10話 少年、色々と絡まれる
(´・ω・`)「よっしゃ、書いてやる!」というやる気が、まっすぐ行ってくれない不具合。
“勇者”という個人的に無視できない単語を言った3人から話を聞き出すべく、あっさりと縛り上げた勇樹は、紙縒りを相手の鼻の穴に突っ込みながら話を聞いていた。
「それで、勇者ってどういう事?」
「やめ、俺たちは異世界から召喚されてきた勇者なんだよ!」
「毎日毎日、訓練漬けなのが嫌で城から逃げ出したのさ~」
「勇者はレベル上げも速ぇからな。俺たちもあっという間にCランクに上がったぜ!」
それを聞いた勇樹は首を傾げた。
「あれ? でも、勇者同士ってパーティは組めないんじゃなかった?」
「いつだったかな。『共闘』なんてスキルが生えて勇者同士でも戦えるようになったんだよぉ」
「なんか、どっかで魔王が復活したかららしいぜぇ」
勇樹は自分が遭遇した赤銅の鬼を思い出して、「ああ」と声を漏らした。
そして、酔っぱらっている3人を見て眉を顰めた。
「なら、君たちは何でこんな所に居るの? 勇者なら魔王と戦うんじゃないの?」
「ばっきゃろ~、魔王なんかに勝てるワケねぇだろ~。こっちはCランクになったばっかの冒険者だぜ~?」
「この前までだって調子に乗って森の奥まで行って、デッカイゴリラに追い回されたばっかだもんなぁ」
酔っている所為か、簀巻きにされている状況でケタケタと笑う3人。
一方、勇樹は3人が召喚した王家の関係者ではない事を知ると、あっさりと興味を失くして徐に調剤用のアルコールを取り出すと、3人の頭に掛け始めた。
「はれ? なにすんら」
「はーい、皆さんはここで酔い潰れててくださいね~」
3人が酔い潰れて寝た事を確認すると、勇樹はそのまま宿へと帰って行った。
翌日、勇樹は依頼ノルマを熟す為に冒険者協会へと来ていた。
とは言っても、下位ランクの依頼など代わり映えするワケも無く、専らが荷物運びや皿洗いなどしかない。
とりあえず、早く済ませられそうな物を選んで依頼書に手を伸ばした時、背後から声を掛けられた。
「おい、その依頼はお前にはきついんじゃないか?」
勇樹が驚いて振り向くと、そこに立っていたのは獣人の少女だった。
彼女を見てまず目を引いたのは、その長すぎる銀髪である。
彼女の身長の1.5倍はありそうな長髪は尻尾のように纏まり、地面に付かないように彼女の周りを器用にうねっていた。
王都では殆ど見かけなかった獣人冒険者との突然の邂逅に驚いていると、少女は掲示板を見回しながら勇樹に話しかけてきた。
「お前の体格でこの依頼は辛いぞ。だったら、こっちの皿洗いとか教会の手伝いの方がいいんじゃないか?」
「え、いや、そっちの依頼はちょっと……」
少女が勧めてきたのは、他の物に比べれば多少労働が少ない物の時間で拘束されるので、
勇樹が真っ先に候補から外した物だった。
寧ろ勇樹としては、時間で拘束されるより早く終れる(勇樹基準)依頼を選んでいたのだが、傍から見れば文盲の少年が適当に依頼を選んだようにしか見えなかった。
「遠慮なんかすんなって、オレも字が読めない頃は苦労したからな」
「いや、だからですね」
「こっちは皿洗い、昼から夜までやらされるが賄いが出るから昼飯代が要らないぜ。協会の手伝いはその時でやる事は違うが昼食と夕食が出る。駆け出しはまずこの辺の依頼で飯代を浮かせ」
そう言って少女は2枚の依頼書を剥がして勇樹に押し付ける。
ついでに勇樹の持っていた依頼書を取り上げ、その内容を見て顔を顰めた。
「なんだよ。2つとも終わった時点で上がれるけど、キツイ上に依頼料だけしか出ないじゃねぇか。止めとけ、こんなの割に合わねぇよ」
「いや、この依頼は……」
「まあまあ、皆まで言うな。礼ならお前に余裕がある時でいいさ」
少女はそれだけ言うと中位ランク向けの掲示板へと向かい、適当に依頼書一枚を剥がすと受け付けの方へ行ってしまった。
結局、何も言えなかった勇樹は少女がこちらを見ていない事を確認すると、最初に取った依頼書を持って少女とかち合わない位置の受け付けへと向かった。
店に届いた商品を倉庫へ運び込む作業と、要らなくなった家具の運び出しを午前中の内に終わらせ、一旦宿に帰って昼食を済ませた勇樹は午後からは馬たちを散歩のついでにレベリングを行った。
既にゴブリン程度なら蹴り殺せるレベルに達しているアールとアルスの2頭は、適当に飛び掛かってきたグレイファングを轢き潰しながら街の周囲の草原を駆け回る。
――グォン!
――ブルルルッ!
――きゃいん!?
「2人ともすっかり強くなっちゃって、僕の出番が無いなぁ」
取り出した棍棒を仕舞いつつ、勇樹は自転車並みの速度で走る2頭の少し後ろを、自分の足で走っていた。
その後も目立った出来事は無く、一周して元の場所に戻って来た頃には帰ってくる冒険者の姿がチラホラと見えていた。
「じゃあ、そろそろいい時間だし、帰ろうか」
――ブルルルッ
勇樹の言葉に返事を返すように嘶くと、特に指示も受けずに門の方へと歩き出す。
途中、上でだらけている勇樹を乗せたアールたちが、門をアルスが勇樹を起こして入市税を払わせ、何の指示も無く町中へ歩き出す2頭を見て、その場にいた全員が目を見開いて呆然とした様子で見送っていた。
馬たちを宿に帰した勇樹は、依頼達成の報告をする為に冒険者協会へと戻った。
受け付けで手続きも済ませ、報酬の大鉄貨数枚を受け取っていると、それを見た背後に立った人物が鼻で笑う。
「ハッ、見た顔がいるかと思えば、随分とショボイ依頼を受けているんだな!」
勇樹の後ろに立っていたのは王都の冒険者協会で絡んできたカイル・フランブリッツだった。
だが、勇樹は後ろを一切見る事無く、報酬を受け取ると受け付けに一礼だけして協会を出て行こうとする
そこへカイルが前に立ち塞がった。
「おい、俺が話しかけてやってるのに、その態度は何だ? Fランク」
「やあ久しぶりちょっと見ない間に背が伸びた?じゃあ僕は用事があるから失礼するよじゃあね」
明らかな棒読みのセリフを一息で言い切ると、そのままカイルの脇をすり抜けた。
一瞬、勇樹の早台詞に圧倒されて呆けていたカイルは、勇樹が脇を通り過ぎた時に我に返り、慌てて勇樹の肩を掴もうと腕を伸ばした。
「俺を無視する……な!?」
苛立ち混じりに伸ばされた腕は、掴んだと思った瞬間に空を切った。
全く相手は避ける動作をしていなかったにもかかわらず、掴もうとした腕が空かされた事に苛立って何度も腕を伸ばすが、まるで霞でも掴もうとして居るかのように目の前の勇樹は捉えられずに、勇樹が出て行くのを見送るしかなかった。
勇樹が依頼に勤しんでいた頃、宿でする事も無く手持無沙汰だったフィーアは、女将に頼んで食堂の手伝いをさせて貰っていた。
「フィーアちゃん悪いわねぇ。手伝って貰っちゃって」
「いえ、暇だったので気にしないでください。それにユーキ様の許可はちゃんと取ってますから」
何の謙遜もなくフィーアはそう答えた。
元々、ただでさえ3人で住むには十分すぎるほど広い屋敷の管理を一人で熟していたのである。
それが急に無くなったので、フィーアも時間を持て余していた。
「それにやらせて貰っているのも、簡単なお仕事ばかりですから、仰っていただければ何でもお手伝いしますよ」
「手伝ってくれるだけでもあたしは大助かりだよ。冒険者じゃなかったら、ウチの息子の嫁に欲しいくらいだ」
「バッ、何言ってんだよ母さんっ」
部屋の掃除をしていたはずの長男のロッソが、顔を真っ赤にして駆け下りて来た。
あたふたしながら大笑いしている母に詰め寄るロッソを見て、フィーアはただ苦笑いしていた。
フィーアの反応に気付いたロッソは、より一層顔を赤くしながらフィーアの方へ振り向いた。
「いえっ、別にフィーアさんがどうのという事ではなくてですねっ」
「大丈夫ですよ。わたしは気にしていませんから」
「そ、そうですかっ、それはよかった。あははは」
意気地の無い息子に女将が溜息を吐いていると、入り口のドアが開いて昨日の冒険者3人組が入ってきた。
気の抜けた様子で入ってきた3人だったが、フィーアを見つけるとニヤニヤと笑みを浮かべながら近づく。
「あれ、昨日の子じゃん」
「昨日はよくも簀巻きのまま放置してくれたなぁ。お陰で持ち金全部スラれたんだぞ!」
「丁度いいや。アイツを待ちがてらこの子に詫びて貰おうぜ」
「ちょっと、何なんだ貴方たちは!」
一人がフィーアの腕を掴もうとした時、ロッソが割って入る。
とは言っても相手は粗暴な冒険者な上に人数も多いので、ただの宿屋の従業員には荷が重く足が震えていた。
「か、彼女はウチを手伝ってくれているだけです。お、お泊りになられないのであれば、お引き取り下さい」
「ああ? 何でお前にそんな事を指図されなくちゃ受けないんだよ。NPCの分際でよ!」
「ひっ」
軽く凄まれただけで、ロッソの体は強張って竦み上がってしまう。
「ビビってる奴は退いとけ。俺たちはその子に用があるんだよ」
「イロイロとバイショーして貰わないと割に合わねぇよなぁ?」
「丁度ここは宿屋だし、一部屋借りてそこでやろうぜ」
「いや……!」
「や……止め、止めろっ」
女将は冒険者を刺激しない様に娘のレリを必死に抱きしめていて動けず、ロッソは『恐怖』状態に陥って腰が抜けてしまっていた。
3人は嫌がるフィーアを部屋に連れ込もうと腕を引いたその時、背後から棍棒がフィーアを掴んでいた者の後頭部を殴打、昏倒させた。
「やれやれ、思いっきり悪役系キャラムーブしてるけど、何がしたいワケ?」
「ユーキ様っ」
「テメェは昨日の!」
そこへ現れたのは依頼を終えて一時帰宅した勇樹だった。
勇樹の登場に残りの2人は苛立ちと喜びが入り混じった様な笑みを浮かべた。
「ここであったが百年目!」
「スラれた有り金分、テメェに支払って貰うぜ!」
無茶苦茶な理屈をこねながら殴り掛かって来るのを、勇樹は状態を反らしただけで簡単に避けてみせ、再びポーチから取り出したロープで簡単に絡め取って3人を捕縛した。
「ふぅ、この3人も懲りないね。フィーアも大丈夫だった?」
「は、はい、ありがとうございました」
「これ位いいって、フィーアも宿の手伝いも程々にね。何かあったら反撃しても良いんだよ? それと、お腹空いたぁ」
勇樹がカウンターで突っ伏していると、女将が奥から顔を出してきた。
そして、食堂を見回して倒れている3人を見て目を丸くした。
「3人組は一体どうしたんだい?」
「はい、ユーキ様が応対してくださいました」
「そうかい! いやぁ、アンタの彼氏って凄いんだねぇ! あんな怖い冒険者を追い出してくれたのかい! 一時はどうなるかと思って、あたしは心臓が止まりそうだったよ」
安心した女将は大笑いしながら勇樹の背中をビシビシと叩く。
しかし、返ってきた硬い感触に女将は目も丸くする。
「なんだい。見た目はこんなに細いのに、随分としっかりしてるんだね!」
「ははは、どーも。それはそうと、後でアールとアルスの散歩に行くので、簡単に食べられる物をお願いします! あ、それと3人も連れて行くのでご心配なく」
「はいはい、ほらロッソ! さっさと立って仕度しな!」
「お、おう」
尻餅を突いていたロッソは女将に首根っこを引っ張られて、勇樹を睨みながら奥へと連れて行かれる。
その後、事ある毎にロッソから睨まれながら昼食を食べ終わると、勇樹は床に伸びている3人を縄で縛り、そのまま引き擦って外へと連れ出したのであった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




