07話 少年、迷宮に泊まろう
(´・ω・`)新年一発目がだいぶ遅れました……
今年こそはもう少し余裕のある投稿をしたかった(過去形)
ダンジョン内で場違いなガラガラという荷車を引く音を響かせ、勇樹たち一行はダンジョン4階にある小さな行き止まりへと来ていた。
「よし、この辺が良いかな」
「よしって……こんな所で一体何をするんですか?」
何もない行き止まりで突然立ち止まった勇樹に、アンジュは首を傾げた。
勇樹が立ち止った場所は“安全地帯”と呼ばれるダンジョン内にあるモンスター不可侵領域でもない、どう見てもただの行き止まりにしか見えない場所である。
常にモンスターに襲われる可能性がある以上、リスクを冒してまで怪我をして動けない人間を態々運んできた理由が彼女には理解できなかった。
アンジュの問い掛けに対して、勇樹は然も当然のように答えた。
「何って、今日はここに泊まろうかなって」
「ああ、ここで泊まる……泊まる!? こんなダンジョンのど真ん中でですか!?」
「オフコース! じゃあ、ちゃちゃっとテント張っちゃおうか」
「おーい、この辺でいいんじゃないかー?」
「いいと思うよー。じゃあ、ちょっと離れてね。どっこいしょっと!」
ルシアが場所を確保すると、勇樹が腰のポーチに手を突っ込んでテントというには少々立派な、プレハブ小屋のような小屋を取り出して設置する。
突然現れた小屋に、ティアナとアンジュは目を丸くした。
驚いている2人を余所に、勇樹は設置した小屋に異常がないかを見て回ると大きく頷いてルシアに合図を送る。
「よし、大丈夫みたいだから入って貰って」
「よっしゃ、オレが運んでやるよ」
「え、ちょっと、きゃっ!?」
アンジュが制止する間もなく、ルシアは暴れるアンジュを肩に担ぎ上げると涼しい顔で小屋の中へと運び込んだ。
突然の事に呆けていたティアナも、アンジュが中へ運び込まれた後で我に返り、慌てて後を追い掛けた。
小屋の中は簡易的な二段ベッドが2つと小さな机が置いてあり、休むだけなら十分なスペースがある。
ルシアはアンジュを下段ベッドに降ろすと、勇樹が包帯と薬を取り出した。
「じゃあ、治療にはこれを使って。沢山あって余ってるからどんどん使って良いよ」
「いや、この程度ならそんなに使わなくても良いだろ。だが3日は安静にしておかないと治らないぞ」
「そんな……こんなダンジョン内で3日も安静になんてできる筈ないです。やはり私など見捨てて早くダンジョンから脱出をしてください」
「何度言ってもユーキにその気はないから諦めろ。それに元々ここでキャンプする予定だったから2人くらい増えても問題ないだろ」
「元々って……」
ルシアの言葉にアンジュは返す言葉を失った。
1日で攻略が不可能な下層ならばいざ知らず、小型モンスターが頻繁に発生する4階でキャンプは地上よりも逃げ場がなく補給も出来ず、警戒する事が多いので思い付いてもやる人間などいない。
アンジュがどう言えばいいものかと頭を悩ませていると、ティアナが興奮した様子で飛び込んできた。
「アンジュ、ユーキは凄いぞ! Fランクの冒険者の癖にマジックアイテムを沢山持っている変な奴だ!」
「ま、マジックアイテムをですか?」
「うむ、先ほど見た事ものない形の“旅人の鞄”や水が幾らでも湧く水筒を見せて貰ったぞ。他にも色々持っているらしい」
「そ、そんなに?」
マジックアイテムといえば、簡易的な物を除けばダンジョンなどから発掘される以外に入手する事は出来ない一つ持っているだけでも一財産であり、中でも重量を気にせずに持ち歩ける“旅人の鞄”は貴族が挙って買い漁る為、一般には滅多に出回らない希少品である。
当然、そんな物を持っているとなれば他の冒険者から狙われる事になり、仮に低ランクが手に入れた場合は奪われる前に売りに出すのが常識であった。
一体どういう事かとルシアに視線を送ると、ルシアは肩を竦めてその場を立ち去る。
結局アンジュは勇樹が食事ができたと呼びに来るまで、興奮気味のティアナを相手にしているしかなかった。
命の危機を脱した反動なのか、今までにない程にはしゃぎ気味のティアナにゲッソリしつつ、食事ができたと呼ばれたアンジュが外へ出た。
そこにはテーブルと椅子を並べて湯気が立ち昇る料理が置いてあるのを見て、アンジュは驚いて勇樹に尋ねた。
「え、これだけの物をここで調理したんですか?」
「厳密には出来合いの物を単に温めただけだけどね。作っててよかったレトルトパウチ! ただ無菌状態じゃないから消費期限は1週間ほどだけどね!」
「期限が1週間……これだけの料理がそれだけ持てば、どれだけ戦線の士気を維持できるか……」
「アンジュ、そんな話は良いから早く席に着け。妾は空腹で倒れそうだぞ」
「ティナは全くもう……」
涎を垂らさんばかりにいつの間にか椅子に座っていたティアナに呆れつつ、促されるままに席に着いた。
そして食事を始めてすぐ、アンジュはある事に気が付いて手を止めて勇樹に尋ねた。
「そういえば、助けて頂いて自己紹介もまだでしたね。私はアンジュ、冒険者ランクはCです。ほら、ティナ」
「むぐ? 妾はティアナだ。こう見えてもCランクなのだぞ!」
「へぇ、そっちの剣士はともかく姫さんまでCとは驚いたな」
「「!?」」
「?」
ルシアの言った何気ない言葉に、ティアナとアンジュは思いっきり吹き出しそうになり、勇樹は何事かと首を傾げる。
額から汗を滝のように流し目を思いっ切り泳がせながら、アンジュは震える声で何とか言葉を搾り出した。
「ななな、なんのことでしょうか? こここ、この子はどこにでもいる普通の冒険者で……」
「そそそ、そうだぞ! わわわ、妾はエルクレア国第8王女などではないし、ティアナ・エルクレアなんて名前でもない!」
「ティ、ティナ!?」
「あ、しまった!」
あまりにも間抜けなやり取りに、言ったルシアの方が気まずくなり鼻を掻いた。
一方、勇樹は我関せずと言わんばかりに手を上げて自己紹介を始める。
「僕の名前はユーキ・イトーです! 好きな卵焼きは甘くない卵焼きで、好きな目玉焼きの焼き方は固焼きです!」
「それで自己紹介になってると思ってるユーキが凄いな」
「ちなみに甘い卵焼きは悪。ご飯のおかずが甘いなんてありえない」
「ああ、そうかい」
「あの~、言って置いて何なんですけど、もう少しこっちに興味を持ってくれませんか?」
「そうは言っても、エルクレア王家には良い印象が無いからなぁ僕。勝手に向こうから呼び出しといて『魔王が手に負えないんで宜しく』って酷くない?」
「え、それって……」
勇樹の科白にアンジュは何が言いたいのかを察して口を噤んだ。
しかし、その隣にいたティアナがそれを聞いて「ああ!」と声を上げた。
「貴様、あの勇者共の仲間か!? まさか、妾たちを助けたのもそう言う理由なのか!? チッ、随分と都合良く助けが来たと思っていたがこうなる事まで待っていたのか!」
「えーっと、うん。そっちで何があったのか大方理解した。という事はアレかな? 大方、勇者たちの視線と声掛けが鬱陶しくて、ソレが嫌で家出して冒険者になったのは良いけど御膝下のギルドじゃあすぐに正体がばれるから、エルクレアの力が及ばない迷宮都市へ来たって所?」
「何だコイツは!? 妾たちの行動が殆ど言い当てられたぞ!?」
「これ位は勇者の傾向を知っていれば、ある程度は予想できるよ」
「オレは寧ろユーキが勇者だった事に驚いた」
「ははは、僕は『巻き込まれた一般人』らしいから勇者じゃないよ。そう言えばその後の勇者たちは何してるの? 全然、噂も入って来なかったけど」
「あ、うん……それはな」
勇樹の言葉にティアナは目を逸らした。
それで大方の事情を察した勇樹とルシアは、全員が全員に触れられたくない話題がある事に気付いて無難に自己紹介を終わらせた。
食後の一服干しながら、改めてプレハブ小屋を眺めていたアンジュはボソリと呟いた。
「それにしても、本気でここに泊まるつもりなんですか?」
「元々そのつもりで来たからね! まあ、1泊程度で出来るかなぁ?ぐらいにしか考えてなかったけど」
「こんな所だし寛げはしないだろうけど、アンタの怪我が治るまでは何とかなるだろ」
「わぁ、本気なんですね~……はぁ」
色々と不安の拭いきれないアンジュは、勇樹たちの一切冗談が混じっていない顔を見て小さく溜息を吐く。
それを見たルシアは笑いながら背中を叩いた。
「大丈夫だって! オレもユーキもこの階じゃ持て余してたところだし、護衛対象が居るくらいが丁度いいハンデだ!」
「はぁ、本当に大丈夫なんでしょうか……」
視界の端で勇樹が道具を広げだしたのを、くっ付きそうな距離で興味津々に覗き込むティアナを見つけ、この中で真面なのは自分だけだと気付いたアンジュは、自分が確りせねばと心の中で決意を固めたのであった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
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