06話 少年、王女を拾う
(´・ω・`)何気にこれで100話目でした。
このペースだと完結するのはいつになる事やら……
勇樹がダンジョンで頭の黒いネズミを駆除していた頃、フィーアはエルクレアにいるアリサに手紙を書いていた。
『という事もありましたが、無事に迷宮都市へ着く事が出来ました。今頃、ユーキ様たちはダンジョンへ行っている事と思います』
「ふぅ、後は手紙をこっちの瓶に入れて……」
今日の分を書き終えたフィーアは手紙を『通行証リボン』を巻いた瓶に詰め込んだ。
『妖精の通り道』は体のどこかに『通行証リボン』を巻けば通る事ができる。
そこで瓶に入れた手紙を持って『妖精の通り道』に手を突っ込み、手紙を置いて行くという方法でフィーア達は手紙のやり取りを行っていた。
フィーアが部屋に置いていた『妖精の通り道』に手紙を入れようとした瞬間、『妖精の通り道』が光り出してゲートが開いた。
『妖精の通り道』は対となる出入り口が無いと通る事は出来ず、もう片方はエルクレアの教会にあるアリサの部屋にしかない筈なので、突然ゲートが開通した事にフィーアは慌てふためく。
そして、『妖精の通り道』を通って混乱しているフィーアの前に現れたのは、フィーアが良く知る人物であった。
「うわぁ! このマジックアイテム、初めて潜ったけどホントにすぐなのね。あ、フィーア久しぶり!」
「お、お久しぶりです……アリサさん?」
見覚えのある大きな鞄を一つ持って現れたのは、エルクレアの教会に所属するシスターであり、勇樹が行き倒れていた所を拾って世話した事もある少女――アリサだった。
ダンジョン内で遭遇した盗賊をあっさりと撃退した勇樹とルシアは、現在いる階を制覇する為にダンジョン内を駆け回っていた。
――グギャギャ……グボェ!?
「ヒャッハー、またゴブリン一匹撃破! それにしても、ダンジョンを走り回るなんて聞いた事ないんだけど大丈夫なの?」
「まあ、この階には引っ掛かってヤバいような罠は無いし、遭遇する敵もオレたちより弱い奴らばかりだ。だったらこっちの方が速いだろ?」
「それもそうだけどさ。でも、ここより下の階の地図ってないんでしょ?」
「いや、無い事はないんだが、3階までは小金稼ぎで地図を描くような奴が多いから情報も多く出回っている。だけど、地図が書ける奴でここまで来られる奴は少ないから、見づらい上に結構雑な物が多い。その上、そんな物を信じて無理に階へ挑戦とする輩も出て来るから、それを防止する為にバカ高いんだよ」
「う~ん、それなら何か自分でマッピングする方法を考えた方が早そうだなぁ」
ルシアの話を聞いた勇樹が地図に付いて考え込んでいると、不意に2人は異変を感じ取って足を止めた。
そして、互いの顔を見合わせ頷くと、異変を感じ取った方角へ掛け出した。
勇樹たちが走り出した頃、ダンジョン4階のとある小部屋で罠に嵌った少女2人が大量にゴブリンに囲まれ、追い込まれていた。
――グギャギャ! グギャギャ!
――グギャ、グギャギャァ!
少女2人に対して下品な笑い声を上げ、腰布を持ち上げているモノを見せつけるゴブリンに、甲冑の少女がローブを纏った少女を庇うように剣を構えて睨みつける。
それはいつか、勇樹がエルクレアの郊外で助けた第8王女ティアナ・エルクレアとその従者アンジュであった。
「クッ、ここまでですか……!」
「済まんアンジュ……妾の力が及ばないばっかりにこんな事に……」
「全く、これに懲りたら少しは私の言う事をちゃんと聞いてくださいよ?」
「うん、善処する……」
間際の軽口ですら断言しないティアナに、肩の力が抜けそうになるアンジュだったが、気を引き締め直し震える手足に力を篭めながら前を向いた。
「ティナ、貴女は私が何としても守ります。今から何とかして活路を開きますから、貴女はその隙に脱出してください」
「な!? そんな事ができる訳なかろう! アンジュが居なくなったら妾一人では生きていけないぞ! ダンジョンを出てすぐに騙されて借金の形に売られるのがオチだ!」
「あ、うん。その光景が目に浮かんでしまうのが不安で仕方ないですが、今はそんな事言っていられない状況なのは解ってます?」
「ハッ! 高がゴブリンの群れなんぞ、2人で蹴散らせばよかろう! そして、堂々とここから脱出すればよいのだ!」
「はぁ、それが出来ないから言ってるのに無茶言いますね……それに付き合わされる私の身にもなってくださいよ」
「うむ、済まんな!」
あっけらかんと良い笑顔で謝るティアナに言う言葉を失い、頭を抱えたアンジュは半ばヤケクソ気味に吹っ切れると、残り僅かな魔力を剣に纏わせた。
それに合わせてティアナも魔力を全身に行き渡らせる。
「……私の全力は数秒も持ちません。そしてゴブリンに捕まれば最後、女性は死ぬまで悲惨な目に合います。絶対にゴブリンに掴まれないようにしてください」
「わかっている。それでは正面突破で行くぞ! 【灼熱の……」
ティアナが魔法を唱えようとした瞬間、入口の方にいたゴブリン達が飛び上がった。
正確には何者かに吹っ飛ばされて、ゴフリンが天井に叩き付けられてゆく。
バラバラと天井から魔石の雨を降らせながら、銀閃の嵐がゆっくりと2人へと近づいていて、とうとう目の前にいたゴブリンを吹き飛ばした。
「フンッ、この程度のゴブリンの群れなんぞで、オレの歩みは止められないぜ」
「あ、貴方は……」
ゴブリンの垣根の向こうから現れたルシアを見た瞬間、アンジュの緊張は一気に解けてその場に座り込んでしまった。
座り込んだ音に気が付いたルシアは、ティアナたちの前に立つと反対方向に向かって叫んだ。
「おーい、こっちに2人いたぞー! 今からそっちに連れてく!」
『りょーかーい』
「お、おい、お前は一体何を……」
「それじゃあ、そういう事だから。ほれ行くぞ」
ルシアはそう言うと腰の抜けた2人を軽々と担ぎ上げ、足に力を篭めると一気に天井すれすれまで跳び上がった。
――グギャギャ!?
「オラオラ! 邪魔だ邪魔だ!」
「ぬわぁぁぁ!? と、飛んで、ごぶ、ゴブリンが!?」
「無理無理無理! これは無茶過ぎですよ!?」
「アーハッハッハッ! 足場にされたくなきゃ、道を開けやがれ!」
飛び石のようにゴブリンの頭を踏みつけながら、2人を担いだルシアは跳ねるようにゴブリン詰めの部屋を横断して行った。
そして、出口が見えると高く跳び上がって天井に足を掛け、真っ直ぐ飛び込んだ。
「ユーキ! 受け止めろ!」
「ちょ、そんな話聞いてないよ!?」
弾丸のように飛び込んでくるルシアに、入り口でゴブリンの相手をしていた勇樹が慌ててポーチに手を突っ込んだ。
「アレでもない……コレでもない……あ、あった! コイツでどうだ!」
勇樹はポーチからゴルフボール大の玉を取り出すと、それを床に叩き付ける。
すると、叩き付けられた玉が破裂したと同時にボンッという破裂音と白い煙が出入り口付近を包み込んだ。
そして、その煙にルシア達が突っ込むと、白い泡のような物膨れ上がっていて突っ込んだ3人はそれに突き刺さっていた。
――グェ!
「はいはーい、邪魔はしないでね~」
ルシア達に飛び掛かろうとするゴブリンを、勇樹が棍棒で殴り飛ばす。
その間に泡は解けるように縮んで行き、3人だけが床の上に残った。
「はぁはぁはぁ、生きてる? 妾生きてる?」
「あはは……」
「ふぅ、無事でよかったな。さて、もう一仕事行くか!」
完全に腰が抜けて動けないティアナたちを余所に、ルシアはすっと立ち上がると大剣を手に取りゴブリンの群れへ躍り出た。
2人を放置して20分ほど過ぎて、小部屋にいたゴブリンを全部魔石に変えて小袋をパンパンに膨らませた勇樹たちが戻ってきた。
その頃にはティアナたちも座るくらいまでには回復していて、勇樹たちを出迎える。
「この度は助けて頂いてありがとうございました」
「感謝するぞ!」
「ああ、気にすんな。こっちもゴブリンを探してて偶然見つけただけだからな」
「それでもです。ただ、今はお礼する事ができませんからダンジョンから出てからで構いませんか?」
「あ~、うん。それはいいんだが、お前たちはそれで出口まで行けるのか?」
ルシアはアンジュの足を見て難しい表情を浮かべる。
そもそも、ティアナとアンジュは2人だけで4階に居られるだけの実力は十分にあった。
しかし、アンジュが足を負傷して、偶々逃げ込んだ小部屋がモンスターハウスだったせいで、先ほどのピンチに陥っていたのである。
ルシアの言わんとした事を察したアンジュは、苦笑いしながら首を横に振った。
「いえ、流石に負傷した私を抱えながら上へ帰れる余力はありません。なので、彼女だけでも帰して頂ければ……」
「ダメだ! ここにアンジュを残すなど妾には出来ん!」
「でもティナ……」
「はいはい、とりあえずここを移動するよ。今日のキャンプ地も見つけたし、そこで足を治療すると良いよ。2人ともこれに乗ってー」
涙目でアンジュに縋るティアナに、勇樹が空気を読まずに割って入ってポーチから取り出した荷車に2人を積み込んだ。
「え、こんな荷車を一体どこから……それにこんな所でキャンプ? え、それに貴方は……」
「はーい、御2人様ごあんなーい」
混乱しているアンジュ達を余所に、死体を盗んだ火車の如く荷車に2人を載せた勇樹たちは薄暗いダンジョンの奥に消えた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
今年もあと数時間ですね。来年もよろしくお願いします。
よいお年を!




