01話 少年、迷宮都市へ
(´・ω・`) 約3ヶ月の休養期間を経て、今章を開始いたします。
まだ本調子ではないですが、更新を頑張っていきたいと思います。
前章までの3つの出来事。
・勇樹、旅に出る ・勇樹、銀狼を飼わされる ・運命/GOで邪ンヌとキャス狐とカルナをゲットだぜ!
――迷宮都市アルハブラス。
フラントリーとエルクレアの街道沿いに“ダンジョン”と呼ばれる施設が出現した事により、元々何もなかった更地に人が集まり、自然発生的に生まれた町である。
階層によって決まったモンスターが一定数で湧くダンジョンは、冒険者たちにとって態々広い森の中で獲物を探し回る手間が減り、不意な実力以上のモンスターとの遭遇が無い絶好の稼ぎ場所であった。
そして、その冒険者の需要を狙って飲食店や武器屋が建ち、冒険者支部がやって来て、徐々に住人が増えて今の街になるまで発展を遂げる。
故に迷宮都市は定住している者も多いが、その半数以上は冒険者であり、国内で最も多くの冒険者が身を寄せているのが、この迷宮都市である。
ただし、数が多い事が良い事であるとも限らない。
堅牢な防壁に似合う巨大なトンネルのような門を潜り抜けると、そこは賑やかな町だった。
ただし、王都エルクレアやルベルと違い、屋台のような店が多く、道往く者の大半が武装した冒険者で、どこか物々しい空気を漂わせている。
街の空気にフィーアは完全に馬車に中に籠り、反比例するようにルシアが元気よく顔を出し、御者台にいた勇樹は街並みを見回して思わず感想を漏らした。
「何か空気がヒリヒリしてるね。その割にみんな装備が貧弱だけど」
「ここじゃあ、どんな奴でも冒険者になれば最低限は食っていけるからな。正直、質は悪いぞ」
「ですよねぇ」
勇樹は前を通り過ぎて行った冒険者を見て、呆れるように溜息を吐く。
その冒険者たちは使い古されてベコベコになった鍋を頭に被り、木片を縫い付けた服を着て、木の棒に刃こぼれしたナイフを括りつけた槍のような物を携えて歩いていたのである。
通り過ぎて行った冒険者を指差しながら、勇樹は呆れたように振り向いた。
「ねぇ、アレって遠回しな自殺って訳じゃないよね?」
「アレでも4人くらいで囲めばザコの1匹ぐらいなら倒せるんだよ。この辺じゃあアレが金がない底辺の標準装備だ」
「末恐ろしい……」
嘗ての冒険者に登録したばかりで、はしゃいで町の外へ飛び出した時の自分を見ているようで、勇樹は思わず身を震わせた。
そんな話をしながら勇樹はルシアの案内で、アルハブラスの中でも一二を争う宿を目指して馬車を進めていると、街の様子を見て日本のある場所を思い出した。
「なんか、ズラリと並ぶ屋台のボンヤリとした灯りといい、すれ違う酔っ払いといい、この街って飲み屋街みたいだなぁ」
「飲み屋街か……まあ、大体その認識で違いないぜ。何せここの冒険者はその日の稼ぎを全部酒か女か博打に注ぎ込むような輩ばかりだ。だから店も、自然とそんなもんが多く出るようになる」
「はぁ、まさに冒険者の為の街って感じだねぇ」
「ああ、だから注意しろよな? ここじゃあ、何でも暴力で解決しようっていう血の気の多い輩ばかりだからな。特に酒場なんかは酔った冒険者に絡まれると厄介だぞ」
「はは、僕は下戸だからそんな所には行かないよ」
ルシアとそんな話をしながら指示に従って馬車を進めていると、馬車や冒険者などで賑わっている大きな屋敷が見えてきた。
珍しい光景に勇樹は何気なく眺めていると、ルシアがその屋敷を指差しながら身を乗り出した。
「あ、あそこだぜ。アレが『火を吹く赤竜亭』だ」
「え、あそこが? どっかの家の屋敷じゃなくて?」
「当たり前だろ? ほら、ちゃんと看板も出てるじゃねぇか」
ルシアにそう言われて目を凝らして屋敷の方をよく見ると、門の所に宿屋の看板がぶら下がっているのが見えた。
「本当だ。でもなんだろう、“豪華”とか“高級”よりも真っ先に“成り金”って言葉が思い浮かぶんだけど」
「まあ、冒険者だらけの町だからこんな所を利用する貴族なんていねぇよ。そんな事より、さっさと入ろうぜ」
「うぃまむ、前方の宿屋へ突撃~」
勇樹が合図を送ると、馬車はゆっくりと宿の方へ進み出す。
宿の周辺には冒険者の他に、余所から来た商人などが乗った装飾こそ無い物の立派な馬車数台が停まっていたので、オンボロ荷馬車を改造したような勇樹の馬車は非常に周囲の注目を浴びていた。
勇樹たちが駐車場へと入ると、そこを取り仕切っていた従業員が近づいて馬車を停止するように求める。
「ようこそ、『火を吹く赤竜亭』。馬車はこちらでお預かりいたしますので、中の方へどうぞ」
「オンボロ馬車とロカ種が2頭だけど、よろしく~」
勇樹の軽口に従業員は軽く会釈すると、2頭を連れて行った。
馬車を預け、中に入ろうと宿の扉を開けた瞬間、腹まで響く騒音と強烈な酒臭さが勇樹たちに襲い掛かった。
特に嗅覚と聴覚が敏感な勇樹は、思わず鼻栓を取り出して耳も塞ぎ、原因を確かめるべく視線を建物の中へと向ける。
扉の向こうに待っていたのは、屋敷の広い玄関フロアを丸々利用して造られた酒場兼賭場だった。
そこでは冒険者や商人らしき者たちが、酒を片手に賭けの結果に一喜一憂し、その間を露骨に面積の少ない服を着た美女たちが酒や軽食を持って給仕している。
高級宿と聞いて地球の高級ホテルのような静かなイメージをしていた勇樹は、両手で耳を塞ぎながら隣にいるルシアの方へ振り向いた。
「うるくっさ!? ここって一応高級宿だよね!?」
「おーおー、ここはいつもうるせぇなぁ!」
目を白黒させている勇樹に対し、ルシアは三角の耳を倒しながら腰に両手を当ててニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
ルシアからは回答を得られないと諦めた勇樹は、後ろにいるフィーアに話し掛けようと振り向くと……フィーアは今にも倒れそうな真っ青な顔をしていた。
「ふぃ、フィーア? 顔が蒼いけど大丈夫?」
「す、すみません。ここまで賑やかなのは初めてなので……」
喧騒とは無縁なエルフの里で生まれ、奴隷商の館で育ったフィーアにとって、耳を塞ぐほどの騒音というのは初めての経験であり、加えて溢れんばかりの人の群れがフィーアの気分を悪くさせていた。
それを見た勇樹が宿を出ようと言い出し掛けた時、フィーアが勇樹の袖を掴んだ。
「わたしは大丈夫ですから、中へ入りましょう」
「う~ん、じゃあコレを耳に着けて。それとダメそうなら、ちゃんと言ってね?」
「は、はい」
そう言って勇樹はフィーアに耳栓を渡した。
フィーアが耳栓を付けた事を確認すると、勇樹はフィーアの手を取り誘導するように手を引きながら歩き出す。
合わせてルシアもウキウキしたように歩き始めた。
3人が中に入ると酒場や賭場の雑踏の中から、勇樹たちを値踏みするような視線が色々な所から飛んでくる。
但し、フィーアは人に酔ってそれ所ではなく、勇樹とルシアは自分達に害がなければどうでもよかったので敢えて無視した。
受け付けの前に立つと、カウンターに立っていた従業員が一瞬だけスッと目を細め、すぐに満面の営業スマイルに切り替える。
「ようこそ、『火を吹く赤竜亭』へ。何日のご利用ですか?」
「うーん、とりあえず一週間くらいの予定で。一人部屋を3つ、お願いできますか?」
勇樹がそう尋ねると、従業員は申し訳なさそうに軽く目を伏せて首を横に振った。
「申し訳ありません。現在、一人部屋は満室でしてご用意が出来ない状況になっております」
「う~ん、そうかぁ。それじゃあ、どうしよう……」
「オレはユーキと同室でも構わないぞ?」
ルシアは勇樹の腕を取り、自分の胸に挟み込むように抱え込むと、しなを作りながら勇樹にもたれ掛り、耳元で息を吹きかけるような声で囁いた。
普通の男ならば腰が蕩けそうなルシアの誘惑に対して、勇樹は一瞥すらせずに鬱陶しそうにルシアを振り払うと、従業員に話し掛けた。
「それじゃあ、個室が3つ以上ある部屋ってあります?」
「はい、それでしたら冒険者のパーティや商人の方が利用される大部屋があります」
「ならそこを、とりあえず一週間で」
大部屋に泊まる事を即決した勇樹に、従業員は笑顔のまま困った表情を見せる。
「お客様、大部屋となりますと1日でも銀貨3枚は頂いているんですが……」
「じゃあ、金貨6枚と銀貨3枚を出せば充分足りますね」
勇樹たちの身なりからCランク以下の冒険者だと判断していた従業員は、言外に「ここは貧乏人が来る所じゃねぇんだよ!」オーラを出しながらやんわりと断ろうとした。
すると、まるで小銭を払うような感覚で金貨6枚がカバンから取り出してカウンターの上に置かれたので、思わず勇樹の顔と金貨を見比べてしまう。
「しょ、少々お待ちください」
「どうぞどうぞ」
従業員は慌てて天秤を取り出すと、金貨6枚を秤にかけた。
そして、6枚とも本物だと判明した所で従業員はそれまでの態度を翻し、頭を深々と下げた。
「申し訳ありませんでした。直ちにご希望の部屋へご案内させて頂きます」
受け付けの従業員はそう言うと、慌てて近くにいた案内係2人を呼びつけると、勇樹たちに聞こえない程度の声で何かを言い付けた。
案内係たちは小さく頷くと、勇樹たちを大部屋へと案内し始める。
低ランク風の冒険者たちに案内係が2人も付くという光景に、周囲にいた冒険者や商人は驚いた眼で3人を見送った。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




