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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
1章 少年、召喚される

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10話 少年、死に覚える

(´・ω・`)不老不死って人類の夢ですよね

けど死ねないって結構大変なことだと思います

神様だって耐えられなかったんですから……

サバイバル生活4日目……


「……はっ!?」


 寝苦しさと首の痛みと、汗で張り付いた服の気持ち悪さに目が覚める。


『おお、目が覚めたか。お主もなかなか悪運が強いのう』


 頭の中でガンガンと音を鳴らされているような痛みの中、聞き覚えのある老人の声が頭の中で呼びかけてきた。

 そこで気を失う前の事を思い出して、顔が一層青くなった。

 刎ねられた痛みが残る首を何度も触って、繋がっている事を確かめ安堵の息を吐いた。

 2度も死んだ事が半ば夢心地な気分だったが、体に走る回復しきっていない痛みが、アレが夢でなかった証拠していた。


「……気持ち悪い」


『それはそうじゃな、何せ死ぬ直前の身体を細切れにして掻き回される様なものじゃからなぁ』


 勇樹が青い顔をして思わず呟いた言葉に、中々エグイ表現をしてくる。


『それにしても運が良かったのう。一昨日のようなダメージを受けておったら、間違いなく死んでおったぞ。 1日目で失った部分の補完がまだ完全ではないからのう』


「補完?」


『現在の主の体は、首輪の魔力で欠損部分を補っている状態なんじゃよ。まあ、今のペースだと再生するまでに10年ほど掛かるかの~』


「10っ!?」


 暢気に言われた年月に言葉を失う。

 実はこの首輪には回復する過程で2種類の方法があり、1つは体の回復力を高めて傷を治す方法、もう1つが欠損した部分を魔力で補うという方法である。

 通常の回復魔法では、ちょっとした傷口を補うだけしかできないが、龍脈のバカ魔力のお陰で穴が開いても力技で塞げるようにはなった。

 つまり、裏を返せば勇樹が生きながらえるには少なくとも欠損が修復される10年間、この場所に閉じ込められたことになる。


「ど、どうにかならないんですか!? 10年もこんな所に居られないですよ!」


『うむ、その位ならどうにでもなるわい。人間の失った部位の補修なんぞ、(わし)にしてみれば箸で豆を摘まむより容易(たやす)いわ』


「へ?」


 思いがけないセリフに、勇樹は内心で「この世界にも箸とかあるんだ」とか如何でもいい事に感心した。


「って、そうじゃなくて! 治せるんですか!?」


『まあ、まるっきり自前では難しいがの。移植できる物があれば、魔法で拒絶反応もなく治す事が可能じゃ。そういう訳じゃから、移植する心臓はこちらで用意して置くから安心せい』


「魔法スゲー! お願いします!」


 折角なので、勇樹は一つ要望を出してみる事にした。


「あの~、ついでと言ってはなんなんですが、食べられる植物のある場所とかって教えて貰えませんか? 正直、自力じゃ見分けが付かないんで」


『おお、忘れておった。そういう事ならこれを使いなさい』


 目の前に魔方陣が現われ、何かがゴトリと落ちた。

 拾い上げてみると、片手で持つには一回り大きい長方形の金属のプレートだった。


『それには勇者が持っていた「すまほ」とかいう道具をヒントに、儂と先代の勇者の知識が詰め込んだ魔道具、その名も“マギフォン”じゃ。脇の「すいっち」を入れると、画面が表示される仕掛けになっておる』


 言われた通りにスイッチを入れると、電子辞書のような画面が現れる。

 何故か案内は全て日本語で表記され、裏側に付いて付いている水晶に移した景色を画面に表示でき、対象にかざすだけでそれに関する情報、習性や主な生息地などを検索する辞書機能や簡単な地図機能など、ここで生きて行く為の知識が殆ど詰まっていた。


『他にも画面に映した景色を切り取ったり、聞いた音を残したりも出来るぞ』


「じゃあ、これを使って話とかできるんですか?」


『いや、勇者曰く『スマホに通話機能は蛇足』と言って加えんかったよ。加える自体は簡単なんじゃがのう』


 その勇者の拘りとにかく、この世界の事を何も知らない勇樹にとって植物やモンスターの詳細が分かるのは凄くありがたかった。

 これが無ければ、ほぼ毎日ガチンコ漁で取った魚三昧になる所だったからだ。


「よし! これでここの生活も捗るぞ!」


 尚この後、勇樹は戦う術を身に付けるまでの1週間、毎日1回は死にかけてテントに転送される日々が続く事をこの時はまだ、勇樹は気付いていなかった。

 日が暮れ始めた頃に、動けるようになった勇樹はマギフォンを片手に食べ物を探しに出かけた。

 試しに目に付いた植物にマギフォンを向けると、名称や詳しい生態に毒の有無などが表示される。


「おお、これすっごい便利!」


 手に入れた玩具にはしゃぎ、色々な植物や石などにマギフォンを向けながら食べられる物を探した。

 探すのに夢中になっていた勇樹は、背後にいたゴブリンリッターに気が付かず首の2/3を斬られて転送される事となった。



 5日目、昨日の反省を生かして勇樹は草や蔦を編んでギリスーツを作り、息を殺しながらひっそりと食べられる植物を探した。

 空腹の所為でテントから離れるだけの気力さえもなく、執念に近い食欲だけが勇樹を突き動かしていた。


「食べられる物……食べられる物……あ、アレは?」


 食べられる野草を求めてさ迷っていると、見覚えのある木の幹に絡んだ細い蔦が目に入った。

 ビー玉ほどの実が付いていて葉っぱの形など細かい所は違っていたが、それは祖父の家に遊びに行った時に祖父の友人が得意げに話してくれた事を思い出した。


「似てる……あの時に教わった食べられる野草と……でも異世界だし、全く同じとは限らない……一応、確かめてみるか」


 マギフォンをその野草にかざすと、答えは毒なし食べる事は可能と出た。

 しかも生で食べられる部位まであると書いてあり、勇樹は早速この植物を取る事に決めたのだが一つ問題があった。

 この植物の可食部は根っこであり、その根は長く真っ直ぐに地中に伸びているのが特徴で……簡単に言えば掘り出すのが物凄く面倒臭いのだ。


「とはいえ……背に腹は代えられない!」


 勇樹は近くにあった尖った石や枝を集めると、それらを使って必死に掘り始めた。

 正直に言えばこんな面倒臭い物は諦めて別の物を探しに行った方が効率的である。

 がしかし、既に勇樹の気力も限界に来ており、一度見つけた食べ物を諦められて別の物を探せるほどの気力は尽きていた。

 そして1時間近く彫り続けた結果、根っこの先が見えた。


「よし、ゲット!」


 木の棒で根っこの周囲の土を慎重に崩し、真っ直ぐ綺麗な根を手に入れる事が出来た。

 勇樹は早速、持って来ていた水筒で根っこを洗うとそのまま噛り付いた。

 食感は火を通していない芋のような感じではあったが、背に腹は代えられないと掘り出せるだけ掘り出して持ち帰る事にした。

 その帰り道に久々の満腹感に油断していたら、その爪で大木を紙の様に斬り裂き、通常の虎の十倍にも大きくしたようなAランクの魔獣ビャクオウと遭遇して胴を斬り裂かれて転送した。



 6日目は更なる食料を求めて散策していると、草むらに生っている赤い小粒の木の実を見つけた。

 丁度小腹が空いていた勇樹は食べても問題無い事だけマギフォンで調べると躊躇なく口に入れて……火を吹いた。


「辛ーっ! いや、痛い!? くひがーくひがいはい!? み、みすー!」


 勇樹の口の中で辛味が次第に痛みへと変わり、あまりの痛さに唾液をダラダラと滝の様に流れ出し、感覚が無くなって行く。

 すぐに水筒の水を煽ったが、たった一本だけでは全く足りずにあっという間に無くなり、堪え切れなくなった勇樹は近くにあった小川の方へと駆けだした。


「がぼばぼば!」


 小川に着くと走った勢いのまま、顔を水へと突っ込んだ。

 痛みを少しでも和らげようと、水の中で何度も口をゆすいだ。

 勇樹が食べた木の実の名前は「カプサン」という物凄く珍しい植物の実で、一粒齧るだけで3日は他の味がしないと言われるほどに強烈な辛味があり、竜の砦でもこれを食べる生物はいなかったりする。

 口に感覚が無くなるほどの辛さに、勇樹は暫く水から口を出す事が出来なかった。



 7日目からはまず死なない事を目標にした。

 気配を隠す練習をしながら食べ物を探しているとブラックパンサーという肉食のモンスターに襲われている角ウサギを見つける。

 それを見つけた時、勇樹の中で少し前の自分の襲われている角ウサギが重なって見えて思わずブラックパンサーの前に躍り出ていた。

 木の棒をブラックパンサーに向けて構え、後ろにいる角ウサギをチラリと盗み見た。


「大丈夫!? 僕がアイツの気を引いている間に早く逃げ……」


 弱弱しく倒れている角ウサギに必死に逃げるように声を掛けた時、それは起こった

 突然、今まで弱っていると思っていた角ウサギの目に力が戻り、勇樹の方へ角を向けると一気に跳び上がって背中から貫いた。


「え……何で……」


 あっという間の出来事に、思わず勇樹は角が飛び出た胸を見た。

 角ウサギは呆然としている勇樹の背中を蹴り飛ばして離れると、勇樹に土を掛けて草むらの向こうへと消えてしまった。

 ここでは一瞬の油断が命取り、角ウサギは態と弱弱しい態度で相手を誘っていただけであった。

 それを転送された後にドラグニールから聞かされた勇樹は、頭の中で何かがブチ切れた。


 その後も大型モンスターを見かけたので、息を殺してやり過ごそうとしていたら、背後から近づいていた角ウサギに気付かずに背中から刺されて死亡したり、大型モンスターに見つかって転送された事が何回もあった。

 しかし、ドラグニールから強いモンスターを相手にすればより多くの経験値を得られるという事を聞き、息を殺して隠れる練習を高レベルモンスター相手に手当たり次第に仕掛けて必死に隠れ通した。

 それを繰り返している内に12日目にはステータスに『気配遮断』スキルが付いていた。



 13日目は朝から石槍を持って何かを探すように歩き回り、ゴブリンリッターを見つけると突撃していた。

 勿論、石槍と鉄剣では勝負にならず、簡単にあしらわれ袈裟斬りにされて拠点へ転送される。

 14日目は武器を持たず、ギリスーツで隠れながらゴブリンリッターのグループを追跡していた。

 しかし、途中で追跡がばれて逃げる間もなく心臓を突かれて転送される。

 15~19日目も石槍を持って、ゴブリンリッターに戦闘を仕掛けては転送を繰り返した。



 その様子を見ていてドラグニールは、勇樹の異常性に驚いていた。

 確かに、勇樹に巻かれている首輪は何度死んでも復活できる機能がある。

 だが、それは死んだ後に機能する物であって、死その物を回避している訳でも、況してや死を恐れず蛮勇になれる効果などありはしない。

 彼が受けているのは死ぬ“ような”痛みではない。

 文字通り死ぬ痛みを何度も経験しているにも関わらず、勇樹の目は少しも濁らずに、それどころか益々活動的になって行動範囲を広げようと、次の日には平然と動き回っているのだ。


 まるで死に戻った事が小石に躓いた程度が如く、普通ならば発狂してもおかしくない状況を、勇樹は笑みを浮かべて楽しんでいる節すらあった。

 まだ勇者が生きていた頃にも、何度か保護した異世界人をここに連れてきた事があったが、雑魚のモンスターを倒す事すら嫌悪して、全員1レベルも上げる事無くギブアップしてしまい、結局隠れ里を作って保護する方向になった。


 では何故ドラグニールはここへ勇樹を連れて来たのか、それは勇樹と初めて出会った時、彼が初めて勇者と出会った時と同じ匂いがしたからだった。

 故にドラグニールも放って置けなくなり、勇樹の行動を見守っていたのだ。 まさか、その日に森に入り、ムクムクにやられるとは思ってもみなかったが。

 目覚めた直後の勇樹も、あんな目にあったにも拘らず普通に話していた事も驚きであったが、今の異常性には遠く及ばなかった。

 そして、20日目にしてドラグニールは勇樹の行動の意味を理解した。



サバイバル生活20日目……

 いつものように死亡してテントに戻ってきた勇樹には、いつもと違う点が1つだけあった。

 それは勇樹の右手に握られている剣、これこそが勇樹が1週間もゴブリンリッターを追い回してその度に殺された理由であった。


 勇樹が何度も死にかけて気付いた事は、勇樹には圧倒的に身を守る術がないという事。

 一応、石の槍なども作って見たが、竜の砦で一番弱い角ウサギですら刺さる事無く跳ね返されてしまい、結局魚を取る銛にしかならなかった。

 そこで目を付けたのがゴブリンリッターの剣だった。

 しかし、彼らに奪い取れるような隙はなく、常に3匹以上で行動する為に罠も掛け辛い。

 それはここの生活に手詰まりを感じ、どうすればよいか悩んでいた時にある疑問が湧いた。

 それは死んだ時に発動する転送は、どのような範囲で行われているのだろうかという事だった。

 自分の身体は当然として、着ていた衣服やマギフォンが転送されていたという事は、転送の対象が自分の体だけではない事に気が付く。

 これもゲームだとこういう場合、大抵は装備品が死んだ所にぶちまけられていたり、ロストする場合が多いから気付いた事だった。


 2日目で水を汲みに行った時に持っていた水筒は、3日目に目覚めた時にはちゃんと手元に持っていた。

 同じように3日目に汲んだ水も、死んで転送された時には手に持った状態で転送されていた。

 5日目の時に食べられる植物を取っていた時は、既に取っていた分は手元にあったが、たまたま手に握っていた植物は転送されていなかった。


 そこで勇樹は一つの仮説を立てた。

 この転送魔法は自分が持っていると認識した物に対して、持ち主と一緒に転送されるのではないのかと。

 そして、仮説を実証すべく勇樹はゴブリンリッターの行動を観察し、戦闘を仕掛けて転送される直前に剣を掴んだり、自分を串刺しにした刃を掴んでみたりを繰り返し……漸くその剣をこの手に掴んだのだった。



最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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