09話 少年、修行回に入る(入門編)
(´・ω・`)バッドエンドより大団円なハッピーエンドが好きです
現実が辛すぎるのに、空想の中くらいは明るくしたいものです
『まあ、隠していてもしょうがないから言ってしまうが、儂の予想では恐らく城にいた勇者は3か月後には半分くらいに減っておるじゃろう』
「……は?」
随分とあっさりとした口調で言われ、一瞬勇樹は何を言われたか理解できなかった。
――3カ月後ニハ半分クライニ減ル?
「ど、どういう事ですか! ……痛っ!」
『これこれ、安静にして居れ。まずは『勇者』という称号の説明からしよう。アレはその称号を持つ者に勇気を与え、その者の持つ力を強化し、常人の何倍もの速度でレベルが上がり、固有能力を1つ持たせるという物なんじゃが、一つ欠点がある』
「欠点?」
メリットの部分だけを切り抜けば、完全にゲーム世界の勇者である。
そんなチート能力がある彼らが、何故3ヶ月で半分にまで減ってしまうのか。
『それはな、勇者同士は共闘が出来ないんじゃ。詳しく言えば、勇者同士が近くにいるとレベルが上がらなく無くなる』
「レベルが?」
『ある程度レベルが上がった者同士ならば、それも問題なかろう。しかし、彼らは召喚されてきたばかりで恐らく皆レベルは一桁じゃろう?』
ここで勇樹も漸く意味が理解できた。
彼らは皆が学生であり、恐らく戦う経験のある者など片手で数えられる程度しかいなかったであろう。
それでもこの世界では精々がレベル5、冒険者で言えばEランクがやっとという所である。
そして彼らの現状はゲームで言えば、次の街へ向かう前にスタート地の城周辺でレベリングしていると言えばいいだろう。
つまり、期限と狩場が限られていて人数制限まである。
城周辺のモンスターのレベルにもバラつきはある上、人によって狩るペースにも差が出る。
そんな条件で2ヶ月以内に勇者として戦えるようになるなど、どう考えても不可能なのだ。
「それは確かなんですか?」
『残念ながら確かじゃよ。何せこれは勇者本人からの情報じゃ』
つまり、その先代の勇者というのは……
愕然とする勇樹を気にせず、ドラグニールは話を続けた。
『そこで奴は考えた。王国の目が届かず、もっと安全にレベルを上げると同時に、戦いの厳しさを知る方法はないかと』
「それが……ここ?」
正直、何処が安全なのか勇樹には理解できなかった。
『ここは魔力が満ちておるから、魔力を上げるのにはうってつけじゃ。そこへ弱いモンスターを放って戦わせれば良い……と、その時は思ったんじゃがのう~』
最初は首を傾げたが、この場所の条件と存在理由、そして今の話を総合するとある結論に至った。
「まさか、放ったモンスター同士が戦いあってレベルを上げた結果。ここに居るのが上級種ばっかりになったとか言いませんよね?」
地球には蠱毒という呪術がある。
壺の中で様々な毒虫を入れて食い合わせ、最後に残った生命力の強い虫で呪いを掛けるという物である。
この竜の砦でも同じような現象が起き、最後の一匹になるまではいかなかったが、そこに住む魔物たちが切磋琢磨し合うような関係が出来上がってしまったのだ。
その上、この場所は龍脈の上にある為に空気中の魔力含有量が通常の数倍も濃い。
弱いモンスターは居るだけで魔力が活性化して、通常よりも早くレベルが上がって行くのも原因の一つであった。
『ふぉっふぉっふぉっ、ホント参ったの~』
「ホント何やってんの!?」
勇者を育てる為の場所が、固有種だらけの隠しダンジョンになってしまっては本末転倒である。
さらに言えば、ここにいる固有種の殆どが冒険者協会だと討伐ランクB~Aの強者ばかりである。
追記すると討伐ランクBだと同クラスの冒険者パーティが何とか倒せるレベルである。
『いやの~、そうなっているのに気が付いたのはつい二百年ほどだったので、見逃してしもうたんじゃ。すまん』
先代の勇者の最大のミスは、長寿の所為で色々と気の長いドラゴンに管理を任せた事だろう。
「すまんじゃないですよ。すまんじゃあ……」
『まあ、そこにいるだけでも魔力が活性化してレベルは上がるじゃろうて、暫くしたら別メニューも考えておるから安心せい』
つまりそれまではどう足掻いてもここでサバイバル生活を送らなければならないようだ。
こうして、1ヶ月に渡る勇樹のサバイバル生活は始まったのだった。
サバイバル生活3日目……
「……よし、動ける!」
一晩休んだ勇樹は動けるまでに回復していた。
痛みで動けなくなるほどのダメージが、たった一日で回復したのには理由がある。
それはここへ来た時にドラグニールが勇樹の首に付けた魔法の首輪であった。
この首輪は、竜の砦での修行をより効率よく行う為に、当時現存していた魔法技術の推移を集めて、頭が茹ったテンションで作られたアーティファクトだった。
当初、ドラグニールは僅かな回復効果と転送する効果がある程度のアイテムで良いと考えていたが、勇者はそれでは戦い慣れない子供には不十分だと言って、彼が好きだったとあるRPGのシステムを流用する事にした。
転移魔法の空間移動の原理のメカニズムを解析して、体を一時的に分解し、特定の場所へ転送して再構成する機能を思い付いた。
転送と同時に受けたダメージを回復できるように上級回復魔法を組み込み、どうせならとオート回復機能も付加した事で、ゲームに良くある『死に戻り復活』と『寝れば全快』を完全再現したのだった。
しかし、色々と機能を詰め込み過ぎた所為で地上では魔力不足になり、大量の魔力がある竜の砦しか使えない事が分かり、当初は地上でも使うつもりであったが諦め、竜の砦での訓練専用道具になったのであった。
――閑話休題
体力は回復したが勇樹にはもう一つ、未だ解決できていない『空腹』という問題があった。
昨日は結局水を探しに行きAランクの魔獣ブラックモスと遭遇、即死ダメージを受けて朝まで動けず今に至る。
空腹が極まり、腹の虫も早急に食事を要求すると言わんばかりに盛大に腹を鳴らしている。
「ダメだ……このままじゃ飢え死んでしまう。木の実でも何でもいいから、食べないと……」
勇樹はとりあえず昨日同様に、池から川を辿り原水を目指しながら、その道中で何か食べられそうな物を探す方向で動き始めた。
最悪見つからなかった場合は、禁じ手のガチンコ漁で川魚を取ればいいと考えた。
水筒に加えて、昨日の事を考え護身用に石斧を持って行く事にした。
昨日の池までは問題なく辿り着く事が出来た。
離れた所から暫く息を潜め観察して、池周辺に動く影が無い事を確認してから、原水を目指して川を辿り始める。
途中何度か動物が踏み荒らした後を見つけるが、運よく鉢合わせになる事はなかった。
30分程歩いた所で、小さな泉を発見する。
一瞬、飲めるかどうか悩んだが、他に飲み水を確保する術を思い付かず、時間を掛けているとまた何かと鉢合わせする確率も高くなるので、縄で結んで連ねた水筒をそのまま泉に浸けた。
水筒の中の水が入り込んだ所為で、中の空気が押し出され口から勢い良くブクブクと気泡が噴き出す。
暫くすると気泡は次第に勢いを無くし、手の中の水筒の浮力も弱くなっていく。
水筒の口から気泡が出て来ないのを確認してから、水から引上げて一つ一つに木端を削って作っておいた栓を詰める。
「しまった……中が空の時は、音が鳴らないように纏めて縛ってたけど、水が入ってると重たくで持ち難い……」
目算で1本が約300ml、頻繁に来られないと考えて7本ほど用意していた物にほぼ満杯まで水を入れた。 つまり、三百ml×7本=二千百g=2.1kgとなり、加えて水筒の重さもあるので約3kg……
素人が隠れながら持ち歩く量ではない。 その上、重たくなった所為で纏めて縛っておく事が困難になり、一本一本を腰から下げて鳴子の様にガラガラと音を鳴らして歩くぐらいしか思いつかない。
「袋とかがあれば持ち運べたかも知れないけど、動物の皮か……あ、ダメだ。鞣し方を知らないや」
ない物ねだりをしていても仕方ないので、行きと同じように纏めて縛って担いで持って行く事にした。
数分後……
勇樹は草むらの中で文字通り息を殺して、ソレの一挙手一投足に細心の注意を払っていた。
昨日の大物との遭遇、そして水の入った水筒を持って山道を歩いていた所為か、疲労で気が緩み注意力も散漫になっていた。
疲労で朦朧としてきた意識の中で必死に池まで戻ってきたその時、物音が聞こえたので咄嗟に草むらに隠れたのだが、気付けば周囲をモンスターの群れに囲まれていた。
それは鼻を鷲の嘴のような形をしていて、耳は人間に近いが少し尖っていて、肌は深い緑色をしている。
背丈は150cm程度、全身を騎士甲冑で纏ったこの森固有の進化を遂げたゴブリン――ゴブリンリッターと呼ばれる種族である。
その一番の特徴は、身に纏った魔鉄の鎧と剣であり、その戦闘力は人間の上級騎士にも勝る実力を持つ。
息を潜め何とか逃げる機会を窺うが5体ほどが勇樹のいる所を囲うような位置にいる為、飛び出した瞬間に袋叩きに合うのが目に見えている。
「!?」
それを躱せたのは全くの偶然だった。
背後からの小さな音と共に背筋が寒くなり、咄嗟に草むらから飛び出した結果、後ろから狙っていたゴブリンの攻撃を回避できた。
だが、そこまでだった。
なりふり構わず飛び出した為にバランスが崩れ、脇から体当たりを食らう。
吹き飛ばされ地面に転がると、今度はボールの様に蹴り飛ばされた。
木に背中を打ち付けて地面に落ち、強く打ちつけた為に痛みで動けなくなる。
呻いている勇樹を見てゴブリンリッターはニヤリと笑いながら剣を抜く。
抜かれた剣の刃が鈍く光り、高く振り上げられた後、勇樹の首に向かって振り下ろされた。
丸い影が跳ね上がったと同時に、勇樹の身体が光となって消滅した。
突然の死体が消滅するという現象に、驚いたゴブリンリッターが騒ぎ出し、周囲を警戒したが何も見つからなかった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




