13話 少年、豹変する
(´・ω・`)今回の話では主人公の性格が豹変します。
苦手な方はご注意ください。
土煙の明けぬままにルシアは後ろへ跳んで距離を取る。
すると、それを追うように土煙の中から勇樹が飛び出し、いつの間にか持っていた棍棒を突き出した。
「甘い!」
突き出された棍棒を大剣で防ぎ、そこへ身体を捩り入れるように肩を突き出して体当たりして来る。
しかし、勇樹も直前で足を踏ん張り、体当たりが当ると同時に後ろへ跳んで衝撃を緩和した。
そこで一旦、互いの間が開いて再び見つめ合う状態になる。
「ハッ、これがF? 冒険者ランクも当てにならないな」
「いやぁ、アレって協会での信用であって、本人に資質は関係ないんじゃないかなぁ」
「じゃ、次いくぜ!」
そう言って再びルシアは斬り込んだ。
振り回すのも大変そうな大剣を軽々と振り上げて、袈裟切りに剣を振り下ろす。
勇樹はそれを屈んだだけで躱した。
「っ! オラッ!」
振り下ろした剣を、今度は横薙ぎに払う。
払い、突き、振り下ろし、振り上げ、縦横無尽に剣を振り回す。
あらゆる方向から飛んでくる斬撃を、勇樹は半歩動くだけで全てを躱して見せた。
その光景に最初は大道芸でも見る様に騒いでいた野次馬も、二分三分も続けば飽きて不満が募り始める。
「コラ! 避けんじゃなくて戦え!」
「俺はテメェが負ける方に賭けてんだから、さっさと殴られて倒れちまいな!」
「曲芸は飽きたぞ~次を見せろ~」
「観客も好き勝手言うね!?」
野次馬がイライラし始め、次々と物を投げ入れる。
飛んでくるのは食べカスや酒瓶の蓋などのゴミ屑ばかりなので、棍棒で叩き落とし軽く躱すだけで済んだが、その中に混じって飛んできた瓶にまだ中身が残っていた様で棍棒で弾き呼ばした瞬間、零れて勇樹に降り注いだ。
中身は酒だったらしく、髪から滴る酒の臭いが2人の間に充満する。
「お、おい、大丈夫か?」
酒瓶が当って動かなくなった勇樹が心配になり、攻撃を止めて顔を覗き込もうとしたルシアの目に入ったのは、ニタリと不気味に大きく開けて笑っている勇樹の口だった。
「にゃ~お」
「にゃ、にゃ~お?」
突如、不気味に笑いながらそう呟いた勇樹に、ルシアが呆気に取られた次の瞬間、訓練場に暴風が吹き荒れた。
風の正体は勇樹から漏れ出た膨大な魔力だった。
「な、なんだ。この魔力の量は!?」
「にゃははは~」
膨大な魔力の嵐に驚いた隙に、ルシアの視界から勇樹が消えた。
見えなくなったと認識した時には、天井が見えていて勇樹の踵が大きくなるのを眺めている状態だった。
「!?」
そこで漸く自分が倒れている事に気が付いたルシアは、慌てて地面を転がった。
直後、背後で自身の剣が起こしたような地面を砕く音が聞こえ、ルシアはいつまでも地面に這うのは危険だと考え、転がる勢いで体を起こした。
しかし、それを待っていたかのように、勇樹の拳がルシアの顔面に目掛けて跳んでくる。
「っ!?」
「しゃー!」
間一髪で顔をずらす事で回避したが、掠った頬が熱を持つ。
掠った拳の威力から素手でガードする事は諦め、勇樹が攻撃してきたと同時に脇をすり抜けて、転がされた時に落とした剣を掴み取る。
そして、背後から何かが迫ってくる気配を感じ取り、振り向きざまに剣を構えて防御するが、飛んできた衝撃に思わず剣が吹っ飛びそうになる。
「はちょっ! はちょっ! はちょっ! ともらんま~!」
「な、何だコイツ!? 急に速く、というか攻撃が重い……!」
まるで芯でも抜けたかのようにフラついた姿勢から、不安定な体勢からとは思えない速度の拳が礫のように飛んできて、剣とぶつかり火花を散らせる。
そこでルシアはある事に気が付いた。
「コイツ、大量の魔力を強引に纏って、強化してやがるっ!」
「はいやっと!」
両腕を突き出してきたかと思えば、逆立ちになって足蹴りを繰り出し、両足を振り降ろしながらゴロリと転がって背中を地面に付けると、下から両足を突き上げる。
ルシアは勇樹の出鱈目な動きに翻弄されながらも、経験と直感で何とか攻撃を弾いて行く。
「調子に……乗んなオラッ!」
「たいひっ!」
ルシアは強引に勇樹の攻撃の繋ぎを抉じ開けて手が緩んだ隙に、無理矢理に地面を蹴って距離を取った。
一方、観客たちは突然激しくなった2人の戦いに歓声を上げた。
「いーぞ! もっとやれ!」
「ぶん殴れ!」
「……ほいちょあ!」
観客がヒートアップしていると、勇樹は徐にポーチからロープを取り出し、観客の一人が持っていた酒瓶を絡め取る。
そして魚でも吊り上げるかのように、酒瓶を引き寄せた。
「ああ、俺の酒!」
「ほわちょ!」
それをそのまま分銅のように振り回し、ルシアへと振り下ろす。
だが、ルシアが剣を軽く振るっただけで瓶が割れてロープも弾かれてしまった。
「こんな攻撃効くかっ!」
「まらまら!」
勇樹は更に別の冒険者が持っていた酒瓶を絡め取って手元へ引き寄せると、頭上に掲げて上を仰ぐと瓶を傾け始めた。
流れ出した酒が勇樹の口の中へと注がれ、喉がゴクゴクと動く。
「ぷはー、今宵の紅瓢は血に飢えている……鱚天こそ至高、海老や山菜など所詮は添え物。鱚天の前には雑魚に等しい! カッコさつま芋は除くカッコ閉じ」
「何言ってんだ……コイツは」
「鱚の無い天ぷらは天ぷらじゃねぇ!」
「だから何がだ!?」
突然意味不明な事を言いながらキレた勇樹は、空になった酒瓶を投げ飛ばし始めた。
客から奪っては飲んで投げを繰り返し、ルシアを一歩も近づけさせない。
「クッ、勢いが徐々に増してやがる」
「くはぁ、飲めば飲むほど怪力に~?」
千鳥足を踏みながら、フラフラとポーズを取りながらそんな事をのたまう。
勇樹が次の酒瓶を取ろうと周囲を見回すが、奪い取られると知っていて見せるバカはもうおらず、奪えそうな酒瓶はなくなっていた。
そして、ルシアが攻撃の止んだ隙を見逃すはずも無く、剣を握り締めると一気に勇樹との距離を詰めた。
だが、振り薙ぎった剣を勇樹は状態を反らすだけで躱した。
「ちょこまかと、お前は猿か!」
「うっきー?」
上体を起こした勇樹は、ルシアの腕を掴みあっという間にロープを巻きつけた。
「じゃっきー!」
「こんなロープで、オレが押さえつけられると思うな!」
「ちゅーちゅータコかいな~」
左腕で振り殴ったが、至近距離でも簡単に躱されてしまい、逆に振り切ったルシアの腕をロープで絡み取られてしまう。
「こんなロープなんかで……なに!?」
「レッドスネークかも~ん」
それから素早かった。
絡めた両腕のロープを後ろから引っ張ると、背後から膝カックンで倒してから膝を折った状態で足を縛った。
当然ルシアは振り解こうともがいたが、もがく度に勇樹はルシアにロープを巻きつけて行き、梱包される荷物のような状況になっていた。
「は、放しやがれ!」
「ん~、懲りないなぁ」
そう怒鳴り散らすルシアを見ながら勇樹はそう呟くと、自分の顔をルシアの顔に寄せた。
祖父の家に預けられていた頃、勇樹は近所の猟犬が逃げ出して襲われた事があった。
当然、大人たちは犬が逃げ出した事を知ると血相を変えて村中を探し回り、山で勇樹たちを見つけた時には腰を抜かして驚いていた。
発見した時の勇樹は血だらけになりながらも、木の棒を使って暴れる猟犬を組み敷き、弱点である鼻っ柱に食らい付いて放さず、大人3人掛かりで何とか引き剥がす事が出来た。
それからという物、元々野生児のような遊びをしていた勇樹の行動に益々磨きが掛かり、終いには猟師に親を殺された動物の子供を密かに手懐け飼うまでに至ったのは、完全な余談である。
「痛たたた!?」
「フシュー」
どんな動物であれ、まず上下関係を教え込むには屈服させるのが一番。
そして、屈服させるには押さえ込んで噛み付く方法が一番わかり易い。
酔っぱらっているので、頭の中では力士と自由の女神がタージマハルでコサックダンスを踊っているが、それだけは不変不動で弱肉強食の真理だった。
「痛ぇ! コイツ、鼻を! 止め! 止めろ!」
「フーフーフー」
相手が大人しくなるまで止めてはならない。
中途半端で止めれば、爪と牙を持つ相手は隙を突いて容赦なく襲ってくる。
勇樹の脳内は、既に懐かしき山を駆け回っていた頃へと戻っていた。
獣の習性を色濃く受け継いでいる獣人は、決め事をする際に決闘を行うという習性がある。
獣人にとって腕力とは相手を決める際の重要な要素であり、強い相手の群れに加わるというのが遺伝子レベルで刻まれている。
それが生まれながらにして戦士であり、強靭な肉体を持つ矜持でもあった。
そして、獣人が愛の告白する際には、決闘を行って相手を組み敷かねばならないという風習があった。
もし仮に何かの事情で獣人の女性と決闘を行い、一方的に組み敷いてしまった場合……デレる。
そうして勇樹が鼻に噛み付いてから数分が経つと、暴れ叫んでいたルシアはすっかり大人しくなりクーンクーンと鼻を鳴らすようになっていた。
ここで漸く相手が降参したと認識した勇樹は、徐にルシアを縛ったロープを回収するとフラフラと立ち上がって訓練所を出て行ってしまった。
「えーっと、これはアイツの勝ち……でいいのか?」
審判役の冒険者は戸惑ったように周りを見回しながら、ゆっくりと手を上げて勝敗を宣言した。
今一締まらない終わり方に野次馬は文句を垂れながらも、当の勝者がいなくなってしまったので、興味が失せて訓練場を後にしていった。
最後に残されたルシアは人知れずムクリと起き上がると、鼻を軽く拭った指先を舐めながら、怪しい輝きを宿した眼差しで勇樹が出て行った出入り口をジッと見つめていた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
前々から、この前書きは言おうと狙ってました。
『主人公の性格が(酒に酔って)豹変します』なので、間違いではないはず。(言い訳)




