03話 少年、店で一悶着起こす
(´・ω・`)一週間前の自分「1話分余裕があるからイケる!」
数分前「アレ? もう一週間過ぎてる……」
ダンジョンへの進入許可証を得て、いざダンジョンへ……とはいかなかった。
何せダンジョン内では物資の補給が出来ない。
倒したモンスターは魔石を残して消えてしまうので食料は望めず、湧いている水や生えている草には瘴気が含まれているので人体に有毒である。
よしんば魔法薬や使える物資があったとしても、それを使ってしまえば売り払う時に価値が下がって足が出てしまう。
例え命が掛かっていると判っていても、地上に戻ってきた時に収支がマイナスでは生活が立ち行かなくなる。
故にダンジョンに入る時は、事前の準備が大切なのだと職員に散々注意を受け、2人は早速ダンジョンへ入る準備を始めようと手近の雑貨店へ入ったのだが……
「薬草の保管状態が悪い、煮出す温度が甘い、瓶の出来も悪い、諸々の処理が雑い、含有している魔力が抜け始めてる。この薬の出来でこの値段は高いなぁ」
「だけど、この店はこの町でもそこそこ評判が良いぞ? そんな悪いか?」
「僕の師匠なら間違いなくゴミと言い切って捨てるね。これじゃあ軽い怪我しか治せない上に、治りも遅いと思うよ」
「じゃあ、こっちの魔導ランプはどうだ? コイツは火も使わないし中々頑丈で良いんじゃないか?」
「あはは、ナイスジョーク」
ルシアが勧める商品を勇樹が酷評して行く度に、近くでそれを聞いている店主の額に青筋が増えているのだが、2人はカウンターから背を向けていて気付く素振りすら見せなかった。
勇樹たちが買い物らしき事をしていると、少々年季の入った革防具を着けた男性冒険者の集団が入って来て、ルシアの姿を見てニヤリと笑った。
「おっ、獣人の姉ちゃんもダンジョンに潜るのかい?」
「なら、俺達と一緒に行こうぜ。『迷宮の鬼神』ってギルドは知ってるだろ? 俺達はそこに所属してる12階が狩場のCクラスパーティだから、手伝ってくれればその分の手間賃も弾むぜ?」
下卑た表情でルシアに近づき、馴れ馴れしく腰に手を回そうとした所で、ルシアはヒラリとその手を躱して抱き付く様に勇樹の腕を取ると、面倒くさそうに眉を顰めながら手を払った。
「悪いが、『航海中の山羊』を探してるんだったら他を当たれ。オレはコイツとパーティを組む事に決めてるんだ」
「は? こんなヒョロイガキと組んだって1階で死ぬだけだぜ!」
「それにそんなガキが相手じゃ姉ちゃんも満足できねぇだろ! 俺達と来れば金も体も色々満足させてやるよぉ!」
下品な言葉を大声で笑いながら言い放つ冒険者たちに、ルシアの眼に剣呑な雰囲気が混じり始める。
とりあえず、面倒臭い事になると察知した勇樹は巻き込まれない内に離れようとしたが、ルシアがガッチリと腕を抱え込んでいるので離れることができず、隠す事なく思いっきり顔を顰めた。
ルシアが殺気を放ち始めた事に気付かず、冒険者たちは強引に引っ張り込もうとルシアの腕に手を伸ばす。
伸ばされた腕が近づくにつれ、犬歯を剥き出しにして攻撃的な笑みを浮かべて拳を握り込む。
そして、あと少しでルシアに触れる距離まで近づいた時……横から伸びた手が男の手を叩き落とした。
「それ以上はいけない。何故、死地へ向かわれるか」
「ハ? 何だテメェ、そんなボロ防具しか買えねぇ分際で俺達に楯突こうってのか?」
「そっちこそ、猛獣には不用意に手を伸ばすなって教わらなかった? 明らかに腕を持ってこうと手薬煉引いてる相手に無防備って、どんだけ危機感が薄いのさ」
「ハッ、この程度だったらダンジョンのモンスターの方が牙向いて襲ってくる分だけ数倍おっかねぇよ。いいからガキは引っ込んでな!」
今度は勇樹を突き飛ばそうと男が手を出した瞬間、勇樹はその手をあっさりと掴んでそのまま捻り上げた。
男は何の抵抗も無くその場に膝を突く。
「痛ててて!?」
「え、何この人、何でこんなに隙だらけなの?」
「あ~、それは多分コイツらがここで冒険者になった奴だからだろ。迷宮都市じゃよくある事だが、低級のモンスターばかり相手にして戦闘経験が浅いままランクが上がる場合が多いそうだぞ」
「力任せに襲ってくるのをターゲットにしてればそうなるのか……あれ? でも、町中でも冒険者同士で喧嘩とか起るよね?」
「ただの喧嘩に何を期待してるんだ? お互い血が上ったまま殴り合うだけで終わりだから、その辺のゴブリンとかを殴ってるのと変わらないぜ?」
「い、いい加減放しやがれ!」
勇樹たちが迷宮都市の冒険者の対人戦闘の低さを話し合っていると、捻り上げられている男の仲間が半円状に勇樹たちを囲い、一人が拳を振り上げて襲い掛かる。
しかし、ただ真正面から殴り掛かってくる2人が相手に怯むはずも無く、ルシアが男の腹に蹴りを叩き込み、仲間を巻き込んで吹き飛ばした。
「全く、彼我の力の差ぐらいいい加減わかったらどうだ? オレ達をどうこうしようなんて、百年早いんだよ」
「グッ、こんな事してタダで済むと思うなよ……俺達に刃向ったって事は『迷宮の鬼神』が黙ってないんだからな!」
「うわぁ、典型的な捨て台詞。まあ、こんな有様じゃあ親の威を借るぐらいしかできないもんね!」
「言ってやるなよ。流石にコイツらが可哀想だぞ……」
ルシアに視線で組み伏せていた男を放すように言われ、締め上げていた腕を放すと男たちはよろよろと立ち上がって、勇樹たちを恨みの篭った目で睨んだ。
「ちっ、絶対後悔させてやるからな」
「頑張ってくださいね。格下に面子を潰された上に、泣き付いて助けを乞うなんて恥の上塗りが出来ればの話ですけど」
「ホント容赦ないな。ユーキって」
捨て台詞を残しながら店を出て行く冒険者たちを見送って、勇樹がケラケラと笑っていると、背後から手が伸びてその肩をポンポンと叩く。
何事とかと背後を振り向くと、そこには妙ににこやかな笑みを浮かべた店主が立っていた。
「よう、兄ちゃんら。俺の店で随分とヤンチャしてくれたなぁ?」
「いえいえ、ちょっと手が出たぐらいでそこまでの事は……」
「やってる時点でどっちも同じだ! 迷惑代として何か買ってけ!」
「え、いや、この点灯消灯機能しかない魔力駄々漏れの魔導ランプとか、質が悪くて保存性に乏しそうな紙とか、縫い目が雑で耐久性に不安な水筒とか、市販の物って初めて見るんで物凄く興味深いんですけど、手持ちので充分かなぁって……」
「テメェはケンカ売ってんのか!?」
「はいはい、買います! オレの金で買うからユーキも黙っとけ!」
結局、怒れる店主を宥めながら保存食を買いつつ、勇樹と叩き出されるように店を飛び出した。
買い物から帰って来ると、部屋で編み物をしていたフィーアが出迎えた。
「あ、お帰りなさいませ。ユーキ様」
「うん、ただいま。フィーアは何してるの?」
「いえ、する事も無かったので手慰みに編み物を少々……」
「あ~、そう言えば前にアリサさんから何か貰ってたよね。毛糸が欲しかったら持ってる毛で縒ってあげようか? 獣毛は余るくらいあるし」
「それは……わたしの手に余りそうなのでまたの機会にお願いします」
「はーい。じゃ、僕も部屋に篭るんで何か用事があったらフィーアに宜しく~」
勇樹はそれだけ言い残すと、荷物を置いていない方の空き部屋へと入って行った。
その背中を見送りながら、勇樹の発言にルシアは首を傾げる。
「何か用事があったらお前にって、何かあるのか?」
「いえ、ただユーキ様は夢中になられると周囲の声が届かなくなってしまうので、わたしが声を掛けて気付いて貰うんです」
「お前が声を掛けるとアイツは気付くのか?」
「えーっと、ちょっと違うんですけど、今の所はほぼ気付いて貰えています」
「ふーん」
ルシアは納得がいったようないかないような微妙な顔で頷いてドアを眺めた。
その後、案の定夕食の時間になっても出て来ない勇樹にフィーアが命令で無理矢理部屋まで引きずり出し、夕食は勇樹とルシアが奪い合う様に食い散らかした。
寝る時になって、何気ない顔で勇樹の部屋にルシアが乗り込んできて、蹴り出されたのはまた別の話。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




