16話 少年、ルベルを発つ
(´・ω・`)今週は外を歩き回っていたせいか、やけに疲れてます……(PGO感)
ヒッキーが1週間で20キロとかやりすぎました。(疲労感)
朝に色々とあったものの、朝食後に足りない物を買いに出かけて昼前には『熊の巣穴亭』を出る事にした。
5日ぶりに引っ張り出された馬車を見たルシアは、明らかに急造の馬車の外見にこんな物かと溜息を吐き、中に入って目を輝かせた。
「おいおいおい! 何だよこの馬車、スゲェな!」
「あ、あの、見るのは構いませんから、もう少し落ち着いて……」
「ここはどうなってるだ? おお、こっちはこんな風になってやがんのか。何でだ?」
「で、ですから~」
好奇心の赴くままに行動するルシアを、何とか止めようとするフィーアだったが獣人+冒険者を止めるのは容易ではなく、振り回されていた。
馬車の中から聞こえるフィーアの悲鳴を聞き流しながら、見送りに出て来てくれた女将に頭を下げる。
「それじゃあ、お世話になりました」
「全くねぇ……坊やみたいな子たちだけで本当に大丈夫なのかい?」
「これでも腕には自信があるので何かあっても全力で逃げるよ!」
「はは、若い子は無茶しがちなんだから、それ位で良いんだよ。分かってるじゃないか」
勇樹の返答に満足したのか、女将が機嫌よく勇樹の背中をバシバシと叩く。
そして、勇樹はもう一度女将に頭を下げると、御者台に上った。
「それじゃあ出発!」
――ブルッ!
勇樹の掛け声を合図にアールとアルスはゆっくりと歩き出した。
2頭が入ってきた時の同じ門へ向かおうとするのだけを修正しつつ、後は手放しで馬車を進めていると小窓からルシアが顔を出してきた。
「飼い主様、飼い主様。この馬車は凄いな! オレ、こんな馬車見た事ないぞ」
「自信作は伊達じゃないからねぇ。それと、その飼い主様は止めてくれない?」
「でも飼い主様は飼い主様だしなぁ。他になんて呼べばいいのさ」
「普通にユーキで良いよ。飼い主様なんて呼ばれても困るし」
「わかった、ユーキだな。それでユーキはどこへ行くつもりなんだ?」
「う~ん、とりあえず隣国のフラントリーに行くつもりだよ。聞いた話だと国境付近にダンジョンを内包した迷宮都市があるんでしょ?」
勇樹がそう問うように話しを振ると、ルシアは少し得意げな顔になって頷いた。
「ああ、オレも行った事があるけど、あそこは日銭を稼ぐには都合が良い場所だったぞ。その分、誘惑も多いから稼いだ分があっという間に吹き飛ぶけどな」
「……吹っ飛ばしたんですね。わかります」
「いやぁ、賭場には行かなかったけど、美味い飯や酒が沢山あってな。毎日飲み歩いていたら財布が素寒貧になってた」
悪びれる様子も無く明け透けに笑うルシアに、勇樹は差した興味も示さずに相槌を打つ。
勇樹に興味を示されなかった事に対して、ルシアは不満そうに口を窄めた。
「な~な~、ユーキはオレの事が気にならないのか? 『銀狼』だぜ? 普人で言えば王族に当たるんだぜ? な~な~」
「銀狼そのものには興味があるけど、僕も観察相手は選びたいかなぁ」
不用意に手を出せば、出した手ごと持って行かれそうな雰囲気を醸し出しているルシアに、勇樹の好奇心もすっかり萎えていた。
寧ろフィーアが連れて行くと言い出さなければ、薬を盛るなどして置いて行く気満々だった。
予定外の同行者に溜息を吐いているとアールとアルスが嘶き、急に影が差した。
「ユーキ、モンスターだ!」
「はいはい、大丈夫だから落ち着いてね~」
耳をピンと立てて馬車から飛び出そうとするルシアを宥めながら、勇樹はポーチから小石を3つほど取り出す。
上を見上げるとそこには体長3m以上の怪鳥『ホーンイーグル』が奇声を発していた。
「あ~、アレはアールたちには無理だね。そのまま進んでていいからあっちは任せて」
「あ、ユーキ!?」
勇樹は手に持った小石をホーンイーグルの目を狙って投げ付ける。
飛んできた小石を避けて気が逸れた隙を狙って、勇樹は棍棒を携えて御者台から飛び降りた。
「う~ん、鳥かぁ。正直、肉も羽も余ってるんだよなぁ」
――キァァァ!!
「はは、そんなの関係ないですよね~」
ホーンイーグルは勇樹に狙いを定めると、翼を折り畳むと真っ直ぐにミサイルの如く地面へと落ちてきた。
勇樹は深く深呼吸をすると、棍棒の先をホーンイーグルに向けて突き出す。
そして、フラッと前へと踏み出した瞬間。
「ふっ!」
勇樹は高く跳び上がり、ホーンイーグルの眉間を突いて衝撃で巨体がズシンと震えて、空中で止まった。
巨体はぐらりと揺れると、ホーンイーグルは力なく地面へ墜落した。
捕ったホーンイーグルはその場では処理できないので、回収だけ済ませて馬車と合流する。
だがその夜、野営すると決まった時に大きな問題が発生した。
「だから、僕は外で休むから2人は中を使ってよ」
「そんな事は出来ません! どこの世界に主人を追い出して、中で休む奴隷がいるんですか!」
「そーだそーだ、ユーキはオレと子作りするんだぞっ」
「しないよ!?」
野営地を決め、昼に捕ったホーンイーグルを処理しながら夕食を食べ終わった頃、明日も早いという事で休む事になった段になって、誰が馬車で休むかという話になった。
勇樹は女子2人に中を使って貰い、自分は外で警戒に当たると提案する。
しかし、フィーアがそれに対して反論した。
昼間の勇樹は馬車の操縦、周囲の警戒、そしてモンスターの駆除を行って疲れている筈だと、自分が外で寝る事を主張する。
一方、ルシアは本能全開の主張をしていた。
「なんでだよ。普人はオレたちと違って年中発情期なんだろ? なら何の問題もないじゃないか」
「問題だらけだよ。そもそも僕たちはそんな関係じゃない」
「そんな事言っても、興味はあるんだろ? 正直になっちゃえよ」
そう言ってルシアは勇樹に枝垂れかかる。
しかし、勇樹は寄りかかられる前に立ち上がり、無言でルシアを掴み上げると馬車の中へ放り込んだ。
すると勇樹はフィーアの方を振り向いてニッコリを笑い掛け、それを見たフィーアはビクッと肩を震わせた。
「フィーアもワガママ言ってないで早く寝よう? 見張りは僕がやっておくから」
「で、ですがユーキ様も休まなければ昼間もずっと働きっぱなしで……」
「仮にそうだとしてもジルヴォルフさんならともかく、戦えないフィーアには任せられないよ。そして、アレと交代して無防備を晒す事を僕はしたくない」
「あ、あははは……」
悲壮感のような物を漂わせる勇樹に、フィーアがかける言葉は見つからなかった。
結局、勇樹の圧力に折れたフィーアは馬車で休む事になったが、馬車に入る途中でフィーアは勇樹の方を振り向いた。
「それじゃあ、ユーキ様。くれぐれも無理はせずに休みたい時には言ってくださいね? そうでないとわたしが、アリサ様から怒られてしまいます」
「大丈夫だって、警戒を解かないまま休むなんて慣れてるからさ。安心して寝てていいよ」
「わかりました。それではおやすみなさいませ」
それだけ言うと、フィーアは馬車の中へ入って行った。
周囲が静かになった事を確認すると、勇樹は焚き火の傍に座りゆっくりと目を閉じた。
翌日、何のトラブルも無く出発した勇樹たちの前に小高い丘が現れた。
「お~、大きな丘だなぁ。アールたちで登れるかな?」
――ブルッ!
バカにするなと言わんばかりに2頭が鼻を鳴らす。
その声に中の2人も窓から顔を出してきた。
「思った以上に早かったな。もうここまで来ちまうなんて」
「ここ? この丘ってなんかの所縁の場所なの?」
「ユーキ様、あの丘はエルクレアとフラントリーの国境です。あの丘を越えれば隣国のフラントリーですよ」
「へ~、そうなのかぁ」
勇樹も事前に調べて『国境は丘で隔てられている』という事は知っていたが、実際には小高い山のような地形的な盛り上がりが見渡す限り、何かを遮るかのように続いていた。
「ここは千年以上昔に当時の勇者様が、魔王領から流れてくる魔物たちを食い止める為に隆起させたと言われているんですよ」
「そんなバカな。削り取るならまだしも隆起させるなんて、それもう人間業じゃないじゃん」
なまじっかマイナーな方の魔法を齧っているが故に、勇樹はそう言って笑い飛ばしたがフィーアは首を横に振った。
「エルフの中でもハイエルフと呼ばれる方々は長命なので、当時を知っている方が多いですからそう言う記録も鮮明に残っているんですよ」
「エルフってスゲー! むむむ、やはりエルフの里にも一度行ってみたい」
密かに勇樹が好奇心を滾らせながら、一行を乗せた馬車はゆっくりと丘を登っていた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




