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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
5章 少年、懐かれる

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12話 少年、決闘する


「お前、オレと戦え!」


「お断りします」


 森を騒がせていた変異種が討伐されたと報告された翌日。

 勇樹の泊まっている『熊の巣穴亭』にルシアがやって来て、食堂で朝食を食べている勇樹を発見すると開口一番にそんな事を言い出した。


「な、なんでだよ!」


「いや、寧ろ何で受けて貰えると思ったのかが知りたい。突撃朝ご飯やっといて戦えはないでしょ」


 ルシアが絡んでくるのを無視して食べていると、フィーアが首を傾げながら耳打ちして聞いてきた。


「あのユーキ様、こちらの方はお知り合いですか?」


「知り合い……というか、一昨日ぐらいに話し掛けられただけの関係です」


「おいおい、昨日だって森であっただろうか?」


「森で?」


「はーはっはっはっ! 当方の記憶にはございませんな!」


 フィーアに視線を向けられて、勇樹はそっぽを向きながら大声で笑ってみせた。

 その反応にルシアは眉を顰める。


「だから、昨日のオレが変種にやられそうになった時に助けてくれた「あーっと! もうこんな時間だ! ちょっと協会の方に用事があるから行って来るね!」


「あ、はい。行ってらっしゃいませ」


「あ、おい! オレの話はまだ終わってないぞ!」


 突然、勇樹は大声を出して立ち上がったかと思えば、朝食をかっ込む様に食べきってフィーアに一言だけ言い残して出掛けて行った。

 その後をルシアも慌てて追いかけて行く。



 勇樹は宿から離れると、立ち止まってルシアの方を振り向いた。


「あのさ、そもそも何でここが分かったの?」


「獣人の嗅覚を舐めんなよ? お前の臭いはあの時に覚えたから、辿って来たに決まってるだろう」


「そうか、臭いは盲点だった……」


 今までも勇樹の後を付けていた者はいたが、その全て普人だった為に獣人の追跡を撒く方法は考えていなかった。

 自分の迂闊さに勇樹は思わず頭を抱える。


「それで? 僕に何の用なワケ?」


「だからさっきも言ったじゃねぇか。試合でも決闘でもいいからオレと戦えって」


「ああ、戦闘狂(ソッチ)の方ですか。正直、僕はその毛が無いんで遠慮したいんですが」


「戦ってくれるまで、オレはどこまでも追いかけるぞ」


「ですよね~。全く、求道者って人種はどうしてこうも人の話を聞かないのかなぁ」


 自分の事を心の棚の最上位に置きながら、肩を竦めて溜息を吐いた。

 そして、観念したように両手を上げるとルシアに問い掛けた。


「わかった。それで、どこで戦えばいいのかな? 流石に町中じゃあ危険だから町の外とか?」


「安心しろ。こういう状況に備えて協会には訓練場って便利な施設があんだよ」


「うん、名前からしてそういう目的の施設ではないと思うなぁ」


 とは言え、他に当ても無いのでルシアに案内されるまま協会へと向かった。



 冒険者の朝は早い。

 意外かもしれないが、大概の冒険者は依頼を受ける際には早朝から協会に赴いて、割りの良い依頼を掴むために掲示板の前で待機している。

 故に早朝の冒険者協会は結構混んでいる事が多かった。


「うわぁ、久々にこの時間に来たけど人多いなぁ」


「まあ、オレたちには関係ないけどな。早く借りに行こうぜ」


 ルシアはそう言って受け付けに真っ直ぐ向かった。

 勇樹もその後を付いて行く。

 幸い、まだ依頼書の掲示が始まっていない為、受け付けには誰も並んでいなかった。


「おい、今からオレとコイツで決闘するから訓練場を貸してくれ」


「わかりました。決闘内容はどういった物でしょうか?」


「えーっと……おい、お前はどうする?」


「いや、そもそも決闘しますって言われて『ハイ、そうですか』で進んでいるこの状況が分からないんだけど」


 勇樹がそういうと受け付けの職員が書類を取り出しながら説明を始めた。


「決闘というのは、冒険者の間で起きた小さな揉め事を武力で解決する為のシステムです。双方が通したい要求を提示して、勝った方の主張を正式な物とするというものなのですが宜しいですか?」


「あ~、つまり『負けたらガタガタ文句言うんじゃねぇぞ』って事ですか?」


「概ねその通りです」


 乱暴な物言いには慣れているのか、勇樹の言葉にあっさりと同意した。

 すると、脇から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「なんだ? Fランクが決闘するのか? 止めておけよ。底辺の喧嘩程度にここの施設は贅沢すぎる」


「あ~、えーっと、ああ! ……誰だっけ?」


「カイル・フランブリッツだ! 今思い出したんじゃないのか!」


「これはこれはご丁寧に初めまして」


「一昨日も会っただろうが! 貴様は一体何なんだ! 底辺の癖に生意気な……今待て、お前たちこれから決闘するんだよな? だったら俺をコイツと戦わせろ。その生意気な態度を改めさせてやる」


 カイルがそう宣言すると、ルシアは思いっきり不満のある顔で割って入った。


「待て待て、オレが先にコイツと決闘するんだぞ。勝手に入ってくんな」


「いや、コイツを叩きのめさないと俺の気が済まない。獣臭い家畜風情は引っ込んで貰おう」


「ハッ! その家畜から上前を撥ねようってのはどこのどいつだ!」


 言い争っている2人の脇で、渦中の勇樹といえば「ここで『止めて! 僕の為に争わないで!』などと言い出したら面白いだろうなぁ」などと考えつつ口論を眺めていた。

 そして、言い争いが頂点に達した瞬間、2人は揃ったように受け付けを叩いて言い放った。


「「オレ(俺)とコイツで決闘する!」」



 2人の口論はその場にいた冒険者の興味を大いに引く事となり、決闘を観ようと多くの冒険者たちが訓練場に押しかけていた。

 訓練場は体育館のような作りで、冒険者たちは壁に沿うってゾロゾロと集まっている。


「なあ、どっちが勝つと思う?」


「そりゃあ、『期待の新星』だろ。アイツは短期間でCまで上がった天才だぜ?」


「いや、狼の姉ちゃんの方も中々隙が無いぜ。あれは相当場数を踏んでやがる」


 冒険者にとっては決闘も娯楽の内、そこかしこでどちらが勝つかの賭けが行われていた。

 そして、訓練場の中心で向かい合うように立つ2人の間に、審判役の職員が立ち2人を交互に見る。


「それでは、これよりカイル・フランブリッツとルシア=ジルヴォルフの決闘を行います。互いの要求は『ユーキ・イトーへの決闘権』で間違いありませんね?」


「ああ」


「そうだ」


 審判の言った内容に周囲の冒険者たちから動揺が走る。

 Cランクの冒険者が決闘してまで戦いたい“ユーキ・イトー”とは誰なのか、聞いた事も無い名前だけに様々な憶測が飛ぶのを勇樹はそこに混じって聞いていた。

 そんな周囲を置き去りにして、2人の決闘は静かに始まった。


「決着はギブアップを宣言するか気絶した方の負け。相手を殺した場合は敗北と見做す。それでは……始め!」


「ハッ!」


 審判が合図すると同時に、カイルが飛び出した。

 まるで閃光のように素早く距離を詰めて両手剣を突き出すが、ルシアも自分の武器である大剣の切っ先を地面に付き立てたまま楯のように構えて軽々と防ぐ。


 剣同士が激しく火花を散らし、攻撃の気配を感じたカイルは反射的に横へ飛び退いた。

 直後、カイルの頭があった所をルシアの腕が、轟と音を立てて空気を切りながら横切る。

 腕が空を切る音で、当たれば一撃で意識を刈り取られていたかもしれないと察して、額から冷汗が流れる。


「チッ、中々やるな……」


「獣人の身体能力を舐めてもらっては困るな。獣人は皆、生まれついての戦士だから、な!」


 今度はルシアが、大剣を軽々と持ち上げて横一文字に薙ぎ払った。

 カイルはルシアが動くと同時に距離を取り、紙一重で大剣を躱した……と思った瞬間、大剣が伸びてカイルを吹っ飛ばす。


「グッ!?」


「甘い甘い! 並みの獣人でもこの程度の芸当は軽くできるぞ!」


 振っている最中に更に剣を前へ突き出すという不安定な状態から、強引な力技で振り抜かれた剣ではあったが、無警戒の脇腹を抜くには十分だった。

 食いしばりながらも何とか立ち上がったカイルだったが、吹き飛ばされたダメージが大きかったのか動きが悪く、あっという間に剣を弾き飛ばされて倒されてしまった。


「そこまで! 勝者ルシア=ジルヴォルフ!」


「「「おおー!」」」


「『新星』があっさり負けやがった!」


「やっぱ、経験不足だな」


 あっさりと負けてしまったカイルを冒険者たちが好き勝手に言っている中、勇樹があっさりと決着がついてしまった事に溜息を吐いていると、肩をポンと叩かれる。

 誰がと肩に置かれた腕を辿ると、そこにはいい笑顔をしたルシアが立っていた。


「じゃあ、次はお前とだな」


「あはははー、お手柔らかに~」


 苦笑いする勇樹をカイルが立っていた位置まで引き擦ると、カイルを端まで移動させていた審判が慌てて戻ってくる。


「えっと、このまま決闘を続けてやるんですか?」


「おうよ。寧ろやり足りないくらいだぜ」


「そういう事らしいのでお願いします……」


 2人がそう答えると、観戦していた冒険者から歓声が上がる。

 前の2人の決闘が盛り上がりに欠けた為、娯楽に飢えている冒険者たちも決闘が連続する分には大歓迎だった。


「えー、それではルシア=ジルヴォルフの要求を行使し、ルシア=ジルヴォルフとユーキ・イトーの決闘を行います。双方の要求は?」


「勝った方が負けた方に一つ言う事を聞くで」


「あくまで個人で出来る範囲でね?」


「わかりました。それでは……始め!」


 審判の合図と共にルシアが獣人の脚力を以って勇樹との距離を0にする。

 勇樹のいた所に大剣が叩き付けられ、土煙が舞いあがった。

最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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