05話 少年、初めてのダンジョン
(´・ω・`) 【速報】今年のクリスマスは諸事情により中止です。【リア充爆ぜろ】
少し前までルシアに引きずられていた勇樹は、薄暗いダンジョン内を魔導ランプの明かりが煌々と照らしながら奥へと進んでいた。
暫く歩きまわって、勇樹がボソリと呟く。
「暇、ダンジョンって言うからもっとモンスターとエンカウントする物だと思ってたのに、さっきから全然モンスターに遭わないじゃないか。寧ろ冒険者の方があっちこっちで見つかるよ!」
「まあ、この辺は仕方ないだろ。ここは雑魚しか出て来ないからFランクの格好の稼ぎ場なんだよ。もっとも稼ぎ場って言っても一日潜って銅貨数枚って所だけどな」
「命懸けでダンジョン潜っても、安宿泊まって飲み食いしたら終わりって……冒険者って色々安い商売だねぇ。それじゃあ、階段見つけたし下行こうか」
「おいおい、初めてだから抑え目で行くんじゃないのか?」
階段を降りようとする勇樹に、ルシアがニヤニヤしながら問い掛けると勇樹はあっけらかんとした顔で答えた。
「確かに慣らしとは言ったけど、どこでとは言ってないよね?」
「ハッ、その通りだな」
2人は悪戯小僧のような笑みを浮かべて顔を見合わせると、鼻歌を漏らしながら下の階へと続く階段を下りて行った。
2階と3階でも1階と同様に限られたリソースを底辺冒険者たちが奪い合う様に倒しているので、勇樹たちはモンスターと遭遇する事なく通過して行った。
ほぼマッピングされ尽くし、漁る所もないというダンジョンとしての面白みが無い場所に用など無いと言わんばかりに、勇樹とルシアは真っ直ぐ階段を下りて行って4階へと足を踏み入れた。
勇樹が4階に足を付けた瞬間、それまでの階では感じなかった寒気のような感覚が背筋を走る。
ルシアも同じものを感じ取り、咄嗟に武器を構えて臨戦態勢に入った。
「……空気が変わった?」
「そうかもな。ここからはDランクより上じゃないと厳しいらしいから、ここへ来る奴らはさっきよりガクンと減るだろうな」
「あはは、じゃあここからが僕たちのダンジョン探索ってワケだね」
勇樹はそう言いながら、利き手で持っていたランプを持ち替えて得物である棒を構えて握り締める。
緩んだ意識を引き締め直して、警戒しながら歩き進めていると曲がり角の先から何かの鳴き声が聞こえ出した。
勇樹は足を止めて脇にいたルシアに目で合図を送ると、ランプの遮光シールドを引き上げて灯りを遮断し、角の手前まで寄って壁に張り付く。
壁の向こうからベタベタという足音共に、耳障りな喚き声が近づいてきた。
――グワッ、ギギャギャ!
――ギャーギャ!
下品な鳴き声が近づき、壁の端に声の主の足先が覗いた瞬間、勇樹は武器を構えて躍り出た。
相手が5体のゴブリンである事を視認した勇樹は、まず手前にいたゴブリンを殴り飛ばして、もう1体を巻き込んで壁に叩き付ける。
その間に後ろに続いたルシアが大剣を薙ぎ払って2体を纏めて切り払っていた。
そこで漸く自分たちが襲撃された事に気付き、残りが自分しか残っていない事を知ったゴブリンは恐怖に怯えて逃げ出す……と思いきや、笑い声のような奇声を上げながらルシアへと飛び掛かった。
ルシアへと飛び掛かったゴブリンの行動は、ダンジョンでは珍しくない行動である。
特にルシアの大剣のようなリーチが長い武器の場合、間合いの内に入られると戦い辛くなる上に、味方が密集しやすいダンジョン内では咄嗟の時に振り回し辛い。
しかも、顔に張り付かれれば刺したり殴り飛ばしたりするワケにもいかなくなるので、初心者がこれをされて一気に場が混乱してゴブリン一匹に全滅したという話もあったりする。
但しそれは不意打ちに慣れていない冒険者の話。
冷静にそれを見ていたルシアは、無防備に飛び掛かって来るゴブリンを殴り飛ばそうと拳を引いて構えた次の瞬間、脇から伸びた棒がゴブリンの首を目掛けて突き放たれ、潰れた蛙のように壁へと叩き付けた。
――グギャ!?
「はーい、初戦闘終了。結構呆気なかったね」
「いや、オレがいたとはいえゴブリン5体をあっさりと蹴散らすとか、Fランクのする事じゃないからな?」
「何が起こるか分からないダンジョンで、奇襲されたからって呆然としている方が悪い。というか、この程度だったら誰でも処理できるでしょ?」
「……外でも中でも、冒険者の死亡原因の何割かはゴブリンに襲撃されてなんだけどな」
幾多の冒険者たちを餌食にしたであろうゴブリンが魔石へと変化していく姿を見て、歯牙にもかけなかった勇樹の強さにルシアは密かに笑みを浮かべた。
やがて、ゴブリンが死んだ後には親指サイズ程の魔石5つだけが残り、勇樹は拾ったそれを顔の前まで持ってくると物珍しそうに覗き込んだ。
「お~、本当に魔石に変わったよ。凄い、まるでゲームみたい! あ、でもゴブリンから出て来たのに特に変な臭いもしない、何の変哲もない普通の魔石だ」
「体を掻っ捌いて取り出したワケじゃないからな。お陰で汚れを落としたりする余計な手間も無く、落ちてるのを拾うだけだから楽だろ?」
「それは良いんだけど……やっぱゴブリンからだと取れる魔石もそれなりだね。折角ならもっと質の良いのが欲しいんだけど」
「もっと質が良い物となると、更に下へ行かないと取れないぞ」
「むむむ、やっぱりそうなるのか。でも、今回は慣らしって決めてるし、これ以上調子に乗って何かあっても困るから……今回は諦めよう」
「そうか。じゃあ、その代り今日はここの奴らを全滅させるつもりで行こうぜ! ユーキとならおまけもそこそこ楽しめそうだしな!」
「あはは……僕は魔石だけ手に入ればいいんだけどな~」
まるで玩具屋へ向かう童子のように目を輝かせたルシアは、明らかに愛想笑いをかます勇樹の手を引きながら歩き出した。
――ダンジョン内の敵はモンスターだけとは限らない。
薄暗い通路、突如現れる行き止まり、モンスターが入り込まない安全地帯など……あらゆる死角が存在するダンジョン内で、モンスターを倒して魔石を集める以外の方法を選んだ者たちが少なからずいる。
即ち、連戦で疲れた冒険者を襲って生計を立てる不心得者たちであった。
「はぁ、あのさぁ。こんな所で期待に応えなくても良いと思うんだけど」
「ハハッ! やっぱ、ユーキといると退屈しないな!」
「相手はガキ2人だ! 囲って叩けば落ちるぞ!」
「「「おお!」」」
泥と血で汚れ草臥れた革の鎧を着けた男が怒鳴り上げ、周囲の男たちも同調するように怒声を上げた。
それは遡ること数十分前、今までソロで冒険者をしていた勇樹もルシアも、今更ゴブリンに毛が生えた程度で苦戦する筈も無く。
ルシアの聴覚と嗅覚でモンスターの位置を嗅ぎつけて、一気に駆け付けるとほぼ奇襲気味に突っ込んで蹴散らすという、頭の悪い力技で魔石を荒稼ぎしていた。
そして、目安にしていた小袋の3袋目がパンパンになった頃、それらは図ったかのように2人の前に盗賊たちが現れた。
「片方は明らかに“上がりたて”だ! 分断して雌ガキの方を集中して狙え!」
勇樹たちを襲っている集団の中でも一際装備が目立つ頭目らしき男が、戦っているルシアの姿にギラついた視線を向けながら声を張り上げた。
既に倒した後の事を想像して舌なめずりしていた頭目の元に、部下が慌てたように駆け付ける。
「頭ぁ、大変です!」
「なんだ!? “渦”が出たか!?」
ダンジョン内でモンスターが発生する時、瘴気の渦が空間に現れる事から“渦”と呼ばれている。
戦いに夢中になっていて背後からモンスターが発生して挟み撃ちに遭うという事も珍しくないダンジョンでは、“渦”の発生は最も警戒する事象だった。
「いえ、そうではなく。あのガキ共、どっちも半端なく強ぇんです! 囲っているはずの仲間が冗談のように次々と吹っ飛ばされてますぁ!」
「ハァ!?」
ルシアの姿に気を取られていた頭目が勇樹の方に目を向けると、そこにはまるで獣の如く四方八方に跳びながら、悉く部下を投げ飛ばしている勇樹の姿があった。
「ヒャッハー! ほらほらほら、鬼さんこちら! 手の鳴る方へ!」
「な、何だこのガキ! ちょこまかと飛び跳ねやがって……げぶらっ!?」
「クソ! ゴブリンよりもすばしっこいじゃねぇか! アバフッ!?」
股の間をすり抜け、頭の上を飛び越えて、棍棒を自在に振り回し、脚を引っ掻け、蹴り飛ばす。
声こそ緊張感の欠片もなかったが、まるでお手玉のように吹き飛ばされていた。
「オラオラ! オレをどうにかしたかったら、もっと本気できやがれ!」
「ひえー! た、たすけてくれ!」
「まだまだ!」
ルシアの方は更に酷かった。
まるで暴風のように振り回される大剣が、次々と盗賊たちを両断していた。
「な、何だコイツら……」
「頭ぁ、ここは一旦引きましょう。コイツらはヤバい!」
「チッ、モンスター隊を引っ張って来い! 出来るだけアイツらにブチ当てろ!」
「逃がすと思う?」
「は?」
背後から声を掛けられ振り向いた瞬間、頭目の顔面に投げ飛ばされた部下が降ってきて押し潰された。
その後、頭目を失った集団は烏合の衆と化し、敵の前に仲間割れまで始めてアッと言うかに勇樹たちに討伐された。
死屍累々の通路を眺めながら、勇樹は溜息を吐いた。
「はぁ、居るとは思ってたけど、本当に居るんだね。ダンジョン専門の盗賊って」
「ああ、何せ。中には行っちまえば軍隊は追っかけてこれねぇし、どれだけ冒険者を殺そうが目撃者がいなけりゃただの事故で済まされるからな」
「それで物資は冒険者からせしめれば良いと。はぁ、それでルシアさんは何をしているの?」
「決まってるだろ。倒したモンスターは剥ぎ取るのがお約束だぜ?」
そう言いながらルシアは盗賊一人一人の持ち物を漁り、使えそうな物を物色していた。
しかし、殆どがゴミ同然の物ばかりだったので、持っていた冒険者証だけ剥ぎ取って捨てて行く事となった。
通路に転がる死体の山を見ながら勇樹は首を傾げた。
「ねぇ、これはどうすんの? このままで大丈夫?」
「ああ、ダンジョン内で死んだ奴はダンジョンに食われるのさ。だから死体を見つけたら、こうして冒険者証を剥ぎ取るのもオレたちの役目なんだぜ?」
「ふ~ん」
勇樹はもう一度だけ盗賊たちの死体を一瞥すると、もう興味を失ったようにその場を立ち去った。
勇樹たちが立ち去った後、盗賊たちの死体を覆う様に小さなスライムたちが死肉を貪らんと集まっていた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
2017/07/03 最後の部分の内容を変更しました。




