないでさっさと進むぞ」
「ちょ、も、もうちょっとだけ! 壁とか床のサンプル取ったら終わるから!」
ルシアに首根っこを掴まれて勇樹は情けない声を上げながら、ダンジョンの奥へと引き摺られて行った。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




