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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
5章 少年、懐かれる

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07話 少年、猿と戯れる

(´・ω・`)先週、投稿した内容に気に入らない部分があったので加筆して分割しました。

 食事中の方はごめんなさい。

 痛くもない腹を探られ逃げるように休憩所から離れた所で、勇樹は大きく息を吐いた。


「はぁ~……やっぱり人と関わるのは面倒くさいなぁ」


「あのユーキ様、主人だけを御者台に乗せるというのは奴隷として面目が立たないのですが……」


「いいの、いいの。フィーアは馬車を操縦できないんだし、僕だって指示だけ送ってアールとアルスに任せてる状態だから、実質ここに座っているのも周囲の警戒の為だしねぇ」


 アールとアルスとは馬車を牽いている馬たちの事で、勇樹が北欧神話の“太陽の御車を引く馬”に(ちな)んで名付けた。

 御者台を覗ける小窓から落ち着かない様子で顔を出しているフィーアに対し、勇樹は涙交じりに欠伸を堪えながらボーっと前を眺めていると、前方の草むらが揺れてグレイファングの群れが顔を出す。


「ゆ、ユーキ様! モンスターが現れました!」


「慌てない慌てない、大丈夫ダイジョーブ。ほれ」


 モンスターとの遭遇に顔を青くするフィーアに対して、勇樹はのんびりした口調でボールのような物を放り投げた。

 ボールはグレイファングの手前で落ちると、パンッという音と共に弾けて中に入っていた液体が飛び散る。


 ――きゃいん!?


 液体を顔に浴びたグレイファングは飛び跳ねるように悲鳴を上げて、そのまま草むらの向こうへ走り去った。


「えーっと、何が起こったんですか?」


「割とえげつない程にくさい臭いを濃縮した特製撃退ボールだよ。鼻が曲がる程臭いし、一度付着したら3日間は臭いが取れないから、手早く追い払うのに打って付けなんだよね」


「は、はぁ……」


「それにアレくらいならアールとアルスでも簡単に撃退できるし。まあ、心配しないでそこでのんびりしてていいよ~」


 心配そうなフィーアを他所に、勇樹はのんきにそう答えた。



 馬の足音と車輪が砂利を踏む音しかせず、人も建物もない街道を眺めながら馬車はゆっくりと進む。

 時折、風で草や木の枝がなびく音に耳を澄ませ、暖かい陽気で思わず欠伸が出そうになったその時、勇樹の耳が左脇にある森の中で何かが動く音を感じ取った。


「拙いなぁ」


「ユーキ様、お茶を……どうかなさいましたか?」


「うーんとね、さっきから付けられてるね。モンスターに」


「えっ!?」


 勇樹の言葉にフィーアが驚いて周囲を見回す。

 しかし、フィーアの目には変わらず平和な街道にしか見えなかった。


「ハハッ。そりゃ、見ただけじゃ分からないよ。向こうだって隠れてるわけだし、簡単に見つかってたら野生じゃやっていけないしね」


「それは、確かなんですか?」


「うん、たぶん群れで追っかけて来てるね。まあ、そんなに強い奴じゃないから安心してよ……ものすごく面倒くさいけど」


「?」


 まるで苦虫でも噛み潰したかの様に顔を顰めた勇樹に、フィーアは意味が分からず首を傾げた。


 太陽が天辺から傾いてきた事もあり、勇樹たちは次の休憩所で野営をすることにした。

 今度の休憩所では、すでに大きな商隊が立ち去った後だったらしく、真新しい轍が残っていた。

 誰もいない休憩所のど真ん中に、誰に気兼ねすることもなく馬車を止めて準備を始めた。


「さてと、今日はここで野営をするのでアールとアルスは馬車から外しちゃっていいよ」


「わかりました」


 フィーアが2頭を馬車から外している間に、勇樹は桶に水を注いだ。

 2頭が水を飲んでいる間に、勇樹たちも自分の準備を始める。

 と言っても、食事は車内に調理台があるので馬車が動かないように固定するだけ準備は終わった。

 万が一誰かに見られても、外で焚き火をしておけばそれっぽく振る舞うだけで十分に誤魔化せる。


 フィーアが中で料理を作っている間に、勇樹は馬たちへ労いも込めて世話を始めた。

 馬へのマッサージの仕方などは依頼先で何度もやらされており、加えて馬の生態に関して『ノームの知識』からバックアップを受けているので、馬の扱いは熟練者並みになっている。

 そんな風に色々とやっている内に日がすっかり落ちて、周囲も暗くなり唯一の明かりは小さな焚き火と星の光のみとなった。


「どうぞ、ユーキ様。簡単なもので申し訳ありませんが」


「いいの、いいの。こういうのも旅の醍醐味ってね」


 簡易テーブルに湯気が立ち焼き立てのハンバーグと昨日の内に焼いたパンを広げて、淹れたてのお茶を飲みながら食事を始めた。

 ここに基本食事はカチカチのパンと干し肉、火は仕えないので暖かい物を食べられない冒険者や商人が居たならばブチギレていたところである。



 食事も終わり、夜もすっかり更けて虫の声と薪が燃える音だけが響く闇の中で、勇樹はジッと森の方を睨んでいた。

 勇樹の様子に思わずフィーアは声を掛ける。


「ユーキ様? 先ほどから森の方を見ていますけど、何かありましたか?」


「うん、昼間に後を付いて来てたモンスターたちがね。飯の匂いに釣られて集まって来たんだよ」


「え!? だ、大丈夫なんですか?」


「えーっと、うん。とりあえずフィーアと馬たちは馬車の陰に隠れて。なんていうかその……攻撃に巻き込まれると危ないからさ!」


 勇樹は微妙に言葉を濁しながら、落ちていた長めの木の棒を拾って構えた。

 なぜ武器を使わずにそんな物を使うのかフィーアが尋ねようとした瞬間、暗闇の向こうから何かが飛んできた。


「っ! フィーア、馬を連れて早く馬車の向こうに隠れて!」


「は、はい!」


 暗闇から飛んでくる何かを、勇樹が棒で器用に叩き落としながら叫ぶ。

 事態の呑み込めないフィーアは、一先ず勇樹の言うとおりに馬を連れて馬車の陰に隠れた。


「やっぱりきやがったな。ババ猿共め!」


 ――キキィィィ!!


 遠くで鳴き声が聞こえたかと思うと、小さくて黒い何かが霰のように次々と飛んでくる。


「ウオォォォ!!」


 それに対して勇樹はらしくない雄たけびを上げながら、必死になってそれを叩き落とす。


 その様子にフィーアは気になって馬車の陰から顔を出した瞬間、打ち漏らされた何かがべちゃりと馬車にぶつけられた。

 それを見た瞬間、フィーアは何が起こっているのかを全て悟る。

 同時に何が飛んできているのかに気づいて、恐怖のあまり馬車の陰で小さくなった。


「クソ猿共が! こうも矢継ぎ早に投げられちゃあ、近づけないじゃないか!」


 勇樹もギリギリのラインを見極めて落とさないと被弾しそうな状態で、ソレの隙を伺っていた。

 闇の向こうに居るモノの正体、それはモスバブーンというモンスターである。


 別名『森の盗人』。

 森で休んでいる人間に近づき、集団で襲い掛かって荷物をはぎ取って行く事からそう呼ばれている。

 そしてもう一つ、モスバブーンにはとんでもない習性があった。

 それが……


 ――キィィ!!


「臭ぇ! 小学生みたいな攻撃してきやがって! 絶対に蹴散らしてやる!」


 モスバブーンが投げ付ける物を弾き飛ばし、荒れた口調で叫びながらと森の方へと近づいて行く。

 近づけば当然、飛んでくる範囲が広がり被弾する確率も増える。

 だが、それでも一方的に攻撃されるよりはマシだと判断した……が、飛来物の中に混じった石が当って棒が折れた。


「しまっ!?」


 ――キィー!


 勇樹が武器を失った瞬間、敵はこれ幸いと雨のように攻撃を降らせた。

 攻撃に曝された勇樹は、まだ生暖かく異臭を放つソレを全身に浴びて、あっという間に臭い立つ柱と化す。

 それを見たモスバブーンたちは、木々の間を跳び回ってはしゃぎまくる。


 ――キキィ! キキ! キキー!


「……このクソ猿が。もう容赦はしねぇ!!」


 雑食が故に強烈な臭いを放つグリーンバブ―ンの()塗れになった勇樹は、もはや守りを捨ててモスバブーンたちに襲い掛かった。


 先ほどは少しでも被弾したくなかったので、動きが鈍っていた勇樹だったが、それがなくなった今は勢いを得た獅子の如く、素手でモスバブ―ンを屠る。

 そして、周囲からモスバブーンの気配が完全になくなった後、勇樹は満天の星空の下でフィーアにお湯を沸かして貰い、糞塗れになった服と体を黙々と洗うのであった。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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